宗弥「すいません、ちょっとお伝えしたいことが」
「あーーーーーー、どうもすいません。その前にお伝えしたいことがあるのですが」
宗弥が空気を読まずに割り込んだ。
「今じゃねーだろ」と横にいたエマが突っ込んだが宗弥は座る気配はなかった。
にわかに宗弥の手足は震えていた。
セトはまじまじと宗弥の顔をみた後で、指した。
「どうぞ」
「恐れ入ります」
宗弥はその場で立ち上がるとぐるりと周りを見渡したあと、演技っぽい咳払いをしてから話し始めた。
「今回このようになってしまった経緯に関してお伝えをさせていただいてもよろしいですか?」
「知っているのか?」
セトが聞いた。
「ええ、実はこの街に入った時から僕自身は一つの事件の解決方法を探っておりました。その真相はおそらくここにいる全員が知っているべきことだと考えられました」
「何もこのような時で無くとも良いのでは無いですか?」
サイードが言った。
「いいえ、今言う必要があるのです。もし僕の調査と推理があたっているのであれば、犯人はこれからやることが死ぬほどやりにくくなると思いますから」
「神聖な儀の最中であるぞ!」
「構わん、続けよ」
「しかし!」
「くどい」
セトがサイードを一喝した。
「ありがとうございます。そもそも事の起こりは、ドミニクさまが親衛隊のダン・カニンガムに誘拐されたという始まりでしたが、そもそもダンという人物はドミニク様を助けたのです」
「助けただと?」
セトが聞いた。
「そう、助けたのです。この国では、ダンは親衛隊全員を斬り殺し、ドミニクさまを誘拐をしたとそのように伝わっておりますが、そもそも親衛隊自体がドミニク様を誘拐を企てたのです」
反論がありそうだったが、そのまま相手が声を張る前に宗弥はかぶせてしゃべりはじめた。
「親衛隊の目的は誘拐し、脅迫すること、もしくは殺害をすることであったのだと思います。今となってはその親衛隊も全員死んでいますし、その事件を契機に解体されているはずです。その後、ダンの旧知の知り合いであったトミックに預け、トミックは旅をしながらドミニクに生きる術と戦い方を教えてそして亡くなりました」
「親衛隊がそのように企てたという証拠はあるのかね?」
ゼパス。ただ一人の王の護衛。怒りが声に混じっている。
「分かりません。しかし状況を整理するとそうなりますし、この国のかなり深いところまで侵食されていた、というよりも現段階で侵食され続けているというのは間違いないでしょう」
水を打ったように静まり返った。
ドミニクが誘拐されたのはそもそも十年以上前の出来事になる。その頃からとなれば長らく気がつかなかったということで、ざわめき、怒るよりかは知らなかったことの方が勝る。
「さて、トミック様が亡き後、ドミニク様は我らの冒険者ギルドのあるアルミンへとやって来ました。しかし、ドミニク様を亡き者にしようとする勢力はどこかからか噂を聞きつけ、盗賊ギルドに依頼し再度の誘拐、もしくは殺害しようとしたのです」
「あの襲撃は、おれを狙って……?」
最初の襲撃事件。
クエスト後を待ち伏せての盗賊団の襲撃。
「そもそも僕はこの襲撃事件の大元に落とし前をつけさせたくて調査を進めていた。我々を襲撃した盗賊ギルドに赴き、彼らに依頼したものの依頼を孫受けのような形で横流しするようお願いしました。彼らも怒っていましたからすんなり受け入れてくれました。ディーアンドシー商会はその落とし前付けさせる為だけに作った組織でしてね。この中で名前を知っている人は僕に対して殺したいという気持ちで満ちているでしょう」
宗弥の冒険者たち全員が唖然とする。
ヒューゴだけはその直後に理解したようだった。
「では、あの時クリード様とお話していたことがつまり……」
「そういうことです。今回ディーアンドシー商会を通じて依頼を取ってくることで、その尻尾を掴めればと調査を行っておりました。ドミニクの件は合わせて知っていたのでこれを使って何らかの時間は得られると思いました。鍵になる証拠はこれです」
そう言って宗弥は黒いアンプルをポケットから取り出した。
「これは、襲撃者が持っていた武器の一つです。この薬を服用した人間は魔獣化することが出来る薬です。飲めば死ぬまで暴れ続ける人を兵器に変えるものです前回の襲撃に関しても昨日起こった襲撃に関してもこの薬は襲撃者は所持しておりました。実は我々が持ち込んだ荷物というのはこの薬に他なりません」
「貴様、この国を分かっていながら危険に晒したというのか!」
サイードは激高した。
「なんてとんでもないことを、いくらドミニク様の身内とはいえ許されることでは……」
「こいつこそ、国を売った売国奴ではないか!」
「待て」
騒ぎ立てる大臣たちをセトは一喝して黙らせた。
「伊達殿は、この国に巣くった病巣をあぶり出すためにそのような危険な手段を取ったのだな?」
「ええ、その通りでございます」
「よろしい、ならば続けるが良い」
「ありがとうございます。我々は納品を済ませたあと、その場に止まり、協力者に納入先からどのように動いて行ったかということを調査させました。ドミニク様が何度もその組織が亡き者にしようとしていたものが帰還されたこともあり、動揺が彼らの中で走りました。彼らは元より計画していた計画をあわてて前倒しする羽目になってしまいました。そこで起こったのが先日の襲撃です」
「あれはセト王を狙ったクーデターでは無いのか?!」
「違いますよ。真っ先に襲われたのは我々で、被害に関しては僕達が通ったところ以外ではほぼ何も起こっていないんですよ。内通者が彼ら襲撃者を招き入れ僕達を襲わせた。切り札に彼らはアンプルを使った。我々は城の決まりで最低限の手持ち武器しかなかったのですが、問題だったのは思った以上に我々が強かったので仕留め損なったんです」
宗弥は強い口調で喋り続けた。
ここにいる全員が宗弥の言っていることに聞き入っているのは分かる。
「残された彼らはほとんど死んだも同然でしかけてくるとするなら、ここです。この場で全てをぶち壊す算段をしているはずです。首謀者も、主犯も、実行犯も、みんなこの中にいます」
「なんだと? それはどういうことだ!」
サイードが怒りのままに言った。
「そのまんまです。ナザレ君、きみは何故昨日ドミニクの部屋を訪ねたのかな?」
「何故そのような事を聞くのですか? 僕は彼に話があって……」
ナザレが問に答える
「君は本当はドミニクを殺しに行ったのでは無いのかい?」
「どうしてそうなるのですか?」
「寝ているかもしれない人がいるのにノックをせずに入るほど、君は礼儀を知らないのかい? ドミニクから聞く限り、人の気配でドミニクは飛び起きたという」
「それが何の証拠になるというのですか?」
「少なくともドミニクが部屋は施錠が出来るはずだし、ドミニクが鍵をかけ忘れているということを除けば、何故音も無く入ることができたのでしょうか」
「それは……」
口ごもるナザレに宗弥は畳みかける。
「君はドミニクを殺しに行ったそして、失敗した。狙撃は予備の手段で、その後の襲撃は本来カモフラージュ的に僕ら全員を殺そうという算段だったのだろうさ」
「それを証明するための証拠があるというのですか!?」
ナザレは叫んだ。
唐突に罪人に仕立て上げられれば叫びもするだろう。
「無いさ。この素敵な黒い薬はどこからか出てくるだろうね。けれど、この場所で彼だけが持っている訳じゃない。そうですよね? マッシュ・バークレイ大臣?」
「な、なぜ私が……?」
「今回運んだ積み荷がどこに行ったのかは多少なりとも調べさせていただきまして、まあ、アドニス商会なんていうあからさまなペーパーギルドなんですがこの黒幕が誰かと探し回っていたところあなたに行き当たりました。あなたは極秘裏に雇った遣いを派遣したみたいですが、その因果関係も僕が大枚をはたいて雇った盗賊ギルドの方々が探り当てて下さりましたよ?」
「そんなたいそれたことが私に出来るはずが……」
マッシュはおろおろしながら答えた。
「確かにあなたのここ数年の働きぶりは、無難でそつがなく大したことはしてない。ただ、おかしいですね? 十年前までは軍部の部門でのナンバー2まで一挙に登りつめ、その後通商部門の実行部門でのトップ。大臣となったのは文化大臣となってからですが、それからは突然おとなしくなります。ナザレ様が王の候補としての実力がつき、信頼を得ていたのであなたは前に出る必要がなくなった。あとは計画を実行するだけ、それに必要な資金や準備をしつつ、昼行灯を気取っていれば良かったのですね?」
「バークレーが? まさか?」
オルガン・ラングレが鼻で笑った。
「そう、思わせるのが彼のやり方です。あなたはカモなのですよ」
「何だと?」
「さて、ドミニクさまを襲った衛兵やメイドは誰が選出をしたのでしょうか? 彼が直接指示を出して建設をした図書館、珍しく漫画や小説などが集められていますが、この蔵書を手に入れるにあたっての金額が不自然に高いこと。何故ですかね? ナザレ様はマッシュ様の親戚筋であり、つながりがあります。不思議ですね。状況だけ突き合わせていけば彼しかいないように思えてくるんですがね」
マッシュは青ざめたままうつむいて拳を握っていた。
「これは、僕の推測ですが……。マッシュさまは長らくこの国をひっくり返す計画をやっていた。ドミニク様を殺し、ナザレ様を王にする段取りを取る。ナザレ様が王となったところで、弱体化を図りこの国を衰退させ、隣の国へと売り渡す。そういう算段なのでは無かったのですか? 気の遠くなるような計画だ。だからこそ、我々がこの町にきたこと、死ぬほど焦って一気にかたをつけなきゃならないと考えていて、暗殺を企てたが、またも失敗した。ですからあなたは今日、この場で無理矢理にでもこの国を壊すためにどうするかということを考えているはずだ。どうですかね、ポケットにしまってある黒い瓶を取り出してはどうですか?」
宗弥が言いたいことを言いたいだけ言い終えると、誰も何も喋らなくなった。
やがて、マッシュが手を叩いた。何度も叩き、やがて一人きりの拍手へと変わっていく。
「どこまで把握していたのかね?」
日頃のおどおどした不安さは微塵も無く、底冷えするような声だった。
「言ったでしょう。ただの推測ですって。ただ、おおよそ大臣の中で1割から2割程度はあなたが何かしらの形で掌握して、残りはナザレのカリスマによって間接的に掌握してるという感じでしょう
「良い線をついている。ふむ、面白いな、今からでも私の部下にならないか?」
「お断りします。僕の仕事の中に僕が雇用している冒険者を守るという義務はございますから」
「なるほど、それでは良かろう。では、交渉は決裂ですね。残念です」
「マッシュ……貴様、どうして?」
オルガン・ラングレは信じられない様子だった。
「どうしてもこうしても無い。私はもとより、隣国のトランジ共和国の人間だ。オルガン・ラングレ、あなたは私からすればとても御し易い人物だった。自分を有能と思っている間抜けほど簡単だったよ」
「さて、どうしますか? まだやりますか?」
「続けようか。我々にもなすべきミッションがあるのでね」
そう言うとマッシュは懐から黒いビンを取り出した。先端を割って一気に飲み干す。
何人かが同じように黒いビンを取り出し、飲み干した。大臣の中にもそれを飲むものがいた。
ナザレの手の中にも当然のように黒いビンがあった。
「ドミニク」
「なあ、嘘だろ?」
ドミニクは半ば絵空事のように聞いていた。だからナザレがそれを持っているということを信じられないでいた。
「ごめんね。でも、本当にこの二週間は楽しかったんだ」
ナザレはそう言って黒い瓶を飲み干した。
黒い瓶を飲んだものの体が変質していく。
風船のように体が膨らみ、その後で鋭い手足を持つ山羊頭の化け物へと変わっていった。




