審問
六日程南下をしていくと、聖都ゲインカへと到着した。
本来であれば四日で到達できる位置にあったが、途中に立ち寄ったガレリア市で簡単な討伐クエストを受けてしまった為に到着が二日ほど遅れてしまった。
到着したのが夕暮れであったため、教会本部にリーズが来訪したことを伝え二日後に本部審問室へと呼ばれたのだった。
「失礼します」
シスターに案内されるまま、中に入り、部屋中央にある台へと上がる。
審問室には法王を始め、大司教、司教などゲインカにいる上の役職の人間は勢揃いしておりリーズの周囲を囲むように座っていた。
リーズは面子をみてにわかに冷や汗をかいた。何か重大な違反をしてしまったのか、思い当たるふしは何一つとしてなかったからである。
「事前に質問状を渡しておいたが読んで貰えたかね?」
正面に座っていたアデル大司教が聞いた。
白髪に、白いひげを蓄えた恰幅の良い壮年の男。法王が組織内ではトップであるが、実務面においてはアデル大司教ほか三名の大司教が権力を握っている。
「ええ、確認しております。アイトの村のファヴニール討伐活動における混成術式の使用についてということでお間違い無いですね?」
招集の手紙と一緒に、質問したいことについては記載があった。
混成術式の使用は特に教会外での活動において特に禁止とする項目は無く、活動日報に記載をした。それが何か違反であるということはリーズは全く認識していなかった。
「ああ、間違いない。実行にあたっての経緯と理由を説明してくれたまえ」
「かしこまりました。わたくし達は当初巨龍の討伐クエストを請け負いました。アイトの村の住人の訓練を二週間を行い、住人の協力を得て巨龍の討伐を果たしました。しかしながら、その内部にファヴニールが生きており、巨龍を討伐を果たしたことでファヴニールが顕現しました。ヨシュア戦記でも巨龍討伐後、ファヴニールが顕現したものと記載があります」
ファヴニールはその外角に巨龍を纏っており巨龍が死ぬことで、ファブニールが顕現するとされている。これまで観測されているものはゲーン教聖典を含めてもこのパターンでのみ出現している。
「ファヴニールが内部にあるという事は、紹介者の伊達宗弥様を除いて誰一人として現場では予知しておりませんでした。ファヴニールが顕現した直後、私たちは総崩れとなり撤退することとなりました。その際、わたくしが転倒してしまい、逃げ遅れることとなりました。そこで、当パーティーのヒューゴ・フェレイル様がわたくしをかばうにあたって提案をしました。大地支えし巨人と、宿りし神の肉体を混ぜた術式を使うことはできないかと」
「それは、そのフェレイル殿が混成術式の存在を知っていたということなのかね?」
「いいえ、おそらくはファヴニールに対峙するにあたって、この程度は必要という彼の提案で出来るかどうかは彼も知らなかったのだと思います」
「貴女は、混成術式の存在を知っていたと」
「存在するという例は文献にて確認したことはありますが、実際に行われている術式や実例に関しては存じ上げませんでした。わたくし自身が過去に試みたこともございません」
「では、即興で組み上げたと?」
「ええ」
ざわめき。
アデルにしても驚きを隠せない様子であった。
そんなに凄いことなのかという自覚はリーズには無かった。
「即興で術式を組み上げ、ヒューゴ・フェレイル様が一時的に食い止めることに成功し、わたくしは生きながらえました。その後、紹介者の伊達宗弥様の援護が間に合いファヴニールを打ち倒しました。以上です」
「即興で混成術式を組み上げたと先程言っていたが、それは真であるか」
「ええ、死に物狂いでしたので、同じことを今できるかと聞かれれば難しいのかも知れませんが……」
審問室が水を打ったように静かになった。
一様に信じがたいものを見るような目でこちらを見ていた。そんな中でアデルが咳払いをした。
「混成術式についてだが、理論的には不可能ではないという論文はいくつか出回っていると思うが、実現出来たものが限りなくすくなく現在机上の空論ということになっている」
「そのような認識ではいます。ただ、実際に出来た人間がいるのであの説は何年も棄却されずに残っているのではないかと思っておりました」
「聡いな、君は。混成術式の存在を実際に知るものはここに集まった司教以上の人間に限られるのだ。そして、混成術式を実際に出来るのは今この世界では私をはじめとした大司教、法王様と、君だけだ。即興で行なったとなれば、それは先代法王のハレ様が行ったという記録が残っている程度だ」
ハレ・バーンシュタイン前法王。
ヨシュアと冒険をして、世界を救った勇者の一人。これまで現れたクレリックの中で天才的な才能を持ち、彼女をもって術式が大幅に改良されている。彼女が登場する前と後で、クレリックが出来ることというのが大幅に変わっている。過去も現在も合わせて文字通り世界を救ったクレリックだった。
「君の話を眉唾であると断じることは出来るし、そうであれば良いと思っていたのだが、アイト村からの報告。ハルスバン公国軍部に問い合わせた際に出てきた状況。そして君からの報告全て統合して考えると、それが当たり前に出来てしまったということなのであろう」
「はい」
「混成術式の実在は教会内部で厳重に秘匿されており、今回の使用にあたっては不問とする。しかしながら、君の才能は規格外でありこのまま放置すれば現場での使用ということがやむを得ずという状況で発生してしまうことも考えられる」
「以後、使いません。絶対に」
「ふむ、では君の仲間が混成術式を使わなければ死ぬ。君自身も死ぬという状況になった時に使わずにいられるのかね?」
「そ、それは……」
使ってしまうであろうことは容易に想像できた。
「そこは、使いませんと断言するのが、信徒としては望ましいが、人としての態度としてはそれが正しい。その答えの方が信用が出来る。だから一つ提案をしたい」
「提案……ですか?」
「少し早いと思うが、君を司教へと昇格させようと思うんだが」
リーズの頭の中は真っ白になった。
「司教……ですか?」
「機密は隠匿しなければならないということと、ゲーン教のさらなる発展のために君の力を借りたいと思うだからこそ、少し若いとは思うが君を司教に任命しようと考えている」




