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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
1話 異世界転生しても結局働き詰めで死ぬ
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エマは山菜採りに行きたがらない

 宗弥は翌朝すんなり起きることが出来た。


 とりあえず、服を着て鏡を見てみる。髪は、少し迷ったがぼさぼさのままにしておいて、出かけることにした。


 三十分前について先にクラリッサを待っていることにした。思ったよりもクラリッサの登場は早かった。


「おはようございます」


「おはよう。そっそく今日から仕事だけど、基本的にはやって欲しいことは指示していくわ今日は何も無いけれども、明日にはクエストで遠征することになるから覚えておいてね」


「はい」


「今日は主に相談と事務処理になるから一緒に頑張りましょう。もし、それなりにわたしの役に立ってくれるなら仕事をいくつか回してあげるね」


 暗に、逆らうなと言われた。


 ここで生きて行きたければ、私の言うことが絶対と。まあ、大体どこに行っても先輩になった女の人に嫌われたらロクな目に合わないというのは知っているので、意識的な分良い先輩なんだなとか思った。無自覚に被害者面するやつに何度かひどい目にあわされたから。


 そのまま、クラリッサについていき、ギルドに入る。窓口は誰かの専用のものがある訳でも無い。予約やアポイントがあれば、そのまま使える物らしい。受け付けカウンターへの後ろにデスクがいくつも並んでいる。けれども、数を数える限り所属している紹介者のデスクが全てある訳では無い。必要であれば自身で購入するものであるらしく、使用料は給料から天引きになる。


「新人の伊達宗弥です、クリスちゃんの後ろで勉強させていただいております。お邪魔でなければ後ろでクリスちゃんの仕事ぶりを勉強させていただいてもよろしいでしょうか」


 笑顔でそう言って了承をもらってから、クリスちゃんの後ろに付く。


 クラリッサの元に集まってくる冒険者は最底辺クラスが集まってくる。基本的に、経歴書を受け付けで書かされて登録をさせられ、ランク分けされていく。純粋な体力や、魔法の力によるものではなく、冒険者としての経験値によるものが大きい。


 クラリッサは明日行う大規模な収穫にあたっての護衛クエストの人員を集めていた。別段質を求めている訳でもなく、通り一辺倒に明日の仕事への参加を勧めていた。


 クラリッサの説得方法は基本的にパターン化されていた。


 緊張している駆け出しの冒険者に対しては、

「安心してください。最初は難しい仕事は特に依頼しませんので、ここから始めていきましょう♡」


 自身過剰気味な冒険者には、

「一人で出来うる仕事というのは限りがありますので、このクエストを終えた後にパーティへの編入を考えていきましょう♡」


 基本的にはこの二つを使い分けていた。


 ただ、一人問題児がいた。


 その女というか少女は軽そうな鎧に、腰にいくつもの長さの違う剣を携えていた。鎧も剣もよく使ったような痕跡があって、新品同様のものではない。これまで来たような緊張した新人や、チンピラ風のちょっとイキがった感じでも無い。素人目に見ても少し雰囲気が違うというのは分かった。


 綺麗な顔をしていたが、目は刃のように鋭くて、束ねられた金髪は燃えるように輝いていた。背や、体格は一般的なその辺にいる女の子と変わらない程度だったが、出ている強そうな気配が彼女をすこし大きく見せていた。


「何だ? あたしに、明日山菜取りに行けって言いたいんだな? 冗談じゃねぇ。もう少しマシなもんがあるだろ、害獣討伐とかあんだろ」


「ごめんなさい、今、私の窓口では害獣討伐の依頼は特にないんですよ」


「なら、他に取り次げ。下らなすぎるだろ」


「受け付け係の振り分けによってあなたの担当は私となりました。害獣討伐といっても何名かでパーティーを組んでからの出立となりますので、まだ特定のパーティーに所属していないあなたに紹介することは出来ないんです」


「なら、あたしはあんたから別の担当者に変えて欲しいってお願いしたいね。何となく気にいらねぇんだわ」


 そう言って少女は、カウンターに尊大に肘をついた。


 クリスちゃんの笑顔は変わらなかったが、背後に阿修羅のようなものを見たような気がする。意外と自分が思った通りに進まないことに苛立ちを感じるらしい。


「このクソガキ……」


 クラリッサは隣にいる宗弥にかろうじて聞こえるぐらいのボリュームで呟いた。


「差し出がましいけど、僕がしゃべっても良い?」


 我慢できなくなって宗弥が間に入ってしまった。


「何だぁ、お前。こいつの腰巾着か何かか?」


「まあそんなところだよ。ここに来たのはつい昨日で今日がここの初日で、研修中だ。今はクリスちゃんの後ろで勉強させてもらっている」


「勉強中のあんたが、あたしに何を伝えるってんだ」


「とりあえず落ち着きなよ。君は急いでいるし、焦っているね。最速でこんなステージ踏みつぶしてやるぜって気概でいるね」


「そうだよ」


 一瞬、少女は怯んだようだったが、すぐに不機嫌そうな顔に戻って答えた。


「ここまでのクリスちゃんの話でだいたい分かっているとは思うけど、リスクもリターンの大きい仕事は簡単な仕事で信頼を積み重ねつつ、それなりのパーティーを組んでからが本題だ。ちなみに君はどうやってこの街に来た?」


「えーと、地元の国を出てここの冒険者ギルドが活発だと聞いたからここに来た」


「つまり君は招待されてこの場所に来た訳じゃないんだな」


「……そーだよ」


 バツが悪そうに答えた。


 なるほど、分かっていてゴネたなと宗弥は確信した。


「それなら君に最初から選択肢は無いことは分かりきっているんじゃないかな?」


 少女はそう言われると、頬を赤くして、口をへの字に曲げて、こちらをにらみながら押し黙った。


 お願いをして、それをあっさり払いのけられた子供みたいでかわいいと宗弥は思った。


「なら、明日はみんなで仲良く山菜採りだ。クリスちゃん。書類を渡してあげて」


「はい」


 クラリッサが後ろに下がって書類を取りに行く。


「あんた、一体何者なんだ? みた感じ公国の人間じゃないな。どっから来た」


 少女が聞いた。


「僕か? 僕はこっちの言葉を使うなら異世界からの漂流者であるらしいね」


「嘘だろ? 漂流者は冒険者になって、すげー活躍するんだろ? なんでこんなとこいるんだよ?」


「それは、僕がこっちに来たらそういう全く手に入らなかったんだよ。だから紹介者見習いだ」


「へー、そうなんだ。ま、あんたがマジモンの漂流者ですんげー力があろうがあたしの方がぜってー強いって思うけどな」


「大した自信だね、ところで君は何に成りたいんだ?」


「あたしか? あたしは最強のドラゴンスレイヤーになるんだ」


「ドラゴンスレイヤー?」


「竜を狩るものだ。うちの家系は代々ドラゴンスレイヤーの家系で、本当はあたしが跡目を継ぐはずだったんだ」


「継ぐはずだった。ということは、何か問題があったんだね」


「そうだよ。あたしの方が兄貴よりも強いし、数段勉強しているのに跡目はあたしじゃなかった。さすがに見かねたじーさんが冒険者になって功績をきっちり出せば、跡目はお前にやろうって言っていて、だからここでもたもたしているわけにはいかないんだよ」


「それで焦っていたのか、まあ、でも見てるかぎりみんな山菜採りからだ。そのうち君の戦闘技術だったりを見極めるテストをしてパーティーに編入される。ここまではそこまでかからないだろうし、クリスちゃんにも言い含めておくよ」


「助かる。なあ、あんた何も持ってないっていう割に面白いな。名前何て言うんだ?」


「僕か? 僕は伊達宗弥って名前だよ。よろしく」


「じゃ、ソーヤって呼ぶからな。あたしの名前は、エマ・バレー。バレー家次期当主になる女だ。よろしく」


 エマが手を差し出して握手をした。


 長い付き合いになりそうだと宗弥は思った。



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