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決勝戦

「第十三回、究極闘技王座決定戦! 決勝戦の開幕だ! ここまで長きにわたってトーナメントを見てきたなら、この二人にしか決勝は成しえないということを理解していたことでしょう。近年稀にみる出場者のレベルの高さの中であまりにも圧倒的で他を寄せ付けないこの二人の決着を誰もが待ち望んできたことでしょう!」


 沸き立つ超満員の観衆。


 コロシアムの座席は下から上まで埋め尽くされて、席の後ろでは立ち見で見るものまで現れる始末。


 コロシアムの外壁近辺でも、キャンセル待ちで入場が出来ないかと待ち構えているものが何人もいて訳が分からないところで喧嘩が始まったりしていた。


「東サイド! エマ・バレーの入場だ!」


 これまでの銅鑼の代わりにファンファーレが鳴り響き、中へと入っていく。


 エマの今日の武装は二刀のみで、槍は持っていない。この大会のルールの一つに試合前に登録した武器を2つ以上持ち込むことが出来ないというものがある。エマのメインウェポンのうち、二刀か槍になるのか選ばねばならなかった。


 散々シミュレーションを重ねた結果、最も得意な槍を捨ててこの戦いにおいては二刀を使うという結論に至った。


 いくら相手が魔獣であるとは言え、肉体は人間だ。槍によって逆鱗の打ち砕く必要もない。扱いの上では、槍の方が全体を通して上手いとは言え、人と相対するとなれば刀の方が小回りがきく為、前後以上に左右の動きの速さが出る。


「閃光のエマ・バレー! もはやここまでの勝ち上がりを見れば問答無用の優勝候補でしょう。アルミン屈指の冒険者一団のリーダーにして、マリア・バレー以来の武術の天才。その才気は圧倒的なまでの力で他者をこれまで圧倒して勝ち上がってきた。果たして今日はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」


 中央へと歩いていく。歓声が眩しかった。


 ここまで、賞賛されることもなかった。バレー家でやっていた時はあくまで家の内部の出来事としてだったし、アルミンでの仕事というのは大きなことをなしたとしても地味な事が多っかたり、あるいはエマ以外の誰かの賞賛であったり、なので賞賛はエマにとって眩しいものだった。


 エマは自信たっぷりだと自分の事を思っていたのだけど、この歓声を浴びるには少し照れくさかったりした。この歓声を当たり前のものだと思っていたけども、そんなことは無かったのだった。


「西サイド! エルヴィン・バレーの入場だ!」


 エマの時とはまた違ったファンファーレが鳴り響き、エルヴィンが入場してくる。


 自信に満ち溢れた表情で入ってくる。トウタによく似ていて、あまり凹凸のない平凡な顔をしている。だが、中に入るものが違えば顔も違うのかまったく違う人間のように思えてくる。遠くからやってくる時から出ているぎらついた殺気に肌が灼けそうだった。


「今大会きっての優勝候補。バレー家の正当なる後継者。その槍の冴えは大地を揺るがし、雷撃のごとき神速を以て敵を打ち破る! 今トーナメントにおいても、圧倒的な力とスピードで全て1分以内の決着。ここまでの連戦においても消耗はナシ。エマがいなければここでの賭けは全くとして賭けとして成立していなかったことでしょう。しかし8割以上はエルヴィンの勝ちを予想しています。さて史上最強の兄妹喧嘩はどっちに軍配があがるのでしょうか!」


 エルヴィンが近くまでやってくる。


「お前では私に勝てない。付け加えるなら誰も私に勝てない。この世界の理のうちにあれば」


「気にしなくて良いぜ。あたしが勝つからな」


「やれるものならやってみろ」


 お互いに離れていき、獲物を構える。


 エルヴィンの武器は槍だ。ドラゴンの鱗を撃ち抜くバレー家に代々伝わる銘槍。また、エマの一番得意な武器を選ぶとなればそれは当然槍を選ぶだろうということは想定できた。


 エマにしても、そもそも負けていなければ、ヒューゴとの訓練がなければ、今日持ち出したのは間違いなく槍だっただろう。


「はじめぇぇぇい」


 審判が叫ぶ。


 エマとエルヴィンは一挙に接近をして、撃ち合う。


 エルヴィンの突きを、双剣で弾き飛ばす。


 突きを弾き飛ばすことは出来たが、こちらも弾かれてしまった。


 ヒューゴと同等のパワーで、これまでにあった中でも最高レベルに速い。訓練を経てどんなもんかと思って受けてみたが、まともな受けは少しでも消耗すれば貫通される。全て躱すか、スイングスピードが乗る前に受け流すことを決める。この辺りは規定路線だ。


 作戦は牽制をしつつ、とにかく攻撃を受けて癖を集積する。自分の癖というのは分からなくもないが、ヒューゴの力が加わったことやナイア自身の経験も付け加えれば癖は未知数だ。


 ドミニクに教わった、近接未来予知『ホークアイ』を発動させる。エルヴィンの攻撃が三つに分裂し始める。


「本当に分裂するんだ」


 エマのコピーならドミニクが言う通りに本当に三つに分裂することに驚きこそしたが、予想通りだった。


 三つに分裂した中から、最も起こりそうな確率の高い攻撃に対処を行う。


 合間合間で牽制に斬撃を入れる。牽制に入れた斬撃や突きからも対応のパターンを盗む。


 百回程度攻撃をやり取りした段階で、着実に削られているのが分かる。


 いくら訓練をして、ドミニクによって攻撃を見切る予測精度を上げたとしても技量と、速度が同程度、力で圧倒的に上回られている。


 ドラグーンドライブを使って速度を上げたところで同じ技を使ってくることだろう。


 精度を多少上げたところで、力の差はどうにも埋められない。


 最初は普通にやってきたが、力に明確な差があると否や強引に突っ込んでごり押し始めた。


 回数を重ねるごとに、直撃は免れているが、斬撃や刺突が体を掠めていく。鎧は削れ、皮膚を切り裂さいていく。


「5分経ったぞ!」


 宗弥が観客席から叫んだ。


「サンキュー」


 エマは一挙に距離を取り、構え直す。


 開始5分のテーマは情報収集だ。ある程度攻撃を繰り出しながら、守りを徹底してエルヴィンの癖を見る。次のフェイズで畳みかけて決着をさせるための確率を少しでも上げるためだ。


「距離を取ってなんのつもりだ。このままどう進めようが君は勝てないってこと分かり切っているだろう?」


 エルヴィンは構えを解く。


 都合が良いというよりかは、これも予想通りだった。結局の所エルヴィンないしナイアはこちらに打ち手が何もないと思っている。ならば距離を取った時に何かを仕掛けることは出来る。


 エマは剣を掲げてから、エルヴィンを指す。


「あたしの名はエマ・バレー。バレー家正当後継者にしてバレー家最高の到達点マリア・バレーを超え、ヨシュアをも超えるものだ。最速最強の剣技この技を以て証明してやらぁ!」


『ああっと、劣勢に何を思ったかエマ選手名乗りを上げた。一体何の意味があるというのか!』


 アナウンサーが叫んだ。客席を笑い声が包んだ。


「そんなことをして一体何が出来るというのだ。笑わせる」


「言ってろ。見せてやるぜ、人類最速の剣技ってやつを」


 自分を信じて名乗りを上げれば自然と力が湧いてくる。間違いなく加護術式の詠唱だった。ただし、能力や自信に依存するから使いこなすにあたって同じ言葉を用いたとしても、再現性はない。


 当初、最強という言葉を使っていたがあくまで必要なのは一点突破の速力であり、エマの最大の特徴というのは速さであるということに気が付いた。


「我は火龍纏いしもの、我が疾走は汝の飛翔。然してその剣は赤き閃光のごとく、何人たりとも我が剣を見ること能わず、瞬きのうちに切り裂く。絶刀・赫閃剣」


 赫閃剣はドラグーンドライブの完成形の剣技であるが、エマはなんてことなく詠唱抜きに使うことが出来る。


 しかし、詠唱をきちんと重ねれば、世界から受ける影響力は増大する。本質的にはリーズのかける詠唱と仕組みとしては同じだ。


 基本の意味というものを改めてこの鍛錬で教わって気がする。


「また、バカの一つ覚えのように赫閃剣か? そんなものは私にも使える。そして自ら加護をかけたようだが、その術式は自らの体力を消耗するものだな。決着が早まるだけの自殺行為だぞ?」


「一撃、一撃だけで十分だ。その一撃でアンタを倒してやるっていうんだよ」


 エルヴィンにしろ、赫閃剣を使うことは出来る。結局スピードで言えば加護分しか勝っていない。少し勝っていることは後は精度のみ。


 付け加えれば、加護にしろ、赫閃剣にしろ、ホークアイにしろ、体力を削り続ける。


 一発。


 一発だけ打つことが出来る必殺技。これ一つでエルヴィンに勝ちきる。


 エマが撃ち抜けばエマの勝ち。


 エルヴィンが受けきればエルヴィンの勝ち。シンプルな勝負だ。


 エマ、一気に駆け出す。


 赤い光を残してその場から消えたようにも見える速度で走りだす。


 エルヴィンが構えを作る、赤い光を纏い対応が可能なようにドラグーンドライブを掛けたことが分かる。


 エマの射程に入った瞬間に、エマはいくつもフェイントを繰り出していく。


 正面、上、下、左、右、から同時に踏み込むフェイントをかける。


 それぞれの行先から、さらに4つの斬撃を切り込むフェイントをかける。


 さらに、踏み込んでフェイントをかける。


「貴様、赫閃剣を連撃ではなく全てフェイントに使うというのか!」


「ご明察。だが、気が付いたところでどうにもならないはずだ」


 準々決勝で使ったトーゴーの戦いから着想を得ていた戦い方だった。


 エマはさらにフェイントを繰り返す。実際に動きを入れながら、動きの中でフェイントを繰り返す。


 赫閃剣は超高速で動きながら、連撃を叩き込む絶技だが撃ててもせいぜい20連撃が限界だ。


 だが、これがすべてフェイントに充てるとなれば、その試行回数は200を超える。


 赫閃剣が赤い光の残像を残すこともあり、客席から見れば、無数に分裂をしたエマがエルヴィンに襲い掛かっているように見える。


 フェイントというのは、いくら反応しないようにしたところで真偽の判定は必ず必要になる。判定にあたって、僅かとは言え思考のリソースを奪い取ることが出来る。


 付け加えて、さっきの継続戦闘で得た癖のデータをさらに集積する。


 その数が超高速で、さらに十倍降り注ぐとなれば思考のリソースは全て奪い取られる。


 宗弥に作戦を説明したら宗弥は『コンピューターウイルスみたいだな』と言っていた。闘技の事では無かったが概念としては同じだった。


 すべてのリソースが無くなった時に露わになるのは最も回数の多い防御の癖だ。


 最後にこの反応を引き出す為に、これまで使ってきた中で最も使用頻度の高い斬撃を叩き込む。


 予想通り槍を横にして柄を突き出すガードの型が出てくる。


 しかし、これもフェイント。エルヴィンは虚を突かれガードらしいガードが全て失われる。


「もらった」


「くそがああああああ!」


 エマは飛び出して二刀を振り抜いた。


 胴体と、首筋を切り裂いて、エマは転がりながら着地をした。


 背後でエルヴィンが崩れ落ちる。


 必殺の一撃。出来ることならエルヴィンの本体は救出したかったが、さすがに無理だった。


『決まったぁ! エマ選手渾身の必殺剣がエルヴィン選手を切り裂いた。KOです!』


 エマには、もう指一本足りとて動かす体力は残されていなかった。横になったままどっちが負けたのか分からない有様でカッコ悪いなと思ったので頑張って立ち上がるだけ立ち上がってみると、歓声が巻き起こった。


『勝者、エマ・バレー』


 と、審判が宣誓をした瞬間にエルヴィンが立ち上がった。


「待て! まだ、私はやられてなんかいないぞ!」


 槍を杖にしてエルヴィンは立ち上がる。腹部と首筋には血の赤い線が走っている。しかし、出血に関しては抑えられているようだった。


 エルヴィンは再び槍を構えて、闘気を爆裂させる。手負いにすることは出来たようだが、まだまだ戦える様子だった。


「くそ、マジかよ……」


 エマは立っているだけで精一杯だった。何をするにも力が入らない。


「絶槍・極点の一」


 エルヴィンが槍に爆炎を宿して、最高速度で突撃を仕掛ける。


 ドラゴンの逆鱗を打ち砕いて致命傷を与える、バレー家に伝わる技の中で再高威力を誇る大技。


 いくら早かかろうが分かっていれば避けることはたやすい。


 ただ、エマに避けるだけの体力は残されていなかった。

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