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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
2話 身元不明の王子様
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王たる資格の持ち主

 ドミニクと宗弥は流れで王宮の中へと突入した。


 後ろから、山羊頭になったナザレが様々なものを打ち砕きながら入ってくる。


「ドア閉めたはずなのに、障子みたいにぶち破って来たぞ!」


「さっさと走れ馬鹿」


 宗弥がドミニクを追い越していく。


 ドミニクは急所である心臓を避けて眼球を狙って矢を放つ。


 意に介さずにそのまま突っ込んできて、顔面で矢を弾き飛ばす。


「なるほど」


 マッシュの指示によって、多少なりとも防御の反応をすると思ったら、全くそんなことはなかった。


 多少なりとも自我がマッシュの指示によって芽生えてはいるものの、あくまで簡単な命令を実行するだけに過ぎないのだった。


「どうやれば……」


 倒せるのか?


 ドミニクはそのやり方を知っている。


 祈りの矢文を真っ直ぐ心臓へと突き刺せば良い。腕が邪魔なら、それをなんとかして上げる方法を探せばよい。


 例えば顔めがけて幾つも弓矢を放つとか、煙幕、爆薬等気をそらせるものを目の前で発動させる。


 それで腕は上がる。そこで祈りの矢文を迷いなく中心に叩き込めば良い。


 炸裂弾をいくつか手に取る。手持ちを持っているものをすべて使い切れば腕を上げる程度のことはできる。


「やれる、な」


 顔面に集中するように、炸裂弾をいくつも放つ。


 刺さりはしない、顔面に当たって弾かれ、その瞬間に一気に爆発をする。


 弓矢を一本手に取り、弓を引き、唱える。


「我が神よ、この戦いに勝利をもたらせ、我が願い、天界にいる神まで届き、その願いを叶えよ『祈りの矢文』」


 弓と矢は、緑色の先行を放ち、やがて、矢へと収束する。


 矢は放たれた、緑の光は一つの光線となって、音速を超えて真っ直ぐに突き刺さる。


 やってなどいなかった。


 腕に突き刺さってより一層の前進を続けてくる。


「もう一発」


 祈りの詠唱は済ませた。もう一度弓を引く、祈りの力の継続から光は維持されたまま、弓はしなっていく。


 迫ってくる黒い魔獣。


 山羊頭、その顔の中にナザレの面影を見たような気がした。


 あの日ドミニクに会いに来た時、ナザレは本当は助けて欲しかったんじゃないかと思ってしまった。


 暗殺が失敗したならさっさと帰ればよかったのだ、帰るときを狙わせればよかったのだ。


 あの日何を聞きに来たんだろうか、そして、どんな気持ちであの薬を飲んだのだろうか。


 殺すことが、ナザレを苦しい役目から解き放つことが出来るのだろうか。


 けれども、出来れば、可能ならば、生きていてほしい。


 ()()には生きていて欲しい。と、どこかで願ってしまった。


「ドミニク!」


 気がつけば、巨大な山羊頭は目の前まで迫っていた。


 弓を射る余裕などない。


 振り下ろされる拳、ドミニクは、避けることも出来ずに弓で受ける。


 盾の代わりにはなるにはなった。弓は軋みを上げて一発で折れた。


 放った矢はあらぬ方向へと飛んで行き、顔面には突き刺さった。


 一瞬怯ませることには成功したけど、倒すための手段が失われた。


 ドミニクは即座に懐から、いくつか仕込んでいた閃光弾を足元に転がして逃げ出した。


「宗弥、目を閉じて一気に逃げるぞ」


「え、なん?」


「早くしろ!」


 その場から一気に駆け抜けて逃げ出す。長い廊下を抜けて、曲がり角へ入り、そこからさらに逃げていく。


「待て、僕の体力がもう限界だ」


「だらしない」


 すぐに宗弥の息が上がったので、その辺の部屋に入って休みを取る。


 山羊頭が自分たちを追いかけてくるのかは分からなかったが、確実に気配が近くまで来ているのは感じる。


「ドミニク、迷っているね」


「何をだ」


「ナザレを殺すことを」


 息をあげながら、どうしても言わなければならなかったのだろう。座り込んだ瞬間に宗弥は言った。


「どうすれば良いんだ」


「まず生き残らなきゃ、僕たちが生き残らないと王様を救えないしみんな死ぬ。逃げてもダメだ。僕たち以外が死ぬ。それは、今回のケツだ」


 宗弥がよく言うセリフ。頭とケツが決まっている仕事なら、まずはそれをどうやって達成するべきか考えた上で働けと。


「じゃあ、ナザレは……」


「どんな形であれ倒さないといけない」


「そうか……」


 改めて、新しい友達の面影を黒く塗りつぶして、一つの獲物として認識しようと試みる。


「ただ、諦める必要もないと思うぞ?」


 ドミニクが怪訝な顔をすると、宗弥は勝手にその後に続いてしゃべりはじめた。


「心臓を突けば死ぬというのは非常にわかりやすい。そこまでする技術があったなら、弱点など作らない方が強いとは思わないか?」


「まあ、それは確かにそう思う」


「しかし、強くしすぎてしまって止められない場合は味方からしてもやっかいじゃないか?」


 まるで、最初に会った時の授業のように宗弥は喋り続けた。


 ドミニクは無言で頷く。ただ、そんなものさえ意に介さずに宗弥はしゃべりつづけるのだった。


「大抵というか、こういうものには安全装置をなんらかの形では取り付けているのだと思う。だから、分かり易い弱点というものが付いているのではないかと思っていいてね、もし万が一のことが起こった時のために止めるためのものが心臓を突き刺すということなのだと思う」


「けれど、それじゃあナザレは死んじゃうじゃあないか!」


「落ち着きなよ。心臓は一つ処分する時の解決方法だと思う。もう一つ大切な味方が敵に利用されたり、あるいは事故が発生した際の解除方法はひとつだけ用意されているのではないかと思っていてね」


 宗弥は喉を自分で突いた。


「喉だと僕は思っている」


「喉?」


「そう思うって話だよ? 一度あっただろうエマが心臓を刺そうとしたら、喉に刺さっただろう? あの後、あのメイドは元に戻ったじゃないか」


「でも、あのメイドは死んだよね」


 喉を指して、黒い液体にならずにそのまま人の体へと戻ったが、そのメイドは死んだ。もともと切りつけていた脇からも出血はしていた。


「液体になって溶け出したみたいな感じではないし、液体が剥がれたというのはあれだけだ。喉に何かしらのスイッチがあるんじゃないかって思うけど、さっきのメイドの死因は元々の出血が変身が解けた際に致命傷になったのか、もとから死にかけたところで飲んだのか、その辺りはわからない。でも賭けてみる価値はあると思うよ」


「撃ってもナザレを救えるかどうかは、分からない?」


「そうだね、その通りだよ。それをしたからと言って救えるかどうかはわからない。ただ、見る限り、それぐらいしか可能性は無いと思う」


「それしか、無いのか」


「今思いつくのはそれだけかな。いずれにしても勝負は一瞬だ。ひょっとしたら、僕が立てた仮説がまるで見当違いで、死ぬかもしれないってことは十分にありえるはず」


 チャンスは一度しかない、覚悟を決めろと言われているようだった。


「それで肝心の弓が折れちゃったんだけど、どうしよう」


「さっきセト王から借りたこの弓って使えないの?」


「そりゃ、王様になる権利が無いと引けないんじゃなかったっけ?」


 そう言いながらも、宗弥から王権を手渡されて、試しに立って、構えて引いてみる。


 あっさり引けた。


「嘘でしょ?」


 荘厳な儀式を経て、引いて王となることを認められたと言われる予定だったものがあっさりと試しにやってみよとやってみたら出来てしまった。色々なことが台無しである。


「そもそもの素養が十分だったんだよ。セト様はおそらく引けることを分かっていてこの弓を渡したんだと思う」


「……そもそも試験なんて必要なかったってこと?」


「分からない。ナザレ様も引けた場合はまた、会議が必要なんじゃないかな。ともあれ、その弓は使えるみたいだ。あとは僕が言ったやり方に乗るか乗らないかって話になるんだけど、どうする?」


 特に圧力のある言葉では無かった。


 どうする? その言葉が全てを決めてしまうようなことをいとも簡単にこの男は聞いてくるのだと思った。


「まあ、僕はどっちでも良い。どっちでも良いから好きな方を選ぶと良い」


「好きな方を選べってお前……」


「よくある話だよ。出来るって選択肢がわかった途端に迷い始めるなんて。そもそも君は助けたかったから躊躇ったんだろう?」


 思い起こせば、迷って躊躇っている一瞬のうちに弓をへし折られてしまったのだった。


 ならば、答えは出ている。


 危険を背負ってナザレを助け出す。それしかない。


「迷いは消えたね?」


「ああ」


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