出頭命令
リーズは多少の苛立ちは感じているものの、宗弥が言ったことは正しい事なのだと思った。
お見舞いに宗弥が来て以来、同じ悪夢にうなされることはなくなった。
知られたく無いと思いつつ心のどこかでは、誰かに分かって欲しかったのだろう。分かってもらえたからこそあの悪夢を見なくて済んだのだろうという風に推理をした。
検査をして休養をして一週間を過ごして順調に体力を回復させて、退院した。
住んでいるアパルトマンに戻ると、郵便受けに三通程手紙が入っていた。
一つはギルドからのお知らせ。
一つは遠くの友人から届いた手紙。
もう一つは、ゲーン教会本部から届いた速達だった。
教会への連絡はこちらからすることはあっても、向こうから来ることは無かった。
「……緊急出向命令?」
この書類を確認次第、ゲーン教会本部に出頭しろという命令だった。
これまで、教会を出てからというものこういったものは届いたことは無かった。
リーズは荷物を部屋に置くと、すぐさまギルドへと向かった。宗弥は今日はギルドのデスクにいることは分かっていた。
「なるほど、そういうことならヒューゴさんを護衛に付けましょう。いってらっしゃい」
「え? 良いんですか? てっきり止められるかと思ってましたし、ヒューゴさんまで付けてもらって……?」
一週間仕事に穴を開けたのにも関わらず、宗弥の反応はあっさりとしたものだった。
「別に構いませんよ。教会の出世頭ということは知っていますし、お借りしているに過ぎませんから、そこは拘束できないものって認識でいますけど……?」
「ヒューゴさんは?」
「ああ、僕も一回物騒なところ行くのに彼を護衛に付けたことがあって、結構頼りになるのと女性一人で一週間程度の旅をさせるのはなかなか厳しいでしょう。隊商に合流するとなれば、移動時間が倍程度かかると思いますし」
「それはそうですね……」
リーズに自衛の術はほぼ無いので、大体の場合隊商に合流して移動するケースが多かった。
必ずしも行きたいところに一直線に移動することもなく、移動した先で別の隊商に頼んで移動をするケースも多かった。
今回に関しては一人で最短距離を行ってしまおうかと考えていたところだった。
「こちらはそこまで心配しなくて大丈夫ですよ。エマとドミニクなら二人だけでもこなせるものは多いですし、他のパーティーに貸し出してレンタル料もらうなんて使い方もありますし」
「分かりました。ありがとうございます」
翌日には荷物をまとめてヒューゴと出かけることになった。
◆ ◆ ◆
「良かったのか? あれで」
リーズとヒューゴを乗せた馬車を見送りながらエマが言った。
「昨日説明した通りだよ。行かせる必要があるから、行かせたということだから、良かったのかどうかということは意味がない質問だぞ」
「そうじゃなくってさ、リーズ、大丈夫なのかよ?」
「現場に出していないから、何とも言えないけど……。体調は回復したと思うが、あんまり良い状態じゃないのかも知れないのかもね」
「何とかしよういとかお前は思わないのかよ」
「何とか、何とかねぇ」
自分自身を救うことすらままならない宗弥に、誰かを救うことなど出来るのだろうかという思いがよぎった。
サラリーマンだった頃、壊れていく同僚や、後輩を救うことなど出来なかった。守ろうとしたところで意味はなく、すくい上げたそばからこぼれ落ちていく。
「続くようなら、替えのクレリックを探すとかそういう手段しか思いつかないや」
「呆れた」
エマはため息をついた。
エマは宗弥にどこか期待をしていたのではないかと思う。何とかしてくれるのではないかと。
確かに、エマが知らない方法で何とかしてきたことはあった。けれども、出来ることと出来ないことがある。
「あたしはリーズと仕事がしたい」
「それは、僕もそうだ。みんなのことが大好きだ。でも、できるかどうか、みんなを救えるかどうか。僕はそんなに万能じゃないんだ」




