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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
1話 異世界転生しても結局働き詰めで死ぬ
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最低難易度のくえすと

 絶好の山菜採り日和になった。


 日は高く、雲一つない青空。集まった冒険者は全員で十五人。ギルドのある城塞都市アルミンから出て数キロ先にある小さな山に来ていた。道中害獣との遭遇もなく、ピクニックみたいなノリでここまで進行している。


 皆一様に鎧に身を纏って剣やら杖やらを携えていた。その中にエマが死んだ魚のような目をしながら、木陰に座っていた。


「おはよう、エマ。よく来たな。死ぬほど不機嫌そうだが」


「そーだよ。とりあえず来なきゃ始まらないって説得したのはあんたじゃねーか」


「そうだったね。でも良く来てくれた。まあでも、こういうケースって三日でバカバカしくなって飛ぶんだけど」


「飛ぶ?」


「ああ、僕が働いていた時の用語さ」


 優秀なやつはだまってすぐにいなくなる。


「まーでも、信頼できねーって思ったらすぐにこっからいなくなるよ。ここの窓口があそこだけで、クラリッサ以外に頼るところがないならな」


「早めに引き上げるようには一応あれから言ってあるからね。二週間もすればまともなパーティーへの編入もあるでしょう」


「そーなると良いけどな」


 諦めたような口調でエマは言った。


 一応、宗弥は宗弥でクラリッサに働きかけはした。経歴書を読み上げて、何故あそこまで焦っていたのかという説明。早い段階でクラリッサの管轄からは手にあまるということを伝えた。


『ずいぶん彼女に優しいんですね? 宗弥さんは』


 と、クラリッサは言った。


『単純にこのギルドに優秀な人間を残しておきたいって思っただけですよ。ほっとくとあなたがズタズタになってしまいます』


『考えておきますね』


 と、クラリッサは言っていた。


 宗弥が言ったことの意味が分かっていれば、エマは早めに引き上げられることだろう。


 ここに来るまでに、改めてここのところ受注している仕事の内容を見てみた。それと同時に単価と月収とも一通り確認していた。


 クラリッサが引き受ける仕事は基本的に最高がA〜最低のEまでランク分けされていて、取り扱っている仕事のほとんどがEランクで占められていて、たまにDランクの仕事を受けるが、C以上の仕事はまず受けることが無い。前回Cランククエストをこなしたのは三ヶ月前だった。


 Eランク等のクエストは単価がとにかく安い。


 ただし、彼女だけ唯一、Eランククエストを受注し続けても売り上げを上げ続けている。逆に言えば、彼女以外の人間が低ランククエストばかり受けてなんとかなっているものがいるのかと言えば、誰もいない。実質的にEランククエストはほぼほぼ彼女が掌握しており、多数の入門冒険者にEランククエストを割り振り続けて、ある程度育ったら他の紹介者、もしくはパーティーに引き渡す。引き渡される先はかつて彼女が育てた冒険者か、もしくは紹介者に行き渡ることが多かった。


 つまりクリスちゃんに逆らわないほうが良いのだ。


 クリスちゃんから見限られれば、ある程度のとこまでやって、手伝いの中で目をかけている冒険者に声をかけて独立するというプロセスが台無しになる。付け加えて、クリスちゃんに睨まれればそこそこのレベルのクリスちゃんに集まってくる仕事を分けてもらうこともできなくなる可能性が高い。独立した時のスタートで大幅につまづく可能性が高いのだ。結局のところ、業務委託も含めれば売り上げ高は第四位の紹介者で権力も握っている。


 ただ、弱点もある。


 ここ数年クリスちゃんは上位ランクのクエストを受注していない。Cランクを受けた際も、以前目をかけていた紹介者のパーティーに委託し、受注名義だけクリスちゃんになっていただけのもので、彼女が受けているのは基本的にEランクか、Dランクの仕事だけだ。


 低ランククエストで何をするかと言えば、農園の護衛、害獣駆除、比較的な安全なルートの護衛。それと、危険な魔獣や害獣が出る可能性がある場所での採取このあたりになる。


 今回は魔獣が出る可能性のある地域での採取ということになるが、この区域で十年以上魔獣が観測されたことはなく、結果としてかなり安全度の高いクエストになりさがった。


 今回山菜取りというが、香辛料の原料になる木の実の採取だった。


「はーい、じゃあ、みなさん集まってくださーい」


 クラリッサが集合をかけて、あたりに新米冒険者が集まっていく。


 装備に着慣れていない連中がぞろぞろ集まっていくあたり、コスプレっぽい感じがすごい。コスプレして、山菜採りに行く光景なのだろう。


「今回は、ウドルキーの木の実を採取してください。見分け方のスケッチと収穫して良い木の実と、そうじゃ無い木の実はこれからせつめいしますー」


 クリスちゃんが説明を始める。


 手持ちで使える黒板を取り出して、チョークでスケッチを描いていく。枝の先に束に成って小さなチェリーのような実が付いているようだった。


「ウドルキーの木自体はこのあたりに沢山植えられていまーす。この山に魔獣、害獣が度々現れるようになったので、今はこのウドルキーの木の実の採取はわたしたちギルドに任されていまーす」


 宗弥が昨日簡単に聞いた限り、ウドルキーの木は放っておけば数ヶ月に一度実り、それを収穫する。もともと管理していた人がギルドに売却し、以降ウドルキーの木の実の採取はEランククエストになった。


「はーいじゃあ、採集用のカゴをお配りしますので、各自受け取ってくださーい」


 集まってきた冒険者たちがカゴを次々に持って行く。エマも死にそうな顔をしながらカゴを取って行って散っていった。


「じゃあ、宗弥さん。何も起こらないでしょうが、見て回りましょうか」


「はい、クリスちゃん」


 笑顔で答える。


 改めて知れば知るほどにクリスちゃんが怖いのだ。従わなければと、肝に命じるのだった。


 午前中は平和に進んでいった、参加した冒険者がそれぞれ木の実を採集しており、判断に迷ったものをクリスちゃんに質問していくようなそんな感じになった。


 やり取りを抜粋すると、


「えーとね、それはあともうちょっとだから、今日は良いかな、それり奥のやつが良いかもしれないね」


「はい、クリスちゃん!」


「クリスちゃん、異常は特にありませんでした」


「引き続き警戒をお願いします」


「はい、クリスちゃん」


「クリスちゃん、彼氏っているんですか?」


「もう、そういうことは仕事以外に聞いてください」


 みたいな感じだった。


 ピクニックに来た先生と生徒みたいなノリだった。


 そうそう、新人研修ってこんな感じできゃっきゃしながらでいいよねってなんとなく思い出した。このあとに待ち受ける苦痛にみんな目が濁っていくんだけど。クリスちゃんは良い感じに、この場所の楽しいところだけを見せるような感じの立ち回りをうまいことやっていた。


 これが真似できるかと言えば、宗弥にはできない。ただ、とりあえずこの人についていれば、この緩い空気の中でなんとなくやるべきことはわかっていけるような気がした。

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