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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅱ 《絶望の断崖》
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【#089】 Teammate -語り合える仲間《前篇》-

『絶望の断崖』篇というEpisode.Ⅰ-Ⅱ第一話目です。

今回は人との繋がりだけでなく、ちょっとした冒険を含んだ物語。



◇中層 中街◇


 シェンリル王国の国民。それも多種族多部族の集落であり地方で唯一、人種差別のない住居区として知られる中街には、身分証明書ギルドカードを国から支給された職人たちのホームが用意されている。

 職を持たない子供たちや大人たちにも同じようにホームが与えられるが、それらは職人たちが無償で作ってくれた仮宿舎や料理が振る舞われる。

 誰もが平等な権利を与えられるこの町だが、生涯一生が無償では流石にない。職なしの子供たちは十六歳おとなまでに中学教育までの勉学を修了しなければならないし、十六以上の大人たちには最大六ヶ月間は衣食住が無償提供だがそれ以降は強制退出を求められる。

 ・・・とは言えど、子供たちの多くは知識を蓄えて高所得者の代名詞と名高いギルド商会の職員や図書館の司書となる者がほとんどである。その一方で十六歳以上の大人たちは、ファンタジー世界を夢見て一攫千金を狙った冒険者や一つの分野の道を絞って専門の職人になろうと大手の店のドアを鳴らす。


 早朝のこと。

 一人の若造が木造のドアを打ち鳴らす。二度ほどノックするとドアの向こう側からうら若い女性の声が聞こえる。


「どちら様でしょうか?」


 若造は、早朝の肌寒さに若干震えながら自分の名前を口にする。


「お久しぶりです。三月みつきお世話になったガンキチです。神父様はいらっしゃいますか?」


 ガンキチ。という名前に心当たりがあった女性は最後まで言葉を聞いた後にドアを開く。ガンキチは、その彼女をよく知っていた。彼女も同じようにガンキチという人間をよく知っていた。

 彼女の名は、ユンファ。ここ中街の中心部に建てられた教会の修道士シスターを務めている。長い黒髪と白い修道着とソバカスが印象的な大人の女性の彼女は、微笑してガンキチを向かい入れた。


 教会と言えば宗派別で内装が異なる。

 しかし、ここは無宗派。特に名だたる女神や神様を奉ってはいない。強いて挙げるなら、『命』に対する教育が少々強いというくらいで教会でお勤めをしている修道士や神父は、学を知らない子供に勉強を教える田舎の孤児院と業務態勢は変わらない。ここ以外にも教会は勿論ある。

 例えば、中層の教会は女神ヘラを奉っている。オリュンポス十二神の一柱であり、結婚と母性と貞操の女神様を奉った教会では毎年多くの男女ペアや同性愛者がやって来ては仲睦まじいカップルを成立させている。

 最上層の教会も同じだが、結婚するカップルは高潔な貴族の親類や国を支える独り身の大臣が挙式している。要は格式のレベルによって中層か最上層かを決めている。より低価格を求めるなら最下層のこの教会でも挙式は可能だが、今まで式を挙げたカップルはいない。


 ガンキチを向かい入れたユンファは、教会の床をボロ切れの使い古して今にも破れてしまいそうなスリッパで上座の席に座る。勢いをつけてドッスン。と腰を下ろせば突き抜けてしまいそうな長椅子にゆっくりと座った頑張ってガンキチは、定例通り目前の十字架に祈りを捧げる。

 『命』に熱心なこの教会の挨拶のようなもの。この教会がなぜそうまでして、『命』を大切にするのか。それはこの教会が生まれた時代まで遡ることになる。

 当時、まだ何もなかった頃の話である。一人の幼い少女。産まれて間もないその少女が捨てられていたことから幾つもの難題にぶち当たったが、領主の計らいと一部の貴族達の出費によってこの地方で初めて孤児院を牽引した教会が建てられたのだ。

 その少女と言うのがユンファ。彼女が転生者なのか新生者なのかはさておき、捨てられたユンファを拾ったここの神父は親代わりでありそれはガンキチにとっても同じことだった。


 ガンキチは現実世界で一度死んでから異世界ハローワールドに転生を果たした人間[ヒューマン]。

 生前のガンキチも職人だった・・・とは言え、非合法な武器を作っては町に蔓延るギャングや仁義に五月蝿いヤクザ相手に改造拳銃や廃鉄を溶かして銃弾を作ったり、護身用のナイフを鍛えたりしていた。死んだ理由は、ギャングとヤクザの抗争に巻き込まれた訳ではない。自分の鍛え上げたナイフの刃が脆かったのが敗因と言えよう。

 銃弾とナイフでは、拳銃から放れた銃弾の方が明らかに早く仕留めることが出来るだろう。ただ戦況や戦闘技術に左右されて、時には銃弾よりも素早く致命傷を与えることも可能である。簡潔に要約すれば、武器だけが全てではないということ。それでもガンキチは自身が作った力作が一閃で切断されたことが許せなかった。

 だからこそ、最強の武器を鍛えることに執着と執念という名のを闘志を剥き出しにして今まで向き合ってきた。のだが、その心は折られた。今まで多くの修行門下生や師匠や先輩と自身の信念についてぶつかり合ったことは何度もあったが自分の言葉を曲げることはなかった。しかし彼女は違った。

 シロナ。と呼ばれるこの国きっての古株職人は真っ向からガンキチの信念を否定した。数をこなすガンキチに対して、シロナは依頼人の要望を叶えつつ最良の一本を作り上げていた。ガンキチは言葉を失った。彼女の言うとおり、自分よりも明らかに幼い少女の特性を理解して見事な一級品を作り上げたのだから。

 今回、自身の古巣でもある教会に足を運んだのは進むべき目標を見失った自分へのアドバイスとこれから遠い地へ行ってしまう彼女にお別れの挨拶をしに来たのだ。


 祈りを捧げたユンファは、ペコリ。と丁寧に頭を下げて再度挨拶した後に神父《父》を呼んでくると言って孤児院施設に歩いて向かっていった。


「ここも懐かしいな」


 呟くように漏らした言葉が聞こえていたようで見知った人物が早くも現れた。

 神父様と言えば堅物やほっそりした人間をイメージしがちだが、彼はこの世界の大きな戦争で片目の光を失った元傭兵だったらしく強面であるが故に第一印象で頬を引き摺ったことを今でも忘れたことはない。だからこそ、ここ出身の子供たちは神父の顔全面に及ぶ戦場痕を見て育った為に冒険者を志す者が極めて少ないのである。


「久しいなガンキチ――。

 目指す鍛冶職人には成れたのか。それとも進むべき目標でも見失ったか。どちらにせよ、帰ってきたのだ。お茶にせぬか?」


 ええ、ありがとうございます。と言って当時まだ転生して日の浅い時分に育ったホームに顔を出すことにした。

 渡り廊下を歩いて突き当たりを左側一階に行くと年相応の女の子たちが。二階に行けばまだ世間を知らない幼い無垢な少女たちが寝ていることだろう。右側も同じこと。一階は年相応の男の子。二階は無邪気でわんぱくな少年たちがいる。こっち側とは別の反対側は二十歳を過ぎた男女別の部屋が個人に一部屋割り当てられている。

 二年前は二十歳以下の一階ホームで過ごしていたガンキチは、早朝だというのに誰もいない何時もの安心感に押されて嘗て自分が寝ていた暖炉の近くに寄る。

 スス払いは日課だった時分を思い出しながら、腰を下ろしたガンキチは火魔法【ファイラ】でくべられた木炭に火を灯す。


「どうだい、同じ開拓世代でもきれいなもんだろ。お前と同期だったイヌガシやレイチェルは、片付けを知らん。仲裁役のお前が真っ先にここを出た後は大変だったぞ」


「ああ、そりゃあ。御愁傷様です」


 彼等のことをよく知るガンキチは、そういう他になかった。

 ガンキチの同期生は奇しくも二人だけだった。イヌガシという年下の少年は珍しく冒険者に憧れをもって、ギルド『ラビットフッド』に入団。彼にいつもイタズラされていたというのに彼を追うように飛び入り入団したレイチェルという年上の少女は今や、ギルドの幹部に登り詰めている。

 その性もあってここを出たからといって、同期にして友人のイヌガシには何時も会っている。大抵が冷やかしだが、最近では砥石や火打石。武器の研磨と防具の新調依頼が多く常連の一人になっている。但し、レイチェルは別だ。そもそも彼女はイヌガシに引っ付いているのでガンキチ自体に興味はないらしく、鍛冶屋に来ることは一度もなかった。というよりは彼女自身が魔法使いなので立ち寄ることがほぼないのだろうけど・・・。


 それぐらいしか言うことないのか。と神父は少々お怒りのようでふてくされているが、そこは大人の対応で直ぐに話題を切り替える。

 丸型のちゃぶ台に用意された熱い紅茶と子供たちの手作り感が満載な不格好なクッキーやビスケットの甘さに釣られて自然と顔が上がる。その仕草に苦笑して神父は、掌を返してどうぞ。という。クッキーにしてもビスケットにしても、一枚一枚味も食感も違うけど温かみと心籠った気持ちが伝わって笑ってしまう。


「甘い・・・。辛い・・・。しょっぱい・・・」


 でも、それがいい。

 人それぞれが同じ答えに辿り着く訳じゃないんだ。分量の計り間違いで粉っぽくもなるし塩辛くもなる。イタズラにカラシを加えたヤツには後で制裁を加える必要アリと考えるのも仕方ないこと。

 ポリッ、カリカリ・・・。と齧っては咀嚼を繰り返し一皿をぺろりと平らげたところで紅茶を飲み終えた神父がコトッ。とティーカップを受皿ソーサーの上に置く。

 ふむ。と一旦合間を於いてちゃぶ台の卓上に両肘を置いて祈るように手を組む神父は、ガンキチに再度尋ねる。質問の内容は変わらずそのまま、悩みの根源を遠回しすることなく真っ直ぐに問うのだった。

 その質問にガンキチは、この世界ハローワールドに来てからの記憶エピソードを頭の中で連想させながら答えを絞り出す。


 もう答えは出ていたのかもしれない。ここに来たのは、ただ・・・聞いて貰いたかったのかもしれない。

 俺の信念は曲げない。と孤児院ここを出るときに誓ったこと。

 心とは、俺の鋼の魂だ。出会いは、ナマクラに熱を灯した。喧嘩でぶつかり合って生まれた鋼を鍛え上げ、師匠や先輩からの教えと競争で研鑽されてこそ鍛冶職人は強く逞しく成長する。

 俺の考えは、間違っちゃぁいなかった。方向性は違えど、違ったからこそ出会えた巡り合わせに感謝しなけりゃなんねー。もしも、灰色事件や以前の俺がいなけりゃシロナさんに会うことはなかった。

 でも、俺は間違って良かったとも思える。量産することで鍛冶技術の基礎は、ミッチリ染み着いた。固有能力【体力限界タフネス】でスタミナとパワーは、並の人間種[ヒューマン]以上の数値に到達しえたのは籠って生まれた熱と血と汗の成果と言えよう。


「神父様。いえ、シュヴァインさん。俺はこの国を一旦出ようと思います。っても、まだ計画もないですけど。それでも、俺は世界を見て歩きたいんです。孤児院を出たっていうのにアレですけど、親代わりのシュヴァインさんには言っておこうって思って」


 世界を旅をする。って言うのは簡単だ。有言実行出来るかなんて分からねー。でも、この国に閉じ籠ってたら結局俺自身は何一つとして変わらねぇーんだ。

 俺の目標は心が折れようとも螺曲がろうとも変えるつもりはない。最強の武器を鍛え上げてソイツを気持ち良く奮ってくれる英雄の姿を見てみたい。ーーとまあ、考えてはいたのだが、そういうことならまずは仲間を集めることだな。と何故かノリノリの乗り気で薦められたのがココである。



◇中層 ギルド商会◇


 この時期シーズンに訪れる冒険者はまずいないだろう。来るべき剣舞祭ビッグイベントに備えた準備に勤しんでいるからだ。役所としての責務を果たすという為でなく、自国の循環中枢を自分達の力で回す努力を実らすのに手と足と頭を回している。

 遠い地の国からご足労願った名だたる王族や皇族、国や領地を治める統治者を支える大臣や貴族に傭兵団の体を癒すべく最上級のオモテナシと宿舎を用意する接待業。隣国と外国から遣ってくる行商人と自国の商団との物流一括管理は、イベント中からイベント後までの経済対策を考えてのことだ。

 それだけではない。イベント中の運営全面支援を国王直々に仰せ使わされているのだから一切の手抜きも暇を持て余すこともできない緊張状態が毎日続いている。客人ガンキチが商会に入ったと言うのに、目も暮れずに自分の与えられた仕事が手一杯でスルーされる中で一人の青年が声を掛けてきた。

 やあーー。と陽気な挨拶を交えてくるが彼の目下には離れていても良く分かるクマが出来ている。そのクマを見てしまえば躊躇ってしまうほどの異様な疲労を滲ませているが、疲れを表情には出さず初対面だというのに自分の名を口頭から呼ぶ。


「ガンキチ君だね。

 孤児院の院長シュヴァインさんから話は聞いているよ。なんでも、仲間を探しているとか。いやー助かったよ。抜け出せる口実ができたからね。さあ、行こうか。表に強面のお兄さんを待たせてるんだ」


 流石はギルド商会の会長さん。人の上に立つだけでなく、横の繋がりを持った人間は心強い。しかし、一体全体何度徹夜しているのか。表情に出てたくても経験で分かるのだ。目下のクマも然り、カサカサの皮膚とチョビヒゲとボサボサの髪を見れば三日以上の徹夜をしている証拠だ。

 仲間を探している? むー、確かに旅路は一人では辛いだろうが。観光よりも冒険・・・。

 この国に鉱石供給源の多くは、ダンジョン【水晶洞窟】とダンジョン【黒結晶洞窟】で採掘された地下資源。外国からの輸入品の鉱材【ニッケル鉱岩】や鉱材【コバルト鉱石】の採掘は叶わない。世界中で流通している鉱材【鉄鉱石】は採れても、ソレを扱った装身具は非常に安価で使う者は滅多にいない。敢えて言うなら、素人鍛冶職人の修行の一環になる程度。

 冒険。危険な駆引きで引き締まる緊張感と空気の中で採掘した鉱材を自分で入手することが叶うなら、それは至福かもしれない。神父様・・・・・・いや、シュヴァインさんは知っていたのかもしれない。行き詰まっていた自分にここまで早い対応ができたのは―――。


 それにしても、強面のお兄さんとは鎖帷子の武闘派っぽい人だろうか? と会長のベルさんの後を追うガンキチだが、何故か注目を集めるのだ。

 それも全職員からの視線を受けて、逃げるように立ち去るが彼は気付いてはいない。視線が向けられたのが客人ではなく、長として人の上に立つ存在の逃走を目で追っていたことを知らない。


 さあさぁ、行こういこう。と妙にテンションの高いベルは客人の背中を押して熱い視線から逃げるように後押しする。ギルド商会の屋外に出た先で待っていた黒い胴着姿に鎖帷子の腹巻きをした人物は、やっとか。と持たれ掛かっていた柱から背を離して閉じていた目を開ける。

 彼の瞳に見えたのは獅子だった。眠れる獅子。強く大きな力その牙を隠し持った獣の顔をしているが妙な感覚だ。と言うかただ単に眠たいだけでは? と思ってしまう。

 道中ーー。ベルさんと眠そうなベルさんの知人、その名をディアンマと言うらしく武闘家に見えて実際のところは魔法剣士なんだとか。取り敢えずの自己紹介はしたのだが、俺に興味がないのか素っ気ない返事で滅茶苦茶眠そうだった。

 アクビもしてたし、傭兵と言うのは忙しいのだろうか。と思ったのだが道中の彼等が言うには"ヒロキ"という人物を三日三晩待っていたらしい。

 風の噂で聞いたことはある。ある情報通の少女の話では、数百の悪魔を惨殺した英雄と呼ぶ。ある教職員は、難易度の高い魔術を暴く天才と言う。ある成り上がり貴族は、恩人を見殺しにした愚者と語っていた。

 その人物がこれから邂逅する相手なのだろうか? と焦燥する上空を仰いでいると耳に怒鳴り声が尖った。


「ヒロキのアホ!!」


 怒鳴り声の後にバタンッ。と強い勢いで閉められたドアの音にビクついてしまうガンキチ。その一方でベルさんとディアンマさんは、慌てて降りてきた美少女を捕まえる。

 最早、犯罪の現場に見えたガンキチは恐る恐る物陰に隠れて耳を立てる。聞くにどうやら"ヒロキ"と喧嘩したらしい茶髪の美少女レインさん話では、クーアという元奴隷少女をこの国に置いていくと言ったらしいことから口論になったという。

 元奴隷少女? 奴隷に『元』も何もない筈だが・・・・・・特殊な事情なら或いは――。と考えていればディアンマから眠気は消え、険しい怒気が芽生えたその瞬間をガンキチは見逃さなかった。


 ディアンマは旅館『桜牡丹』の襖を勢い良く開いた性で布地が破ける。それを遠い目で見ていた女将さんが喚くのも無視して、青畳の上で酒瓶を開ける青年から酒を取り上げる。取り上げた酒瓶であろうことか青年の頭上をカチ割るように降り下ろす。

 ガッシャン。と割れた酒瓶の緑色ガラスを持ち上げて、まだ残る酒を勿体ないと言わんばかりに飲み干す。天井を見上げる青年だが腰を曲げて険しい表情をしたディアンマがそれを邪魔する。


「立て!」


 ディアンマの怒鳴り声が部屋に響くのだった。


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