平凡なCランククエスト
新しい依頼は、デイーアンドシー商会から依頼された荷物の輸送を代行するクエストだ。ランクはCランク相当。トランジ共和国に入国し、商業都市ンジャンジで荷物の受け取り。
ガサ王国首都のラサにある商店に荷物を卸す。馬車は向こうの持ち出しで返却は必要でない。
想定される脅威は大したことはなく、盗賊が襲いかかってくる可能性がぐらいだ。魔獣の出現エリアでもないし、そこまで狙われることもない平凡なクエストだろうと想定された。
特に何も起こることはなく、簡単に最初の目的地にたどり着くことができた。
ンジャンジに降り立つと、エマと宗弥は商店へと向かった。
商店は露店の形をしていたが、表になにかを出したりしている様子はなく、ヒゲを蓄えた男が退屈そうに座っていた。
「すいませーん、ディーアンドシー商会から来ました伊達ですー。初めましてー」
「あんたか。話は聞いている。荷馬車はそこだ、一週間以内に指定された場所に運んでくれれれば良い」
「はい、了解しましたー」
馬車は店頭にあった。今日このヒゲの男が取引するのは自分たちだけであるらしく、馬車を引き渡すとそのまま店をしめてしまった。
「何だ、あのオッさん商売する気あんのか?」
横にいたエマが馬車の準備をしながらつぶやいた。
「今日はこれしか商売するものがなかったってことなんだろう。あんまり考えなくてもいいと思うよ」
「でもなんか不思議なんだよ。ここを借りたにしてもつい数日前に借りたみたいな感じで何にもしていないようにも見える」
「まー、僕らは荷物だけ運べって言われただけですし、とっとと片付けて帰りましょう。大して高いクエストでもない」
「そうだな」
エマから見ても、今回の輸送のクエストはCランクのクエストではあったが、かかる日数と手間を考えるとそこまで良い仕事でもなかった。採算ギリギリの下請けのCランク。幾分中抜きをされているとさえ少し思える。
ただ、そんな安い仕事なのにもかかわらず、宗弥はやる気があるようにも見える。
「そう言えば、何でお前今日ギルドの服着てないで、そのスーツってやつを着ているんだ?」
「まあ、あんまり取引の無い国にこれから入るんで、とりあえず名前覚えてもらいやすいように着てるってとこか」
「ふーん」
宗弥は普段ギルドの仕事をするときは必ずギルドの制服を着ていて、スーツを着るということは今まで確認する限りでも巨龍討伐の時ぐらいのものだった。宗弥にとってスーツというものがどういう意味を持つ服装なのか、あるいは服装自体に意味があるのかということに関してもエマは分からなかった。
「馬車を表に回して、昼食を食べたら出よう」
「分かった」
引き取った馬車を外まで回して、固定しておく。
「エマは先にレストランに向かってくれ。僕は僕でちょっとやることがある」
「やること?」
「そう、ちょっと頼まれごとをしていてね。それを片付けたら向かうよ」
「そうかい」
聞いたところで答えが帰って来なさそうだったので、エマは先にレストランへと向かった。宗弥は十分後ぐらいにやってきた。
そのまま、昼食を一緒に食べて、出発をする。
ラサまでの道のりに関しても特に苦労することなくたどり着くことが出来た。野営を二回程行い、国境でも特に揉め事はなく、通商ビザを見せてあっさりと通過。首都のガサにしてもそこまで苦労することなく入ることが出来た。
ごく平凡な、なにも起こらないCランククエストだった。
ラサのマーケットは賑わっており、なかなかアルミンではお目にかかれないような珍しい香辛料なんかも取引されていた。ただ、その香辛料の買い付けに来たわけではないので、真っ先に取引先の商店へと向かい荷物を卸す。
「お疲れ様です。こちらが報酬になりますので受け取ってください!」
最初に荷物を載せるように指示をしたやつに比べてという話をすれば、とてもにこやかに褐色の肌の青年が答えた。
馬車をそのまま預けて、報酬受け取りの箇所にサインをし、取引現場をあとにする。
「飯にしよう。宿も取ってあるし今日はゆっくりして、明日朝一番に帰ろう」
宗弥は妙にいきいきと言った。
「なんか楽しそうじゃねーか?」
「そう? エマの気のせいだと思うよ? まあ、強いて言うなら、トラブルばっかりだったから、こういう簡単なやつってなかなか無くって嬉しいなって思ったのかな」
「まあ、そりゃ確かに」
思えば宗弥と組んでからと言うものトラブルだらけだった。組むキッカケになった事件にしたってイレギュラーに魔獣が出てくるところから始まって、三匹だけと言われたクルガンオオトカゲが百匹以上出てきたり、念願の大きな仕事巨龍討伐かと思ったら伝説の古龍を倒すことになったりした。
十回クエストをこなせば、その内五回は何かしらのトラブルに巻き込まれる。この間にしたって簡単な討伐クエストだったにもかかわらず帰りに関係ない盗賊に襲われたばかりだ。
そういう意味では、少しばかり報酬が安めであったとしても何もなく平穏にクエストが遂行できるというケースは確かに稀なことだった。
「思った通りに、事が運んでくれるって良いことだねって思ってね」
「気持ち悪い笑顔だな」
宗弥はニカっ感じで笑った。いつも不健康そうな青白い肌をしながら、引きつったように笑うのでとても気持ち悪かった。




