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「さっきから話を聞いてましたけど、レイジーさんって、勇者だったんですね?はじめて知りました」
一騒動あった後、三人は外の道をぶらぶらと歩きながら会話をしていた。
「まぁ、無理もない。勇者の中で一番活躍したのは、何しろお前ではなく、チーム一のお人好しだったからな」
「あぁ、あの忍者みたいな奴だよな……。影薄い割に、結構活躍してたし」
(に、忍者?)
ラストは頭の上に?を浮かべながら、子首をかしげた。
「わ、私、そもそも勇者の存在自体知りませんでした……」
((な、なんだと!?))
思わず後ずさる二人に、彼女はキョトンとした表情をする。
「いやいやいや。冗談きついよ、それ?」
「子供なら、誰だって憧れるヒーローじゃないか?」
しかし、彼女の顔色は一向に変わる気配を見せず、やがて彼女が開いた台詞はこうだった。
「いや、そんなこと言われても。そもそも私、子供じゃありませんし」
「「……」」
なら、なおさらなぜ知らないんだ?と思った二人であった。
勇者、というのは、今から十数年前に活躍した、魔王討伐隊の俗称である。
レイジー率いる討伐隊のメンバー──前衛のレイジー、ラース、グラ、エンヴィ。中衛のイラ、ソロース、シャド。後衛のマリア、マーリン、ミラの合計十人は、この際魔王の討伐に成功したのである。
その後何年かは、彼らは英雄として国々から羨望の眼差しで見つめられていたのだが。
「わ、私、そもそも勇者の存在自体、知りませんでした」
だと?
あり得ない。それは何かの冗談だと思っていたのだが、どうやらラストの様子を診る限り、冗談ではなさそうだった。
まさか、全世界に知れ渡っていたと思っていたのに、さほどそうでもなかったことが驚きである。
思い出してみれば、この村に来て最初、誰も俺のことを騒がなかったことに不自然さを感じるべきだったんだ。
「参ったな、レイジー。よもやここまでとは思っていなかったぞ……」
「ああそうだな。俺も目が悪くなったみたいだよイラ……」
ため息をつきながら、二人はラストの呆け面に泣いた。