神罰、あるいは解放
作戦はシンプルなものだった。
ただ、廊下の端で待ち構えて撃ち抜く。
入ってきてすぐの所にトラップを仕掛け、目の前で爆薬が破裂するように工作をする。
それが破裂すれば、警戒自体はする、警戒して防御の手を払わせたあとで喉をめがけて祈りの矢文を放つ。それだけだ。
角を曲がって巨大な山羊頭が現れる。
足元に配置したワイヤが足元で引っかかり、仕掛けておいたトラップが発動する。
軽い音を立てて、いくつも破裂する爆薬。
一瞬のひるみ、この瞬間をドミニクは狙っていた。
「ドミニク、今だ!」
宗弥に言われるまでもなく分かっていた。すでに矢を番え、詠唱を始めている。
「我が神よ、この戦いに勝利をもたらせ、我が願い、天界にいる神まで届き、その願いを叶えよ『祈りの矢文』」
弓矢を放った、その瞬間に放った矢が砕け散った。
王権の力に矢が耐えきれないように砕け散った。
こんなよく分からない弓を此処一番で使えということが無理なのだ。
打つべき矢ももう無い、今すぐ逃げ出したい。
山羊頭は狙っているの場所が急所と分かっているのか腕をクロスして心臓を守りながら全速力で駆け出してくる。
「救うって決めてるんだろう? 迷う理由なんかないじゃ無いか! 自分を信じて!」
宗弥が叫んだ。
そうだ、セト王は信じて自分に王権を渡した。宗弥は自分のことを信じて助けられる可能性を託した。そうして、信じられたものを受け取った。
一度の失敗で諦めるわけに行かなかった。
引けば全てを諦めることになる。
「一回も使ったこと無いけど、出来るのか?」
出来る。出来ることを直感的に知っている。
「風の神よ、我が祈りに応じ、風を為せ。風よ我が祈りに応じ、一本の矢と成れ。風の神よ我が祈りに応じ、神罰を為せ。『風神の与えし神罰』」
ドミニクの手の中に、竜巻が巻き起こり一つの球を作っていく。
王権をその球で以って引く、ドミニクの引いた球は一つの弓矢へと形を変えていく。
高速で振られ続ける山羊頭の頭、それに連動して動き続ける喉の位置。
動いているということなど、ごく瑣末なことだ、己を信じ抜くことができるかどうかということだ。
腕の血管がいくつも千切れ、引いているうちに腕が血まみれになっていく。
呼吸を相手に合わせていき完全にあった時、息を止める。
「頼む」
小さく呟くと、風の矢を放った。
風の矢は渦を巻き、虹色の光を纏って、山羊頭の喉を貫いた。
パチン、と何かがはじけるような音がした。
喉にある何か塊のような物体が、砕けた。
砕けた物体を中心に、黒い山羊頭だったものの黒い部分溶け落ちていく。どろりと、黒い液体があたり一帯に広がっていき、体の中心まで解けた時ナザレの顔が現れ倒れこんできた。
「ナザレ!」
弓を捨てて走り、落ちてくるナザレをドミニクは抱きとめた。
「……ドミニク?」
「良かった、生きてる!」
助けることが出来たようだった、砕けたのは宗弥が言っていた安全装置だけで、中に入っていたナザレに傷はなかった。
「なんで、そんなに嬉しそうなのさ」
ナザレがまどろみながら聞いた。
自分は助け出せて嬉しかったのだろうか。嬉しかったのだろう。出会って、はじめて、もっといっしょにいたいと思えたはじめての友達を失わずに済んだのだから。
「何で何だろうな。分かんないや。おれ、お前を助けたくて必死で……」
流れてくる涙を止めることはできなかった。
ナザレはドミニクの涙を親指で拭った。
「どうして、君が泣くんだ。僕は君を裏切った。もともと、君がいなくなった後に君の居場所を奪って、国をダメにして売り払うために生きてたんだよ。あの日も君を殺そうとして、でも君はすぐに起きちゃったから諦めてお話をして……。今だって役目が果たせなかったから君を殺そうと」
「それでもナザレは、おれの友達なんだ」
「君は本当に優しいんだね。王様にぴったりだ」
「おれだけじゃ、何も出来ない。もしそうなったら、力を貸してくれ」
「分かったよ。君の力になろう」




