悪党と悪党
拷問を終えた翌日にはヒューゴを伴って、ミカエラ盗賊ギルドへと向かっていた。馬で二日走らせた先の都市、ミカエラへとたどり着いた。
「アルミン冒険者ギルドから参りました伊達宗谷と付き人のヒューゴ・フェレイルです」
門番の男に、身分証明書である用紙を提示した。
「要件は」
「商談でございます」
「よし、通れ」
と、あっさり通した。
「あっさり通れましたね」
門番が見えなくなるぐらい離れたところでヒューゴがぼそっと言った。
「盗賊ギルドだからな、明らかに害意がある武装した連中だったりしたら確かに問題だったかもしれないが、今回はほらこんな格好だろう?」
宗谷もヒューゴも冒険者ギルドの制服に身を包んでいた。
普段ならこういう外出の際ヒューゴはごつい鋼鉄の鎧に身を包むが今回の目的は交渉だったので、警戒心を必要以上に煽らないためにこういう格好にしてもらった。もちろん全くの非武装という訳ではなく、制服の下には薄手の鎖かたびらを着ていたり、ナックルダスターをポケットの中に隠し持っている。刃物の扱いは点でダメなヒューゴだが徒手格闘はそこそこのレベルでこなせると評価されていたための装備だ。
「そう言ったものなのですかね?」
「そう言うものだよ。見るからにやる気マンマンで行けば門前払いされる。彼らからすれば何もしなければ害は無い、しかし都合が悪ければ簡単に殺せるとでも考えているだろう。だから、都合が悪くなって危なくなった時のために君をつれてきた」
「なるほど」
ヒューゴは頷きながらも納得している様子では無かった。
都市の中へ入ると思っていた以上に綺麗だった。
白いタイルで埋め尽くされた地面にはゴミ一つ落ちておらず、町民の服も別段薄汚れた様子も無く、商店も測ったように整然としている。盗賊ギルドの街というには、あまりに洗練されており、テーマパークのようだと感じた。ただ、自分たちを襲った連中のような粗野な奴らは見渡す限りいなかった。
それもそのはずだった。この都市の入り口は二つあり、居住区と一般的に都市とされる部分とは完全に隔たっている。しかもその入り口がここに来たかったの「客」に悟られないように完全に分離していて、入ってくる街道にしても「客」と「従業員」である所属盗賊がかち合わないようにできている。
この都市は規律で出来た犯罪都市なのだと来てみて改めて思う。
ギルド以外に特に用事はないので、さっさと前に進んで真っ白い塔のような建物の中へと入っていく。
光沢のある石のテーブルを挟んで座っていた女性が頭を下げた。
「いらっしゃいませ」
「お世話になっております、アルミン冒険者ギルドから参りました伊達宗弥と申しますが、そちらのクリードさまとお約束させていただいておりまして、いらっしゃいますか?」
「伺っております」
楚々として受付嬢ぽい女が微笑んだ。
「かしこまりました」
「では、私が応接間までご案内いたします」
と、受付嬢自身が立ち上がり、先導して、応接間まで連れて行く。応接間は二階にあった。小部屋に小さなソファーが二つ向き合うように並んでおり、間に低いテーブルがおかれている。
宗弥は座り、ヒューゴは即座に対応できるように立ったままで後ろに控えている。
「いやー、すいません、お待たせいたしました」
ノックとともに大柄の男が入ってくる。髪は整髪剤で撫で付けてあり光沢を放っている。ヒゲは綺麗に剃られており、顔には笑顔を貼り付けている。身なりもこの盗賊ギルドの制服である濃紺の上下の服に身をまとっており、制服がくたびれた様子もない。
「はじめまして伊達宗弥です。こちらは秘書のヒューゴ」
「はじめまして、アグリ・クリードと申します」
差し出された手は分厚く、ごつごつしており、握力もある。
クリードが座り、商談を始める。厳密に言えば、襲いかかってきた連中のことを盾に脅しをかけるだけなのだが。
「キム・クライヴ様をご存知ですか?」
「ええ、存じておりますが…………」
「先日彼が所属する部隊に襲撃を受けまして」
即座にクリードが柔かな笑みから、剣呑な表情へと変わった。クリードがベルトに手をかけるがその手をヒューゴが上から手で抑えた。
「仕込み刀ですね? 抜き放てば即座にあなたの命は無いものとお考えください」
「チ」
分かりやすく、クリードが悪態をついた。
「襲撃を受けて返り討ちにしましたが、そちらの所属のクライヴさまが生き残っておりましたが、クライヴさまには拷問をかけさせていただきましてここの所属と伺ったものですから」
使えないやつ、と毒づき、こちらを睨みながらクリードは先ほどまでの紳士然とした態度を崩して前屈みに姿勢をかえた。
「あなたは僕たちを見て、いざとなれば何とかなるとお考えのようでしたが、残念ながら僕の護衛は優秀なのでそのようにお考えにならない方が賢明ですね」
「……目的は何だ」
「僕たちを襲うように言ったアドニス商会とは何者ですか?」
「顧客情報に関することは……」
「言えないですよね? まあ、それは承知していますし、こちらもやや非合法な方法でここの在処を突き止めましたので、多少なりとも有益な情報と交換させていただければと……」
「は、有益な情報かどうかはこちらが判断することだろう? アンタからしゃべれよ」
バカにした様子でクリードは言ってきたが、興味は持っていそうだった。
「おっしゃるとおり。では、お伝えしましょう。今回の依頼を受けた際、装備品として黒い瓶を支給されませんでした?」
「ああ、あったなそんなもの。筋力や魔力を増強させる秘薬とは聞いていたが」
「飲むとどういった作用があるかはご存知で?」
「実際に使ったというのか」
「ええ、おそらく使わないつもりでいたのでしょうから、僕たちが想定外に強かったために、使ったのはリーダー格の男だけでありましたが、使っているところは見ました」
「どうなった」
「魔獣化しました」
「クソッタレが、あいつらそうなることを一言も言ってやがらなかったぞ!」
クリードがテーブルを叩いて、激昂した。
「ええ、状態としては、全身が黒くなって大型化し、頭部がヤギのように変質します。時間経過と共に元に戻るかは不明でしたが、彼を倒したとき全身が黒い液体となって溶け落ちました。当初よりあなた方を使い捨てるつもりでいたのでしょう。これが彼だったものです」
ガラスのケースの中に収めたリーダーだったものの、コールタールのような物体をテーブルにおいた。
「舐めやがって」
「ええ、これは重大な約束違反だと考えられますので、この事実を盾にあなた方はアドニス商会を糾弾することだってできる。証拠であるこちらの物体はあなた方のものとしていいです。ただ、僕たちはこのアドニス商会が何を考えて僕たちを襲ったのか知りたいのです。なのでアドニス商会について教えていただくことは出来ないでしょうか?」
「分かった。ただ、そこまで俺たちもあの商会がどういうものなのかよく分かってない」
「と、言いますと?」
クリードが眉間にシワを寄せていながら、目を閉じてため息をついた。
「情けない話、彼らがどういった組織でどういった成り立ちなのか分かってない」
「それは、アドニス商会がまっとうな組織ではなく、ペーパーギルドである可能性があると?」
まっとうにギルドとして活動していないにも関わらず、ギルドとして設立し、ギルドとしての権限を持っていることを指してペーパーギルドと呼ぶことがある。
「いやうちでの実績はあるし、このことが判明するまでの間に関しては真っ当だった。ただ、彼らがミカエラ以外のところに依頼を行った形跡もなければ、どういったギルドなのか探りをかけても判然としないことが多い。契約は守るし金払いが良いがなんか胡散臭いというのは感じるところではあるけどな」
「なるほど」
普通に考えれば、ギルドとしての信用はすなわちお金に変わるのだろうと考えられる。そのギルドが何回も取引をしているにも関わらず全貌が判然としないのはギルドにとって本来はマイナスだ。
取引先としての盗賊ギルドは受け入れる顧客はかなり広い。入り口の整然とした作りも、信用づくりの一環であり、一般的に必要な信用審査も数段階飛ばして依頼を引き受けることができる。
アドニス商会をめぐる非合法な何か。
その裏、というよりは目的を明らかにしなければならない。
「アドニス商会について、所在を明らかにすることは可能なんでしょうか?」
「今俺があんたから言われたことを種に調査を投げるということは出来るかもしれないが、今回も前金で金はきちんと貰ってんだ。他所から来たあんたの言うことを俺が仮に信じたとしても、ギルドを説得できるとは思えねぇ」
クリードにしても即座に今知った事実を使って制裁に出たいが、どうにも裏が掴めていないので武器の使い方を分かりかねているようだった。
「逆にお尋ねしますが、あなたのアドニス商会への信用は失墜したと思うのですが、彼らからあなたがたへの信頼はまだ生きていらっしゃいますか?」
「? この依頼を受ける以前であれば問題は無いはずだが」
「では、こうしませんか?」
宗弥はクリードにこれからの「作戦」を伝えた。
それをすべて聞き終えたクリードは手を叩いて大いに笑った。
「いやはや、大した悪党だよアンタ」
「お褒めいただき光栄でございます」
「誉めちゃいねぇ。俺達ごときチンピラごとき目じゃないな。だが、ぱっとやってきたアンタの言ううことを信じているということが条件になるが、俺がアンタを信じる理由は何かあるか?」
「簡単な事ですよ」
宗弥は微笑みながら前置きをすると、
「陰謀屋気取りのクソ野郎の目論見を叩き潰して、できればそいつもぶん殴りたいって心の底から思っているからここまで来ました。あなたも同じ気持ちでしょう?」
「気に入ったわ。あんたと組むことにする。この約束は事実がどうとかって話じゃねぇ。俺がアンタを気に入って、アドニス商会のクソが気に入らねぇって魂に誓った約束だ。アテにしていいぜ」
クリードは歯を向いて、笑うと手を差し出した。
「頼りにしています」
宗弥とクリードはがっちりと握手をした。
ヒューゴは何も分かった様子ではなくただニコニコとその場に立ち続けていた。




