王子、旅を継続する
数日後。
「で、結局出てくんですか」
「ごめん」
「ごめんで済むと思っているんですか! 僕がこの国に残されて尽くすって言った王子様がいないってどういうことなんですかぁ!」
ナザレはめちゃくちゃ怒っていた。
「おれはまだ未熟だと思うし、今回出来たことだってたまたま出来ただけだと思うから、ちゃんと修行して戻ってくるから……」
「それで、出て行くんですか?」
「はい……」
「はいで済むと思っているんですか!」
先ほどからこのやり取りが無限に繰り返されており、周りにいる面々は呆れかえっていた。
ナザレはらしくもなく顔を真っ赤にして何度も同じことを繰り返し繰り返しドミニクに叩きつけている。
ドミニクもらしくもない顔でずつと謝罪し続けている。
結局ドミニクは、宗弥達のもとに戻りギルドのいち冒険者に戻ることになった。
「ドミニク、確かにお前はまだまだ未熟だと思う。伊達殿やその他、皆様尊敬できる冒険者の方々だ大いに学ぶと良い」
「セト様……それは確かにそうですが……」
「特に伊達殿に多くを学ぶと良い。彼は我々の汚い所と戦う力を持ち合わせている。つぶさに見るが良い」
「恐れ大いお言葉、ありがとうございます」
宗弥が頭を下げた。
「あなた、考えていることは悪人そのものだが、あなたの目は正義を宿している。分かってもらえないこともあるかもしれないが、あなたの正義はいつか誰もが理解することだろう。健闘を祈っている」
「セト王様? いくらなんでも買いかぶり過ぎではありませんか? 僕は、ただの平凡な……」
そう言っているうちに、セト王が一歩つめて宗弥の手を握った。
「伊達殿から大きな宿命を感じられる。その宿命に息子も巻き込まれるだろう。辛いこともあるかも知れないがあなたなら乗り越えられる。その力に息子はなってくれるだろう」
「え」
セトから宗弥への予想外の激励だった。
「息子を頼む」
そう言うと、セトは宗弥から離れたのだった。離れてドミニクへと振り返り。
「ドミニク、何なら帰ってこなくても良いぞ? ここにはお前よりも優秀な皇太子もいる」
「セト王様?!!!!!」
満場一致。全員が同じ反応をした。
「もちろん冗談だが、旅に出るお前を止められないことを分かっている。いつか、相応しい器を身につけて戻ってくれば良い」
「セト様……」
「お父さんと呼べ、ドミニク!」
「え、ええーーーー……」
ドミニクは一度ため息を漏らしてから、一度目をそらしてから、意を決したようにセトの方に向き直って。
「父さん」
アレクサンドラに向かって
「母さん」
と、言った。
「行ってきます」
そう言うと、アレクサンドラはドミニクに抱きついた。
「行ってらっしゃい。いつでも待っているから、近くに来たら顔だしてね」
「はい」
そうして、アレクサンドラと離れたら、今度はナザレがドミニクに飛びかかった。
そのまま、ぶら下がるようにして抱きつく。
「君は何て奴だ。僕のこと守るって言っておきながら勝手に国を出る決断を僕の断りもなく決めやがって!」
「だから、悪かったって言っているだろう」
ナザレがドミニクから飛び降りると、頭のうしろを抱えて思い切りキスをして離れた。
瞠目。
ドミニクは呆然。
「愛に性別は関係ないと良いますが、わ、わたくしには少し刺激が強いようで……」
「いや、ナザレは女の子だよ……? むしろなんで男の格好してたの?」
「いつから気がついてたの?」
「んー、何となく。組手した時の感じとか、歩き方とかそういう?」
ナザレはニコニコ。ドミニク以外は全員あんぐり。
「一応、僕は王子さまでしたから。形の上で身分を偽る必要があったんです」
「そっか、それじゃあこれからはそれをする必要が無いんだね」
「ドミニク。君が僕に生きる意味をくれた。僕の生涯は君に捧げるつもりだ。愛している」
「ありがとう。おれも、愛している……んだと思う?」
「なんでそこ、曖昧なんですか!」
「分からないものは分からない。帰ってくるころにはその意味も分かるかもしれない」
「あーそう、じゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってくる」
そうして、ドミニクとナザレは背を向けて歩き始めた。




