空気は食べるもの。
「試験はやはり中止するべきでは……ありませんかね?」
文化大臣のマッシュ・バークレイはやはり目を泳がせながら言った。
議題は明日の王子を選定する試験を予定するべきかどうか。セトは実施すべきと言ったが、議会は議論する必要ありと緊急で議会が開かれた。
「この男が言うことに賛同する事になるとはな、中止するべきだと私も思うが」
通商大臣のオルガン・ラングレは尊大にそう言った。
マッシュは特に何も主張らしい主張をしない。日和見で空気を読むことだけに長けただけの大臣で最も軽ん
じられている。
「……では、選定試験は一旦中止、もしくは延期……ということでよろしいですな?」
ラサ王国評議院議長のサイード・アダムスが決を取りにかかった。
大将軍のガエル・ガニル、農猟大臣のロジャー・バウリンガ、総務大臣のマルア・ザビーネらは、発言こそしなかったが立場は変わらなかった。
大将軍のガニルはそもそもセトの意見に忠実でありそれ以上の発言をする事はない。
バウリンガ、ザビーネはそもそもこの選定試験には反対という立場で参加しており、特に意見を述べるまでも無かった。
そもそもマッシュという天秤そのものみたいな存在の男が最初から結論を出している段階で「議会の意見はこうです。王は従って下さい」と言わんばかりの回になった。
「逆に、セト王は何が不満でいらっしゃるか。なぜ、お急ぎなされるのか?」
「それは……だな。昨日狙われたのは私ではないのでは無いか?」
「どういうことですかな? 賊は、昨日王の寝室まで来たと聞きますが」
「経緯については僕が説明しましょうかね?」
と、宗弥が茶々を入れると。「またお前か」みたいな目でアダムス他全大臣から睨まれたが、「頼む」とセトが直々に助け船を出した。
「はい、喜んで。昨晩真っ先に襲われたのは恐らくドミニク様とナザレ様でしょう。窓の外から弓矢をいられそれを回避し、脱出したところメイドや執事、あるいは衛兵に化けたものたちと交戦をした。少し遅れて、うちの他の面々が戦闘に入ります。我々は突然部屋に押し入られてそれから戦っています」
宗弥はそのまま続ける。
「それから我々は合流し、セト王が狙われている可能性を考えてゼパスさんに報告をしました。それからは、皆さんがご存知の通りです。時系列を整理するほどに侵入者は真っ先に我々や王子達を狙い、その後失敗したために出現場所を拡散させたのではありませんかね?」
「その時系列があっていると言える証拠はあるの?」
ザビーネが聞いた。
「無いです、状況証拠だけですね」
「ですが、こういった状況だからこそ、中止……するべきではないのでしょうか?」
マッシュは言った。
「中止? 違いますね。断行すべきです。ここで中止されてしまえば、襲撃者の思うつぼです。我々を狙っているのだとすればどこかの街道で待ち伏せて必ず僕たちを殺しに来ることでしょう。選定がされないということが最も都合が良いのです」
ざわめき。
「皆には悪いが、選定の試験を続行しない理由が無いのだ。襲撃が起こったために襲撃の件を先に片付けたいのは分かるが、何となくそういう機運でないということで開催を取りやめるつもりはあるまいか?」
「では、逆に質問させていただきますが、何故選定を急がれるのですか?」
アダムスの質問。
「勘、としか言いようがない。だが、それに関してはあなた方も同じではないのか。先程、伊達殿が言ったことの方がより芯を得ているのではないか?」
「待ってくださいよ。民にもこのようなこと示しがつきませんし……」
マッシュが食い下がった。
「城は現在も厳戒態勢で警備をされていますし、真相がわからない以上は正常な状態ではないんですよ? それでも断行なさるのですか?」
「僕はするべきだと思いますね。あなたこそ、周りのなんとなくの雰囲気でものを言ってはいませんか? 民へまだ伝えられていないのであれば、このまま伝えるべきではなく、喜ばしい儀式として当日を迎えるべきだと思いますが」
宗弥は、迷うことなくマッシュに追求をかけた。
「そ、それは……」
マッシュがおし黙ると、他の全員の視線が宗弥に向いた。
「繰り返しになるが、伊達殿のおっしゃられていることはあくまで状況証拠のみで、真実であるかどうかは分からない。そうだな?」
「おっしゃるとおりで」
宗弥は笑顔で答えた。
「昨晩の襲撃は明日の選定試験を実施を延期、もしくは中止させたいと考えるものの仕業とそれでも言い張るのだな」
「そうですね!」
笑顔で答え続けた。
「その上で、僕の意見にはっきりと反対と言える人は手を挙げていただけると助かりますね。ここまで来て、原因究明などやっているうちに王子のどちらかが死ぬと思いますがね」
宗弥の呼びかけに誰一人として答えることはなかった。
この場を支配していたのは、あくまで、なんとなくそうするべきではないという空気だけだった。事件が起こったばかりでこのようなことをやること自体が不謹慎であるという考えのみ。
宗弥にすれば、その試験にこそ用事があると言っても過言ではなかった。
「……約束通りに明日朝十時より試験を実施すると両名に伝えろ」
セトがそう告げて、その日の会議は終わった。
そうして、何も起こらないまま翌朝を迎えた。




