準々決勝 絶刀トーゴー
「第十三回、究極闘技王座決定戦も中盤、予選も含めれば500人以上いた参加者も残すところ僅か八人! 八人すべてが優勝候補と言っても過言では無いでしょう。ここまでくればどんな番狂わせも驚くことはありません!」
エマはぼんやりとアナウンスを聞きながら、早く始まんないかなとか思っていた。このアナウンスも観客からすれば楽しいのだろうけど、結局勝負が始まれば一瞬で終わる。
「東サイド、閃光のエマ・バレー! これまでの戦いから全く底が見えないダークホースだ! 一見美少女、只その腕前はあまたの達人を圧倒的な力量差で屠って来た天才の中の天才! 今日の勝負はどうなることでしょう!」
西サイドを見る。
背丈はエマと大して変わらない老年の男が入って来た。刀を携えて、寝間着のような服装でやってきた。およそ戦いに来るようないでたちではない。ずっとぶつぶつと独り言をつぶやきながら、鍔をかちゃかちゃと鳴らし続けている。
何も分からない人間が見れば刀を持っているだけの背の曲がった老人だ。曲がりなりにも、武芸や武術を収めたものであれば、あの老人から出る只ならぬ殺気と一分の隙の無さから大きく見えてくるのだった。
「西サイド、剣聖トーゴー。経歴不明の剣の達人。あまた国を渡り歩き、何人もの達人を一撃にて屠ったソードマスター。ここまで全て30秒以内に決着している。瞬殺者同士の対決だ!」
中央にそれぞれ歩いていくが、エマは無言でトーゴーは独り言を呟きながらやってくる。
「はじめぇい!」
トーゴーは呟きながら、刀を抜かずに柄に手を当てた。同様にエマも静かに構えた。
お互いの距離は縮まらず、ただ静かにお互いが何もしておらず突っ立っているように見える。ただ、そ
れにブーイングをする観客はいなかった。緊張感は一瞬にして会場全体に行き渡り呼吸を忘れている観客も現れだした。
トーゴーは、肩で刀を隠すように立ち、にわかに前傾をする。
エマはトーゴーが神速の居合の使い手だということを立ち会った瞬間に理解した。
数秒かかる行為を瞬きのうちに圧縮する。
構えの中に、にわかな筋肉の動きからすでに自分が殺される射程距離内にいて、動き出しの刹那にエマも反応し別の動きへと転換していく。
結局の所一合で試合は終わる。
槍のリーチは大して重要ではないことを理解すると、エマは槍を後ろに放り投げた。
『なんということだ! エマ選手試合を投げたのか? 武器を放り投げてしまったぞ』
どよめく観客。エマに賭けていた観客からヤジが飛ぶ。
トーゴーだけはエマの狙いを理解していたらしく、呟きをやめてうっすら笑った。
槍のカウンターの動きがなくなったため、トーゴーは一発で仕留める覚悟を決める。
わずかにトーゴーが沈みこんだ。
刹那、トーゴーが一挙に踏み込む。観客からすれば消えたようにさえ見えるだろう。
ギリギリまでトーゴーは刀を抜く気はない。この段階に至るまでトーゴーはいくつもフェイントを織り交ぜてくる。
突き、袈裟切り、切り上げ。ルーレットのように目まぐるしく変わる。
これがドミニクの言う3つに見えるという現象かということをエマはなんとなく理解した。
ただ、真偽さえ明確に判別出来さえすれば良い。3つすべてに反応する必要はない。
トーゴーが刀を抜く。切り上げに似せた、神速の突き。
エマは、膝を曲げると顔の横を刀が通り過ぎていき、即座にトーゴーの手首を掴んだ。
「何!」
「これが、あたしの雰囲気無刀取りだ!」
トーゴーの突進力を使って、手首を掴んだまま投げ飛ばす。投げ飛ばして、手首を引いたまま膝を腹に乗せて固定。
「ぬん」
トーゴーの鼻っ柱にパンチを一発。勝負は決着した。
一瞬何が起こったのか理解できない観客たち。ややあって歓声が沸き起こる。
『お見事! エマ選手、伝説の無刀取りをトーゴー選手相手に決めて勝利! これは優勝もあるんじゃないか!』
「おい、爺さん大丈夫か?」
決着したので、トーゴーの頬を叩いて起こす。
「ああ、負けたのか。まさか儂の居合をこんな娘に攻略されるとはな。生きていると良いこともある。もはやだれにも破られんだろうと思って、30年に渡る鍛錬を終えて山を下りたが上には上がおったか」
「いや、大したもんだったよ。仲間に助けてもらえて無かったら危なかったかも知れない」
「君は、一人ではないということか」
「そういうことだ、頼れる仲間が今はいる」
「そりゃあ、敵わんなぁ」
と、トーゴーは嬉しそうに言うのだった。




