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「いやぁ、助かった助かった」
彼は、最後の1つを飲み込んでそう言った。
「いえ、助けてくれたお礼ですから……」
彼女は苦笑を浮かべながらそう答えた。
現在少女の懐は、彼の真逆の状態にあるのだが、それを言ってはお礼にはならないだらう。
今は生きていることに感謝すべきだ。
彼女はそう考えを改めると、そういえばと彼に話を振った。
「あの、そういえば自己紹介が未だでしたね」
「ん?あ、そういえばそうだな」
そうは答えるものの、興味がないのか、彼は皿の上の串で歯の間を引っ掻いた。
「えっと、私の名前はラストと言います。村の道具屋で働いています。機会があれば、是非、道具屋『千鳥』にお越しください」
へぇ、道具屋か……。
そういえば、長らく道具屋に足を踏み入れてなかったな。
買うもの無いし、お金もないし。
「俺はレイジーだ。怠惰のレイジー。無職の放浪人だな」
この世界は、無職でも割と暮らしやすい世界になっている。
ただし、魔物と戦う力と知恵があればの話だが。
そして、この世界には冒険者という職業は存在しない。
この世界では、魔物を狩ると、その討伐部位と魔核と呼ばれるものをギルドに提出すれば、会員でなくてもお金をもらったりすることができる。
そして、ギルド会員は冒険者とは呼ばれず、ギルド員と呼ばれるため、冒険者に相当するものはあるが、その職業は事実上存在しないのである。
レイジーはそう言うと、カタリと串を皿の上に戻した。
「放浪人……」
ラストはそう呟きながら、空を見上げた。
この世界では、放浪人と呼ばれる人間はあまりいい思いをされない。
なぜなら、その大半は他人から物を奪ったりする盗賊の予備軍であるからだ。
だがしかし、彼女は彼はそうでないと考えていた。
その何よりの理由は、ラストというか弱い少女を助けたからである。
本当に、この娘は頭の中お花畑だな……。
レイジーはそう思いながら、喫茶店に新たに来店してきた客を眺めた。