ありふれた夢
その時、死は間違いなく自分を向いていた。
開かれた巨大な顎は、こちらに向けており、その咥内には真夏の太陽のような白い光が球の形で輝いている。
あの光から放たれる光線はアイトの村の象徴でもある教会の塔を真っ二つにし、山を切り裂いた。
まもなくあの球は自分に向けて光線を放つのだろう。
今となっては足を負傷してしまい、誰かの助けを借りなければ立ち上がることも難しい。
声を上げなかった。わたくしをかばえば恐らく全員が死ぬだろうことは簡単に想像できた。
エマが振り返って悔しそうに決断をしていた。
これまで誰も部下を失ったことは無かったのだろう。わたくしの死が彼女の傷になってしまう。それが、ただ申し訳なかった。
エマに声をかけてもう一度前を見たときにわたくしはあまりのことに現実を理解することが出来なかった。
光を覆い隠す、白銀の鎧と巨大な盾。
彼は私から死の概念を隠したのだった。
「リーズを見捨てるなんて私にはできない。犠牲になるのは、私が一番最初であるはず。それが私に与えられた役目のはずだ!」
そう言ったことを守り続けたからこそ、彼は騎士団の中で英雄たらしめていたのだろう。
わたくしは即座に混合術式を行いサポートをするように頼まれました。
ヨシュア戦記のパーティーでクレリックをやっていた先代の法王がやったことがあるということを聞いていた。研究論文にも上がっており、成功と失敗とその事例どちらも記載があった。成功はあくまで伝説上のまぐれのようなものと、失敗がほとんどを占め実現することは無いという見方が大方だった。しかし、わたくしに頼れるのは恐らくこの術式のみ、やったことなど当然無い。
ただ、わたくしの術式理解で出来なくはないとは思った。
しくじれば、わたくしも彼も死んでしまう。
「汝その身に落下せし大地を受け止めしもの」
モーラの章の大地支えし巨人の章から始め。
「その身に神を宿し、その大地打ち砕きしもの。神の力を持って無双の力を得る」
エウバの章の宿し神の肉体を改変する。
「汝、巨人の力を持ってして全てを撃ち倒せしもの。宿りし神の巨人!」
混成術式を練り上げた。術式としてきちんと成立し、全力で詠唱をかけた二つの術式をひとつに練り上げた。
全て唱え上げた時に力が与えられた事が分かったし、自分の体からものすごい勢いで体力と魔力が吸い取られていくようでした。
彼は大きな声を上げて死の象徴の龍を挑発した。龍は応えるように吼えた。
大きく息を吸い込む龍。
「邪悪なるものすべてに閉ざされた門よ、ここに顕現せよ。ここより先は楽園、汝の立ち入りを禁ずる! 『天国への扉!』」
彼が盾を地面に突き立てると、巨大な青い門の幻影が現れて彼の前で閉じられた。
放たれる龍の白い光線は一直線にヒューゴに放たれた。
衝突すると光線と、青い門。
青い門の幻影は徐々に消えていき、全て消えた。だが、彼の盾で受けとめ。光線は途絶えた。
「その程度か! 来ないならば、こちらから往くぞ!」
ありえないことが起こった。
塔を真っ二つにして、山を切り裂いた光線を受け止めただけでなく、彼は百人でかかっても叶わない災害に一人で挑みかかって、その頭を殴り飛ばしたのだった。
「すごい」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
気がつけば口から漏れていたということが正しいのでしょうか、彼の成し遂げたことは人知を超えていた。
彼の肉体には神そのものが宿っているのではないかと思ってしまう。
彼は地面へと落ちながら、こちらを見て「大丈夫」と言ったような気がした。
そういうと、彼の皮膚が剥がれていき、眼や肉が一挙に腐り落ち、やがて落ちながら彼は人体を支える白骨だけになって、地面に落ちて砕け散った。
「ヒューゴさん!」
そう叫びながら、わたくしは自分の部屋で目をさましました。
何度も同じ夢を見る。
ただの夢であれば良いのですが、彼の未来を暗示しているようで、夢を見るたびに震えてしまうのです。




