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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
2話 身元不明の王子様
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試験勉強

 床には高そうな赤い絨毯が敷いてあり、特にこれといった装飾品のない簡素な部屋であったが、備え付けてあった机や椅子、ベッドやソファーといった家具はきちんとした作りをしていた。ドミニクに貸し与えられた客室。部屋中にゼパスが持ってきた、参考資料としての大量の本がそこかしこに散乱していた。


「この国の歴史など知らん」


 と、エマ。


「私がやってきたのはあくまで小隊規模の戦闘で指揮官というか将軍の目線というのは習ってもいませんね」


 そう言ったのはヒューゴ


「経済学は一応それなりにやってきたけど、ここまで古いものに対応したというかちょっと間違ってるし、どう体系立てられているかまるでわかりませんね」


 と、参考資料がそもそも間違っていると言い出した宗弥。


「わたくしが精通しているのはあくまで、神と神話についてでそれ以外に関しましては……」


 そりゃそうだよね! といった感じのリーズ。


 試験が実施されることが決定し、二週間後に弓と、刃と、素手での武芸の試験と、歴史学、商学、軍学の学問の試験でナザレと競い勝った方が王位継承権を手に入れることになった。


 それでゼパスが大量に本を持ち込みこれを使えと言ってきた。それぞれで手分けをして、教えられそうな科目があるか、それぞれに本を手にとって読み進めてみたもののこの体たらく。


「ねぇ! やる気あるの! ねえ!」


 ドミニクは騒ぎ立てるものの、誰一人として目をあわせる者はいなかった。


 こうなるまでは良かったのだ。


 試験をがんばるとみんなの前で表明し、宗弥がここにとどまり続けるに当たってギルドクエストとして申請して欲しいとセトにお願いをして、無事クエストとして成立。セトとの約束として、ドミニクに全員で勉強を教えることになった。


 そうして本が持ち込まれ最初楽しそうに読み始めたものの、時間が経つごとに顔が険しくなり、二時間経過したところで、全員が全員分からないという回答を投げた。


「ゼパスさん……動けないの?」


 エマが重苦しい表情で言った。


 宗弥は目を閉じて、首を左右に振った。


「無理だ。ゼパスさんはセト王と十日ほど外遊に行かれる。それに関しては絶対に外すことが出来ないんだそうだ」


 セトは基本的に過保護なきらいがあるが、そうは言っても仕事と子供の話は分ける人間だった。


 ゼパスは最も優秀な秘書であり、また、同時に最も優秀な護衛であり、セト近くにはいついかなる時でもゼパスがいるとさえ言われている。


「どー、しよっか。先行して僕たちが勉強しつつってまあ、これあれかゼロスタートから一緒に勉強するようなものか、めちゃくちゃ効率悪いな……」


「そーだ、ドミニク! 武芸で圧勝してしまえば!」


 エマがまた言ったが、宗弥は黙って首を横に振った。


「対抗のナザレさん、そこそこ武芸出来るので対人種目はともかく弓矢や、型みたいなところでそこそこ点数出すので特化しても惨敗だよ」


 全員が頭を抱えてうずくまった。


「何事も最初の一歩は始める必要があるってひいばあちゃんが言ってたんだけど、まあ、そういうことだよ」


「具体的な打ち手は何一つないけど、とりあえず頑張るしかないってことだね。さあどれにしよう? どこから始めてもみんな素人だから一緒に頑張ろうじゃないか!」


 宗弥が無理やり明るく言ってみたが、ドミニクはただ困惑をするばかりだった。


 ふと、ノックがして扉が開いた。


「こんにちは〜」


 入って来たのは、ナザレだった。ドミニクと同じ年とは聞いているが、ドミニクと同程度の小柄な身長。褐色の肌に、エメラルドのような碧眼。艶めくような黒髪はにわかにウェーブがかっていて片目にかかりそうだった。青色の上下の服に身を包んでいた。


「こんにちは、ナザレさん。会議の前にご挨拶をさせていただいて以来ですね」


 全員が唐突のライバルの出現にびっくりしすぎて何もできない中で宗弥が立ち上がって挨拶をした。


 先ほどまでの会話を聞かれたのでは無いかと全員が顔面を青くする中で宗弥は凄まじい勢いで静かに立ち上がったのだった。


「そうですね。えーと、みなさんははじめましてですのでご挨拶致します。ナザレです。一応王子みたいです」


「そんな、謙遜なさらずに」


「だって、そうでしょう? 僕はあくまでドミニク様の代理なんだ。ドミニク様が来た時点であんまり僕に役目があるように思えないんですよね。それと僕自身がべつに大きく望んでいることではないし、ただ、試験を手抜きするわけにもいかないから僕が王子の座から降りるに当たって一番効率がいいのはドミニク様に知っていることを全部教えることなのでは無いかなって思っておりまして」


 ナザレは屈託無く微笑みながら、言っていた。


「だから、試験勉強、お手伝いさせてください」


 宗弥はジェスチャーで全員を集めるように指示をした。即座に円陣を組んだ。


「どう思うよ?」


 と、宗弥。


「敵の大将そのものじゃねーか!」


 と、エマ。


「しかし、こちらに協力してくれそうですよ?」


 宗弥が反論する。


「それが信じられますか?」


 ヒューゴは懐疑的だった。


「ですがわたくし達が、教えられることには限りがありますし……」


 リーズは自分たちの力量を見極めていた。


 宗弥はみんなを集めたつもりでいたが、その輪の中にドミニクが混ざっていないことに気がついた。


 ドミニクはナザレの前に行っていて、握手を求めていた。


「お願いしていいか?」


 答えがドミニク以外に出る前に、ドミニクが一人で答えを出した。


「もちろん、喜んで!」


 ナザレはドミニクの手を両手で掴んで、大きく振った。


「なん……だと……?」


 二人以外の全員が唖然となった。


 そうして、大して王子になりたくもないのに自分を知りたい男と、王子から降りたい男の協力関係が始まったのだった。

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