プロローグ 死んだ訳
初めまして、お読み頂きありがとうございます。
「行ってきます。」
いつものように両親に挨拶をして出かける。
すると両親が玄関まで出て来て見送りをしてくれる。
「大丈夫!?忘れ物はない!?護身用バッグ、携帯、お財布、学生証、保険証…。」
「大丈夫だよ母さん、全部持ってるよ。」
「あぁ!お父さん心配だなぁ!!!学校までついていくべきだよな!うん!」
父が慌てふためいてそんなことを言う。
「大丈夫だよ父さん、僕についてきたら仕事遅刻しちゃうでしょ?」
宥めるように言ったがそれが逆効果だったのか父が恐ろしいことを言う。
「大丈夫だ、お前のためなら父さんは仕事だってやめてやる。」
「やめてよ…重いよ…。」
「わかった!辞表届け書いてくる!」
「違うよ!?仕事やめないでってこと。…もう本当に朝から重い冗談やめて。」
「冗……談………?」
父さん…本気だったのか………。
そうこうしているうちに時間来た、余裕もって出ようとしたのに結構時間潰れちゃった…。
「そろそろ行かなきゃ、父さん仕事頑張ってね。」
「うん!父さん超頑張る!!!」
素直か。
「お母さんにはないの……?」
母に泣きそうな目をして言われた。
「え、えっと母さんも今日も朝早くからお弁当作ってくれてありがとう。」
「全然大したことじゃないわ!明日からもお母さん頑張るわね!いや、もっと早くから起きて、もっと美味しいお弁当作るわね!!!」
「いや!今でも十分美味しいから!睡眠しっかりとってお願いだから!」
「あぁ私の体を気遣ってくれる……なんて優しい息子なの………。」
……スルーを決め込むことにした。本当に朝から疲れる…。
「そ、それじゃあ行ってきます!」
「「いってらっしゃーーーい!!!」」
そして僕は玄関のドアを開け外へ出る。
秋の朝の少し乾燥していてひんやりとした空気が僕は好きだ。
日の光を浴びつつ、いつも通り駅へ向かう。
Shushucaという関東のほうで使われているICカードを通し駅のホームへ行く。
「おーっす。」
「あ、おはよう。」
ここで友達と会い、学校に行く。それが僕の日課だ。
時々、どっちかが遅れ寂しい1人電車を過ごすことになる。
「なぁ、聞いたか?転校生来るらしいぞ。」
「へぇ、そうなんだ。ってか、どこでそういう情報を?」
「いや、副担から軽く聞いた。」
「そんな簡単に話していいもんじゃないだろうに……。」
「お前が知りたがってたって言ったら一瞬でポロッたぞ?」
「え!?なに人の名前使ってるの!?」
「お前、便利、大好き。」
「やめてよ!勝手に人の名前使うの!」
何を考えてるんだ!まったくプンプンだよ!!!
「悪い悪い、でも先に匂わせてきた副担が悪い。」
なんでこいつは責任転嫁してるんだ!?
いや、確かに副担も悪いよ!個人情報だよ!!!
っていうか、この時期に転校生?
なんかオカシイような……。
「ねぇ、この時期に転校生って珍しくない?新学期だったら分かるけど………。」
「あぁ、それなら簡単なことだぜ、アメリカからの転校生らしい。だからこの時期に日本来たんだろう。」
なるほど、アメリカは9月が終わりだからね。
「ふーん。ま、そんなに関わり持つこと無いでしょ。」
「いや、どうだろうな。お前は………なぁ。」
「な、なんだよ、歯切れ悪いなっ…。」
「まぁいいやっ。ほら、次降りるぞ!」
「あ、誤魔化した。って待って!ちょっ、降ります降ります!通してー!!」
僕の朝はやっぱり大変だ。
「はい、みんな静かにして下さい。」
担任が教室に入り開口一番に言った。
でもそれでも教室内は静まることは無かった。
たぶんみんな転校生のこと知ってるんだろう。
原因は多分…。
「(ちゃお★ウィンク)」パチッ
アイツのせいだろう。
「静かにーってまったくなんで知ってるんだか…。」
「な、なんででしょうねー!」
「まぁいいか、入ってきなさい。」
担任が諦めた様にそう声をかけるとあれだけ煩かった教室内もシーンとした。
ガラガラと音を立て、引き戸の教室のドアを開けて入ってくる。
ほっそりとしつつ引き締められたコンソックスを履いた足。
その足でお淑やかに歩く、その歩きはまるで山の中に流れる冷たく綺麗な
清流を思わせるようだった。美しく光るような黒髪も歩くペースに合わせ揺れる。
そして学校の制服のスカートとブレザーしっかりと着こなし、手や腕は小さく細いのに、女性であるという場所は大きく、そして腰のくびれは目を釘付けにさせた。
教壇に立つと彼女は薄桃色の唇を少し開き優しい音色のような声で自己紹介を始めた。
「異神 しさつです。アメリカから日本に来ました。
両親が日本人のため日本語は出来ますが日本の常識なのは全くわからないので、ご不便をおかけすることがあるかもしれませんがその時は優しく教えて下さい。これから宜しくお願いします。」
みんな呆然としている。
そりゃあそうだよね、こんな可愛い子いたら。
しかしみんなすぐに意識を取り戻し誰からともなく拍手が出てそれが教室全体に広がった。
「ねぇねぇ!アメリカのどこから来たの~?!」
さっそく異神さんは絡まれていた。
転校生あるあるだよね~。
僕も小学校で合ったな。
そしてチラッと僕が何気無く異神さんのほうに視線を向けると目が合った。
(ど、どうしようかな、と、取りあえず笑顔でもしておこう。)
そう思い笑顔をニコッと返した。
そうすると彼女も紅潮した頬を動かし笑顔を返してきた。
(いい人そうだよねー。)
僕はそう思った。
そして次の授業の準備をするべく席を立った。
「はい、じゃ今日もお疲れ様でした、号令。」
「起立、気をつけ、礼。」
さて今日は異神さんが転校してきたこと以外は特に変わったことはなくいつも通りだった。
自分の机にかけているバッグを取り帰ろうとすると
「えっと、ちょっといいですか?」
「はい?僕に何か……?」
「ここではちょっと…付いて来て貰っていいですか。」
「えっと、分かりました。」
何だろう、取りあえずついていくことにする。
バッグを持ち彼女の後ろで歩くとすれ違うみんながこちらを見てくる。
少し恥ずかしいが我慢し彼女の後ろを俯きながらついていく。
体育館裏で彼女は止まった。
ここで話か。
「ここなら誰も来なさそうですね…。」
「うん、今日はどの部活も無いし来ないと思うよ。」
「そうですか。良かった。」
「それで話って何かな?」
ま、まさか目があったときに笑顔返したのが何か癪に障ったのかな!?
そ、そんなことないよね?と、不安で怯えていると。
彼女が胸に手をあてはっきり言った。
「好きです!あの笑顔で一目惚れしてしまいました!」
「え?」
「自慢ではありませんが少しばかり容姿には自信があります!駄目ですか?
貴方の望むものならなんでも用意します!特殊な性癖でも我慢します!
私は貴方へなんでもします。貴方への愛を語るとしたら人という
命の短い生き物の時間の中では語りきれないでしょう。
貴方のあの笑顔は神殺しです。本当に大好きです。駄目ですか?駄目じゃないですよね?だってここまで貴方を愛してるんですよ?この私がですよ?
どうします?結婚しますか?結婚して一緒に住みますか?私の家は広いですよ!
召使いもたくさんいて地球ほどではないですが文明もある程度発達してます。
それとも新たな世界作っちゃいますか?夫婦の共同作業しちゃいますか?
主神様には感謝だわ!こんな素敵な出会いがあるなんて!さすが主神様の世界ね!」
「く、狂ってる………。」
狂ってる、この言葉を出すので僕は精一杯だった。
額に脂汗が滲む。これはまずい、まずいやつに好かれた。
僕は人並みに告白されたことがあるが警察沙汰になるレベルの告白は
一個もなかった。
逃げなきゃ…、でもこういうのって刺激すると駄目なんだよね。
よ、よし、取りあえずは
「こ、異神さんお、落ち着いて。」
「そうね!少し冷静を失ってたわ。で、答えは?」
もちろんYesよね?といわんばかりの顔で聞いてきた。
ってか、すさまじい速度で返答を求めたぞ!?
ぜ、絶対落ち着いてないよ…。
じょ、冗談じゃない、こんなのと付き合ったら両足両手消えるの確実だろ!?
ぼ、僕は無理だ、これは、無理だ。
いくら容姿が良くても無理!
僕は丁寧に答えた。
「ご、ごめん僕は君の愛を受け止められない………。」
「………そう、じゃあ。 惜しいけど時間無いから、死んで?」
そういうと彼女は真顔で僕にナイフを突き立てた。
い、何時の間にナイフなんて持ってたんだ……。
っていうか……あっさり殺しすぎだろ。
異神 しさつ……。まさか転校生に殺されるとはなぁ………
しさつってか刺殺だよな、と馬鹿なこと思いつつ意識が遠のいていった。
よろしければ感想・評価宜しくお願いいたします。
※誤字脱字あれば活動報告のほうにお願いします。