王子の資格
ドミニクの試験は予定通りに進行した。
いくらナザレの教え方が良かったとしても、全部一度に覚えられるほど賢くはないとドミニクは自分でも分かってはいた。出来は半分と少しは分かったという感じ。満点には程遠い。
一方で、武芸の試験はナザレに型を教わりその通りに演武をこなした。これに関しては基礎があったのであっさりとこなす。これに関しては下地がしっかり出来ていたのでエッセンスさえ解ればその型が意図することを理解して出来た。形だけ真似をしているナザレよりも評価は高かった。
弓の試験では最初にナザレが見せてくれたものを再試することになり、あっさりと歴代最高点を一発で超えた。
自由組手でナザレと戦ったが一方的に屠るだけにとどまった。
ただ、そうは言ってもナザレの上達は目覚ましく、弓に関しても一分ででやり遂げており、一般的な部類ではかなりうまいレベルまで上達を見せた。
試験は午前中の時間をつかって執り行われた。昼食を挟んで和やかに大臣たちと会食をするが、ナザレは全く食事に手を着ける様子も無かった。
楽しそうに笑ってはいるが、笑ってはいない。
「ナザレ、大丈夫?」
心配になってドミニクが聞いた。
「大丈夫って何が?」
取り繕った笑顔のまま、笑顔のままでナザレは答えた。
「何って顔色が悪い」
「はは、緊張しているんじゃない?」
「それだけなら良いんだけど……」
そういうナザレからは何故か猛烈な死のにおいがしたのだった。
■ ■ ■
結果発表は昼食を終えてなされた。
式典会場としても使われる中庭に大臣全員と宗弥たち一行、セト王と王妃のアレクサンドリアが集められた。
濃い曇天が空には広がり、霧のような細かい雨がぱらつきはじめていた。
「試験結果を発表する」
壇上のセト王が言った。
「まず、はじめにどちらも見事な結果であったと言える。ドミニクにあたっては武芸の才はこれまでの歴代の王の中でも最高のものであること、そして、学業に関しては今回出したのは官僚の採用試験に使われるものと同じもので出題したが合格水準に達していた」
まずはドミニクを手で指し、そのあとでナザレへを指した。
「次にナザレ、学業の試験に関しては満点だ。満点をとったものなどこれまで皆無。ここにいる大臣にしてもとったものはいない。武芸に関してもすでに皆伝ではあるが、より実用的な側面の大幅な向上が見られた。実に素晴らしい」
セトは手を下げると全員を見渡した。
「この短期間にお互いの不足分を教えることで補いあい、向上してみせた。そのことも大いに評価したい。審議の結果、どちらにも王になる権利があると判断された」
ざわめき。
どこかでセト王が決めてくれるだろうと思っていたが、セト王をもってしても判断をする事が出来なかった。それに対してのざわめきだった。
「王権を以って時代の王を選定しようと思う」
静かにセト王は宣誓した。
「王権、でございますか。あれは伝承の上で伝えられるのみと考えておりましたが。そもそも実在し、そんなもので選定をすることが可能なのでしょうか」
アダムスが言った。
突然出てきた王権という言葉に全員が動揺を隠せない。
「王権とはこの国を創成した英雄が持っていたとされる、王家に代々伝わってきた弓だ。王になるにあたって相応しいものにのみ引くことを許された弓であり、王たる資格を持たぬ者には引くことが出来ない。公になってはいないが、王位の継承にあたっては必ずこの弓を引き、矢を放つことが決まりとなっている」
そういうと、セトはゼパスを壇上に呼んだ。
ゼパスが持っていた弓は青色の芯にその周りを金をあしらった弓だった。一つの円柱と、二つの円錐で出来上がっており、弦は虹色に輝いていた。普通の作り方をして作れるものではないということは一眼見て分かる。どのように接合しているのかということを考えるだけで手品に等しい。
天からもたらされたような弓だった。
「王になる権利がないものはこの弓を引くことができない。ゼパス。頼む」
「は」
ゼパスが弓を引いてみようとするが、王権はぴくりともしなることは無かった。
ゼパスの腕は震えており、渾身の力を込めているのは分かるが、王権は動かない。
「もうよい」
セト王が羽織っていたマントを外すと、王権を受け取り空に向けて引き絞った。
どよめき。
ゼパスの腕力が劣っていたわけではない。セト王の方が武術においては下位にあり、武芸においてはゼパスはこの国でも指折りの武人なのだ。
しかし、引くことはできなかった。
セト王に王権を引かせるのは文字通り王であることの権利を持っているからなのであった。
セトが弓の弦を放つと、突風が吹いた。弓が持つ力の顕現だった。
「この弓を以って選定を行う。なお、双方資格がある、もしくは資格がない場合はこの試験は保留とさせていただく」
静寂。
真っ当な試験を持っても両者の実力は競り合っており、最終的には国に伝わる伝説によって決める。そんなことはこの国に伝わる歴史書にも記載がなかった。




