異世界転生者、過労の末死にかける。
アイト村に戻ったエマ達は英雄のように祝福された。
エマは、そういう全てを放って置いて宗弥を探していた。あいつは一体何をしたと言うのか。
方々に聞いて回ってへんな格好のやつが酒場に入って行ったという情報を掴んで、酒場へと向かった。
酒場の中にはバーテンダーの男が一人だけで、客は奥の方のテーブル席に突っ伏したへんな格好の男と小柄な女の背中が見えた。
「おい、これはどういうことなんだ!」
エマにとっては最後の援護は喜びよりも怒りの方が勝る。なにせ、黙ってやってきて裏切られたような気持ちにさせられたからだ。
「おー、エマか、お疲れー」
「お疲れじゃねーよ。それにどうしたよ今にも死にそうな顔してるけど」
「いろいろあったんだ。あんまり寝てなくって、今日終わったらここでビールでも飲もうと思ったけど、ちょっと気持ち悪くなっちゃって……」
宗弥の顔は今にも死にかけている人間の顔だった。青白く、くまがべっとりと張り付き、頰がこけていた。正気がまるでなくて、目は充血していた。背中に力が入ってなくて、生命力のかけらも感じられなかった。
「ちょっと休ませてあげて……。大変だったみたいだから」
クラリッサが助け舟を出した。
「いいよ、大丈夫説明するから。それぐらいのことはしないとね。座ってくれ、エマ。何をしたかってことぐらいは教えてあげよう」
宗弥は、エマ達と別れた後のことをこと細かに説明を始めた。
「まー、そもそもなんか嫌な予感がしていたから、調べられるだけの文献は調べて早い段階でエマの家が雇っている学者さんのハイデガーさんにアポイント取っていろいろ聞いてその段階で自分がうっすら考えていた仮説が大体合っているということが分かった訳だ」
「そこでどうしてあたし達に伝えなかった?」
「伝えていてどうなったと思う?」
宗弥は不健康そうな笑顔でそう言った。
結局のところ勝ちが続いて慢心していたという気持ちはないわけではないし、いかなる強力な敵であろうと、ヒューゴとリーズは決して引こうとしないだろうと思った。
結果、空中分解して何もかもうまくいかなくなる。
「古龍であったとしても、今は神の力を与えられたものでなければ倒せないってものでもないのはなんとなく調べているうちには分かってきた」
「ああ、知っている。討伐用兵装がいくつかは開発されていて……それを使えれば確かに」
古龍討伐用超弩級魔砲は、ヨシュア戦記の中で登場するヨシュア自身が開発にたずさわった兵装だ。ヨシュアの必殺剣と同等の威力を兵装で再現をする。そう言った意図の武器だ。
「それを知ってから、あの兵装をなんとしてでも使いたかったから、軍部に申請を通すにあたってありったけ今回の依頼がいかにめちゃくちゃで、それが明らかになったらどれくらい困ることになるのかって情報を徹底的に集めたわけだ。ついでにギルド長の弱みも握ってな」
「正直、引くぐらいの執念だったわね」
クラリッサがため息をついた。
「それで、まあ、軍部につながりのあるギルド長ゆすって軍部に取り次いでもらったわけだ。そこでも、結局ギルド長ゆすったネタで脅して、自分は異世界からの漂流者で自分になにかをすれば何が起こるか分からないぞ? とか、テキトーなことあれこれ言った訳ですよ」
ビールを煽りながら、わははと笑いながら凄まじい交渉をしょうもない与太話みたいに宗弥は言った。
「それで、あの古龍討伐用超弩級魔砲?《バルムンク》 とそれを使うにあたっての人手を貸してくれって話をしたんだけど、途端に渋られてね」
「渋られたのか?」
「いやーこればっかりは、どうにも詰めが甘かったと反省するところでね。やれ予算を通すにあたっての稟議が時間かかるだの、アイト村は自治区であるが同時に国境地域であり、そこに軍事行動を行うと国際情勢的に厳しいだのなんだの。最も反省すべきは、結局どうしてこんな無茶苦茶な形で依頼がされたのかってことの話に逆戻りになってしまってね」
「それで、お前はどうしたんだよ」
「時間がかかりそうだから、有償で試射させてくれって頼み方にした。人員もこっちの持ち出しで、借りるのは、兵装とマニュアルだけ。そうしたら向こうがあっさりオーケーして、そこから決着するまでは早かったんだ」
「で、あん時お前が異世界の格好でいたのってこれが終わった直後にこっち来たのか?」
「そゆこと」
数日前に宗弥がやってきて熱心に作戦概要を聞いていたのは、交渉が終わって実際に討伐兵装が使えるようになったからその打ち出しをどこで行うのか頭に思い描いていたのだろう。
「そんでまあ、あとはマニュアルを徹夜で頭に叩き入れて、クリスちゃんに土下座して頼み込んで人を用意してもらって、あとはひたすら訓練とイメージトレーニングと、実際にあれ打つ前に試射もしたりいろいろやりながら、大量にある書類仕事を夜中にやってたら次の朝になってみたいなのを繰り返してこのざまだよ」
宗弥は力なく笑った。
この戦いで誰よりも戦っていたのはこの男に他ならなかった。
「僕は、君たちと君たちの守りたかったものを守りたかったんだ。うまく出来たかな?」
「ああ、ありがとうよ。宗弥」
「良かった」
それを聞き届けると、宗弥は死んだように眠り始めたのだった。
* * *
「ははーん、大体分かりましたよ。あなたが現世で死んだ理由」
「何ですか藪から棒に、っていうか、またここです? 異世界でまた僕死んだんですか?」
薄暗い灰色の部屋の中にいた。真ん中には簡素なテーブルと椅子、他には何もない。取調室のような場所で天使みたいな女と二人っきり。
「いーえ、死にかけてたのは実際だけど、気になるから呼んじゃった❤️」
「迷惑なんで帰っても良いですか?」
媚び媚びの甘ったるい声は疲労した脳みそにダメージとしてよく通る。
今はありとあらゆる能動的な衝動が消滅し、ただひたすらに脳を休ませたい。会話するだけこの女は有害だ。
「ダメでーす。せめて警告だけでも聞いていきなさい」
「うるせえ、寝かせろ! あの金槌持ってんだろ? 出せ!」
宗弥は椅子から立ち上がると、ガイダンスを押し倒して身体中を弄った。
「あ、ダメ、そんな、乱暴しちゃっ、あ、強くしないで」
「うるせえ、金槌出せええええええええええ!」
宗弥は、ガイダンスの胸の谷間から例の金槌を見つけると、迷うことなく自分の頭に叩きつけて意識を消しとばした。
「あなたは、お人好しすぎるのよ」
薄れ行く意識の中でガイダンスはそう言ったのだった。




