本来の性能と実証実験
「昔はもっと重い全身装備でやってたんだとさ。お前の方は何か聞けたか?」
そこで宗弥はこれまで聞いてきたことをエマに全て話した。概ねエマの言うとおりだった。
「ちなみに、彼公国騎士団の間じゃ、名前を知らない人間はいないほどの有名人で、功績も考えると、英雄の資質を持つほどなんだけど、どうして冒険者になったのか理由が分からないんだけどどうしてか知ってる?」
「かっこいいから、だそうだ」
「うん、なるほど。詳しく」
「やつが言うには、騎士としてここまでやってきたが、所詮は国に使われるだけの身分。本当の正義と守るべきものは何か、冒険者となって見極めたいと言っていた。きっとそっちの方がかっこいいから。ということらしい」
「割と真っ当なこといってる風だけど、最後で台無しだね」
「な。それでとりあえずこの町に来たときまでは自前の甲冑で来てたそうだが、ここに来てあの装備を買ってファイターとしてデビューしたそうだ。理由は……」
「そっちの方がかっこいいから……か?」
「そうだ。だから、馬鹿なんじゃねーかなーって、何ならあたしも説得したけどまるで無駄だったよ」
「オー、それはとてもつらい」
「宗弥で説得出来るか?」
「うん、頑張ろう。スマホはまだあったな……うん」
ポケットの中に御守りのように入れていたスマートフォンを取り出して、切ったままだった電源を入れる。死ぬ前に会社で充電していたおかげか、バッテリー残量は90%あった。
「そりゃ何だ?」
「僕たちの文明だとみんなが持ってる機械で、遠くの人と話したり、世界中の情報を閲覧したりできる機械だけど、今は通信機能がないから、その場所の風景や動きを記録するぐらいしか使えないな」
「すっげーなそりゃ」
「ただ、電池が切れればそれまでしか使えないから大切に使わないとただの石ころと変わらなくなるからね」
使えて、カメラとムービー撮影ぐらい。しかも回数制限付き。考えて使わないと本当にただのお守りに成り下がってしまう。
「今回がその使い所なんでしょう」
* * *
翌日。
エマと一緒に訓練所に来た。
ギルドの中に完備された施設で、板張りの床のだだっ広い部屋だった。壁には木で作られた様々な武器や防具が立てかけてあった。数人が、奥で型稽古のようなことを行なっている。
「お疲れ様です、今日は宗弥さんも来てくださったんですね!」
ヒューゴが爽やかに答えた、ヒューゴは薄着で、木剣の素振りをしていた。
「ヒューゴさんこんにちは。今日はちょっとエマと手合わせしてもらって、これからの方針を話し合えればと思います」
「そうだったんですね! わざわざありがとうございます!」
ヒューゴは、目を輝かせて宗弥の手をとって、両手で握りしめる。
「さっそくだけど、いろいろな武器を試してエマと戦って欲しいんだ」
「わかりました!」
「よっしゃ、なら片っ端からやってくぞ。まずはその木剣で来い。あたしは無手で良い」
「そんな、いくらあなたが熟練者であってもそれは……」
ヒューゴは不安そうに言ったが、エマは既に拳を構えていた。
宗弥はポケットからスマートフォンを取り出して、カメラを起動してムービーモードへと切り替える。
「ソーヤ、準備はいいか? 行くぞ」
「おっけー、始めてくれ」
エマが弾丸のように飛び出す。
ヒューゴは剣を構えて、振りかぶる。
エマは正面から行くと見せて、右から回り込みつつ右フックを打とうと動きを止める。
ヒューゴの動きが一瞬遅れて、防御へと転じようとする。
だが、エマの動きはフェイント。左のストレートが剣をすり抜けるようにヒューゴの顔面に叩き込まれる。
「ぶっぼ」
ヒューゴが吹き飛ばされる、だが、動じる様子もない。
今度はヒューゴが先手を取って、木剣を振り下ろす。だが軌道上にエマの姿は無い。
エマは、背後に回って後ろからヒューゴの顔をぶん殴り続けた。
ヒューゴが振り返って、木剣を横薙ぎに払ったがエマはその先にはおらず、木剣の切っ先の上に立っていた。
エマは飛び立つと、ヒューゴの顔面を踏みつけるように何度も蹴りつけて離れて着地をした。
「やりますね、だが、そんなものでは効きませんよ!」
「オメェが頑丈過ぎんだよ。拳と足をもう痛めたわ! 武器を変えろ、あたしも変える」
エマは小ぶりな木剣を二本携えると、ヒューゴは穂先が丸い長槍を手にとった。
エマの踏み込みが早く、ヒューゴは初手を逃し、エマの接近を許す。
エマは懐に入ると、即座に、膝、腰、胸、頭部を一息に殴りつけた。
ヒューゴはなんとか追い払おうと暴れるが、エマは背後へと回り続けてヒューゴを殴り続けた。
三十発ほど殴りまくったところで、エマは自分から離れて、ヒューゴに向かって二本の木剣を投げ飛ばした。
スコン。と音を立てて、ヒューゴの眉間に命中した。
「まだまだぁ!」
「腹たつぐらい頑丈だな!」
また、エマは無手になる。だが、それに動揺した様子もない。
エマの戦いとは、そこに落ちているものを適当に拾って武器にしたり、ありものでなんとかする戦いなのかもしれない。
「チェイ!」
ヒューゴが迷いながらも突っ込んでくる。
「その槍を寄越せ」
エマは突かれた槍を脇に挟んで前にすすむと、ヒューゴの膝を蹴って回転しながら顔面を膝で蹴り飛ばす。
そのまま蹴り抜けて、槍を起点にヒューゴを投げ飛ばし、槍を奪い取る。
エマは槍を手に取ると、そのまま回転させて構える。
「ちょっと迫力に欠けるが、これでいいな。こいつが一番しっくりくる」
「エマ、君は槍が一番得意だったのか? 何を持っても強く見えたが……」
ヒューゴが鼻血を拭いながら、顔を上げた。ここまで散々殴られまくっているが、ダウンは無し。
「お前が弱過ぎるんだよ。なあ、あたしが一番得意な武器を持つんだから、あんたも一番得意な武器を取れよ」
「ならば」
と手にとったのは一番最初にとった長い木剣。
「ちげーよ。でっかい盾と、適当に重い鈍器もの持ってこい」
「えー」
「えー、じゃねーよ! 他の武器だとこれまで通りだ」
「それを乗り越えてこその冒険者です! 第一に今の私は冒険者だ! ならば冒険者にふさわしい装備をつけるべきだとこの街に来て最初に教わったのです!」
エマは頭を抱えてその場にうずくまった。
この訓練中にはなったヒューゴの攻撃の中で一番効いているようだった。
「お前まじで言ってんのか、それ完全に騙されているぞ」
「騙されている? そんなバカな、騎士には、騎士の、冒険者には冒険者にふさわしい装いがあると!」
ヒューゴは声を荒げた。
「あー、とりあえず、盾と重めの鈍器で戦って貰っていいですかね? その論争は後でまた」
「分かりました。マスターである、宗弥さんがそうおっしゃるのなら、盾を使いましょう」
そうして、渋々ヒューゴは盾と巨大な木製の斧を手にした。斧は木で出来ていたが、太さや材質が違い他のものよりも遥かに重そうに見えた。
「行くぞヒューゴ今度はあっさり抜かれんなよ」
「おうとも」
エマは早速最短距離で突きをヒューゴは難なく正面から受け止める。
ヒューゴは盾でエマの槍をいなし、大胆な踏み込みから斧を振り回す。
エマは潜り込んでそれをかわす。
ヒューゴの斧の一撃はさっき持っていた剣や、槍よりも鋭く風鳴り音を立てて振り抜かれて行った。
エマはつま先めがけて槍を振り下ろすが、ヒューゴは最小限の動きだけでかわす。
ヒューゴは盾を構えたままエマへと突進する。
エマは盾を殴りつけて、その反動で側面へと転がる。
ヒューゴは迷いなく転がったエマを払うように斧を振るうが、エマは飛び上がって回避した。
エマは飛んだままで槍を振り抜いて、ガラ空きになったヒューゴの頭を直撃する。加えて、腰に隠し持っていた短剣を投げつけて眉間に命中させる。
ヒューゴはダメージを受けたもののすぐに構え直し、盾を前にした堅牢な構えへと戻る。
「こいつで最後にするぞ。あんたが受け止められたら並みじゃないって認めてやるよ。ありったけ備えろ」
「分かりました。我が奥義、『天国への門』を構えましょう」
そう言った瞬間に、ヒューゴの盾から青い光を放ち城門のような幻影が浮かび上がって来た。
「なら行くぞ、あたしが放つはバレー家に伝わる一発だ。しかと受け止めろ『天鱗砕き』」
エマが言い放つと、エマの持っているやりからバックファイアのような赤い光が奔流のように溢れてくる。
「あ、そこまではやらなくても……」
宗弥がやんわり警告したが、二人ともまるで聞いている様子はない。この道場の利用規約を読む限りだと、何か壊したりした場合はその文の罰金が発生してしまう。
道場にいた全員がエマとヒューゴの一騎打ちを見ている様子だった。
エマが走り出し、ヒューゴは盾を構える。
放たれるエマの一撃をヒューゴは受け止め、赤と青の光はぶつかり合って、真っ白な閃光へと変わった。
「やるじゃねーかよ」
「あなたこそ」
光が開けて、ヒューゴのいる位置は大分後方に下がったが、エマの槍を受け止め切っていた。
「もう、それぐらいでいいんじゃないかな」
と、宗弥は録画を止めた。これ以上やられると何か壊しそうだし。
ヒューゴとエマは納得をしたのか、持っていたものを戻して宗弥の元にやって来た。
訓練所を後にする。そうして出て行こうとした時に、破裂音が背後で聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにした。




