【#097】 Preparatory period Part.Ⅱ -夢と理想《受難篇》-
自分のスマホが画面凍結からの強制終了でデータ消失から書き直したために時間が大幅に掛かってしまいました(;´・ω・)
◇最上層 甲邱 魔法研究所◇
魔法研究所には、四十人の研究者と自ら志願した二十人の被検体と所長のヘレンさん。守護部隊『魔導』筆頭のレインさんとこの私、サワラビが勤めているのです。
私の仕事は、筆頭のお迎えから一日が始まります。
レインさんを始めにカナタ様、クルス様方は騎士や研究員や暗部とは身分が異なるので、それぞれ国王様が各自の邸宅を所有しています。しかし、コレをお使いいただいているのはカナタ様だけなのです。
何故か?と問われれば、クルス様の場合は、国王様からの勅命や特殊任務の遂行は最早急務。その為、夜営や外泊が日常茶飯事だからなのです。
それに対してカナタ様は、国王守護を誓った騎士の中の騎士であり先代のユウセイ様から継承をした『剣聖』もありますので国を離れることはないのです。
それはレインさんも同じことなのですが、―――あっ、私が『レイン様』でなく『レインさん』とお呼びしているのは御本人からの要望があったからです。
最初、御会いした時にお願いされたので仕方ないですね。こればかりは・・・・・・。あの時のレインさんは、照れ屋さんで可愛かったですね。まあ、今も同じくらい可愛いですけどね。
コンコンコンコン・・・・・・とドアをノックしてドアノブに手をかけて開けた先では、研究員が忙しく手や足をアタフタさせ未来の魔法研究をしている・・・・・・筈が。
サワラビの目に写ったのは、ドンヨリした空気が漂うマイナスな空間がソコにはあった。誰に聞いても、『あのレイン様・・・さんに、こ・・・恋人が・・・・・・』とか『俺達の女神が涙を・・・・・・』など意味不明なことが聞こえてくる。
ここ数日こう言うことばかりですね、と割り切って彼女が何時も籠っている部屋に入っていく。
ここ数日・・・、と言うのも彼の英雄。まだ会ったことはありませんが、『ヒロキ』と言う親密な関係にある殿方がシェンリル王国を訪れてからというもの心労に苦しんでいるのです。
愚痴は一層増えましたし、日に日に大人びていく姿を間近に見ているとキュンキュン感じることが多々あります・・・ですがそれが『成長』と言うものなのでしょう。
まだ私だけですが『レインさんが王国を出離する』と聞かされても、それは子が一つの階段を踏み出していく『卒業』と同じような感覚でしかなかった。
彼女がそう望むなら、と深い溜め息を溢しては幸せを逃がす後ろ姿をそっ・・・と抱き締めて問うことにした。何時ものように。
「どうしたんです?」
「ど・・・」
「ど?」
「どうしよう―――。わたし、あんなこと言うつもりなかったのに・・・」
ぼろぼろと大粒の涙を流すレインを見たサワラビは、外のアホな研究員とは違うと言い聞かせて中身を聞くことにした。
「それで何があったのですか?」
そこから聞いたことは、あの英雄が結局は普通の人間と変わりないという証明だった。
元奴隷少女のことは聞いていた。俄には信じがたい話。奴隷まで身分を降格させたプレイヤーに待っているのは、家畜同様に扱われる地獄だけであって『助ける』なんて考えが思い付くのはきっと彼の英雄君だけでしょう。
それはこの理不尽で不条理な世界の掟であって、ギルド連盟下でも厳密な法で縛っている。それが嘗て自分達が撒いた種が発芽したものだったとしても、あの大戦を治めた彼等が決断した法を覆すことは困難と言えましょう。
まあ、今回の一件が成功したのは一重にアルファガレスト卿の権力もあるでしょうが鍵を握っていたのは国王様と英雄君の関係が物を言ったのでしょうね。後は・・・デイドラの一件が絡んでいるのでしょうけれど。
それにしても可笑しな話です。自分から手を差し伸べておいて国に置き去りにするなどよっぽどのことがあったに違いないのですけれど、中身の事情を何一つ聞いていなかったのですから。
困りましたね。これは困りました。
「どうしよう、ねぇ、どうしたらいいかな。」
そんな可愛いお顔で訊かないで下さいませ。ですが―――、本当に困りましたね。
私、サワラビはレインさんの秘書と国王様を影から御守りする『狩猟』の暗部でもあるのです。私が暗部だということは、国王様以外は"鴉の魔女"とクルス様だけの秘密扱い。それは自ら志願した秘書官ではありますが、それ以上に求められたのは警護と観測者の役割があるからです。
レインさんは自分で自覚していないでしょうが、国王様が表裏なく認めた魔導師と言うだけでなく、ヘレンさんと同様の魔法研究の第一人者でもあり最年少で薬師となった有名人。ですが、それは飽くまでも『表』のお話。問題なのはレインさんが契約している魔導書【天盤経典の大魔導書】とシェンリル王国の秘密財産を知るプレイヤーだからです。
暗部の一躍である以上、こういう手の公には出ない話が耳に入ってくるのは必然というもの。だから困っているのです。
知らないことを知っていると、ついつい話したくなるもの。ガマンガマンですね、ここは・・・。
「私の知人から聞いた噂話ですが」
と切り出してまずは餌を放ちます。
「ほぉえ?」
「聴きたいですか?」
「き・・・聴きたい!!」
餌に食い掛かりましたね。
「最近、揚げ物屋『トンガラシ』で新メニューが提示されたようですよ。なんでも濃厚ニンニクとあっさりした生姜のザンギだとか。あとは薄衣のほくほくしたさつまいもの天婦羅も発売されるそうですよ。」
俯いてしまうレインをニヤリと薄目で笑うサワラビの目には、お子ちゃまが悩み狂う姿しか見えてはいない。
身の回りのお世話から私服のコーディネートに買い物、興味を引きそうな愛らしいファンシーグッズから好みの食材の全てを網羅したこの私にかかれば、話題を遠ざけることなど雑作もありません。
フッフフ。伊達にファンクラブ会員番号が一桁ではありませんよ。会員番号ゼロ番さんには流石に負けますが、レインさんの好みを把握することはファンの務めですからね!
「あぅ、えーと。い・・・」
フッフフ。遂に心が折れましたね。
「行きたいけど・・・そのお仕事が、ね?」
ああ、もう。本当にカワイイですねぇ、この子は。でも・・・。
「何時も言ってますよね。筆頭のお仕事は、部下である研究員が真面目に仕事をしているかの監視役なのですから。新しい魔法を開発する『魔法研究』は貴女の仕事ではありません。それに・・・。」
ここで一旦切って、声色と音量を変えてまるで隣室に聴かせているように言葉を続ける。
「ここの研究員は大変な真面目君が揃い踏みですから、今日明日には新しい魔法が出来るでしょう。」
そう言った途端に、ガタガタ・・・ザワザワ・・・と隣が騒がしくなった。
また盗み聞きしてましたね。これは、後でオシオキが必要ですね。さてとお昼前にもなれば五月蝿い人だかりが出来てしまいますし。
ここは、と手を叩いて発案を彼女に提示する。
「裏口を使いましょう。」
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◇中層 揚げ物屋『トンガラシ』◇
木造建築に屋根は瓦というこの国では一見豪華に見える飲食店のロゴマークは、唐辛子をモチーフにしたもの。
シェンリル大通りに入った矢先、トンガラシの調理場から漂う濃厚な香辛料と鶏肉や豚肉に牛肉。最近は家畜だけでなくゲテモノと呼ばれていた魔物肉が芳醇な香りを生み出している。
この香りに連れられて多くの冒険者や観光客がお店に入っていく。お店を訪れた客人にスマイルで迎えてくれるのは、若い少女たちである。
トンガラシの売り子は、十代の女性に限られ。内側で働く調理師は、見習い調理師五人と熟練調理師五人と料理長二人。主人の奥方が会計士と店主のマンプク氏が店を切り盛りしているのだ。
まだ開店前の状況下でも店内はてんてこ舞い。と言うのも開店直後からの激しい客の出入りに対応する為のものだったのだが、店内に歪な裂け目が出現して舞い降りた小悪魔と女神がそれを無下に帰す。
「お久しぶりですねぇ。」
「お・・・お邪魔します。」
料理長の二人は苦笑いするしかなかった。何故なら小悪魔の方は、あの裏口を使って何度お店を閉めて商品を食い潰されたことかと思う。一方で女神が舞い降りたことだけが役得のように笑顔になったり、俯いたり忙しい顔芸を披露している。
裏口と言う名の空間移動を持った小悪魔は、サワラビという美しいものの妖しさを合わせ持つ悪女。というのが料理長の認識であった。
サワラビを最初に見掛けた時は、落ちぶれた娼婦だったと言うのに。と坊主頭の料理長が彼女に声をかける。
「・・・おいおい、いきなり来てフランクフルトをねだりに来たの・・・・・・っ、」
安い下ネタ発言に坊主頭の料理長は、その瞬間に男の急所を押さえて悶絶。喘ぐ様さえ許されなかったのか必殺の溝落ちでダウンする。
その他の従業員は、何時もの事なのであっまたかとウンザリしながら見習い調理師の一人が彼を尾生って店の奥へ行くのだった。
「ふんっ、私一人なら兎も角。レインさんの手前で御下劣な言葉を・・・、」
言い描けたところでレインが手前に出る。
「いい―――。」
怖い顔のレインを見てサワラビは、しようがありませんねと言ってトンガラシのオススメ商品『ザンギ風ワイルド・ピッグ』を根刮ぎ買い取って店を出ていくのだった。
嵐が生まれてから、ものの一瞬で店を出る最速記録に安堵したのはホンの数秒間だけ。時計の針が開店時刻を迎えたのと同時に、販売ラッシュが始まりを告げる。
外回りの売り子も大慌てで勤しむ様子は、国にとっては良いことに変わりない。だけど国にとっての自分とは何かと考えた時、レインは何も出て来なかった。
自分とは何か?
その質問を国王から受けた時のわたしは何も答えられなかった。それがどういう意味を含んだ問い掛けなのかも、あの頃。薬師になったあの時分には分からなかった。
サワラビさんは、スゴく優しい。ねちっこいほどわたしに優しくするのは、きっと契約している魔導書の能力を恐れてのことと考えるのが妥当。
国の内部に組織された守護部隊『聖騎士』『魔導』『狩猟』を置きながら、口が固く信頼におけるその分野のエキスパートをギルド『観測者の宴』に勧誘している。それは国を守る以上に守らなければならない"者"の為にだった。
それは多分・・・ヒロキ。ううん、そうじゃない。もう多分じゃんなくて本当に国王が欲しているのは、運命って言う大きな流れを覆せる"世界の鍵"を持ったヒロキ。
それを知ったときから、わたしはわたしの周りに誰にも見えない障壁と自分自身に暗示をかけた。それは自分を守る為じゃない。ヒロキを守る為の完全防衛策。
わたしが・・・わたしのことが、まだ子供だと思っている内は大丈夫・・・・・・だけど。この唐揚げモドキ美味しすぎ!
がぶりとザンギを頬張るレインだが、ハッと我に帰って自重するもサワラビに苦笑される。
あぁもう、とポカポカ柔らかい拳を振るっていると今度は周囲から、お熱いねぇと茶化される始末。照れながら歩いていると女性には堪らない野菜スープの濃厚な香りが食欲の中枢神経を擽ってきた。
早速お店に入ってみると、お客さんの九割を女性客が占めていた性か直ぐに此処が何処かが分かった。ここは―――。
◇中層 野菜食店『太陽の恵み』◇
女性客をターゲットにしているだけあって、メニューにはカロリー計算された数値と美容と健康に欠かせない食後のケアまで書き足されている。勿論、このお店でお肉を使うことは一切ない。
料理のメインは新鮮採れ立ての野菜たちだが、入手困難な食材や調味料は冒険者もしくはギルド『パムチャッカ』への依頼を委託している。
パムチャッカは、二年前。この国に来る前にゼンさんと知り合いってこともあって店主さんとは友達の仲。だからって訳じゃないし、何時もっていうわけでもないけどサワラビさんがいるときに限って例の『裏口』からこっそりお邪魔しているのです。
―――けれど、わたし個人としては他のお客さんの列に割り込むようでイヤなので最後尾に並ぶことに。ただ、自棄に進むペースが早いと思いきや、わたしの事を知ったのかどうか譲ってくれていたのだ。
結局、流れと気遣いに恵まれてなんだけど、良心の呵責云々の話であまりいい気はしなかったけど、サワラビさんはスゴく喜んでる。他の女性客もどうしてなのかキャーキャー奇声を発している。
店主のワラビさんに案内されて席に着くと、スンスンわたしたち汗を掻いただろうか心配も無駄に終わる。嗅いでいたのはニオイはニオイでも、わたしたちがここに来る以前何を食べたのかを確認していたのである。
ワラビさんは、オリジナルのスパイスティーをブレンドもお手のものだし、目隠しで香辛料を嗅覚と味覚で当ててしまうスパイスのスペシャリストだけあって見事に『ザンギ風ワイルド・ピッグ』だと言い当ててしまった。
うわああスゴいスゴい、と褒めていたのだけれど途中から説教モードに移行されて怒られてしまいました。理由は至極簡単で明解なこと。
あのザンギの主成分どころか揚げ物自体は、まぁ悪くは無いのだけれど問題は必要以上の量を食べてしまっているので注意と警告が言い渡されてしまったのです。




