近接未来予知2
ドミニクは飽きていた。
ドミニクとエマはまったく同じ動きを高速でし続けるのだった。
左手を上げ、右手を上げて、下げて、足を踏み出して、ターンをする。全く同じ振り付けのダンスを踊っているようだった。
実際ドミニクは応用が行き過ぎて、アドリブでダンスを踊っていた。
エマの訓練は最初、ドミニクが思ってから行動をするということの思ったところで予知し、行動で遅れなく行動をするというものだった。
初日は手こずったものの、2日目以降に関しての上達は目覚ましいものがあった。1日のうちに数ステップを踏み越えて行きだんだんドミニクとしてもやることがなくなって来た。
動きを起こすという際に、まったくの無意識でというのは不可能に近い。意識がわずかに転がり始めればそれは微細に筋肉に伝播し、予備動作を生む。狙撃においては獲物の動きを見切って数秒先の未来を射抜くために必要な事だった。
ドミニクに関しては、この訓練をおじいさんが死ぬまでの間結構やって何年も修練を積み重ねてやっと身に着けたというのに、この女天才が過ぎる。たかだか数日でおよそ極みという領域まで、あらゆる感覚とセンスを使って到達してくる。
ドミニクは踊りのようなものを唐突にやめた。全く同じタイミングでエマも踊るのをやめた。
「あのさぁ、もう教えること無いんだけど」
「なんかそんな気がしてた」
エマはあっさりと認めた。
「なんつーか、前に戦ったトーゴーってやつマジで滅茶苦茶強くってお前がいう三つに分裂するとかいう概念がほんのり理解できたんだわ」
「まじで?」
衝撃だった。
エマの準々決勝は客席で見ていたが、対戦相手のトーゴーは凄まじい使い手だったことは分かった。三つに分裂するというのは、確かに見えた。
トーゴーは相手に次元が高ければ高いほど明確に幻影を見せることで一刀に賭けるタイプなのだということを分かった。幻影は実際に見えはしない。無意識化で浸食し相手の動きを止めるのだ。
「分裂するってのはフェイントの事だろう。ぼやっと感じてたものがはっきり最近分かるようになってきた」
「そう、それ。だからおれは最初それを理解するまでマジでぼこぼこにされ続けた」
「なんつーか、訓練の途中で気が付いたんだけど意志から予備動作に反映された時に、反応すべきものと反応すべきもんじゃないものを無意識に切り分けててさ、反応すべきものに全部一旦反応してから改めて反応を切り分ける。大体そんな感じか?」
「はぁ」
エマ達と出会ってから数か月間試行錯誤し続けて来てぼんあり分かり始めたことを、エマはあっさりと言語化していた。
エマの成長速度に感心するというよりかは、呆れかえってしまった。
ドミニクは自分の才能に関してそれなりに自信を持っている。もちろん得意分野でエマがドミニクを上回ることは無いのだが、それでもこの上達速度というのはにわかに嫉妬を覚える。
およそ凡人の才能で生涯を賭けて努力をして高みを目指していた人間がいるならば、嫉妬に狂って自殺するんじゃないかと思う。
「なんつーか、ムカつくな。それ多分おれが最近やっと少し分かって来たみたいなことなんだけどさ」
「あ、そうなの? とっくに知っているのかと思ってた」
「そういうとこなんだよな」
ドミニクは独り言つ呟いた。
「んで、当初の目的だけど出来そうな感じなの?」
「この間のトーゴー戦でなんとなく理解はしたけど、もう少し感覚を馴らしたい。ちょっと立ち会ってもらえるか」
「いいぜ、おれも何かそういうことがしたい気分だったんだわ」
ドミニクはその辺に置いてた訓練用の短剣を二本手取った。
エマは適当な片手剣を持って構える。自ら動き出すような感じではない。
「ドミニク打ってこい。全部受けきるから一発でも当てたら晩飯をおごってやる」
「言ったな! ぼっこぼこにしてやんよ!」
ドミニクは一気に距離を詰めてエマに襲い掛かった。
さて、昼過ぎから始まった訓練だがドミニクの体力が尽きるまで戦ったが結局一度たりともドミニクは一本を取ることが出来ず、寸止めで殺され続けるのだった。
なお晩飯はおごってくれたのでドミニクはよしとしたのだった。




