アビリイティ;社畜
バーに来て一人で飲んでいると、頼んでもいないのに琥珀色の蒸留酒がカウンターに置かれた。
「あちらのお客様からです」
「仕事は順調か?」
ギルドの黒服み身を包んだ、銀縁メガネをかけた女だった。
割と久し振りにあったような気がする。
最初にこの世界にやってきた時にここでの就職を斡旋してくれたここのボス。メアリー・ラインだ。
「お久しぶりですラインさん。なかなか大変でしたが、おかげさまで」
「おかげさまで? 不思議なことを言うのだな貴様は、ここまでやれるようになったのは貴様の功績だろうに」
おかげさまでは、ある種の仏教用語だったことを思い出した。
この人に対しては謙遜しても全く無駄だろうと思った。適当にゴマすっておけばごまかせるタイプでもないしめんどくさい。
「確かになかなかきつかったよ」
「最初にクラリッサをつけてやったのに、あっさり梯子を自分ではずした自業自得だ」
「そら、確かにそうですわ」
もし仮に誰かの徒弟として入っても良いように使われて終わりだ。育てて独立させるというのは、クラリッサぐらいしかやっていない。そういう意味では恵まれた最初の配属先だった。
「だが、そこからは大したものだ、所属に出来なかった実力者を仲間につけて例のクルガンオオトカゲ以降は良さそうだが、どうなんだ?」
「順調、ですよ。ここで気晴らしに一人で飲むことが出来るくらいにはね」
クルガンオオトカゲを討伐してからおよそ三ヶ月が経過していた。
宗弥達一行の仕事は確かに上手く行っていた。
主にCランククエストをこなしながら、時折Bランクのクエストをこなして稼ぎを立てていた。
チームの結成とチームワークだけに課題があったが、クルガンオオトカゲ以降チームワークは良好だった。
エマは当初の前評判通り、指揮官としての能力は非常に高かった。あいかわらず尖っているが、今現状でそこまで問題になっていない。
ヒューゴは適材適所、元の装備を買い戻し、エマの指示に従って行動しているうちは非常に有用。おそらくこのギルド最も固い守護騎士だろうと考えられる。
リーズの腕は確かであった。彼女の目標であるゲーン教の布教については説教について約束はしないと言ったが、希望制で朝のお祈りは習慣となった。何だかんだで全員が参加している。機会を設けてギルド内でのミサを開催を行ってもらっている。
ドミニクは非常に優秀なレンジャーだった。現状、雇用契約に不安や疑問は持っている様子は無い。文字を教えるという約束に関してはエマがもともとやっていたが、エマの口が悪すぎる結果毎回喧嘩になるため、主にリーズが担当していた。
「そうか、それは良かった。それにしても、貴様は能力が無いというのに良くやっているな。正直クラリッサと離れた時に落ちるだろうと思っていたぞ?」
「そうですか? クリスちゃんとは今も仲良しですけれども?」
クラリッサとは今も業務提携の契約を結び続けていた。例えば客から直接こんなことをやってほしいと言われたクエストで、下位のものにあたる場合はクリスちゃんに渡して、またその逆も然りだ。
ただ、クリスちゃんからもらうクエストは実際にやってみれば、利率がでだいぶ無理をしたので雇っている冒険者達への給料は支払えるが、給料で全部終わりで余剰な利益をプールしておくことができなかった。頻度は月に一回程度のもので、自分にばかり振ってくるということもない。
引き換えに、ヒューゴを手に入れたことと、クリスちゃんのとの関係を取り戻せたことが大きかった。
「それは良かった。それで、実は私は一つ疑っていることがあってな」
「何ですか?」
「本当は人の心が読めるとかそういった特殊能力があるのでは無いか?」
本当にこの人は真顔で何を言っているのか、本気で言っているのだと思った時に、笑いが止まらなくなった。
「何がおかしい?」
「いや、何も。本当に僕にはなーんにも無いんですよ。仕事が辛くて死んだだけの、本当にどうしようもないサラリーマンだよ」
「貴様のようなものでも死に至るとは。何たる凄惨な」
「ただの働きすぎですよ。それに比べればここは……」
クエストに同行することの命の危険はある。
ただ、命を削られることは無いのだと思った。




