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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
1話 異世界転生しても結局働き詰めで死ぬ
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お助けクリスちゃん

「え、まだ何も注文していないけど」


 クラリッサが午後七時に行け付けのバーでいつもの席に座ると頼んでも無いのに一杯目のカクテルが来た。


「あちらのお客様からです」


 カウンターの奥に宗弥の姿を見つけるとクラリッサは露骨に嫌そうな顔をした。


「伊達宗弥」


 宗弥の名前を呼ぶ。


 バーは特に賑わっている様子も無く、皆静かに飲んでいる様子だった。カウンターが数席、テーブル席が三つとあまり大きな規模のお店でもない。先客はいない。店主は別段寡黙な様子も無いが、必要以上に今のところ会話はしていないが、今回の作戦においてはグルだ。


「気分が悪い、帰ります」


「申し訳ございませんでした」


 きびすを返して帰ろうとしたところ、宗弥は即座に頭を下げた。


「どういうつもりなの」


 クラリッサは帰らないで振り返って、こちらに歩いてきた。


 宗弥は顔を上げる。


「この間のことについて、まだ自分から謝罪をしていなかったので、謝らせて下さい」


「この間のこと? ああ、あれならあれで良いんじゃないですか? 私ごとき大した仕事の出来ない紹介者をあの場で凌駕りょうがして卒業した。あなたはあの件をもって私から卒業した。それだけですよね? 今のあなたと私は他人同士だし、謝られる義理も無いですよね?」


「おっしゃるとおりです。ですが、あの時、僕はあなたの徒弟インターンでありましたし、その時に起こしたことについて謝らせて下さい」


「あくまであの時のことは終わったこと、けれどあなたにその気持ちがあるなら、気持ちだけ受け取ります。腹がたったのは事実ですが、あなたが正しい決断をしたとは思っています」


「それなら、そのドリンクは飲んで欲しいです。一杯を飲み終わる頃に僕は帰ります」


「そう言うことなら」


 クラリッサはカウンター席にかけると、宗弥が用意させた一杯を飲み始めた。


 ここに通い詰めていることは周りから聞いて知っていて、数度顔を出してここのマスターと顔なじみになり、一杯目に頼むカクテルを聞いておいた。


 いつもの一杯が出ていたことにクラリッサは少し驚いていたようだったが、すぐに表情を戻した。宗弥もカウンター席に腰掛ける。


 カクテルは、あまり雑味のない蒸留酒をベースに、レーゲンという酸の強い果実の果汁に、シロップを加えたもの。サッパリとしていて飲みやすかった。クラリッサはいつもこのバーでこのカクテルから飲み始めて三杯ぐらい飲んで帰るのだった。


「それで、お願いが一つありまして……」


「そう言うと思いましたよ」


 不機嫌そうにクラリッサが言った。こちらは向かずにカウンターを見据えて。


「お願いは一つだけで、そのカクテルを飲んでもらっている間に話は終わります」


「それは何?」


 なんだかんだクラリッサはそれなりに面倒見が良いのだと思う。あのキャラクターで、ぶりっ子でそういう風に思われたほうが都合が良いだけで、目的に対して間違えていない。


「冒険者を一人紹介して欲しい」


「義理は無いわ」


 キッパリ。


 そりゃそうだと思った。元よりうまくいっているなら、まだクラリッサの元で徒弟だった事だろう。


「今、手に負え無くて放逐しようにも送り先が無い冒険者はいないか?」


「どういうことよ?」


 クラリッサがはじめてこちらを向いた。


「簡単な事ですよ、今後クリスちゃんから見て、芽が出なさそうで、経験値を積ませようにも厄介で、そのまま他の紹介者、例えクリスちゃんの息がかかっている相手だとしても憚られるようなそんな冒険者、いない?」


「目的はなに?」


 少しの沈黙を置いてクラリッサが言った。


「こちらの目的はパーティーを組ませてCランク以上のクエストを受注したい」


「数あわせしたいってこと?」


「そういうこと」


「別に紹介しても良いんだけど、見返りは何かある?」


「もちろん。もし、仮にこれからEランクやDランクのクエストが僕宛に回ってきた時に無償で仲介するということと、もしCランクのクエストをクリスちゃんが受けた時、受けられなくて僕に仲介したとき仲介料は七割そっちがもらっていい。この二つでどうですか?」


「私にとって、都合が良すぎるわね本当にそれでいいの?」


 普通、紹介者から他の紹介者に仕事を紹介した際、紹介した側が三割紹介手数料を受け取り、紹介された側が残りの七割を受け取る。


 宗弥が言ったのはクラリッサに紹介する時の手数料が通常三割宗弥がもらう分を全額クラリッサに差し出すということと、クラリッサから紹介された際にクラリッサが三割もらうものを七割もらっていいというものだった。


「もちろん」


「あなたは私に誠意を見せたいのね? それなら、私があなたに紹介する手数料はすべて私が受け取るって事でもいいんじゃないですか?」


 クリスちゃんと呼んで! と言った時の笑みとは違う、酷薄な笑みだった。


「じゃあ、そうしますか? それでも構いませんよ」


 逆にクラリッサが目をむいてなにいってんだお前みたいな顔をした。


「全然それで良いですよ。もう一度クリスちゃんと条件付きとは言え協力しあえるなら安いものです。ではクリスちゃんが僕に紹介する場合、手数料はすべてそちらに、僕がクリスちゃんに紹介するときはすべてそちらに手数料を譲り渡すということで良いですか?」


「……七割でかまわないわ」


「あ、そうですか、最初に言った条件で良いんですね? 僕からの紹介でクリスちゃんの取り分は七割なぜですか? もらってしまえば良いのに」


「そこまで行くと気持ち悪いわよ。あなたの事だし逆手に取られるのも怖いから、七割の話も受けるだけ受けてあげるわ」


「そうですか、僕がそんな悪そうに見えますか?」


 自分で自分を指差して首を傾げる。


「年も大して変わらないのに、やけに老獪ろうかいで気持ち悪いわ」


「誉めていただいていると捉えますね!」


「ご自由にドーゾ」


 クラリッサはカウンターに向き直ってまたカクテルに口を付けた。


 宗弥はとりあえず安心した。


 何せこちらが提示する中で宗弥が想定する最も都合の良い選択肢を選んでくれたのだ。


 これが完全にクラリッサ以外の仕事を受けることを禁止されるというのが宗弥としては一番恐ろしかった。自分の仕事を拡大できないままひたすら下請けだけさせられるというのが一番怖い選択肢だった。そうなった場合、ただ死期が先延ばしになるだけでいずれは死ぬことになる。


「ちなみにどんな奴ですか?」


「名前はヒューゴ・フェレイル。元は公国騎士団の百人長で、突然冒険者に転職した変わり者よ。変なやつでこちらの言ったことがまるで通じない奴」


「それはそれは」


 大変そうだけど、そんな人でも欲しい。


「経歴書と本人の面談はすぐに手配するわ」


「それと、噂レベルで良いんですけど、誰とも特定のパーティーを組まないで活動してる冒険者だとか、ソロで受け続けている冒険者って知りませんか?」


「……なんだかんだ注文が多いのね」


「すいません」


「いいわ、そこのあたりは競合しないから教えてあげる。誰のものにもなっていないから、皆一癖あるはずよ」


「ありがとうございます」


 それからクラリッサは特定のパーティーを組まない冒険者を何人か教えてくれた。


 一人はクレリックのリーズ・シャロン。もう一人は、レンジャーのドミニク・サンガ。この二人に関しては特定のパーティーを組むことがない。


 リーズに関しては一度組んだパーティーとは滅多に二度以上組むことはない。


 ドミニクに関してはパーティーを組むことを避け、単独でクエストを受けている。


「どちらもそれなりに生き残っているし、それなりの実力があるとは聞いているけど、何人もの紹介者が彼らを説得してパーティを組ませたり、紹介者専属の冒険者にしようと何人かが説得したが無駄なことだったわ。今では彼らを説得しようなどと考えている人はもういないわね」


「ありがとうございます。あとはこちらで情報を集めます。それでは、お会計を」


「はい」


 お会計をして立ち去ろうとする。


 ただ、宗弥には一つだけ聞きたいことがあった。


「クリスちゃん、一つだけ聞いてもいいですか?」


「なによ」


「僕の提案に対して信じないって選択肢だってあったはずだ。どうして乗ってくれたんですか?」


「簡単なことよ。曲がりなりにも、あなたは私の卒業生で一人前とは認めているつもりよ。嫌いだけど」


 クラリッサはこちらを向かずにそう言った。


「伸び代はあるだろうし、今回は私が別に損をしない。だから受けただけよ」


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