黒幕は死ぬが計画は消えず
降り続く雨はさらに勢いを増して、式典会場で逃げ惑ったり戦ったりしている面々の肌を濡らしていく。
マッシュは巨大化したあとさらに何体かの山羊頭を食べさらに巨大化に加えて巨大な棍棒を手にところ構わず暴れまわっているようだった。
連携をしようにも、訓練をこれと言って受けていないものが出来るはずもなく、対抗出来るのはエマとヒューゴだけだった。
「ハハハ、近寄れまい! 貴様らもこの暴風に押しつぶされて死ねぇい!」
マッシュが棍棒を振るうと、暴風が発生し近づこうとしているものは軒並み吹き飛ばされた。
エマは、その風を飛び越えてかわし、ヒューゴは、ふつうに突っ立っていた。
「あんた、勝てるつもりでいるのか?」
「貴様らこそ、この姿を前に恐れぬというか。死ぬことが怖くないのだな?」
「怖えよ? 怖えけど、あんた程度大したことないって話なんだよ」
「抜かせ!」
マッシュがエマに向けて一挙に駆け出していく。
無茶苦茶に棍棒を振り回していくが、棍棒の内側に入り込みあっさりとかわす。
エマが槍を振り回していくが、斬撃で与えた傷はほとんど入らない上に即座に癒えていく。切り終わったそばから回復していく。
一発で致命傷を与えない限りは無限に元に戻っていくというのは元々と大差がない。
違いは意識があることと、馬鹿みたいに巨大化しているということ。
心臓を次の手で突き刺しにかかるが、防御の隙間を縫って突き刺したつもりだったが、なにをするでもなく、攻撃は通らなかった。
エマが後ろへと走り抜ける。
ヒューゴが、真っ向から棍棒を受け止めて弾き返し、それから膝の内側を自前のメイスでぶん殴った。
多少バランスを崩したかのようにも見えたが、大したダメージを与えた様子もない。
再び、棍棒を振り上げるので受け止める。
弾き飛ばされこそしないものの、後ろへと下げられる。
「鎧を着てないせいか、体には響きますね……」
ヒューゴ、盾を貫通した衝撃はそのまま服を通して体へと入ってくるので受ければ受けるほどにダメージが蓄積していく。
すでに、いくつかの筋が切れており、耐え切れなくなって出血をしている。
「ヒューゴ、あと何発受けられる?」
「二、三発」
「オーケイ、分かった」
ヒューゴがキツそうなのはエマから見てもはっきり分かった。衝撃を吸収する重装備でもってヒューゴの戦い方は成立する。いくら盾と、受け止めるための盾の術式、それにリーズの加護が重なったとしても相殺しきれないダメージはヒューゴに入り続ける。
エマにしても鎧を全く着ていなくて、式典出席用のドレスで立ち回っている。
素足でドレスはめちゃくちゃに破きまくって使っているが、動きにくい上に防具が何一つない。
仮にも防御をしていたとして、攻撃を受ければ即死だし、振り回した風圧に吹き飛ばされてどこかに叩きつけられても致命傷になり得る。
「ほう、弱点を教えるとはな。良いのか? 残された時間はわずかしかないようだが」
「いつまでに仕留めればいいかって聞いてただけだっての」
「強気だな」
「上げてくぞ! 我、願いしは龍騎の如き疾空。この身に宿るは龍騎の突撃! 『ドラグーンドライブ!』」
エマの全身が一瞬赤く炎が広がったように瞬き、やがて赤い燐光となると一挙に駆け出した。
マッシュが棍棒をふり上げる一動作のうちに、脛、太もも、胸、肩、頭と切りつけていく。
「そのような攻撃、まるで蚊がさすかのようだぞ! 笑わせる!」
マッシュの嘲りも無視して、エマはさらに速度を上げていく。
やがて、残像を伴って連続攻撃をしかけ、その姿はまるでエマが何人にも分身しているかのようだった。
エマの分身はいくつも襲いかかり、マッシュに傷をつけていく、だが全てがかすり傷のように切りつけるだけ。
いくら速力が上がろうとも切りつける力がなさすぎて致命傷を与えられそうにもない。
エマがマッシュの目の前に現れると全ての分身が消えてエマへと戻る。
完全に静止した状態でエマは槍を構える。
「天鱗砕き!」
ファヴニールの逆鱗をも打ち砕いた、槍の一撃。
全身にまとっていた炎のような赤い光は、槍へと収束され奔流のように槍の後方から排気される。
「馬鹿め!」
マッシュが棍棒を振り上げて、エマへと振り下ろす。
直撃は免れないタイミングだった。
ベキッ。
硬い何か物体が砕けるような音だった。
それはエマの骨が砕ける音ではなく、マッシュの踏み込んだ右膝が砕ける音だった。
ヒューゴが、両手で持ったメイスでマッシュの膝をフルスイングでぶん殴っていた。
「その言葉そのままお返しするぜ」
エマの天鱗砕きがそのまま放たれ、マッシュの心臓を貫き、体の反対側まで槍は飛び出した。
「くっそおおおおおおおお」
「あたしに気を取られすぎたな。無視をしてヒューゴを叩いていれば良かったのにな」
エマが動くことでエマに注意を逸らし、ヒューゴのマークを外させる。その隙にヒューゴに相手を崩す一発を当てさせ、エマがとどめを刺す。ヒューゴもすぐにやりたいことを理解して、エマの動きに合わせた。
ただ、仮にマッシュがヒューゴを狙ったとしても狙った際に即座に天鱗砕きを叩きつけられる位置どりをする作戦も頭の中にあった。
「あんた、そもそもあたしらに勝つつもりがあったのか?」
エマにはそもそも疑問があった。
いくらその場で暴れまわったとしても、人造の魔獣で自分たちとこの国の軍隊を倒してこの国を支配するに足りるのだろうか。どう考えても足りないのだ。
「勝つつもり? もとよりそんなつもりなど無い。伝説のファヴニールにこの姿で勝てると? 勝てる訳などない。貴様ら良い雇用者に恵まれたな、あいつのせいで全部台無しだ。私も死ぬ、この計画に加担したこの国に残っとものは残らず死ぬ」
「なら、どうしてこんな無茶なことをした!」
「フフ、もとより町中に放った魔獣を鎮圧するのにどれだけ時間がかかる。私がやりたかったのは混乱させるだけだ。この一日を混乱に陥れる。それだけ出来れば大きな目標は達成できるのだよ」
「お前!」
「トランジ王国に、栄誉あれ……」
そう言って、マッシュは真っ黒な液体へと変わり溶け落ちていった。




