王子は誰
「反対でございます!」
ラサ王国評議員議長のサイード・アダムスはテーブルを叩いて反対をした。
長いテーブルを囲むように評議会においてもそれぞれの部門の長、十二名と、セト王おまけで宗弥も参加していた。ドミニクと、暫定的な皇太子として祭り上げられていたナザレは奥の椅子に会議に参加せずにただ座っている。
「何故ですか?」
セトが聞いた。
「もとより、ドミニクが何者かによって連れ去られた時王位継承権はドミニクのものであり、その証明は指輪で成すとそのように伝え、文書に残っているはずであり、ドミニクが帰還したため、当初の契約に従いドミニクを正当な王位継承者とするということなのでは無いのか?」
セトは、ゼパスを呼びつけ、その時に記した書類を提示した。
全体に複写した書類が回って来て、宗弥も確認したが、あくまでも王位継承権はドミニクにありドミニクがこの都市に帰還した際にドミニクに王位が継承されるよう記されている。ただ、それを全員が確認したところで、その場はざわめくばかりだった。
「ドミニク様が実際に帰還されたのかどうか証明出来るものは、あくまで指輪とその容姿だけでございます。故に、その指輪が正しいものであるかどうかということ、容姿に関してもたまたま似ているものを王子として祭りあげたいのでは無いかと思っている次第でございます」
「余が嘘をついておると言いたいのか?」
セトが聞いた。
「そう言ったつもりは毛頭ございません。しかしですね、あくまで外見的な特徴と指輪にしか証拠と思えるものはありません。その二つで王となれるのであれば何処かから似た人間を連れてきた上で、指輪を複製したとは考えられませぬか? あるいは、指輪は何処かで盗まれ、そして王の血を引くとでっち上げるためにそういった工作をしたということは考えられませぬか」
「その可能性は無くは無いが」
「王とは何をもって規定されるものなのでしょうか。王位継承に於いて第一位にあるナザレさまはその血筋においても、教養、頭の回転の速さ、武芸の能力全てを取っても歴代の中で最も優れていると言ってもいいのではないかと考えております。故にナザレ様こそがもっとも相応しいと考えるのが真っ当でございます。仮にもドミニク様がご存命であったとしても、ナザレさまが王位継承権を得るということは十分あり得たのではないでしょうか」
通商大臣のオルガン・ラングレが言った。
「確かにナザレは優秀ではあるが、当初の約束は果たされるべきである」
「何の教養も無い、あなたの子であるかも疑わしい子供を指してそうおっしゃいますか?」
ラングレが畳み掛けるようにそう言った。
あまりにもはっきりというもので、議会はその発言の鋭さを巡ってざわついた。ラングレは自身が言ったこと、それが与える影響というものを何一つとして考えている様子ではなかった。
「まあまあ、そう言わずとも……。確かにナザレさまは優れたお方ではあるが、契約書がある以上はその契約は履行されるべきだと思うのですが……その」
文化大臣のマッシュ・バークレイが目を泳がせながら、言った。セトの言っていることに賛成はしているがこの場における大多数は何かということを日和見ているようなそんな感じ。
「改めて質問をさせていただきますが、セト様はどのようにお考えですか?」
宗弥がセトに聞いた。
参加するにあたって自己紹介は済ませていた。おまけではあるが、発言権が全く無いわけでは無い。
「確かにナザレは優秀である。その素養に関しては疑うまでも無い。だが、王となると決まった上で努力を積み重ね、歴代の中でも類を見ないほど優秀となり、各大臣方を助けるほどに成長しているという話は聞き及んでいる。諸君らの申し出は正しい。ナザレは疑いようも無い。しかし、文書は残っている。その時が来たらそうしろと命じたのは私自身のはずだ聞けぬのか」
「それはあまりに横暴ではありませぬか。いくら王とは言え」
アダムスが声を荒げて言った。大臣も概ねその論調に賛成しているようだった。
噴出し続けるナザレを推さないセトへの不満。しかし、そこまで言われてもセトは納得をした様子ではなくナザレを王子として確定させるという考えには賛成できないようだった。
「あーーーーー、そうですね。ちょっと喋ってもいいですか? ドミニクさまの雇用者としてお伝えしたいことがいくつか」
「どうぞ?」
ゼパスが他の大臣が反対意見を言う前に言った。
およそ全員が息を吸い込んだ瞬間に言う早業。
「ありがとうございます。ドミニクさまのこれまでの活躍についてご説明させていただきます。ドミニクさまは森でトミックさまという森の中で生活をするレンジャーに拾われ、レンジャーとしての技術を叩き込まれたあとアルミン城塞都市で冒険者登録を行い、最終的に僕が直接契約をしている冒険者となりました。我々はいくつかのクエストをこなしてきましたが、百匹以上のクルガンオオトカゲを五人で討伐した他、古龍ファヴニールを討伐をここ最近では行いました」
「クルガンオオトカゲ百匹だと? 一個中隊を使って辛うじて食い止められる程ではないか」
「ファヴニール? あのヨシュア戦記に出てきた、あのファヴニールであるか」
「眉唾な、そのような証明など」
一挙にざわつき始めてきた。
それもそうだ、パーティ結成からここまで果たした『業績』という意味では半分事故に近い形ではあるが積まされている。
「討伐証に関しては今は手元にありませんが、しかるべき部署に問い合わせれば手に入ります。我々は少数です。僕を除けば四人で運営しているパーティーであり、ドミニクさまはその中の一人です」
順調に視線が集まってきていることが分かった。
「ドミニクさまは、僕が所属するギルドの中においても彼は最も優秀なレンジャーであると考えていますが、実際にどうなのかは分かりません。ただ、生き馬の目を射抜くような芸当はあたりまえのようにこなすお方ではございます」
「その冒険を以って、同等であると言いたいのか?」
ラングレがそう言った。
「セト様にしてもこの点を昨日ドミニクさまより伺って、高く評価したのだと考えられます」
「なるほど、理屈としては理解できるが、王たるものありとある学問を治めていなければならないと思う。就任をした直後から、王としての仕事の一端を担うことになる。それにあたっては深い教養がなくてはならない考えられるが」
「ええ、その点においては劣っていると申し上げて間違いはないと思います。なにせ狩りの技術しかありませんので、最近文字を全て書けるようになりましたが全く何も持ち合わせていないのが現状でございます」
ざわめき。ドミニクに冒険者やレンジャーとしての実績はあるが政治家として、あるいは王になるための実績はまるでない。教養もなければ文字が全て読み書き出来るかどうかということも怪しい。
「ならば王子として認めることは出来ないでは無いか」
「そう、心の底から思いました? ドミニク様は並みの武人ではなし得ない武勇を幾つか持ち合わせております。およそ僕が異世界転生する前の国において武勇で王や首相を決めることはまずありませんが、そういった尺度もこの国では重要視されるのではありませんか?」
「確かに一理あるとは思う」
ラングレが唸りながら答えた。
「ならば王に相応しいか試験をしませんか?」
「試験だ?」
「様々な事を二人で比べて頂き、最後に点数の高い方を王とする。そういったものです」
「馬鹿なそんな事が認められるはずがあるか!」
その他の大臣ではなくセト王は立ち上がって声を荒げた。
「セト王、あなたはドミニク様が自身の手元から離れていくことを恐れていませんか? 残念ながら、彼が失踪した時と現在とでは状況が異なります。彼は彼自身の身を守れます。もしもあなたの手元にいなかったとしても彼は生きていけます。逆に言えばそう言った私情が、彼を王子とする道から遠ざけているのではありませんか?」
宗弥がそう言った後に誰も発言をしなかった。
セトは長らく殺さんばかりに宗弥を睨め付けたが、宗弥は恐れず微笑み続けていた。
「良かろう。私はその提案に賛成する。他のものは賛成であれば挙手を頼む」
セトは椅子に腰掛けると、全員が手を挙げて全会一致で試験を実施することが決まった。




