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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
2話 身元不明の王子様
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奴らの目的は?

 洞窟から出ると、宗弥とリーズががらの悪い盗賊風の男たちに羽交い締めされていた。


「動くな! こいつらを無事で返して欲しければ武装を解除して降伏しろ!」


「あはは、たすけてー……」


 宗弥はへらへら笑いながら助けを求めた。


「なーんか、ヤな予感したんだよなぁ。途中で念話切れたし」


 エマはそうぼやきながら剣帯を外し、槍を捨てると両手を上げた。


「そうですね。では、私たちは一旦指示に従いましょうか」


 ヒューゴも同じように、メイスと盾を捨てて手を上げる、


「そうだ、そのままゆっくりこちらへ来い」


 と、後ろで偉そうに指示しているリーダー格の男が言った。


「へへへ、この女いい女だな。全員捕らえてひとりを渡せばあとは好きにして良いんだよなぁ?」


 リーズを押さえている男が舌なめずりしながら言った。


 襲撃者の数は正面に八人。エマ達が洞窟から出ると、背後にもう二人槍を携えた男がいる。形としては完全に包囲して制圧したつもりなのだろう。


 今、この段階では指示に従った方が良いだろうと思ったのでその通りにしている。


「待て、もう一人男がいたはずだ。そいつはどこに行った」




「さあ? 薄暗い洞窟の中からお前らのこと狙ってんじゃねーの?」




 瞬間。一本の矢が、リーダー格の男の眉間を貫いた。


「もう一人の男か!」


「そうだよ」


 ドミニクが洞窟の中から出てくる、矢を二本同時につがえ、同時にうち放つ。


 宗弥とリーズを捕らえていた男の眉間に突き刺さる。


「おとなしくしている理由が無くなったな」


「そうですね、エマ!」


 ヒューゴとエマが駆け出す。


 宗弥とリーズを追い越して後ろにいる襲撃者に突進する。


「こ、こいつら武器も持たずに正気か!」


「てめーらごとき雑魚なんざ武器がなかったところで慌てる理由にはならねーんだよ!」


 前衛にいた槍をもった男が刺突しにくる。


 エマは槍の上に飛び乗ると、高く飛び上がり、その頭を蹴り飛ばした。


 ヒューゴは振り下ろされた剣を甲冑で打ち払うと、殴り飛ばす。


 後衛に控えていた男がヒューゴにボウガンで矢を放つ。


 ヒューゴの肩に突き刺さったがヒューゴは意に介さずに接近。


「ひっ、化け物!」


「失礼な、人間ですよ」


 そう言って拳一発で襲撃者を沈黙させた。


 ドミニクは近距離での戦いを強いられながら、そこまで苦戦している様子もなかった。


 槍を回転しながら避け、懐に入り込むと零距離から胸部に矢をうち放つ。


 後ろから襲いかかる襲撃者に、倒した者を放り投げて攻撃させる。飛んできた遺体に困惑している隙に横へ転び、下から頭を狙って矢を放つ。


 一発で命中し、昏倒した。


「これで全員片付いた?」


 ドミニク。


「まだだあ!」


 リーダー格の男が立ち上がって叫んだ。ドミニクが放った矢はわずかにそれていて、額から側頭部に切り傷を作ったまでにとどまっている。


「くそ! 聞いていた話と違うじゃねーか! こうなりゃ、俺だけでもやってやるぞ!」


 そう言って、リーダー格の男は懐から黒い瓶を取り出し、一気に飲み干した。


 男がわずかに痙攣すると、腕の部分が大きく膨張した。腕一つだけで人の大きさぐらいに膨れ上がると、次に顔が大きく、その次には腹。腕から空気を入れられた風船のように大きくなり人ならざるものへと姿を変えていく。


 現れたのはヤギのような頭を持った真っ黒な巨人だった。指をのばすと爪から先に刃のような固まりが現れた。


 ヤギ頭の巨人は真っ先にヒューゴに襲い掛かった。


 ヒューゴは肩に刺さった弓矢を引き抜くと、ヤギ頭を迎撃にかかった。ヤギ頭を殴るがそのまま前進し、刃に似た鋭さの黒光りした腕を振り抜く。


 ヒューゴが肘を掴んで止めると、投げ飛ばそうと体制を変えようとしたところで逆にヒューゴが投げ飛ばされた。


 エマはヤギ頭の関心がヒューゴに向かったことを理解していたため、槍を拾いに一気に走る。


 ヤギ頭の関心がエマに注がれ、槍を拾わせまいと走り出す。


 距離は同程度、ヤギ頭の方が身体能力が優れるらしく動き出しは遅いがすぐに追いついてくる。


 自由になったリーズの加護術式がエマを加速させた。


 タッチの差でエマが槍を取得。


 振り向きながら切りつけるが、ヤギ頭が傷ついた様子はなくそのまま突っ込んでくる。


 止められないと分かると、エマの反応は早かった。自ら、後ろに転がると、ヤギ頭の手首を掴み、足の上にヤギ頭の腹をのせ、思い切り蹴り上げる。


 ヤギ頭が後ろに通り抜けるようにして、投げ飛ばされた。


「爆砕槍!」


 穂先に炎のような赤いオーラを放出された後に、穂先へと圧縮された。


 爆砕槍は収束した魔力をぶつけるのと同時に爆発させて叩きつける技。


 薙ぎ払う、片腕で受け止められたが、穂先が爆裂し、腕を叩き斬る。


 もう一段階爆裂して、胴体の切れ込みは広がったが、真っ二つにするには至らなかった。


 エマが一旦離れる、入れ替わるようにヒューゴが間に入り、メイスを横薙ぎに払う。


 ヤギ頭はガードをしたがガードの上からダメージが入った。だが、腕を粉々にしただけでヤギ頭自体が吹き飛んだりはしない。


 撃ち放った、一撃はそれぞれある程度の魔獣に致命傷を与えうるほどのダメージのはずだが、


 刹那。


 ドミニクが撃った弓矢がヤギ頭の額を貫いた。しかし、ヤギ頭が歩き続け、ドミニクの方へと走り始める。


 ドミニクは同時に二本の弓を番えると、喉と、心臓に同時に矢を放った。寸分違わずに命中すると、ヤギ頭の全身の黒色が溶け落ちるように姿を変えていき、やがて人の原型も留めずにコールタールのような黒い塊になった。


「何だこいつら」


 エマが異様な頑丈さと膂力を誇るヤギ頭に対して頂いた感想だった。


「とりあえず生き残っているのはふん縛って、お持ち帰りしましょうか」


 宗弥が言った。


 各々うなづき、まだ死には至っていない盗賊を見つけて縛り付けていく。


 一方で宗弥は、遺体のポケットや装備品を漁ってみたがめぼしいものは特に出てこず、とりあえず、黒いビンを何人かが持っていたのでそれを奪い取った。



 ■ ■ ■


「へ、俺が何か知っていると思うか、何も知らねーよ」


 強盗に来た盗賊は捕らえられて、尋問室に閉じ込められておよそ数時間に渡る尋問を受けたが、結局何も口を破ることがなかった。


 元刑軍のジョージア・エルロイに依頼をして、誰にどのように頼まれて、このようなことを行なったのかと言うことを聞いてもらっていた。数時間おきに様子を見にきてるが、一向に状況が変わらなかった。盗賊風の男は疲れているようではあったが。


 宗弥がやって来たことに気がつくと、エルロイは外に出るように顎でしゃくった。


「あーどうしましょう、そろそろ時間切れっぽいんですよね。時間切れになると刑軍に引き渡さなきゃならなくって、あとは実際に起こった被害に対しての請求しか行えなくなるんですけど……」


「何したら、喋らせられます?」


「拷問です」


「おう」


 そんな気は宗弥にはしていたが、気が滅入る。


「……いいでしょう、追加の料金などはかかりますか?」


「そうですね、ちょっとその提案をこれからしようと思ったのですが」


「お任せします」


「分かりました。やってみましょう。手短に済ませます」


 エルロイは人の良さそうな笑みを浮かべると、ペンチを持ってもう一度部屋の中へと入って行った。


 宗弥は嫌な予感がして目を逸らすと、直後に悲鳴が上がって、盗賊の鳴き声とエルロイの優しげな言葉のままで恐ろしいことを質問する。


 おそらく嬉々として持って行ったペンチで指でもつぶしたのだろう。


 痛いのは本当に苦手だが、避けられないのなら見届けるとはいかないまでも同席しなければといけない。


「いいですか、まともに答えないならばもう一本いきましょうか。切り落とすまではもうちょっと時間をかけて、爪の間を針で突き刺すですとか、指ひとつとっても色々な方法がありますが、話をしない限りこのバリエーションをかたっぱしから試すことになりますが……」


「分かった、もう分かったから、話す、話すから、もう許して」


「おやおや、情けないですね。もう少し根性を見せてもいいんですよ?」


「やめてくれ、分かった、分かったから」


 長らく精神的な負担になるような詰問は続けていたのだろう。負荷は間違いなくかかっていたが、危害が実際に加えられることによって心が折れたのだろう。


「では改めて質問なのですが、あなた方は自発的に彼らを襲ったのですか?」


「いいや、違う。俺たちは基本的には依頼を受けて襲うことを生業としているから、自分たちで動いたりなんかはしない。専用の窓口を介して依頼して来たもの以外は……」


 盗賊ギルドなるものは非合法ながら存在している。


 昔、盗賊は乱立していたが、結局のところ盗賊同士がお互いのシマを荒らし合い、殺しあうようになった。そんな中で出来たのは盗賊ギルドであり、彼は少なくとも野良の盗賊ではなく、そのギルドに所属する会員だった。


「ははあ、なるほど、ではあなたはどちらのギルドの所属かお教え願えますか?」


「そ、それは」


「では次の指を砕きましょう」


「や、やめ、あああああああああああああああ!」


 エルロイはペンチで指を握る動作を見せたあと、あっさりと手を話して笑顔を浮かべた。


「話してくださいますね?」


「お、俺の所属はミカエラ盗賊ギルドの所属だ。い、依頼して来たのはアドニス商会とか言うところから依頼されたんだ! 別に何にも胡散臭くない商会からの依頼で、あいつらを生け捕りにするか、皆殺しにするかを依頼された」


「生け捕りの方が報酬額が高かったのですか?」


「そうだ」


「伊達様から伺っています黒いビンは依頼の時に預かったものですか?」


「そ、そうだ。どうしても戦力差があって倒しきれない時に使えと。クソ、まさかあんなに強いとは」


「畏まりました。ビンの中身についての詳細は伺っておりましたか?」


「いや、詳しくは。飲むととても強くなれると聞いた。俺たちの方針では絶対に使わないつもりでいた。そんな訳の分からない道具を使えるわけがない」


 確かに一瞬でカタがついた。


 リーダーはどうしても勝てないということを悟って、一人だけでも変身を果たし、襲い掛かって来たのだった。


 おそらく一人だけ変身をしてもそれなりに戦うことが出来たのだろう。


 何故狙われることになってしまったのか。


 これまで盗賊ギルドと争う羽目になったこともなければ、彼らのシマを荒らしたこともない。


 黒いビン、アドニス商会、ミカエラ盗賊ギルド、その三つの言葉が宗弥の頭の中をぐるぐると巡っていた。





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