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地球布哇化

作者: 広幡桐樹

ある日、ジョーは友人のベスの家にいた。いや、厳密に言えば、そこは家ではなく彼のために改造された研究所のような有様だった。

「どういうことだい、ベス。こんな夜中にいきなり電話で見て欲しいものがある、なんて呼び出してさ。」

「ああ、見て欲しいものってのはね・・・“この星の未来"さ!!」

「なんだって!!毎日毎日君は家に引きこもって、何を作ってるのかずっと不思議に思っていたものだけれど、まさかタイムマシンを作り出したとでも言うのかい!?」

「まあ半分当たってるね。僕は“未来が見えるモニター"を作り出したのさ!」

「すごいじゃないかベス!早速見せてもらいたいね!」

「ああ言われなくても見せるさ。それじゃ用意するからちょっと待ってておくれ。」

ベスはそう言って、ガラクタ(少なくともジョーの目からはそう見えた)だらけの部屋を片付け始め、ちょうどテレビと同じような形の物を持ってきた。

「まだ試作段階だから1000年ずつ、つまり一世紀だね、その単位でしか映像を映すことはできないんだけど。とりあえず一世紀先の未来から見てみようか。」

そう言ってベスはテレビのような機械の横に手をかけ、スイッチを押した。




画面は真っ暗な状態からふっと何処かしらの街並みを映した。

「これが1000年後の今日だよ。映像だけじゃ何のこっちゃ分からないから現代との違いはこのモニターで説明できるようになっているよ。何でも知りたいことは教えてくれる。」

「君はさっき“1000年後の今日"と言ったね?しかし今はもう2月だぜ?雲ひとつない青空なのはまだ分かるけど、なんで皆が皆半袖なのさ。」

ジョーがそう言うとベスは画面の端にあったアイコンをタッチして、画面の半分ほどのサイズに収まった文章を映し出した。

「ええと、まず半袖はちゃんと理由があっての半袖らしい。長袖を作る機械がなくなったとかそういうのではないみたいだよ。この日はどうやら気温が・・・29度だって!?」

「なんだって!?ここは本当に1000年後の今日なのかい!?」

「それに関しては間違いがないと断言できるね。だいたいこの機械はタイムマシンの原理を利用しているんだから、夜が昼になることはあっても、半年も時間がずれるなんてことはあり得ない。いや、ちょっと待てよ・・・どうやらこの時代は地球上の天気も気温もコントロールできるようになっているようだ。」

「そんな馬鹿な!何でそんなことになったんだい!?」

「大きな要因としては、人類が地球上の資源を取りすぎたために異常気象が多発したことだそうだ。そこで人類は植物等がなくても異常気象が起こらないように天気をコントロールできるシステムを開発したのだと・・・」

「でも冬なのに気温が29度もあるなんてどういうことだい?人類は服を着るのがめんどくさくなったとでもいうのかい?」

「いやどうやらこの時代から500年ほど前に感染したら確実に死んでしまう恐怖のウイルスが大流行して、人類はほとんど壊滅したそうだ。そこで残った奴らが再び感染が起こるを出来るだけ防ぐために、科学技術によって寒くなり乾燥しやすくなる季節を無くすことに成功したのだそうだ。」

「何てことだ・・・1000年後には地球はこんなことになっているのか・・・」

「1000年後でもう既にこんなに変化してしまっているのか・・・一体2000年後にはどうなっているんだ!」

そう言ってベスは機械の横にあるダイヤルを少し回した。




そこに映った街並みは1000年後のそれと何ら変わりはなかったのだが、そこにいる生物が大きく変化していた。

「なんだこれは!毛むくじゃらのオランウータンみたいなのがいっぱいいるじゃないか!2000年後にはこの毛むくじゃらに地球は支配されているのかい!?」

「僕もわからないよ、ジョー。とりあえず説明を見てみよう。

そうしてベスは先ほど同様にアイコンをタッチして画面に文章を映し出した。

「えっと、まずこの毛むくじゃらはオランウータンではなく、歴とした人類だよ。天気や気温をコントロールできる機械が発達してどうやら地球は服を着なくても快適に過ごせるほどになったらしい。それで衣服が不必要になったから、代わりに人類の祖先如く毛が生えてきたのだそうだ。」

「科学技術の発達の行く先は、猿人への退化なんて・・・ちょっとあまりにも衝撃的だったよ。もうこれ以上はいいや。家に帰るよ。ありがとうベス。」

「そうかい。お気をつけて。」

そうしてジョーはベス宅を出て、自分の家に帰った。




家に帰って何気なくテレビを点けると、そこではニュースがやっていた。現代にいる自分が何か幸せに思えてきたジョーはそのニュースを食い入るように見ていた。

「連日お伝えしています東南アジア地域での豪雨による洪水で、建物の上などに避難し、孤立した人々は500名にも達しました。なお・・・」

ジョーはニュースを見て何とも言えない気持ちになったのと同時に先ほど見せられた映像を思い出していた。

「科学技術の進歩が云々と言っているのは所詮現状に満足している人だけなのかもしれないな。俺だって自分が危険にさらされると分かっていれば猿人を選ぶさ。結局人はリスクを排除したがるんだ。」

そうしてジョーはテレビを消し、寝床についた。2月のやけに暖かい夜だった。





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