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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
2話 身元不明の王子様
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王子と王子

 ナザレの教えは恐ろしく効果的だった。


 ドミニクをはじめとして、全員がそのままナザレの講義を受けた。


 全員が全員新しい教えに感慨を抱きながら素直に講義を聞いていた。


「なるほど、あの時の行動は大局的に見れば正しくはあったのですが、戦術的には間違っていたのですね」


 と、軍学の講義を受けてヒューゴ。


「へー、うちの実家もある程度ここの独立には絡んでいたって訳ね」


 と、史学を受けたエマ。


「こうしたことも、貴重な考えとしなければ、やがて教会が腐敗に至るような気がしました」


 と、商学の講義を受けたリーズが漏らした。


 講義は三日に渡り、およそナザレの講義はナザレ自身がきちんと体型立てて理解している結果受講者である、宗弥たち一堂が感動するような内容だった。内容がというよりもエピソードの結びつけかたがとてつもなくうまく、単に暗記をしているというだけではない深い含蓄を含んだものであった。


「こうしてセト王が王座を引き継ぎ、彼がやったことは明白ですがまず交通網の整理と、経済の健全化、そして、軍備の強化です。表面的に近郊を保てていますがトランジ王国との緊張は隠せません。なのでセト王は戦争においていかにトランジ王国からの侵攻に耐えることが出来るか、あるいは反撃をするにあたってどういった国ずくりをするべきであるかということを考えているようですね。はい、これで史学に関しては全ての年代を説明できたかと思います」


 スタンディングオベーションが史学についてのすべてのカリキュラムが終わった際に巻き起こった。体系的かつ、因果関係までも現段階で分かっている限りの事実関係を元に説明しており、およそ異国にやってきてこれだけ短い時間で少なくとも分かった気にはなれるほどこの国の歴史を理解出来るというのは講師としてナザレがあまりにも卓越していたおかげだった。


「ナザレ様、あなたがこの国の大臣方から絶大な信頼を得ている理由というのが分かったような気がします」


 一通り全員で参考書に目を通してみたものの、基本的には事柄が羅列されているだけでそこにつながりも何も無い。知っていれば良いことを本にまとめたというだけだ。実際にそこにどのような意味があるのかということを理解するためには、教科書と同じ厚さの本を十冊以上読んでも足りないことだろう。


 ナザレに特定の得意分野は無い。何かに特化している人間では無い。ただ、バラバラに散らばっている無価値にも見えるものをまとめて一つの法則性のある形に並べ変えるという点において卓越していた。


 故に学問において散らばっているものを体系化したり、国の各部門に入って、うまく機能していない事業を取りまとめたりすることで効率化を計るということが得意であり助けられているという話を宗弥はゼパスやセト、それ以外の大臣から聞いていた。


 その能力を目の当たりにして、感動としたという感想しか持てなかった。


「なあ、おれが王様になる必要なくない?」


 ドミニクが漏らした。


「多分な」


 エマが同意した。


「多分なって何だよ」


「能力的にほんとに他の大臣が言うみたいに凄いんだな。人格も申し分ないし、それに引き換えお前はレンジャーとしての腕は立つし信頼も出来るが、ちょいちょいしょーもない嘘つくし。しょーもない嘘つくやつと、大臣からも頼りにされているやつとどっちが王様にちけーんだよ」


 エマにはいつも通り容赦がなかった。


「そうだよな……、なんでおれ頑張るなんて言っちゃったんだろ……」


 ドミニクが分かりやすく沈んだ。エマがトドメを刺した形だ。


「まあまあ、落ち着いて下さいよ。僕はそうできるかもしれないから代打でいただけで、良き王と悪い王の違いは最後は『徳』によるところが大きいですよ」


 愛想笑いを浮かべながらナザレが言った。


 その、徳という話だが、ドミニクはちょいちょい自分の都合が悪いことに関してしょうもない嘘をつく。現在の彼に何を期待するか、それは冒険者としてのスキルであって、為政者となるための資質に関しては何一つ期待ができなかった。


「ナザレ、気分転換にちょっと外に出ようよ。運動しない?」


 ドミニクが提案した。


「お、自分が得意な分野に話をすり替えようとしているな?」


「うるさいエマ」


 にやつきながらエマが言った。


「良いですよ、ドミニク様の弓の腕前、まだ見ていなかったですしとても興味があります!」


 ナザレは声を弾ませて、その一方で今まで使ったテキストや書類をてきぱきとしまっていく。


「じゃあ昼飯を食ったら訓練所に行きましょう。おれの特技なんてそれぐらいしかないから見てくれると嬉しい」


「はい!」





 昼食を挟んで訓練場に移動した。


 弓の練習場所は、広い場所にそれぞれの射程ごとの的が置いてあり端っこの方で何人かが訓練をしていた。


「こういう所で練習するのってはじめてなんだけどどうやって練習すれば良いの?」


 言い出しっぺの癖によく分かってないドミニクが聞いた。


「えーっといろいろな種目があるとは聞いていますが、移動をしながら的を狙っていって三カ所から撃って的に当たれば終わりそこまでの速さを競うってものが兵士の間だとよく行われていますね。真ん中の赤い所に刺すと持ち時間が短くなるそうです」


「ああそう」


 中央に的が一つ立っており的は三つの円で構成されている中心の小さな赤い円、その周りに黒い円、一番外側が白い円になっている。的の正面に来るように三カ所白い線が地面に描かれている。それがそれぞれの打ち出すポイントで、左から順番にその白い線の上から弓矢を放って、的に当たったら次に移動。真ん中の赤い点に刺されば十秒時間が縮むそうだ。


「ベストスコアは一分で回って、全部赤いところに当たって三十秒が最短みたいです。この国の伝説的な弓兵が叩き出した記録だそうです」


「ちょっとやって見せてよ」


 ナザレが、弓矢を受け取ると。恐る恐る準備をする。それなりに訓練は受けていそうだが、ドミニクのような自然さ滑らかさといったものではない。ドミニクにとって弓を扱うことは呼吸をするように当たり前であるのに対して、そうではなくスキルとして覚えているという感覚だ。


「はーい、じゃあ、はじめ」


 エマが腕を振り下ろして、始まる。


 ナザレは大股で体を大きく動かさずに走っていくと、ポイントで立ち止まり弓を射る。ギリギリで白いところに刺さる。


 それを見届けると、次のポイントまで走りだしてまた止まって放つ。今度も白いところに刺さり、同じように最後のポイントに向かって走って行き、弓を射る。最後の一つは赤い的に刺さった。


「どうでした?」


「えー、一分三十秒。最後赤いの当たったから、二十秒か」


「やりました! 自己新記録です!」


 ナザレは一人で飛び跳ねてとても嬉しがっていた。


「おお、凄い。全部一発で当たってらあ。なかなかやるな動いて止まって弓打つのは普通に難しい」


 エマが感心したように言った。


「だいたい分かった。じゃあちょっと、おれもやってみるよ」


「どうぞ」


 ナザレがドミニクに訓練用の弓矢を渡す。


 スタートの合図と同時にドミニクは駆け出した。


 走りながらもドミニクは弓矢を引き絞り、最初の白線を止まらずに走り抜けた。


 走りながら放たれた弓はまっすぐに赤い点を穿つ、それが刺さったことも確認せずに次の白線まで走っていき、上半身だけ振り返りながら弓矢を放つ。


 一本目と同じように、赤い点を貫く弓矢。


 最後、再びターンし走りながら弓矢を引き絞って放つ。


 そうして最後に放たれたものもまっすぐ的へと吸い込まれていった。ドミニクはその結果を確認するまでもなく、ナザレの元へと歩いていった。


「時間は」


「ぜ、ゼロ秒というか、マイナス五秒です!」


 ドミニクは二十五秒で回って、全部赤い的に当てたので減算されてタイムがマイナスに入った。


「あれってルール的にありなのか? 一応白線の上に乗った時に矢を放ってるのは見といたけど」


 エマが退屈そうに言った。


「え? ああ、た、多分大丈夫です、一般的にはあそこで止まって打つわけですから、想定されていなかっただけで……というか、みなさん驚かれないんですか?」


「まあ、ドミニクだし」


 エマは当然のように言った。


「そういえばドミニクさんが外したところ、見たことないですね」


 リーズが言った。


「どちらも動いているって状況なら外すことは有るかもしれないけど、止まってる的なら何しててもあたるとはおっしゃってました」


 ヒューゴはドミニクから聞いていた。


「彼以外のレンジャーって見たことが無いのでどうなのかは分からないのですが、標準的ではないと言うことなんですかね?」


 宗弥は逆に聞いた。


「一般的にはこれは二分かかる種目ですし、移動はたいてい歩きます。それは、走ったことで鼓動がが高鳴ってブレを少なくするという事で命中率を上げるということ、それにそうそう的になんて当たらないんですよ! 熟練してくると移動で走ると言うことは出きるのですが、それでも立ち止まってから狙います。そこで外すかたもいらっしゃいます。極端にねらう時間が短くすべて中心に集まって、もはやずるなのでは? と言われた百年間破られなかった記録なんですよ?!」


「そうなのか? ちょっとあたしもやって見ても良いか?」


「え、エマさんがやられるんですか? 弓は専門じゃないと伺っていますが」


「ほんの遊びだよ」


 そう言いながらエマが弓矢を受け取ると、スタートと同時に全力疾走をしながら弓を引き、立ち止まらずに射った。外れ。


 同じようにもう一回やってみるが外れ、最後にもう一回同じように打ってみるが辛うじて、白い的に当たっただけだった。


「うっそ、全然当たらないんだな、これ。ドミニクやっぱりすげーんだな」


「ふはは、おれの偉大さが分かった事か!」


「いや、そもそもあの撃ち方で三発目当ててるエマ様が僕からすれば恐ろしいのですが?」


 ナザレが青い顔をしながら言った。


「そうか? 簡単にできそうだからやってみただけだが、ちょっともう一回やらせてくれ。今度はまじめにやる」


 エマがそう言って、もう一度スタートを要請する。今度は宗弥が時計を持ってスタートした。


 エマは全速力で射撃ポイントまで走り込むと、踏み込むのと同時に弓を引き即座に照準を合わせて撃つ。


 撃った直後は飛んで行った矢は見ずに、そのまま次のポイントへ。最初の一歩を踏み出した時に赤いところを射抜いた。


 次のポイントでもエマは即座に止まって照準を定めて、射る。これも難なく赤い的へ。最後のポイントから射った矢は黒い的を射抜き中心をわずかに外した。


「あー、最後外しちまったかー。もったいねー」


「さ、三十五秒……?」


 宗弥がつぶやくように言った。


 エマは悔しそうに大きなため息をついて、その場に弓矢を置いた。


「流石にドミニクほどはうまくいかねーかも知れないが、こんなものか」


「こ、こんなものかって何ですか! エマさま、あなたがどれだけのことをしたのか分かっているのですか? 最後のやつが入っていれば、百年破られなかった記録が破られるんですよ!」


「まあ、あたしだし」


 興味無さそうにエマが言った。


「エマだし」


「彼女は何を持たせても大体一番になってしまうような人なので……」


「エマさんだったらそうですね」


 この集団の中にいるとこの世界における標準とは何かということがよくわからなくなってくる。


 ドミニクはこの分野で一番になれる才能があった上で極限まで突き詰めた結果このような結果が出せて、エマはエマで何をやらせても圧倒的にうまくこなせてしまうというところはある。


「でも、それにしたって、ナザレは下手くそだよね」


「そ、そんな! これでもきちんと弓術は修めたんですよ?」


「基礎はそんなもんだけど、もうちょっと考えないとダメ」


「えー、そんな……」


 先ほどと一転、ナザレは弱々しく泣き出しそうになりながらドミニクのダメ出しを聞いていた。


「まず、呼吸のリズムに合わせて引くことと、放つことを統一しなきゃダメだ。基本的には毎回同じことを無意識のうちにできてなきゃダメだ。その上で相手の動きだったり、風向きだったりは別に計算しなきゃダメだ。まず、自分がブレないようにするにはどうするべきかってことを考えなきゃいけない」


 そう言いながら、ドミニクは文字通り手取り足取り懇切丁寧に教え始めた。


 それなりには習得したつもりでいたナザレの自信を打ち砕きながらも、次第に言うことを聞くようになってきて上達していくのがわかった。


 ナザレは当初的に当たるのが精一杯というところで、そもそも十射のうち、二射は的の外へと外れていってしまう。


 それがドミニクの指導を受けるうちにだんだん、下半身が安定してきて、上半身のブレがかなり減って的には確実に当たるようになってはきた。


 さっきのは、本当にたまたまめちゃくちゃうまくいっただけということは分かってきた。


「なあ、弓矢とかそれ以外の武芸の種目に関してはおれが教えようか?」


「そ、そんな! 本来の王子であるあなた様に教わるなど、恐れ多い」


「それじゃあ、フェアじゃない。おれは君から試験科目について教えて貰いたいし代わりに弓矢とほかの体術はおれが教えてあげるよ」


「良いんですか?」


 ナザレが目を輝かせながら言った。


「良いとも」


 ドミニクはそう答え、お互いがお互いを教えあう関係となった。


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