背に腹はなんちゃら
「金が無い」
「ああ、金が無い。あたしは野菜が食べたい。もしくは野菜を潤沢に使って肉を柔らかくする調理法が使いたい」
宗弥とエマは干し肉を目の前に、げんなりしながら言った。
宗弥が半ば追い出されるような形で、徒弟を卒業させられてから一ヶ月近くが経過しようとしていた。
エマと宗弥に金がなかった。
魔獣討伐による仲介料をちびちびと使いながら新しい仕事を探した。宗弥の読み通り、駆け出しの紹介者と駆け出しの冒険者になし得る仕事などほぼ無いのだった。週に一回あるか無いかぐらいのDランククエストの害獣討伐を引き受けて、報酬額を落としても肉を現物支給で貰い。残った報酬は寮の維持費とギルドへの上納金に消えた。あまりのお金のなさに、エマは寮に転がり込んでいた。
たしかに異世界からの漂流者のスタートは保証されたが、実力が無くて食っていけなければ死ぬしかない。
「なあ、近くの畑からなんか野菜盗んで来ようか? 芋とか、葉野菜とか」
「やめておけ、あそこの畑は僕たちに高値で野菜を買わせるために厳重に警備されているし、毎日数を数えている。野菜の盗難はこの国では万死に値する重罪だ」
「そんなにか?」
「そんなにだ。僕が暇な時間でこの街の司法の資料とか読んでみたけど、野菜泥棒に対しての罰は凄まじかった。馬車にくくりつけられて市中を引き回された後で、手足を縛って引きちぎれるまで馬に引かせるんだって」
「なにそれ怖い」
野菜泥棒に対しての罰則に関しては突き抜けてひどい物だった。普通の窃盗ではある程度の禁固刑と罰金で住むのだが、野菜泥棒に関しては必ず、晒された上で殺されるということになっていた。
つまり、以前に同じ用なことを考えて野菜泥棒が横行し、野菜泥棒を止めさせるためにこんな法律になったのだろう。
実力が足りなければ、お金が無くて生きていけない。普通に暮らしていく分には行きにくい世界だなと思った。
「なあ、エマ。お前は力があるし他の街に行ってもまあまあやってけると思うんだよ。僕なんか見捨ててさっさと次に言ってもいいんだよ?」
「あんた何回言わせんだよ。ソーヤは、このエマ・バレー様が見込んだ紹介者様なんだよ。それなりに場数はこなしているつもりだし人の人選もやってきたし、どういう人間が人を使うべきかなんてのも分かってるつもりだぞ?」
「そうなのか」
宗弥にそれなりにやれているという実感は無いし、なんとかはしてきたけど、それでお金になったり楽が出来たりモテたりなんてこともないから実感がまるでわかない。
「あの時、あたしを信じてやってくれたことを感謝している。ひとりじゃ逃げ切れたかどうかだって怪しい。あんたがいてくれたから、あたしはここに生きているし、あんたが信じてくれたから、あんたも生きてる。だからそういうこと言うの無しな」
エマは至極真面目に言っていた。その言葉の中にあった宗弥への信頼と、自信を持たせてくれる言葉に宗弥はかっこいいなと思った。
「すいません、僕のこと抱いて欲しい」
「うるっせぇ!」
まだ切ってない干し肉の固まりが顔面を直撃した。
「いたた、投げることないじゃないか! 僕がもし、女の子だったら抱かれたいぐらいかっこいいですよ!」
「うるさい茶化すな! 次同じことしたら殺す」
「はい……」
剣の柄に手をかけていて、もう一言からかったらそっ首をはねるつもりのようだった。
「うん、なら僕たちで現実的な方策を考えないといけないね」
「だけどよ、具体的にどうすんだよ。EランクもDランクもほとんどクリスちゃんとその部下が牛耳ってんだろ? 受けるものないじゃないかよ」
「確かにその通りだ。だからあの時放逐されてやれることがかなり減ってしまったのは事実だ。これ以上仕事を探すにはCランク以上を受けていかないといけない」
「Cランクってパーティ組まないと受けられないじゃ無いかよ」
「そうだパーティを組まないと受注することも出来ない」
Cランククエスト以上からになると、基本的に複数のパーティーを組まないと受けることが出来ない。というより、基本的に一人か二人で受けられるクエスト自体がかなり少ないので、紹介者がパーティーを組ませて受注に当たらせるのだが、パーティーを組めないまま独立させられてしまったこの状況はおよそ考えられる限り最低の状況だった。
「だから、パーティを組もうと思う」
「パーティってお前、つてはあるのかよ」
「今は無い。ボスにも相談してみたが、三秒であしらわれたよ」
最初に出会った中年の女、メアリー・ラインがここのボスで、相談はするだけしてみたが結局のところ決まりがあるから雇ったが、それ以上に目をかける価値は無いと一蹴された。
紹介してもらえるコネも無い。ギルドのおすすめ初心者向け紹介者は基本的にクリスちゃん。それなりに経験を積んだ冒険者はそれなりに実績と経験のある紹介者に送られていく。普通に町にやってきた冒険者は宗弥には回ってこない。
「じゃあどうするんだよ」
「謝る」
「はあ?」
エマは呆れたような顔をした。宗弥はこれからどうするという方針を説明すると、エマはよりいっそう呆れ返った。
「格好悪くない?」
「お前のころだったら僕もそう思ったよ」




