クソ上司に、おれはなる!
「ということになった」
ギルドに設けられた個室で、エマたちパーティ全員を集めて説明をした。
「すげぇ仕事取ってきたじゃねーか! 宗弥!」
目を輝かせてエマが立ち上がった。
「さすがです宗弥さん! 勇者にドラゴン討伐は定番ですからね!」
ヒューゴも同意した。
「喜んでいるところ悪いんだけど、この依頼、僕としてはとてつもなく嫌な予感がしていて、正直まじめに取り組むべきでは無いんだろうかと思っている」
「何でだよ、でっけえ仕事じゃん」
ドミニクが答えた。
「確かに、でかい仕事だし、巨龍に関してはエマの経験のある範疇だと思うのだけど」
「今回の百メルとかそれぐらいがスペックみたいだな。あるよ。あたしが指揮をしたわけじゃないけど、やり方は知ってる」
「そういうだろうと思った。僕も君たちの強さはよく分かっているつもりだし、これがこの額面通りのクエストなら上手くいくのだろうと思う」
「ギルドがあたしたちをハメようって言うのか?」
「ハメようとは考えていない。人柱にでもしようって考えているんじゃないだろうかって僕は思っているんだ」
この案件が人柱に誰かをしようとする生贄の選定である。
そう思ったのは、あくまで宗弥自身の直感でしかない。事実であるかどうかという検証は何一つできていない。
ただ、強引だと思ったこと、対策をするとしてこの人柱を作ったあとなのだろうと直感的に思った。
「ウチが選ばれれたにしても、今月の利益がたまたま高いだけで、先月なんて十八位とかそれぐらいだ。実績から選んでいるとするならおかしなチョイスだと思うんだ」
「あたしがいるってことはもうみんな知ってるんだろ?」
「そう、知っているには知っている。エマ、君がいるからとも言われた」
知っていると言っても、確かに名だたる名門の出身であるが、次期当主という話は信じているものは少なく、一家の厄介者として放逐されてここにいるのだろうという見方が強い。
エマやみんなの実際の働きは一位のクラスのパーテイに匹敵するものを揃えたと思っている。
けれど、それを知っているのは宗弥だけだ。
「だったら、それはあたしとアンタのこれまでの働きが引き寄せたビックチャンスじゃねーか、ちっとは喜べ」
「だが、実績で考えるとやはりおかしいんだ。何かを隠しているに違いないし、それを引き当てた瞬間にこのクエストは失敗するようにできている。例えば、例えばだよ? その巨龍を倒すとヨシュア戦記に出てきたような魔獣が出てくる……とか? そうなったら、村は滅び、僕たちは死ぬんだ。だから、こんなのは真っ当にやるべきじゃない。妥協点は僕が探してくるからそれで……」
「想定している妥協点とは、どこに設けるつもりなのですか?」
リーズが言った。
宗弥を睨め付けつつ、はりつめた声で言った。
「アイト村の自警団の教練を修了し、撤退する」
「受け入れられません」
断固たる拒絶。
「それは、村人を犠牲にするということに他なりません。アイト村は熱心なゲーン教信者が村人のほとんどです。信者を犠牲に生き残るなど、わたくしがわたくしである理由を失ってしまいます」
強い言葉だった。
射抜くような眼差しだった。そうだ、彼らと自分たちが生きていくためではなく、彼らが生きていくための理由のためにもやらなければならない。それを約束するから一緒に働いてくれると言ったはずだったのに。
今この時、忘れていたのだ。
皆が同じような視線で自分のことをみつめていることが分かった。
「分かりました。やりましょう」
「ありがとうございます。あなたは応えてくれる方だと思っていました」
「大体よお、らしくねえじゃねーか。『頭とケツが決まっているなら、やらないって選択肢はない』って言ったのはアンタじゃねーか」
「だったな。それ言ったの僕だわ」
自分が言ったことがブーメランになって返ってきてものの見事に心に突き刺さった。
突き刺さったら、バカみたいに笑うしかなかった。
「そうだ、そうだ、それを言ったのは僕だ。何を今更言っているんだ。この仕事の頭とケツは決まってんだからやりきるしかない。何が必要で何をするべきかそれを考えるのが僕の仕事だ」
「そうです、そういった時の宗弥さんを私は信頼しています」
ヒューゴが言った。
「やろう。やろう。ただ、今回の件に関しては、現場指揮はエマに一任する。予算の使い方も、スケジュールの建て方も任せる」
「そりゃ、お前丸投げじゃないのか?」
「そう、丸投げ。ただ、今回の件に関しては僕は君たちにとっては何もしない扱いになる」
「お前、さっきあれだけやるってやる気になってんのに、何言ってんだよ」
「僕は正気だ。ただ、今回の件に関しては僕を信じないでほしい」
ありったけの営業スマイルで言った。
全員がクソ上司を見つめる時の目で見てきた。




