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出会った時から

「参りました……」


 ヒューゴが言った。


 首に突き付けられる槍の穂先。間違いなくそのまま突きこまれれば致命傷になる。


 槍を突き付けたのはエマ。


 全身から滝のように汗をかき、体中に無数の新しい擦り傷や切り傷が走っている。


 参ったという言葉を抜きにすれば、エマとヒューゴを見比べた際にエマが敗者と見えることだろう。


 しかし、本日一本だけやったこの勝負に於いてはエマが勝利をしたのだった。


「だぁ! 勝ったあああああ!」


 エマが勝利を告げられると、槍を手放して喜びを全身で表現しながら飛び跳ねたのだった。


「まさか、私が不覚を取るとは……。しかしこれで良いのですか?」


「勝ったんだからつべこべ言うなよ」


 と、言いながらエマは仰向けに横たわって激しく息をしていた。


 ヒューゴは嘆息をすると、メイスを地面に横たえた。


「もう一本行きますか?」


「出来るわけねーだろ、ばかやろーこのやろー」


 エマは息を切らして言った。


「そりゃそうですよね」


 エマはヒューゴから一本を取るためにすべてを出し切って、指一本たりとも動かせない状況だった。勝ったにしても犠牲が大きすぎる。


「エマ、僕はヒューゴから一本とったこの状況というのはまあ良いとして、あまりにもデメリットが大きすぎるんじゃないかって思うんだけど、その辺説明してもらって良い?」


 宗弥はエマを見下ろしながらいった。エマは「おう、分かったわ」と言って一分ぐらいおいてから起き上がって、宗弥を見た。


「勝つってのは難しいことだ。正直。今の段階では、あたしはヒューゴに勝つことも難しい。それは単純にあたしの体がまだ成長途中で体力が圧倒的に足りないわけだ。だから、もしも勝ち切るならばという話なら圧倒的な攻撃力に振り切るしかないって訳だ。ま、ここ数日いろいろ試したけど、この方向でしか一本は取れないってことだろ? ついでに言えば、2回目以降はヒューゴには勝てないそういうもんだ。分かってる」


「分かってるならいいよ!」


 宗弥が指摘しようとしていたことを全部エマが説明してしまった。


 エマが今回使ったのは一時的に圧倒的な力を発揮するが、終わった時の反動が大きすぎる。


「プランBはあるのか?」


「んなもんは無い」


「BはなくともCはあるんじゃないか?」


「しつけぇ、無いったら無い」


 エマは断言した。代替案は無い。失敗したときのフローチャートも存在しない。今やりぬいたプランAが終わったら全て終わりだ。


「まあ、本人がそれで良いと言うなら良いではありませんか。致命的な箇所を無いと開き直って押し切る。捨てる勇気というのもここまでの間にあったかと思います。私にも代替案は思い浮かばないのでそれで良いと思います」


「うーーーーーーん」


 それでも宗弥は納得していなかった。


「宗弥はさ、心配しすぎなんだよ。んなもんエマに任せときゃ良いじゃん。敵は強いし、ヤバい。でもおれたちは何とかしてきたじゃないか。ここでおれたちの大将が死ぬ気でたどり着いた道ってものを信じようよ」


 ドミニクが言った。


 そこまで言われて、宗弥はまだ何かあるのではないかということを考えることを止めた。


「それも、そうだな」


「信じろよ、あたしを。バレー家歴代最強のエマ・バレーだ。今のあたしはヨシュアより強い。ギリ引き分けたナイアにしたって倒して見せるさ」


 宗弥は、エマに手を差し出すとエマはその手を取って立ち上がった。


 ただ、この言葉を聞きたかっただけなのかも知れないと思えてきた。


「分かっているよ」


 大丈夫だ。何も心配することは無い。


 エマ・バレーは出会った時から、最強のヒーローなのだ。


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