教えてリーズ先生『この世界の魔法の仕組み』
エマは2回戦が終わって昼飯を食ってからリーズの部屋に行った。
リーズとエマは同じ建物の隣の部屋に住んでいる。パーティにリーズが加わってそこそこ収入が安定したころ、リーズと一緒に引っ越して隣の部屋で暮らすようになった。なんやかや、性的な被害を被ることが当初は多かったので守りやすいという位置づけを込めて暮らしていたが、今となってはたまに夕食をごちそうになっていたり何かと世話になることが多かった。
部屋に入ると、真昼間だというのに真夜中のように暗かった。部屋全体が真っ黒い分厚い布で囲われており、真ん中のテーブルの上にランタンがちょこんと置いてある。
「何これ」
「ああ、これですか。時として、信徒の告白を聞くことがありますから簡易版告解室と言いましょうか、この布で囲んだ部屋から外へは音が一切漏れないという術式が編まれています」
「そんなやばいことするの?」
「ええ、知っていることが分かれば場合によっては死にます」
リーズは真顔で言った。
「マジで?」
「死にます。貴女も、私も」
リーズは二度言った。エマは背中が俄かに冷たくなる感触を覚えた。
「というのは冗談ですが、エマさん。この世に魔術というのはどういったものがありますか?」
「武器を媒介にした武器魔術、その大元になる精霊魔術、ゲーン教の経典から引用をする加護魔術だいたいこの三つか?」
「正解です。加護術式以外は基本的に全て精霊魔術と言って過言では無いでしょう。大気中に滞留するマナを集めて現象にするというものですね。火、水、風、土、雷の5属性ですね。今となっては、修練と共に技化して武器魔術としてマスターするケースが多いですね。一部地域ではこの精霊に対しての信仰心が篤いところもあるようですね」
「意外。神学校って専門的な事しか教えないのかと思っていた」
「現場に出れば、加護だけでは無いので座学で一通りは教わりますし、『癒しの風』や『治癒の泉』等は加護と精霊魔術で構成されるなんてものもあるので、クレリックは精霊魔術を単独で使えるものも居りますね。わたくしを何度も守ってくれた護身具も『天啓の雷』という雷の精霊魔術と加護の術式をアイテムにしたものになります」
「そうなんだ知らなかった」
エマは思い込みから、ゲーン教のクレリック達は武器魔術や精霊魔術を目の敵にしているのかと思っていた。別にそっちもいいけど、ちゃんとこっちの話を聞けという意味で、これまで出会って来たリーズ以外の信徒というのは口うるさかったのかということを理解した。
「ところで、エマさん。加護術式は何から出来ていると思いますか?」
「何って、ゲーン教の経典から成り立ってるんじゃないのか?」
「半分正解ですが、半分間違いです。わたくし達が最も最初に習う術は、風の術を用いた念話なのです」
「念話? どういうことだ?」
「基本的に魔術は使った人間にしか反映されません。一人の術者が複数に術式をかけるということは原則として不可能になっています。ただ、分かっている通り加護の術式は何名かに同時にかけることが可能ですね?」
「そりゃそうだな」
加護術式は複数にかけることが出来る。何度もこれまでリーズが行ってきたことだ。他のクレリックでも問題なく出来る。
「仕組みの話をするのであれば、祈りの加護をわたくし自身に付与し、念話術式を混ぜて対象者に与えるということです。では、祈りとは加護とは何から起こるのでしょうか」
この世の理である精霊魔術。加護術式とは全く異なる体系となる。
それはゲーン教の経典自体に効果があるのではないか。
「わたくしが思うに加護とは大衆の思い込みです。思い込みの伝承が、人に力を与えるのです」
エマは絶句した。
教会の人間が信奉しているはずの経典を思い込みと断じたのだった。確かにこれを聞いたなら場合によっては死を免れないだろう。
「思い込みというよりかは、ゲーン教は基本的には大昔に起こった出来事を聖典として語り継ぎ、聖典の事象を引き起こすことが出来るということが加護なのです。わたくしたちは強く信奉し、正しく言葉を紡ぐことによって大衆の思い込みに接続し加護を生み出します」
「へ、へー」
あまりにスケールがぶっ飛び過ぎていて、頭が待ったくついてこなかった。
「ただ、必ずしも経典通りに唱えるということが加護を生み出す訳ではなく、接続方法さえ定義されてしまえば経典などなくとも何とかなってしまうのです、例をあげるのであれば混成術式は何とかなってしまった例なのですよね」
「すげぇな。そんなこと言ってしまっていいのかよ」
「ええ、これを知ればあなたもわたくしも場合によっては死ぬことになるでしょう。この接続は無意識に行われることがあります。例えばドミニクさん長距離狙撃の視力ですとか、エマさんの迅速さ、ヒューゴさんの頑強さや力強さなんてものもあります。意識的にこれを行うことがあるのですが誰のことを言っているか分かりますか?」
思い浮かぶのはあの男。
誰よりも先頭に立ち、自らを奮い立たせるように名乗りを上げ、気迫で相手の猛攻を受け止めきる人の域にあって、人ではないのではないかと疑いたくなる男。神に呼ばれた男。
ヒューゴ・フェレイル。
「あいつかーーーーーーーー」
「彼です。気が付いているかと思われますが、あの名乗りには加護と同様の効果があると考えていいと思います。さて、クレリックとしての信仰を深めるには、何かと難しいと思います。けれどエマさんはすでに強いですよね。ならば、その強さを信奉してみてはいかがですか」
ヒューゴと同じく大勢の目の前で名乗りを上げて、自らの力を向上させるあれ。
ドミニクがラサでやらされていたが、死ぬほど恥ずかしがっていたのをからかったが、まさか自分におはちがまわって来るとは。
「……あれ、やんの?」
「はい」
リーズは満面の笑みで答えた。
「加護とは強烈な思い込みです。エマさんは自分が最強であり、最強だということをあたりに知らしめるのです。簡単でしょ?」




