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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
1話 異世界転生しても結局働き詰めで死ぬ
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仮説とそれを叶えるためのコネ

「となると、やっぱりその線が堅そうですよね」


『そうですね……巨龍は基本的に根城から動くということは少ないです。今回のスペックに紹介されるような全長百メル超のサイズとなれば、国を超えてドラゴンハント組合に観測され続けているはずなのですが、今回現れたのはその線ではありませんね。となれば、過去の事例を加味すると……やはり……』


「了解しました。今回もその、勇者のお仕事ってことで、僕が呼ばれた背景っていうのもこういうことがあるからってことなんでしょうね」


『前回の時にどういうことが起こってそうなったのかは、分かりかねるところではありますが、宗弥さまがここに呼ばれた意味や意義といったことは確かにあるのかもしれません』


「はい、了解しました」


『……お嬢様をお願いします』


「お嬢様、そうなんですよね。分かりました。身元を預かっている以上、責任をもって仕事に当たらせていただきます」


 そこで念話は途切れた。


「遠隔地への念話って結構しんどいんだけど、あんた何を考えて私にこんなことを頼んだ訳?」


 向かい側の席で汗びっしょりになりながら、クラリッサがぐったりした様子で言った。


「ごめんね、クリスちゃん。リーズに聞いたら、ゲーン教の取り扱う加護術式に遠くの人と話をすることができるって」


「できるには、できるけれども、一般的では無いし、遠くの人間と議論するのに使いたいなんてこと始めて聞いたわよ!」


「そう? 僕がこの世界に来る前はよくあったけども。悪いねクリスちゃん。どうしても頼れるのがあんたしか居なくって。報酬はこの通り」


 銀貨を詰めた袋をテーブルに置くと、クラリッサは受け取った。


「今にして思えば、ちょっと割に合わないような気もしないでもないけどね」


「なら、どうして受けてくれたんですか?」


「あんたの話に少し興味があったからってところじゃないの?」


 クラリッサは疑問系で答えた。自分でも分かっていない様子だ。


 宗弥はクラリッサにお願いをした。どうにも今回の件について調べたかったので、エマの故郷のドラゴン博士に念話を取り次いでもらうこと。


 今回は何かを隠した上での遂行であるかもしれないということを話して、腕の良いク

レリックを紹介してくるように頼んだら、クラリッサ自身が引き受けてくれた。


「よくよく考えれば、会話の内容って全部クリスちゃん知ってる訳だし、ある意味僕の弱みはクリスちゃんに握られちゃったって考え方もできるよね」


「そんな、使う価値も無いもの使うわけがないじゃない」


 クラリッサは鼻で笑って、取り出したハンカチで汗を拭った。おじさんがレストランでおしぼりで顔を拭くみたいな感じで。


「これで分かったと思うけど、道理を蹴り飛ばすにはちょっと無茶なことが必要かなと思っているけど、これを知ってしまってよかったの? クリスちゃん自身を危うい目に晒すようなことじゃない」


「だーから、私がやるって言ったんじゃない。秘密は守るわよ」


「ありがとう」


 やっぱりこの人はどこまで行っても面倒見がいいお人好しだ。


 クリスちゃんと呼んでって行ってキャラクターを演じるのも、そのペルソナが剥がれて怒りっぽくなっても結局のところ本質的に面倒見が良いのだろう。そして、多分それを自分自身が分かっていないというよりかは、分かりたく無いのだろう。


「で、どうするの?」


「あんまり好きじゃ無いけど、やっぱりこういう陳腐な手を取らないと厳しいかもしれないですね」


 その内容とやり方を細かく解説していくごとにクラリッサの目が淀んで行って、最終的には呆れ果てていた。



* * *



 どのようにして聴きだすのかという方法を考えた時に、安っぽい手段ではあるがスキャンダルというのは一つ有効な手立てなのではないかと思っている。


 メアリー・ラインは、元より冒険者であったというわけでも無く、最初から紹介者として仕事をしていたわけでもまた無い。もともと彼女は公国の軍人である。ただ、従軍したとかそういう訳ではなく将校として入りそのままエリートコースを駆け上がっている人間だ。


 冒険者ギルドはある種の軍部の下請けのような側面がある。だから、メアリー・ラインは出向という形で今のポストにいるのだろう。


 ここにいることは左遷されたというわけでもなく、リーズのようにより大きなステップアップのためにここにいると考えるのが妥当だろう。


 彼女は順調にキャリアアップし続けている。ただ、四十歳で独身で、どこかの飲み屋で彼女を見かけることもまたない。ただ、噂を聞かない訳ではない。


 この街に来て最初に出会った門番。


 彼の名前はシャノン・ワーズ。冒険者としてこの街に来たが、そこまで素養もなく仕事を失っていったが門番としてギルドに登用された。つまり、紹介者以外でギルドと雇用契約を結んでいる数少ない人間だ。


 シャノンの実績を宗弥が確認する限り特に何も成し遂げたような形跡もない。門番としての登用はメアリーがごり押しをしたという話もある。


「こうもあっさり拾えるとは思わなかったけどね」


 窓の外まで甲高い嬌声が聞こえてくる。


 当のメアリーのものだ。証拠を押さえるためにスマホでボイスレコーダーを使って音声を記録し続けている。


 メアリーがギルドに残らずに早々に帰ったので、少し時間をあけてメアリーの部屋の裏手で座って待機していた。数時間後にシャノンが来たようで一緒に夕食を食べた後こういうことになった。


 しばらくして声が止み、シャノンが出て行った。


 それを見届けてから宗弥はメアリーの家のドアを叩いた。


「誰だ?」


「すいません、伊達です。確認したいことがあって来ちゃいました」


「明日では駄目なのか」


「明日、ギルドで話す方が怖いので今すぐ確認したいのですが」


「分かった」


 扉が開く、メアリーは制服では無かったものの、きちんと手入れされたシャツに動きやすそうなパンツを履いている。髪も整っており、先ほどまでのことはまるで無かったかのようだった。


「こんばんわ」


「挨拶はいい、要件を言え」


「はい。国からギルドに依頼された文章って確認できますか?」


「ここには無いし、返送した」


「ならその内容って教えてもらうことできませんか?」


「貴様に以前依頼した通りの内容だが、それに関しての契約書はお前に渡したものだぞ」


「なんか引っかかってることがあって」


「説明した内容以上のことは話すことは無い」


「ああそう」


 宗弥はスマホを取り出して、さっき録音した内容を再生した。


 みるみるうちにメアリーの顔が真っ赤になっていった。


「そ、それがどうだと言うのだ!」


「シャノン・ワーズと関係を結び、まあ、ここまでは良いとして、ギルドでも落ちこぼれ気味だった彼に仕事をあなたの権利で与えているってのは公私混同になりませんかね? 本来であればもっと必要な試験や、審査があったはずなのに不思議ですね」


 宗弥が取れた内容はあくまでも、門番としてのテストが一部免除になっていたけれども、正確な書類なり証拠はない。あるのはあくまで最中の音声データだけ。


「どういう経緯でこうなってしまったのかということは、概ね伺っております。ただそれは所詮は噂の範疇を出ませんが、今回証拠が整ってしまいましたね? ただ、僕は知らないフリだってできるんですよ?」


 ほとんど、ハッタリでさも全て知っているかのように振る舞うだけだ。


 それも、メアリーはおそらく分かっているのだろう。多少の火傷を覚悟するなら宗弥の言うことを聞かないという手だってある。


「改めて質問です。どういうクエストの要件で依頼をされたのですか……?」


「正式に受け取った内容はあの用紙に書いてあった内容がすべてだ」


「そうなんですか? でも、それにしたってあなたが僕に依頼をかけたのは強引過ぎた。ホランドのパーティーが受けた内容にしてもそこまで優先度が高いようにも思えないし、知っていて僕を生け贄にしようとしていませんか?」


 三位のホランドが緊急で受けた仕事にしても優先度はそこそこの高さだったが、それこそ宗矢達が受けるような、中~小規模のクエストだった。


「適材適所で考えるなら、僕たちほどこのクエストに向いていないパーティーはいない。何故なら抱えている人数がどこの紹介者よりも少ないからだ」


「それは少数精鋭と……」


「こんなクエストほど人数がいるものは無いですよ。まして僕が想定している範囲なら、全員駆り出しても良いぐらいだ」


 軍部から兵装を借りて、それを運転させるのに必要な人数が必要と言うことであればクラリッサの方がまだ宗弥よりも可能性はある。


 沈黙。


「黙ってないで下さいよ。僕だって命懸けてくれてる冒険者がいるんだ。彼らの命を預かってる以上半端は出来ない」


「貴様の想定とやらを話してもらって良いか?」


 宗弥は先ほど聞いたエマの家御用の学者の話を踏まえた上で、メアリーが想定しているだろう話をした。損きりをするにあたって一番都合が良かったのは自分では無いのか? という話ももう一度した。


 すべてを聞いたあと、メアリーは青ざめた顔で頷いた。


「ああ、大まかなところ貴様の言うとおりだ」


「なら、どうして派遣をする理由がそもそもあったのですか?」


「アイト村は国ではなく、ゲーン教会の自治区だ。解っていながら無視をしたとあらば、当然責を負うのはわが国だ。だが軍事介入は出来ない故に……」


「単純な話教会に義理立てするにあたって必要な処置ということだったんですね?」


「そういうことになる」


「仮にあの村が滅んだとしても、必要なことは……」


「していると思いますか? あの村はゲーン教の中でも象徴のような村で、なおかつ十年後大司教になると目されているリーズがアイト村で戦死したとして、それが言えますか?」


 リーズは間違いなく出世コースを歩んでいる。


 多少ここでつまづいたところで、別段実績には加味されないし、所詮挫折を知るための研修に過ぎない。


「僕はこのままことを進めるなら、騒ぎますよ。あなたを必ず道連れにして、二度と立ち直れないところまで貶めるつもりです」


 殺すつもりで言った。


 手に刃はない。人の殺し方などしりはしない。ただ、地位と名誉をどうやって失墜させるかぐらいは分かっているつもりだ。


「貴様自分が今なにを言っているのか、分かっているのか? 私にも武の心得がある、丸腰の素人など私でも殺すことが」


「出来ると言いたいんですか? 僕がここで死んで、ここで全てが終わると本気で思っているのですか?」


 暗に、自分が知っている想定はクラリッサもパーティメンバーも知っているように匂わせた。


 クラリッサは知っている。ただ、メンバーは確証がないうちに話したからまだ伝わっていない。


「僕に何かあった時に、なにも対策をしていないとでもお考えですか?」


「思わ……。ない」


 メアリーはその場に力なくへたり込んだ。


「なら、僕に協力をしてください。具体的にはあなたのコネに用がある」


「なにをすれば良い?」


 怯えきった目で、メアリーは宗弥のことを見つめてきた。


 今の自分は悪魔みたいに悪い顔をしてるんだろうなと思った。


 くれてやる、自分を信じてくれる人間がいるのなら、その人たちのためならどんな存在にでもなれるのだ。



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