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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
2話 身元不明の王子様
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家なき子、王子になる

 ドミニク・サンガはあくびを嚙み殺しながら、隊列の一番後ろを歩きながら昼飯を食うだろうレストラン探しに付き合っている。


 先頭でエマと宗弥があーでもない、こーでもないと、昼飯に何を食べるのか議論している。その後ろで、ヒューゴとリーズはリーズがこの間渡した手袋の出来について話をしていた。この間死にかけたところを助けてもらったお礼の品なのだろう。


「王子! やはり王子ではありませんか!」


 誰かが喚き立てるような声が聞こえた。


 誰のことを言っているんだと思って辺りを見渡してみるが、それらしく反応した人間は誰一人としていない。なぜか自分の方に視線が集まってくることをなんとなく感じていた。

 

 唐突に腕を掴まれた。その男は白髪の老人だった。黒い服装に身を包み、白い手袋をした男で、背筋はきちんと伸びていて何かしらの戦いの心得もあるのだろう。


「あなた様のことですよ」


「な、何? 何なの」


 ドミニクは何が起こったのかよく理解できず、腕を振り払って即座に距離を取った。本能的な防衛行動に他ならなかった。お爺さんはにわかに傷ついた様子で下がったが、即座に背を伸ばし顔を上げそして膝を地面につけて頭を垂れた。


「お帰りなさいませ、王子。お帰りをずっとお待ちしておりました。いかな言葉を尽くしても陳腐に思えてしまいます。さあ、王と王妃の元へ参りましょう」


 万感の思いを堪え、目に涙を浮かべながらおじいさんは再会を喜んでいる様子だった。


「いや、どう考えても人違いでしょ。そんなバカな事があるかよ」


 ドミニクは捨てられ、拾ってくれたトミックじいさんに育てられただけのただの身寄りのない孤児だ。


「こないだ、王子かもとか馬鹿なこと言ってたのどこの誰だよ」


「うるさいエマ!」


 確かにしょうもない話を数日前にドミニクはエマにした。だが、こんなのは知るはずがない。


「王子。王宮までお越しください。あなたのためであればどのような仕事であれ、あなたのために時間を作れる事でしょう」


「だけど……」


 ドミニクは戸惑うばかりだった。


「良いじゃん行こうよ。僕たちのクエストは終わったところで家に帰るまでの時間は決まってない。幸い次の仕事の予定もないし、僕らは名乗った訳じゃない。ドミニク、君が恥をかく必要はなし、そうなったら僕が前に出るから安心して」


「宗弥……」


 宗弥はやけに機嫌が良さそうだった。


 一番反対しそうな人があっさりと、おじいさんの提案に乗っていた。


「とりあえず、立ってください。最小人数で行くなら、僕とドミニクだけが行く感じになると思うけど、他のみんなも一緒に謁見させていただくということは可能なのでしょうか?」


「ええ、問題ございません。皆様方は、王子をここまで連れてきてくださった恩人なのですから、ここに置いていきもてなさなかったと知れたら、わたくしの首が飛ぶことでしょう」


 お爺さんは立ち上がると上品にそう言って笑った。


「それでは、ご案内願えますか?」


「はい、かしこまりました。申し遅れましたが、わたくしゼパスと申します。普段は王室の執事を行なっております」


 そうして、ゼパスの後に続いて王宮へと向かって行く。


 そもそもこの都市自体が王宮を中心とした城下町として成り立っていて、荷下ろしをした地点が王宮にかなり近い位置のマーケットであった。


 ゼパスは何人か護衛の兵士を従えており、自分たちと合流したあとはゼパスを先頭として全方位を警戒するような陣形の中に入って移動をしていた。


 王宮は艶のない陶器のような白い建物だった。叩けば砕けそうだと思ったが、叩いてみたところでびくともしないのだろう、よく磨かれていて建ってから長い年月が経っているにもかかわらずここにある感じだ。天井は高く天井から灯りが吊るされている。装飾は王宮というには少なく、絵や花といったものは特に無かった。まっすぐと入り口から続く赤い絨毯の上を歩き続けて五つほど扉を開けた。


 開いた扉の先は謁見の間だった。一直線に引かれた絨毯は小さな階段を上って玉座で止まっている。


 そこに居たのは男と女だった。


 男は王冠を被り、白いマントを羽織り、白の礼服に金の金具をつけた豪奢な服をまとっていた。女は花のような飾りをあしらった白いドレスを身にまとい、白いヴェールを頭から被っていた。


 その男と女は、肌は白く、瞳の色は紫。髪はプラチナブロンドだった。


 ドミニクと全く同じ色だと言っても良い。一目見ただけで自分との繋がりのようなものを感じてしまったのだった。


 女はヴェールを投げ捨てると、そのまま一直線にドミニクまで走り寄ってきて、思い切り抱きしめた。


「ああ、ああ……」


「会いたかった、ずっと会いたかった、この十年、どれほど待ちわびたことか……」


 女は抱きしめたままで、泣き出し、しゃっくりをあげはじめた。


 女が泣き止むまではしばらく時間がかかった。ドミニクにしても何もできずにただ、呆然としたまま動く事が出来なかった。


「ごめんなさい。あなたからすれば初めましてなのにね」


「いえ」


 ドミニクは初対面を装ったが、直感的にそうではないことを悟った。


「はじめまして、わたくしはアレクサンドラ・ラサこの国では王妃です」


 後ろにいた豪奢な格好に身を包んだ男がわざとらしく大きな咳払いをした。


「あら、あなたがまだでしたね」


「ああ、すまない。私はセト・ラサ。この国の王だ。ゼパスが騒ぐものだから来てみれば、そうか本当に生きておったのか……」


 セトに関しては再会の喜びよりも驚きの方が勝っていそうな印象を受けた。


「はじめまして、僕は伊達宗弥です。ドミニク・サンガ様の所属する冒険者ギルドで紹介者として働かせていただいております」


「変わった風体の格好をしているが、出身はどこかね」


「お恥ずかしながら、こことは異なる世界での生まれとなり、僕自身は異世界転生者でございます」


「おお、これもゲーンの神のお導きであるか……」


 セトは感激したように目を閉じると、ゲーン教のお祈りである胸の前で円を描いたあとで「感謝いたします」とつぶやいた。


「ただ、少しだけ確認したいことがある。君の首から下げた指輪をお借りできるかな」


「はい」


「ゼパス、鑑定を頼む」


「かしこまりました」


 ドミニクは指輪をゼパスに渡すと、ゼパスは拡大鏡のようなものを取り出し、指輪の鑑定をする。


「やはり、十三年前に無くなった指輪と同じものですね。裏側の刻印も一致しますね。正当な王位継承権の証です」


「……そんなに高いものじゃ無いって言われたんですけど」


「どこでそれを聞いたの?」


 宗弥がドミニクに聞いた。


「一回売ろうとしたら、買い取れないと言われてて、ただの安物だと思ってた」


 全員が口を開けて瞠目した。

 王位継承権の指輪をあっさり売り払おうとしているということがよほど信じられないという様子だった。


「なにか問題でも?」


「王位継承権の指輪売ろうとするのは、あのさすがにちょっとびっくりですねぇ……」


 宗弥が困り果てた顔で言った。


 しばらく静まり返った、長い間師匠であるじいさんと二人きりで生きてきたので世俗のことなどよく分からなかった。確かにじいさんは大事にもっておけとは言っていたし、それを即座に無視した自分にももんだいはあると思うけれども。


 セトが沈黙のあと一人で大いに笑った。


「良い、良いでは無いか、我々が守ることができなくて死んだと思っていた息子が王位継承権など関係なく強く生きていたということの証では無いか! 実に良い! たくましく生きてきたのだ、息子よ!」


 セトはドミニクの肩を叩く。笑い顔の中には涙も混じっていた。


「ええ、ドミニク様は非常に優秀な冒険者でございまして少数精鋭の当パーティーにおいて欠くことの出来ない人材です」


 宗弥がドミニクに対して様付けで呼んだことにとてつもない違和感を感じた。自分を規定する要素がこうも簡単に変わってしまうのかと驚いた。


「これまでのこと、茶でも飲みながら全部話してもらえるか?」


「ああ、うん、分かったよ」


 それから茶室に招かれて、茶とお菓子をつまみながら一時間程度かけてこれまでのことを話した。おじいさんに拾われて育てられたこと、おじいさんが死んでアルミンに出てきて冒険者ギルドに入ったこと、ずっと独りでやっていたが宗弥と組むことになったこと、一緒になってからの冒険の話をした。


「たくましく育ったのね……」


 アレクサンドラは、話を聞き終わると目にためていた涙を拭った。もとより、そこまで苦労する宿命に無かったにも関わらず、天涯孤独になって伝説の古竜まで倒してと、それなりの大冒険だったと思う。


 セトは涙を浮かべながらも、


「王位継承権をドミニク・サンガに譲渡したいと思う」


 宣言した。








「え?」


 ドミニクはただ呆然と答えるしかなかった。


 かくして、数日前のほら話が本物になり、ドミニクは王子になった。

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