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とある譚  作者: Alice 忍霧麒麟
その1
4/5

4

 ことり、と机の上にコップが置かれる。


「頼んでないんだけど?」


「あちらのお客様からです」


 ウェイターはそう言って、斜め後ろの席に座る、一人の男を指し示した。


「よぉ、無撃。久しぶり」


「お前、イラか!久しぶりだな。勇者時代以来か?」


「そうだな」


 彼──イラは軽く手をあげると、そう言って微笑んだ。


「それで、そこの子供は誰なんだ?まさか、怠惰でニートな元勇者様が、娘というわけでもあるまい?どこで拐ってきた?」


 笑いながら、彼はジョークを飛ばした。


 全く変わっていないな。


 そんなことを思いながら、レイジーは顔をしかめて見せた。


「拐ってねぇよ。こいつはまぁ、盗賊に襲われてた所を助けてやって、その礼に団子をご馳走してもらってるだけだよ」


「へぇ?あのめんどくさがりなレイジーがねぇ?お前も変わったもんだよ」


「そういうお前こそ変わってないよな?変わったところと言ったら、槍がグングニルじゃなくなってるところだ」


「ほぉ?目は衰えていないようで」


 イラはニヤニヤ笑いを浮かべながら、水滴のついたコップの表面を袖でぬぐった。


 勇者時代──というのは、まだこの世に魔王が存在していた頃の話だ。

 彼、怠惰のレイジーは、その時代、勇者としての教育を、不本意ながら受けさせられ、先代の勇者様から立派な剣を頂き、魔王を討伐した。

 イラはその教育を受けている時にであった。


 彼の専門職はランサー。槍士だ。

 彼は中距離で攻撃と防衛を受け持ち、後ろで回復役を買っていたヒーラーを護りながら戦っていた。

 そのため、後ろなんか気にすることの無かった俺とは大違いで、その戦闘能力はずば抜けて高かった。


 まぁ、先代から学んだ、怠惰のための奥義みたいな技には、到底及ばなかったわけだが。


「昨日、ここの周辺を彷徨いていたら、珍しくオーガに遭ってさ。試しに実力が落ちてないか遊んでたら、それほど変わってなかったよ」


「何、オーガを殺ったのか!?」


 目を丸くして言う彼に、レイジーは肩をすくめながらこう答えた。


「腹が減ってたからな。焼き肉にして、昨日は全部食っちまったよ……。ところで、お前は何でこんなところにいるんだ?マリアとの新婚生活はどうしたんだよ?」


 すると彼は、額に手をやってため息をつくと、お茶を飲んで頭を振った。


「マリアなら浮気されたよ。マーリンの野郎が寝とりやがった」


「それは、ご愁傷さまだね?」


「あぁ、全くだ。結婚して三年後にこれが発覚したってんだから、もうなんとも言えない気分だね……。それで、今は気晴らしに槍を一から鍛え直してるってところだよ。俺、お前が食ったっていうオーガ狙ってたんだぞ?」


 コップを片手に、指を突きつけてくるイラ。

 カリン、と音がして、中の氷が割れる。


「それはすまないことをしたよ。でも、あのマーリンがなぁ……。根暗そうにしてたあのメイジも、そんなことするんだなw 人生何があるかわかったもんじゃない」


「だな」


 彼はそう笑うと、背もたれに背中を預けた。


 すると突如、カウンターの方で大声が聞こえてきた。


「んだとゴラ?あ?俺様に酒が出せねぇってのか?」


「そんなこと言われても困ります!ここは喫茶店で、居酒屋ではないんです!」


 さっき入ってきた、あのチンピラたちか。


 はぁ、とため息をついて、俺はコップに口をつけた。


「あ、あの。レイジーさん」


 不意に、ラストは彼の服の袖を引っ張った。


「何?」


「ここ、ちょっと不味くないですか?」


「いや、団子は旨かったぞ?久しぶりに食ったよ、こんな人工的な食べ物」


 レイジーは微笑みながら、彼女の頭を撫でた。


「あ、いえ、その……団子のことじゃなくて、あちらのカウンターの方の不良が……ですね」


「なんだ、そんなこと気にしてんのか……」


 スッと横目に、彼はチンピラたちを見据えた。


 薄汚い服装。

 つぎはぎだらけの衣服に、汚く汚れた肌。

 髪はツルッパゲており、頭頂部に申し訳程度に残っている位だ。


 おまけにガーガーと煩い。


 ……ちよっと『威嚇』してやろうか。


 俺は席をたつと、腰の剣に手をかけた。


「あ?誰だよテメェ?」


「お前みたいな餓鬼畜生に名乗る名前なんてない。あと煩いから静かにしてくれないかな?」


 と、同時に、スキル『威嚇』を放つ。


 すると、彼らは何か得たいの知れないものに睨まれたような顔をして、クソッと悪態をついてその場をあとにした。


「どうしたんだレイジー?らしくないじゃないか」


「っせ」


 煽る彼に、レイジーはそう吐き捨てた。


「あ、あの!ありがとうございました!」


 カウンターに居た女の子が、お礼を述べてくる。


「別にいいよ、あれくらい」


 レイジーはそうとだけ告げて、席へと戻る。


「連れの女にでも惚れたのか?」


「違ぇよ。うっせぇな」


 そう言いながら、彼はラストの頭を撫でた。

 お読みいただきありがとうございます。

 この小説は、携帯小説アプリ『携帯小説by モバスペbook』より、作者名Aliceとして、同じものを投稿しております。

 もし興味のある方は、そちらもぜひご覧ください。

 もしよければ、ブックマーク、及び感想、ご指摘、評価などいただければ幸いです。

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