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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
1話 異世界転生しても結局働き詰めで死ぬ
19/162

スカウト/ドミニク(レンジャー)

 ドミニク・サンガは交換所で捕まえた。


「何、あんたら?」


 敵意をむき出しに、後ろ手に短刀に手をかけたのが見て取れる。


「落ち着けよ、とって食おうってんじゃねーんだからよ」


 エマが言った。


 エマは、エマで、袖の中から投げナイフを手元に収めている。


「お前もな」


 エマとの間に割って入り、戦いそうな雰囲気を止める。背後のエマの殺気が収まり、ドミニクも明らかに戦う能力のない宗弥を見て短刀から手を外した。


 ドミニクは背の低い少年だった。身長は平均的な女子の身長のエマよりも少し高い程度、年齢もエマよりも二歳程度年上だった。肌は白く、瞳の色は紫。髪はプラチナブロンドだったが、手入れはあまりされておらずざんばら。使い込まれた胸当てと、何回も補修した痕が見られる衣服、ずっとそれでやってきたというベテランの風格が既に出ていた。


「君にクエストの依頼をしたい」


「お断りします。受けないことにしているので」


 即座に提案を断られた。


 調べた限りでは、ドミニクは基本的に交換所に討伐した害獣を依頼なしに持ち込み、それを換金することによってのみ収益をあげている人間で、ギルドを介しての仕事は一切しない。というよりかは、しなくなったのだった。直球で頼んでまず断られるということは想定の範囲内だった。


 通り過ぎようとするドミニクのまえにずれて、ドミニクを止める。


「君に聞く気が無いなら勝手に喋るが、今回のクエストはクルガンオオトカゲの討伐だ。出立は明日。報酬は達成した場合、ニ〇〇〇ガルド支払われ、現状僕が抱えている冒険者は君を含めて四名、五〇〇ガルドを君に支払おうと考えている」


「興味ないんで……」


「全額前払いでどうかな?」


 ドミニクがびっくりした顔をしていたが、エマも口を半開きに、目の焦点はあっていないびっくりした顔をしていた。


「あんた何言っているんだ」


「言った通りだけど?」


「本気なのか? 宗弥。まだ成功するかもわからないのに、五〇〇ガルド支払うっていっているのか?」


「そういうことだよ。今欲しいのは腕の良い射手で、一番欲しいのは君の信頼だ。君にもしも、何か予定が無ければこのお金を受け取って欲しい」


 宗弥は、懐から五〇〇ガルド分の硬貨を取り出すと、ドミニクの手元にねじ込んだ。


「宗弥! あたしらにそんなことをするゆとりは全然ないはずだ! 何考えてやがる!」


「おれも、全く同意見だ。あんた何をやっているんだ?」


「君の信頼が欲しいからだ。もし、このお金を受け取ってくれるなら、僕の話を聞いて欲しい」


 目を見て言って、握り込ませること数秒、ドミニクは握らせた五〇〇ガルド分の銀貨を受け取ってくれた。


「どう、聞いたとしても、この百ガルドはおれのものってことで良いんだよね?」


「そうだよ。なんなら聞かなくても良い。明日の集合時間は午前八時にこの場所ということだけ覚えておけば良い」


「今の話聞かなかったことにして、帰ることだって出来る」


「真面目なんだね。確認の為に君はそう言っているんだろう? なら、君は必ず明日来るということを分かっている」


「あんたムカつくな」


「よく言われる。こいつにも」


 エマを指差した。エマはエマで宗弥を威嚇いかくするように睨んでいた。


「けど、あんたの話は少しだけ聞いても良いような気がする」


「分かった、話をするにあたって立ち話もアレだから、ギルドのカウンターを借りよう」


「ああ」


 申請書に記入をして、ギルドのテーブルを借りる、定期契約をしているわけでは無いから一回ごとにお金がかかる。一回単発で借りるぐらいなら喫茶店の方がやや、安く済むがドミニクを外に連れ出す難易度を取るよりかはここで話をつけた方がまだよかった。


 エマと宗弥が並んで座り、その向かいにドミニクが座る、椅子に浅く座り、背筋が立っていて、まだ警戒心を解いていない様子。


「最初に一つ聞いておきたいことがあって、聞いても良いですか?」


「何ですか?」


「あなたは、ギルドからの依頼を受けていませんね。何か理由があるのですか?」


「信頼できないからです。あなたを含めて」


 宗弥を睨め付けながら言った。


「そうですね。確かに、現物交換であれば基本的に単価は決まっていますし、安定した収入を得続けることができますね。ただ、需要と供給のバランスで取引額は決まり、ギルドクエストは変動するけれど、現物交換は金額が変動しません。つまり安定して低いレートで取引されるってことですがその点は承知の上で?」


 一瞬、ドミニクの目が見開いて、眉間にシワが寄った。


「おせっかいどうも、知っています」


 知らないことだろう。少しだけ間が空いていた。


 考えられることとしては、これが知っている限りマシなやりかただからそうしているのだろう。


 一時的に所属していたパーティと紹介者の新人に対しての扱いの噂は少しだけ聞いていた。


「現物支給に関してだけど、少し厳しくは無いですか?」


「食っていくには十分です」


「最近まで、僕たちも現物交換と、単価の安いクエストで食いつないで来たけど、実際のところ単価のレートは変わらないけど、数がかなり少ないはずだ。偶然なのか現物支給を中心にしている冒険者は傾向として増えつつある」


 ギルドで行なっている周知を聞く限り、そう言った単独でのクエストを受注する冒険者は減らせと言われている。単独での仕事を減らせば、被害が広がり需要が出てクエストとなる。そうなった方がギルドとして入ってくるお金が大きくなるので、単独でクエストの芽を摘む冒険者はある種悪であるとされている。


「それがどうしたって言うんですか?」


「安い単価だけど、人が増えた分仕事がなくなる。獲物は有限で突然増えた様子は無い」


「何が言いたいんですか?」


「図に描くと分かりやすい」


 宗弥はそう言うと、紙とペンを取り出した。


 まず、宗弥は大きな円を描く。


「これが刈り取れる獲物だとする、で、君がこの中のこれぐらい狩って換金することが出来る」


 円の中にもう一つ小さな円を描く。続けて円の中にいくつか円を重ならないように描いていく。


「他にも現物で換金する冒険者が何人もいる。ここまでは順調だ。取れる分だけ取ることが出来る。この段階ではまだそれなりに充実した生活を送ることが出来る」


「あー、そう言うことか」


 エマは宗弥が言いたいことを先回りして理解した様子だった。多分正解だ。


「だが、こういうこともある、ここにさらに円を描いていくと重なっていくでしょう?」


 円がいくつかある中に円を書き入れると、どんどん重なっていく。


「参加者が増えれば同じ領域を争うことになって、君が取れるか相手が取れるかは腕と運次第になるけど、もし仮に全部取られたとしたら、もともとあった円の半分の大きさも無いはずだ。それで小さくなった円だったものが、君の収入になる」


「何が言いたい?」


「簡単に言えば、単価が変わらないはずの現物交換であったとしても、ここに参加している人数によって君の収入は変動する。ということだよ」


「変動するってそんな……」


「ここの中の一つの円として、少しだけやってみたが、ゲロ安すぎて、なんとか狩れた肉をそのまま食ってる方がまだましだった。という訳で、君も僕も今実はとても損をしているんだ。そういう訳で、より儲かることをやろうと思っているんだけど……」


「騙されないからな!」


 ドミニクは机を叩きながら立ち上がった。


 これまでの冷静な様子が全く失われてしまっている。呼吸はあらく、怒っているのだが、今にも泣き出しそうだと思った。


「騙す? 何で?」


「みんな、何も分かってないと思って、バカにして、みんな、みんな騙すんだろ?」


「僕たちのメリットと君のメリットが合っていれば、騙して上前をハネる必要は全くないんだけどね」


 そう言うと、ドミニクは黙り込んだまま動きを止めた。


「もちろん僕が紹介者として生活していくにあたって僕自身の報酬を依頼金の中から引かなきゃならないし、ギルドに払わなければならないお金もある。そういう意味では紹介者ってピンハネ業だとは思うけどね。ただ今の労力と同じで、君に与えられる報酬を増やせるって話だと思うよ。僕には腕利きのレンジャーが手に入って、より大きな仕事を受けられるし、君にしても報酬は増えるはずだ。どう思う?」


「嘘ついてないよな?」


「その理由が無い。僕が今欲しいのは腕利きの冒険者の信頼だけだ。ところで君は騙されるってことや嘘をつかれるってことに過剰に反応するけど、何かあったのかい? 君の信頼を買うにあたって障害になるなら、その問題は必ず改善した上で対象しよう」


 エマは何も言わなかった。これまで横からピーチクパーチク口を挟んできたが今回に関しては黙っている。


「話しにくいなら、こうしよう。この町に来て、だまされたと思った話はある?」


 ドミニクもまた黙っていた。次第にマッチポンプのようについた怒りの火は消えた様子でゆっくりと座った。


「もともとおれは身よりの無い子供で小さい頃、山に捨てられていたらしいんだ。それでたまたまじいちゃんがおれのこと拾ってくれて育ててくれたんだ。狩りのこと、料理のやり方、生きていくのに必要なものの作り方全部教えてくれたんだ」


 ドミニクのギルドに入るにあたっての経歴書は確認している。確かにドミニク自身の出自は曖昧で経歴らしい経歴も無い。特技項目に、魔獣討伐の経験がここに至るまで何度かあるということと、その証明書は持っているようだった。その師匠兼育ての親にもらったものだろう。


「一年前の冬にじいちゃんが死んだんだ。おれはじいちゃんの遺言に従ってこの町の冒険者ギルドに入ったんだ」


 確かに、一年前にドミニクはこのギルドに加入した。所属した、紹介者を見る限り、最初はクリスちゃん。腕の良さを見込まれて、二週間で推薦されソックという紹介者の所属になっている。ただ、三ヶ月で所属を外れ、以降はフリーで掲示板のクエストを受けるか基本的に現物換金をしている。たまたま買い手がつかなかった魔獣討伐のクエストを単独で果たした実績もある。


「でも……。すぐに辞めたよ」


「なぜだい? 君ほどの力があればどのギルドも君を勧誘したがるはずだし、引く手数多なはずだよ」


「ソックさんの所にいた頃、おれは褒められてたんだ。色々なことが出来て、みんな仲良くしてくれているって思ってたんだ。でも、そうじゃなかった」


「何があったの?」


「ソックさんのところは、希望すればみんな同じところで生活することが出来たんだ。おれも最初のころは寂しかったし、一緒に暮らすことになったんです。おれは、別にこれといった趣味も無かったから、給料を貰っても別に大して使わなかったからそれで良かったんだ。だけど、ある日ソックさんと、リーダーのラオリが話しているの聞いちゃったんです。おれは働くけど安く済ませられる便利なやつだって」


 実際のところどうなのかは分からない。報酬が仮に正当であったとしても、この話を聞いて信頼を失っただけなのかもしれない。


 ただ、ソックのところの冒険者の新人定着率は低い。クリスちゃんの初級者向けチュートリアルを終えて入る割合は比較的多く、たくさんとってたくさんやめるということが多かった。


「それからどうしてもあの人たちのことが信じられなくって、辞めたいって言ったら、説得されてこの人の元じゃないとおれは他の誰にも信頼されないって思って、もうしばらくは働いたんです。でも、信じられなくなって一方的に辞めました。街を出て森の中で生活するようになったんです。それで、しばらく生きてみて、一人でも大丈夫でしたし、現物交換をしていた方が自由になるものも多かったんです」


「つまり君は、ソックのところにいたころ、なんだかんだ理由を付けられて、仕事に必要な経費以外はもらえなかったということか?」


「そう、なりますね……。一緒に入った新人もそうでした。少しだけ月にお金が貰えて、でも、すごく少なくて」


「なるほどね」


 生活費は全てこちらで賄うので、道具のメンテナンス以外はお小遣い程度もらえるというものだろう。食っていくことに困らないけれども、それ以外には何も与えられない。


 おそらくソックのところは、目標達成にあたっての主力冒険者はそれなりにそろってるのだろう。それ以外の人間が一定数必要で、新人から上がりたて、もしくはそれなりの経験者をこのシステムの中に入れて疲れて辞めるまでのサイクルを考えているのだろう。


「何であの人に付き従っていたんだろうってずっと思っていて、一人で狩りをしている方が人に気を使わなくて良い。それなら、ずっとこれで良い。ギルドから追放されるなら、それはそれで、どこかの森でやっていけば良い」


「おじいさん、どうして街に出ろって言ったの?」


 世捨て人みたいに生きていたおじいさんがどうして、ドミニクには街に出るように言ったのか、そこに意味があり、それがドミニクの目的だ。


「それは……。一度人の世に出て行く必要がある。もっと沢山の選択肢から、生きる道を選べって言われたんだ……」


「へー、それじゃあ、一度変なやつに当たったら、お前はくじけて山の中引っ込むってんだな」


 これまで黙っていたエマが口を開いた。心なしか苛立った様子だった。噛みつきそうな気配が横からバシバシ伝わってくる。


「逃げてるって言いたいの?」


 想定通り、ドミニクがかかってきた。


 エマは頷く。


「言ってることが女々しいんだよ。騙されてるかもしれない? 生きていけないかも知れないだ? そんなのどうでも良いんだよ、欲しいものは欲しいって言えば良いし、いう権利があるかどうかなんてテメーの腕次第だろうが」


「まあ、君はそれが過ぎてどこ行っても煙たがられるんだけどね」


 エマに舌打ちされた。


「話を戻そう。エマの言ってることにも一理あると思うし、うちでチャレンジしてみないか? という提案でもある。契約書はまた別に用意をするが、ドミニク、君に約束することは今よりも報酬を増額させるということと、君が不利益を被るような嘘をつかない。この二つだけだ」


「……。また、そう言って本当は違うとか」


「契約書が出てくるだろ、そこで書いてあること確認すればいーじゃねーか。ま、報酬を増額させるってのは契約事項に含まれないと思うけどな」


「……ないんです」


「なんだ?」


「読めないんです。文字が!」


「お前、文字読めないんだ! じいさん教えてくれなかったの?」


「一通りの文字と書き方と、自分の名前ぐらいは……。でも、出来るってだけで、書いてある文字は習ったのと違って全然読めないし、意味がわからない言葉も多すぎるんだ」


「普通、読み書き教わっているんならそれなりには出来るはずなんだけどな」


「じいちゃんも全然その辺は出来なかったらしくて、おれが教わったのは、文字の形と読み方。それと自分の名前の書き方ぐらいだよ」


 例えばアルファベットと、その読み方は学校で1ヶ月程度で終了するが、それで英語の読み書きが出来るわけではない。ドミニクは教わるには教わったがその後も山で暮らし続けたため、途中で学習が止まってしまったのだろう。


「読めないなら、あたしが教えるぞ」


「お前が? 見るからに脳みそから筋肉で出来ていますって感じなのに?」


 ドミニクが言った。確かにエマはそんなに頭が良さそうには見えない。ある側面から見ればものすごい馬鹿にしか見えない。


「あったま来たお前! あたしは東に有名轟くバレー家の次代党首のエマ・バレー様だ! 用兵論から、魔獣、竜種、各種武器の取り扱いに、対獣だけじゃなく対軍の戦術戦略に精通するにあたって、あたしは勉強を怠った事は無いよ」


「そ、そうですか……」


 ドミニクは逆に気圧された。


「エマは確かにそうだね。学は意外とある」


 エマはもともと才能があったのに加えて、独力で努力を積み重ねることを怠らなかったのだろう。例えば師匠筋にあたる親が教えてくれないこと、教えきれないことと言うのを自分で学んで血肉に変える。一番才能があって、一番努力した自分が偉いということを心のそこから思っているようなところがある。


「学って話するんなら、リズもヒューゴもそういう意味じゃかなりエリートだろ? 宗弥、あんただって、異世界からの漂流者なら一般的な読み書きぐらいは出来るんだろ?」


「まあ、そうだね」


「なら、契約書に何が書いてあるか読めないってんなら手伝ってやるし、その自分でなんとかしたいって思っているんなら手伝ってやってもいいぞ」


「そんな……そんなの」


 ドミニクは困惑している様子だった。こと、おじいさん以外の他人というのは搾取しにくるものと考えてるから、困惑しているのだろうと思った。


「信じられないかい? 僕は、この街では新参だし、まともな実績もコネも作らないまま独立させられちゃって手駒はエマしかいない。僕は、今人を集めている。集めるにあたって協力してくれる人たちには良い待遇をしたいと思っている。信じられないとは思うが、君から搾取をするよりも、君に高いお金を払って君の信頼を買う方が価値があるんだ」


「そう、なんですか……」


「だから、とりあえず明日、待っている。意思がそれなりにあるなら、来て欲しい」


「……わかりました」


「お話は以上だ。質問がなければこれで終わりだ」


「はい……」


 ドミニクは打ちひしがれたように、立ち上がってよろよろと歩き出した。


「なあ、あれで良かったのか? ヒューゴは協力してくれて、リーズも協会を説得できれば協力してくれるだろうけど、あいつは、あいつに関しては不確定なことが多すぎるぞ」


 姿が見えなくなってから、エマが口を開いた。


「まあ、そりゃ、そうだろうな。でも、この街に止まっているってことはみんな何かを思っているからここにいるんだと思う。ここが地元でここでずっと生きて来たなんて人の方が少ないでしょう?」


「確かにそうだな」


 このギルドのオーナーというかボスにあたる人間は結局、国の軍部の一部門から派遣された人間に過ぎず、この街で代々生きていたというのは商店に関連するところだけで、ギルドとその中にいる人間は常に循環するように人が流れている。


 この街にいる冒険者というのは、何かしらの目的があってここにいるという、何かしらの目標なり夢を追っている人間しか基本的にはいない。


「だから、僕はとりあえず明日を待つよ。明日全部決まるって思っている」


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