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航宙船長「まる」  作者: 吉村ことり
海賊船長まる
61/72

第61話「まるは宇宙海賊です13:罠、罠、罠!」

いよいよ敵との対決。

そして織田氏の行方は。

全面対決!

(承前)


 惑星〈モート〉まで1光分の距離にワープアウトした瞬間に、私掠航宙船〈上喜撰〉は、同じく私掠航宙船である〈デンドロバテス〉からの重核子砲による砲撃を受けた。

「敵船の迎撃インターセプトです、待ち伏せされました!」

 反射的にボーテが報告する。

「被害は!?」

 ラファエル副長が叫ぶと、ボーテはすぐに返答する。

「損害軽微!」

 ビヨンドドライブ解除時の強化対策で施した、自動フォースフィールドが動作していたおかげだった。

 すると、脇でレーダーを確認していたにゃんたから追加の情報が来る。

「敵船がワープシェル展開!」

 まるは腕船長席の上で素早くコンソールを操作している。

「短距離ワープで攪乱する作戦ね。こちらもワープシェルを展開、後方5光分(300秒で光が進む距離)に緊急ワープ!」

 まるの指示を復唱する暇もなく、太田は緊急ワープを行った。だが、一瞬遅れた。ワープアウトした〈デンドロバテス〉はワープシェルを展開する直前の〈上喜撰〉に向けて次元転移砲による攻撃を放った。その直後〈上喜撰〉はワープシェルを展開し、5光分のワープを開始した。


 一瞬の遅れの際に受けた攻撃で、ワープアウトした〈上喜撰〉の船体には大きな振動が伝わった。すぐさま秋風からの被害報告が来たが、その声は苦痛がにじんでいた。

『敵の転移砲による攻撃を受けました! 右舷サブ・ワープナセル損傷! 負傷者数名! いずれも緩衝ボールで真空からは守られました。しかし――』

「しかし?」

『ビヨンドドライブを封じられました』

 つまり、敵と距離を置く作戦はほぼ絶望だ。

「他に被害は?」

 まるの問いに、秋風が返す。

『格納庫に断裂が……幸い減圧はフォースフィールドで防いで乗員は無事ですが、搭載艇を発進させられなくなりました』

<拙いわね、こちらのアドバンテージを潰しにかかって来たか>

 そう、〈デンドロバテス〉には小型搭載艇は無数にあるが、いずれも画一化された単機能の気体であり、殆ど捨て駒的な用途しかない。しかし、〈上喜撰〉の搭載艇は非常に多彩で、尚且つ実用性に溢れたラインナップだ。それが使えないのはとても痛い。

 ビヨンドドライブと搭載艇。ふたつのアドバンテージを潰されると、下手をすれば互角以下の戦いになって仕舞う。

 まるはしばし考えた。

BL()は私みたいに、殺さない、なんて甘い考えはしてくれないでしょうね>


 敵がこちらの位置を探知してワープアウトする直前に、まるは決断した。

「オーケイ、無駄な損傷は避けたいわ。降参しましょう」

 そういうと、ワープアウトした〈デンドロバテス〉をレーダーで確認し、通信チャンネルをつないだ。

 ブリッジには落胆のため息が漏れる。だが、一同はまるの判断が正しいと信じていた。

「こちら私掠航宙船〈上喜撰〉、船長のまるよ。要求を聞きましょう」

 数秒の沈黙の後に、〈デンドロバテス〉は通信に応じ、ラスターが3Dスクリーンに登場した。

『やっと素直になったのねえ、まる』

 通信の先の錆猫は、大変満足そうに喉を鳴らした。まるはそんな様子を見て少しイラッときたが、それは敵の手の内というのも承知していた。

「無駄な経費を避けたいだけよ。人の財産を使い散らかしてるあなたと違って、うちは戦闘も自腹でやっているんだから、ポンポン壊されたら堪らないわ」

 ラスターは余裕の姿勢を崩さずに鼻をフン、と鳴らした。

『頭が良い、と言ってほしいわねえ、じゃあ、2隻で積荷を受けとりに行きましょうか?』


§


 惑星〈モート〉の周回軌道上。

 〈上喜撰〉の格納庫とサブナセルは応急で修理されたが、船自体を〈デンドロバテス〉のクローン兵によって接収され、ブリッジ機能も掌握されてしまった。


 私掠航宙船〈デンドロバテス〉では、自由意志を持って動き回れるのはラスターとバロンだけであり、他の猫は自分の意思を持たないしを持たない猫のクローン兵だったが、その分命令に忠実であり、簡単に籠絡ろうらくされたりはしなかった。

 〈上喜撰〉のクルーは、そのほとんどが自室に軟禁された。上級船員だけが、クローン兵の監視下で、認証など、本人がいなければできない作業のために駆り出されていた。しかし、クローン兵は一見すれば武装した猫である。人間がうまくすれば出し抜けると考えた小峰とボーテは反乱を試みていた。結果は手ひどく反撃され、フォースフィールドで拘束される始末であった。

「無駄な抵抗を……。天性のハンターの能力を200%引き出している猫クローン兵に、高々人間が敵う訳が無かろう」

 ラスターは彼らを前に、鼻で笑った。

「クローン兵には殺さないように指示は出してあるが、あまりに無謀な事をすると手加減できないかも知れんからな。せいぜい大人しくしておくことだ」

 バロンは冷静な口調で反乱を試みたものを一蹴した。

「さて、まる船長」

 ラスターはくるりと身をひるがえして、球状のフォースフィールドに閉じ込めたまるの所にやってきた。

「私は何も抵抗していないのに、この扱いは酷いんじゃないの?」

「黙れ。お前と阿於芽あおめ、それにあの巨大な異星人は別格だ」

 そう、阿於芽あおめと「思索の杖」も、同様のフォースフィールドによって隔離拘束されていた。

「織田氏から貨物の場所は聞いているのだろう?」

 ラスターはにじり寄る。

「残念だけど、私らも詳しい場所は知らないわ。その物理キーを私が手に入れて初めて、場所が分かるようになっているらしいわよ? この惑星〈モート〉も候補に挙がってるわ」

「さて、それが本当かどうかは私が確かめる事よ」

 ラスターはぷいっ、っと踵を返して、バロンに何やら指示を与えると、すたすたと去って行った。


§


 積荷を搭載する予定の〈渡会わたらい雁金かりがね・改2〉の武装は厳重に封じ込められた。

 ラスターの要求では最初、武装は完全に解除しろ、という事だったが、秋風が時間が掛かりすぎるからという理由で却下させ、武装の発射口を物理的な工具では実質除去不能な偽物質(フェイク・マター)で封印させた上に、コンパネを撤去することで納得させた。

「これだって最大譲歩ですよ。この封印の撤去、時間かかりますよ……」

 秋風はがっくりと肩を落としながら、〈渡会わたらい雁金かりがね・改2〉の外壁を撫でた。

「まあ、これ位はして見せないと、敵も納得しないでしょうしね」

 バロンに拘束状態のまま格納庫まで連れてこられたまるは、秋風に声を掛けた。

「船長、なんで降伏なんかしちゃったんですか」

 秋風は情けなさそうな顔をした。

「圧倒的不利な状態だったし、それに敵の目的が戦闘での勝利じゃないからよ」

 敵にフォースフィールドで拘束された状態のままだったが、まるはウインクをした。

 その表情を怪訝な顔で見ていた秋風は、〈コピ・ルアック〉より遡って、貨物船〈ハニー・ブッシュ〉からの付き合いである。ぐっと顎を引いて、自分を飲み込んだ。まる船長は何か考えがある。それを信じなくてどうする。と言った風情だった。

「分かりました。船長の判断を信じましょう」

「ありがとう」

 やり取りを聞いていたバロンは、顔を曇らせていた。

「まる船長」

 バロンの呼び声に、ちょっとびっくりしてまるは振り向いた。

「あら、何かしら、副官さん」

「バロン、と呼ばれております」

「そのバロンさんが、拘束している船長に声を掛けるとか、どういう事かしら?」

 バロンはしばし無言だった。

 ハチワレの黒白。口元には小さな黒い斑。割とよく居る猫の柄である。種別は日本猫だろう。体躯は決して大きくはなく、体長35センチほど。しかし、よく訓練された引き締まった体をしている。

「あなたが羨ましい」

 まるはきょとんとした表情をした。

「そうかしら?」

 まるの疑問に、バロンはまるの目を凝視した。

「私は事故で無理やり知性化された猫。あなたは確か、ブラック・ラスター(あのこ)のクローンよね? 超次元生命体である「ワーム」に、遺伝子レベルで改造された猫」

「果たしてどちらが不自然な存在なのでしょうね。人の世界に溶け込んで共に働くあなたと、人間を嫌い、猫だけの船で海賊行為をしている私達」

「哲学的な質問ね」

「私にはあの方の! ……ラスター様の考えていることが分からない。あの方は孤独すぎる。私にすら心を開いてくださらない」

<何だか人生相談でも受けている感じねえ>

 バロンは首をぶるぶるっと振るって、まるを冷徹な目で見た。

「ラスター様に仰せ付かっています。あなたを連れてこの搭載艇に乗り、積荷の候補地へ行け。と」

「あー、はいはい。でも私、本当に何も知らないわよ。この惑星〈モート〉にも、候補地はあるし」

「惑星〈モート〉の織田氏の工場なら、候補地ではない」

「何で言い切れるのかしら」

「我々が接収したからだ」

「あらま」

 まるは読みが外れてちょっと残念だった。

<という事は、残りの候補地になる訳か。どこだったかしら?>

「他にも候補地が有った筈だ」

「ええと、確か二つあったかな?」

「出発前に確認したい、ブリッジまで同行願おう」

「この拘束が邪魔よ」

 まるはフォースフィールドを爪ではじく。

「あなたには何度か手酷くやられている。気は許せない」

「そこは妥協が欲しい処よねえ」

「まる船長」

「ん?」

「無駄な話はせず、さっさと行動したほうが得策ではないか?」

<駆け引きは無駄、って事か>

「どうせ自分では動けないんだし、勝手に連れて行ってくださいな」

「言われなくてもそうするつもりだが、一応、断っておくべきだと思ったのでね」

 まるはせめてもの抗議で、大あくびをして、わざと舌をベロンと出したままにした。


§


 ラスターは〈デンドロバテス〉に戻り、それから気力が緩んだのか少し微睡んでいた。そして、夢を見た。それはあの潮の香りの漂う、懐かしい街の夢だった。

 楽しかったかと言えば、むしろつらい思い出ばかりではあった。妹は野良犬に噛まれて体に大きな傷を負い、仔猫を抱えて死にかけていた。自分はと言えば、まともな餌にありつけるのは週に何度か。痩せ細っていたが、それでも妹の家族のために、漁師や魚屋の目を盗んでは魚を盗って帰っていた。ごくたまに親切な人が餌をくれることはあったが、ラスターはガリガリに痩せた汚い錆猫である。他に見目の良い猫が来ると、そちらに餌は奪われてしまう。

 毎日、いつ死ぬか、まだ生きているか、どうやってご飯にありつくか、そればっかりを考えて生きていた。

 しかし、辛い筈の日々に、彼女は憧憬を感じていた。

 知性を与えられてからの日々は、飢えこそほぼ無くなり、人やケモノに理不尽な死を与えられる恐れも減った。だがそれは、別の新しい苦痛と引き換えでの事であった。

 それは、まるの苦悩と似て異なるものだった。

 彼女の見ている夢は悪夢に変わり、彼女の根底にある不安を体現していった。


 自分は何者なのか。


 自分に知性を与えたのは時空の特異性を喰らう(ワーム)、はっきり言ってしまえば化け物である。目的はただ一つ。「まる」への接近と混乱を招くこと。化け物の手先となっていた時は、自由意志は有って無いようなものだった。彼女の行動は彼女自身がそれと知らない間に「ワーム」によって制御され、ワームの利益になるように行動させられていた。だが、化け物はまるによって潰え、猫としての自分の居場所も無くし、結果として生まれ故郷の「迷い猫時間線」の時空からも離れてしまった。ラスターの存在は宙に浮いてしまっているのだ。


 自分の能力を役立ててこの世界で暮らしていく。

 悪くない考えだ。例えば、未開発な地域の多い〈地球通商圏〉であれば、猫の振りをして街の隅でひっそりと生きていくことも出来ただろう。

 しかし、改造された彼女の脳がその生き方を否定した。彼女は知性を使った活動を渇望した。それはワームによって仕込まれた罠なのかもしれなかった。戦略的に低い位置に居た〈欧蘭通商圏〉に自分を売り込むのは悪い話では無いと感じた。クローン兵を使い、他の通商圏のスパイと戦ったり、〈欧蘭〉の利益のために知略を尽くす。痛快ではないか。

 だが、彼女はそこで見つけてしまった。

 まるの商談相手である織田コンツェルンが、何を隠しているのかを。

 それは、悪夢を切り刻んで再構成したカリカチュアとでも言えばいいだろうか。

 そう、あの「ワーム」を利用した兵器が存在するというのだ。

 制御可能な「ワーム」。命令を与えることが出来る「ワーム」。その話を知った時、ラスターの頭にはあるとてつもない考えが浮かんでいた。馬鹿馬鹿しい考えだったし、何の利益になるのかもわからないような考えだった。

 だが、彼女はその馬鹿馬鹿しい考えに毒され、取り憑かれてしまったのだった。


――だがそれもまた、「ワーム」が残した罠なのかもしれなかった。


 鼻先と耳の中に嫌な臭いの汗をかいて、ラスターは不機嫌な目覚めを迎えた。


§


 阿於芽あおめという存在のデタラメさに関しては、次元に穴を穿つ能力を持つラスターですら舌を巻く代物だった。触手を伸ばしたり、それを変形して自由な形状を作りだしたり、アンカーを伸ばした時空から物体を引き寄せたり、自分をアンカーに引き寄せることが出来るとかは言うに及ばず。以前は言語を喋るには自らをナノマシンで改造していたのだが、最近はそれもマシンの力を借りずに自前でやってのけてしまっていた。

 本気になった阿於芽あおめに一体どれくらいの事が出来るのかは、全くの未知数であった。


「それで」

 銀色の塊から声だけが響いてくる。

「食事も摂れないんだけど。流石にこれはあんまりじゃない?」

 まるの入ったフィールドにつなげた紐を咥えて引っ張っているバロンは、ツーンとそっぽを向いた。対する声のする銀色の塊は、複数のクローン猫がけん引鎖を体に付けて引っ張っている。

「そもそも、その状態で声が出せたり、窒息していない時点で、既に信用できません」

 阿於芽あおめは偽物質でぴったりと覆われ、その上をフォースフィールドで補強されていたが、窒息もせずに平然と声を出していた。

「君らは僕を窒息させたかったのか」

「正直それでも構わない、と思いましたよ」

「――」

 まるは正直、阿於芽あおめが大人しく軟禁されているのを見て驚いていた。彼は同等以上の力を持っている筈の羽賀氏の力でも軟禁できず、ようやく動きを封じれたのは例のワームに捉えられた時だけだった。

「ねえ阿於芽あおめ

「なんだいまr――じゃなくて、何ですかまる船長」

「それ、抜け出そうと思えば抜け出せるんじゃない?」

「さあ? 馬鹿馬鹿しいから試しても居ませんけど」

「ああ、そう」

 バロンは厳しい目を銀色の塊に向けながら言った。

「もし抜け出したりしたら」

 バロンはまるの方を向く。

「まる船長の入ったフォースフィールドは、あっという間に1/10に縮小します」

「あら怖い」

 まるは肩をすくめて見せた。

<でもそんなネタばらししたら、私をアンカーで引きずり出しながら逃げるわよね……。阿於芽あおめなら>

「もうひとつ言い忘れました」

「ほう?」

「自室軟禁中の方々への空気の供給も止まります」

<あ、そういう事ね>

「つまり、僕は逃げ出そうとしたら、船の仲間全員を犠牲にする事になるよ、と」

「ええ」

「そんなの知ったこっちゃない、って僕が言ったらどうするね?」

<ブラフにしてもそんな事――本気?>

 阿於芽あおめは、「ふんっ」と鼻息を漏らしただけだった。

 (もちろん、偽物質は鼻息など通さない)

「まあいい、お二人ともブリッジに同行願う」


 ブリッジには拘束状態のラファエル副長がいて、時折質問される内容に不承不承答えて船を管理していた。バロンがまると阿於芽あおめを連れて入室してきたとき、彼は悔しさの滲む顔で小さく叫んだ。

「船長!」

 まるは顔をぶるっと振るって彼を制止した。

「なに、少し質問が有って来ただけですよ」

 バロンは涼しい顔で言った。


§


「この『!』はなんだ?」

 織田氏の施設の候補リストを閲覧していたバロンはラファエル副長を詰問した。

「さあね。当船のコンピュータが特筆すべき情報があったと判断した候補地じゃないのかね?」

 ラファエルは憮然として答えた。

「詳しい情報をお願いしたい」

「惑星〈ジュメル2〉の極点基地に付属している実験施設だ。特殊なシェルター形状をしていて、自動警備網によって守られている。現状では接近自体が困難になっている」

「なるほど、厳重ですね。ここである可能性は大いにありそうですね」

「だが、物理キーをどう使えばここに入れるのか……」

「織田氏から積荷の入手に関して、手筈の指示は無かったのですか?」

「まる船長が物理キーを手に入れたら入手できることになっていた。だがキーは君らが持って行ってしまったからね」

「再びまる船長にキーを渡したら?」

「どうなるかは分からない。手順指示は最初の入手時にもらえる筈だった」

「ふむ……。ちょっと、ラスター様と相談します」

「ご自由に」


 バロンが連絡を入れると、ラスターは少し前に目を覚まし、悪夢の余韻から冷めつつあるところだった。

『〈ジュメル〉か、可能性は考慮していたが。そこまで厳重な警備は困ったものだな』

「問題がもう一つあります」

『なんだ?』

「どちらが惑星〈ジュメル2〉かが判断しづらくなっています。どちらにも織田氏の施設はありますし」

『どういう事だ』

「恐らくは片方はトラップですね」

『面倒な仕掛けを――』

「ええ、現在まるのスタッフと対策を協議しています」

『何とも皮肉な話だな』

「まあ、この場合は妥協が必要かと」

『では、物理キーを持って其方に向かう』

「お願い致します」


 まるの側でも、不承不承、秋風が対策検討を行っていた。

「本来、似ているといっても、〈ジュメル1〉と〈ジュメル2〉には地理的な違いとかが有りましたし、計測用の基地もあり、判定は可能だったのですが――」

「ですが?」

 まるはフォースフィールドの中から聞いた。

「基地は織田氏が吉を建設する際に閉鎖されていますし、織田氏の仕込んだと思しき工学迷彩のお蔭で、2つの星の見た目に違いが無くなっているのです」

「あんの糞おやじが……」

「まあ、行くのは我々ですし。ダミーに引っかかっても、死ぬようなことはないかと。2チームに分かれていくのが得策ですね」

 秋風はさらっと凄いことを言う。まあ、根拠のある自信だから否定するつもりもないが。

「しかし、キーは一つしかないが」

阿於芽あおめくびきを解いて頂ければ何とかなります」

「それは出来ない」

「では代替案の提示をお願いしたい」

 バロンはぐっ、と言葉を詰まらせた。よく似た能力としてはラスターの時空トンネルがあるが、移動先は一度行った場所に限定される野で、いろいろと難しい。阿於芽あおめの能力なら、誰かにアンカーを仕掛けておけばよい。

「ワイルドカードを君らに返して、裏切らないというのを信じろというのかね?」

「この船と、〈渡会わたらい雁金かりがね・改2〉を接収すれば、流石に阿於芽あおめの能力でもワームは運び出せないですから」

「そういう事。僕の能力だけで運べるなら、こんな面倒なミッション、そもそも受けていない」

 銀色の塊が茶々を入れる。

「ううむ」

 会話をしているところにラスターが来た。

「やらせてやれば良いじゃないか」

「ラスター様! 宜しいのですか? どんな奇策を弄してくるか……」

 バロンは異を唱える。

「その程度の奇策にやられるような私らか?」

「はっ。申し訳ありません」

 指摘されてバロンは首を垂れる。彼の模様は頭と体で一つながりではなく、首のところに細く白筋があるのが分かった。

「まあよかろう。まると阿於芽あおめを惑星に降下させてから軟禁を解くのは可能か?」

「可能です」

「ではそのように。2つの班に編成する。一つは私とまる、もう一つはバロンと阿於芽あおめ

 やり取りを聞いて、秋風が抗議する。

「船長たちだけで行かせるなんて……」

「お前たちに何かを決める権利があると思っているのかい?」

「う……」

 まるは秋風を心配そうに見ていたが。ラスターと視線が合うと顔を洗い始めた。


§


 惑星への降下は、まるとラスターが〈渡会わたらい雁金かりがね・改2〉、阿於芽あおめとバロンが〈テトラオドン〉に分かれて行われた。

『降下完了です』

 バロンからの連絡が入った時、まるとラスターも丁度降下が終わり、まるのフォースフィールドが解かれるところだった。だからと言ってすぐに自由にはならず、まるの四肢には鎖のようなものが配置された。

「余計な動きをすると、その鎖がフォースフィールドで思いっきり引っ張られて、お前ははりつけ状態になる。精々協力的にすることだな」

「いちいち余計な事をするのね。気密服が付けにくいわ」

「どうせお前は自由に四肢を動かすこともできないんだろう」

 そう言いながらラスターは二本脚で立ち上がると、器用に気密服を持ってまるの方にやって来た。それを見たまるは目をそれこそ丸くした。

「――器用ね」

「お前のように頭脳だけ強化されたわけじゃなく、全身を改造されたからな。もっとも、猫の体のままだから、負担は大きい。長時間は無理だ」


 一方の阿於芽あおめ・バロン組は結構ややこしい事になっていた。


「だから、気密服は不要だって何度言ったら」

 阿於芽あおめは大気が無くても一向に気にしない事をアピールした。

「通信機も兼ねているし、万が一の事が無いとは言い切れない」

 バロンはイライラと切り返す。

「だからってなんでお前が着せようとするんだよ、どうしてもというなら自分で着る」

「そうやって触手を好き勝手に伸ばされると、何をされるか分からないだろう」

「じゃどうしろっていうんだよ」

「私が着せる」

「それは嫌だと言ってるだろう!」

 言い争いをしていると、ラスターからの連絡が来た。

『準備は出来たか?』

阿於芽あおめが言う事を効きません。気密服は不要だと」

『しかし、それでは通話が出来ないだろう』

「私もそれを言いました、そうしたら自分で着ると言って触手を好き勝手に――」

『もう、好きにさせてやれ。現状で余計な事をしたら船長がどうなるかは、そいつも知っているだろう』

「分かりました」

「好きにしろ、との事だ。ただし、緊急時の無線通信だけは受け取れる体制を作っておけ」

「オーケイオーケイ」

 そう言いながら阿於芽あおめは気密服を弄って、そこから無線一式を取り外した。

「良いか、どちらかが正しい、或いはどちらかが罠と分かった瞬間に正しい方向に向けて我々を集結させろ」

「分かってるよ」

 そう言いながら無線をチューニングする。


「まる、聞こえるか?」

『ええ。でも勝手に通信を飛ばしてもいいの? 多分傍受されているわよ』

「百も承知だ。双方向で通話出来ないといざという時――」

『それは良いがな。阿於芽あおめ

 会話にラスターも交じってくる。阿於芽あおめは一瞬「うぇっ」という顔をしたが、バロンが歯をむき出したのでおすましスタイルに戻った。ラスターは阿於芽あおめが黙ったので充分と思ったのか、それ以上この件について話すことはなかった。

「よし、準備完了しました。地上移動用のスライドボード展開します」

 バロンはそういうと、脇にぶら下げている工具袋から彼らの手のひらほどのサイコロ状の物体を取り出すと、スイッチを押した。するとサイコロ状のものはパタンパタンと転げながら広がって行き、1メートル四方ほどの板状のものになって、宙に浮いた。


 やがて、バロンからの連絡に、ラスターが応える。

『こちらもスライドボード展開した、まるを乗せる』

「了解、ほら、阿於芽あおめ。上に乗れ」

「いいのか?」

 阿於芽あおめはバロンの後ろに回ると、そろそろと近づいて馬乗りになり、マウンティングの姿勢を取ろうとした。

「誰が私に、のっ、乗れと言った!」

 バロンは慌てて飛びのいた。

「どっちが強いか示してほしいのかと思った」

 流石にこれにはまるが文句を入れる。

阿於芽あおめ、余計な茶々を入れないで』

「へーい」

 自分からは服従の姿勢など、更々とるつもりのない阿於芽あおめだった。

 バロンは気を取り直してボードに乗り、阿於芽あおめに手にはめたサック状の銃を向けると乗れ、と、ジェスチャーした。露骨に嫌そうな顔をした阿於芽ビームに、バロンは一発ビームを発射した。髭が一本焼け飛ぶ。眉間にしわを寄せつつ、阿於芽あおめはボード上に出来た焦げ目に手を乗せ、「熱い」という風に手を引っ込めて振ってみせる。もちろん彼一流のジョークだ。しかし、バロンはそのジョークを受け流して、更にもう一発の狙いを定めた。

「おお怖い」

 阿於芽あおめはそう言いながらボードに乗って座り込んだ。

「準備完了しました。目標まで時速20kmで2分」

『同じく2分だ』

「では発進します」


 こうして、奇妙なペアを乗せた二つの移動用ボードは、かすかな風切音とともに動き始めた。

「さて、どっちがニセモノだかね」


 そう言った阿於芽あおめの前で、地面がバックリと割れた。

「うわぁ」

 彼が叫んだその瞬間、ラスターからの通信がバロンに入る。

『こっちは罠だ! 回収を!』

「駄目です! こちらも罠です!」

 そして全てが暗転した。


(続く)


二重惑星〈ジュメル〉の其々で罠にはまったまる達。その運命は?そして積荷は?

次回、宇宙海賊編、クライマックス!

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