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準決勝とアウトソーシングの依頼

 雨嵐のように突きこまれる刺突剣をエマは体さばきだけでかわしていく。


 当然のように槍を持っていない。トーゴー戦と全く同じだ。準決勝まで上がってくるとなればかなりの強豪であるはずなのだが、子供と戯れるようにエマは無数にも見える連撃をかわしていく。


「ぬるい」


 エマが距離を取って言った。


「トーゴーのじいさんの方が気迫があったぜ。アンタのは早いだけだ」


「たわけが!」


 疾風怒濤のトーマスという二つ名で知られる強豪だ。前回大会の準優勝者で、今回こそ優勝を彼岸の優勝を目指しているとのことであるらしい。


 トーマスが再び突きこみにかかると、エマが剣先を蹴り上げて刺突剣を弾き飛ばした。


 剣を弾き飛ばしたがトーマスは迷いなくエマに素手で襲い掛かった。


 エマは、足下に潜り込みトーマスの背後におぶさるように巻き付く。即座に首に手を回して締め上げた。トーマスはしばらく取り外そうと暴れたが、やがて気を失ってその場に崩れ落ちたのだった。




□ □ □


「なんかもう強いとかすごいとか通り越して恐ろしい才能ね」


 準決勝を一緒に見ていたクラリッサがぼそりと呟いた。


「正直僕も今回の決勝に向けて、たきつけたけど全然伸びしろあってクソビビってる」


「らしくもねぇ、俺が最初に会った時からバケモンみたいなパーティメンバーを仕切ってたのはあんただろ。もっと偉そうに出来ねぇの?」


 クリードが言った。


 アルミンの武道大会は世界的にも有名で、今回のお祭りにエマが出ているということを聞きつけて準決勝辺りから、クリードは観戦をしていた。半袖のシャツに、ハーフパンツ。チャラけた金のネックレスに遮光用の眼鏡。完全に遊びに来ている浮かれた金持ちだ。それも成金。ガラが悪い。


「無理無理無理無理。だって僕、何も出来ないんだよ? 偉そうにした瞬間に死ぬ気がするうだよな」


「そうなのよ。不思議なのよね。あんた何も出来ないし、普通の人より体力ないし、弱いし、卑屈だし、自分の事にあんまり自信が無いのに信じらんないぐらい危ない勝負をするし、何なんだろうね」


「クリスちゃん、オーバーキルやめて……いじめないで……」


 想定外のダメージがめり込んでしまった。クリスちゃんの説教は的確にダメージを与えてくるので本当に勘弁してほしい。


「ところで、良いのか? 近くにいなくても。お前もセコンドじゃないのかよ」


「ああ、今日は大丈夫だよ。それに今日の試合はどうせ大した問題にならないだろうって思ってたし、それよりせっかくクリードさんもいるし、クリスちゃんもチケットあげたら来てくれたから飲みにいかないって思ってて」


「クソね」


「クソだな」


「即座にダメージが入る反応をしないで欲しい。割と二人にしか相談出来ないことだから聞いて欲しいことがあるんだ」


「まあ、そんな気はしてたわよ。チケット貰った時から。大体あんたはいつもいつでも深刻な相談を適当に『飲みにいこー』とかのんきなこと言って持ち掛けてくることぐらい分かってんのよ」


「おお……」


「軽薄の度合いが高いほど出てくる話はたいてい深刻なのよね」


 癖を盗むのをやめて欲しい。本当は真剣に「ごめん、聞いてくれる…?」って言いたいけど、なんか恥ずかしくなって適当な感じで誘ってしまう。なんだか好きになりそうだなと、ぼんやり宗弥は思った。


「じゃあ、その重々しい話を、できればと思いますんで一緒に来ていただけると助かります……」


 とぼとぼと歩き始め、アルミンの中でも有数の高級店に歩いていく。割と胸を張ってやってきて、リアクションを期待していたのだが、手の内が見透かさられている以上店に入るまでが恥ずかしくて仕方がない。


 店に到着すると、奥の個室へと誘導してもらう。ギルドの内部で聞かれたくない話、取引先の組織で話をして聞かれたくない話をする場所という風に宗弥は認識している。また、普通に人をもてなしたい時にも使ったりするケースもまたある。予約をするときに、どういった意図で使いたいかということを伝えれば柔軟に対応してくれる。その一方で、情報漏洩などに関しても徹底しており、違反者は容赦なく粛清をされる。過去例外はない。


「んで、深刻な話ってのはなんだ?」


 クリードが藪から棒に切り出した。


「なんつーかですね、ある程度お酒も飲んで宴もたけなわといいましょうか、もうちょっと聞きやすい状況で切り出したかったのですがその」


「いいから話せよ。話してさっさと飲もうぜ。どうせお前のおごりだろ?」


「ぬう」


 クリードにしろ、クリスちゃんにしろ話が早い。ちゃんに手の内を明かされた以上、酒で適当に雰囲気を作るという作戦は秒速で台無しになった。あと、しれっと割り勘にするつもりだったのにおごりが確定してしまった。


「まあ、僕ってさ要するにヨシュアと同じで異世界転移者なのよ。なーんにも能力は無いけど勇者としての宿命みたいなのはあるみたいで、これまで伝説に出てくるような化け物を倒してきたり、戦争を終わらせて来たわけだ」


「倒したのは、ノーライフキングとファヴニールね。戦争を終わらせたのはラサの話かしら」


「あー、あれな、楽しい仕事だったよな」


 クリードが思い出すように言った。


「くしくもいずれもヨシュア戦記に登場する化け物達だ。ヨシュア戦記通りのシナリオならば、次に百の貌を持つナイアを倒せば話は終わる」


「ナイアってやつの尻尾は掴めてんのか?」


「大体ね。というかこれまでも結構ちらちら出てて、ラサの戦争の時にあのシナリオを作ったのはナイアだし、ノーライフキングにヒューゴを倒させようとしたのもナイア、それで今回直々においでになってこのトーナメントの決勝で当たることになるエルヴィン・バレーがナイアだ」


「ナイアってやつは一人じゃないのか?」


「どうにも誰かの肉体に憑りついてその人間の行動をしつつ、人の力を真似することも出来る。誰にもなれるし、どこにでもいるというのが百貌のナイアの伝説さ」


「エマはそのナイアを倒せそうなの?」


 クリスちゃんが聞いた。


「さあ、どうだろうエマの実家に戻った時にナイアがとりついたエルヴィンにぼこぼこにされてたけど、正直なんとかなると思う」


「根拠はあるの?」


「あいつの成長速度は誰にも計れないはずだよ。僕らが出会ったころにはあいつはすでに並ぶ者がいないぐらいの天才だった。でも、負けを受け入れて自分にないものをどん欲に吸収しようとしている。あいつ準々決勝以降槍なんか使ってないんだぜ?」


「そりゃそうでしょうけど、相手は伝説の魔獣の一角でヨシュア戦記で最後に戦った大ボス中の大ボスなのよ?」


「根拠は全然ないけど、あいつは大丈夫だよ。多分、きっとやり遂げる」


 エマは間違いなくやり遂げる、そしてナイアを必ず打ち倒す。そのための算段もこちらには存在している。


「問題はその後だ。僕の勇者としての仕事というのは佳境に入りつつある。ナイアを倒したら、女神様がやってきてお役御免ですってなる未来が僕にはまったく見えてない。それに、なんというかヨシュア戦記に比べるとなんかしょぼくない?」


「確かにしょぼいわね。魔界とのゲートが開いて全面戦争になったりしないし、というかそもそもあんたの評価がしょぼいのが勇者っぽくないというかなんというか」


「刺さる。とてもつらい!」


「まあ、なんか被害らしい被害みたいなもんが出てない分すごいんじゃない?」


「わあ! 嬉しい。僕泣いちゃう! 実際のところ、わりとその通りで被害が出る前の一時対応で大体対応できてるし何とかなっている。多分、被害が出るポイントとしてはアイトの村でのファヴニール戦とラサでの戦争だ。いずれもこれの背後にはナイアがいてナイアの陰謀を僕のスーパーセンスで打ち破っていったら直接手を下しにくるようになってきたわけだ」


「ただ、そのこれまでの陰謀屋と大ボスを倒してもなんとかならないと思うの?」


「そうさ、僕は何かがあると思う」


「何かってなんだよはっきり言えよ」


「それが全く分からないんだよね。ナイアって舞台装置がなくなる以上、大きな仕掛けは難しいはず。それかナイアがいなくなった瞬間に一発逆転を狙ってくるか……」


「まあ、分かる気はする。相手が勝ったと確信している時が一番の勝機になる。それは間違いねぇ」


「その時に、的になるのは多分僕なような気がしている」


 宗弥は二人を見るとテーブルに手をついて頭を下げた。


「これがお願いになるんだけど、僕に何かあった時にみんなのことを頼めるかな?」


 クリードとクリスちゃんは目を合わせると二人して笑った。


「別に構わないわよ。まあ、みんな話聞いてくれるか分からないけど」


「俺は、俺に出来ることがあるなら別に構わねぇよ。っていうか、お前が死ぬみたいな縁起でもないこと言うんじゃねーよ」


「ありがとう」


「話は終わりか? 腹減ったしさっさと飯食って飲もうぜ」


 しびれを切らして、クリードが言った。深刻な話はこれまででいいだろ? みたいな意思が見え隠れする。


 異世界に来てよかったこと、世界は意地悪だけどいい仲間に恵まれたことだったなと思ったのだった。


「ああ、そうしようそうしよう」


 その日は盛大に飲み食いして、財布がすっからかんになり、翌日二日酔いの状態でエマに会った時に「殺すぞ」と言われたのだった。

 


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