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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#087】 Changeup -守護神の真価-

●灰色事件篇『最終章』●

これは変化球――。役者が望むものとは?


◇最下層◇


 最下層の一角を統治していたデイドラが去ってからというもの。奴隷商人の撤退。黒魔導師の移住。犯罪の横行が続いていた犯罪者たちの拠り所や組織の壊滅で治安は良くなっていた。

 統治者デイドラを失った区画は、奴隷商人が仕切る奴隷娼婦が蔓延る俗に言う『色町』。ただ、最上層の色町とはあからさまに低俗で一般常識セオリーを無視した昼夜問わずの喘ぎ声が町中に響くのだ。

 奴隷商人の撤退で商品の扱いだった買われた奴隷。買わず仕舞いの奴隷も置き去りだった彼等彼女等は、ギルド商会が全員を買い入れて支援者サポーターになるよう育成している。つまりは、区画丸ごとが手付かずで放置されていた。

 他の統治者としては、土地は欲しい。しかし、区画が手に入ったところで人員が増える訳でもなし。資源が埋まっている訳でもなく国に納める税金が倍になることを恐れて手を出さなかったのである。そこへ介入したのが、アルファガレスト卿だった。

 手中の職人勢の力を借りて、区画の建造物を解体。素材回収を行い現在は再建造に追われていた。


 トンカン、トンカン。と金槌を振るう職人達を支える女衆がヤカンや大皿いっぱいに盛られたオムスビを配給している。夕闇に陰った町を油屋のおじいさんからおじさんまでの世代が提灯に明かりを灯して巡回しては、暗い夜道を照らしてくれている。

 すれ違う人全員が彼をよく知っているようで挨拶が飛び交う。その度に私は彼の影に隠れて途絶える声を待っている。そんな臆病な私に彼は手を引いて謝ってくる。

 謝りたいのは、自分なのに・・・。と思ってしまうクーアは頬を膨らませて仄暗い夜道を恩人のトーマスと歩いていく。



◇最下層 アルファガレスト卿邸宅◇


 最下層の建造物で最も大きかったのは、デイドラ所有の奴隷市場。デイドラ邸宅。という順番だったがその何れもが解体されて更地となっている。奴隷市場に至っては、巨大な施設を建設中らしく作業員が歩いていくのが見えていた。

 そんな光景をアルファガレスト卿邸宅に続く階段から見下ろしていたクーアは、横を歩くトーマスに何を作っているのかを問う。


「ああ、あれは下水道を浄水。ヘレンさんが言うには、汚水をキレイにして飲める水に変える魔法工学の結晶らしい。設備の費用と維持費は、国民の血税になる訳だが―――。これでちょっとは最下層もまともになる筈だ」


 凄く嬉しそうに答えを語るトーマス。

 何やら気持ち悪いほど微笑して離れたいくらいなのを我慢するも自分クーアを救ってくれた恩人だと割りきる。

 クーアは階段を登りながら考える。どうして御主人様は、この手紙を届けるようにと。ううん・・・。と首を振って歩く。

 自分の持つ手紙には重みがあった。封筒は普通の紙製。魔法が編み込まれて要るわけでもなく、封蝋もない。透かさなくても触っているだけで一枚の便箋と円型のコインが封入されている。


 "・・・持っていけば直ぐに分かる・・・"


 とも言っていた。

 私もバカじゃない。きっと御主人様は今回関わった『灰色事件』の歯止めを仕掛けるつもりなんだと。アルファガレスト卿には、それだけ大きな権力を持っていると分かっているからこその出来ること。

 ここまでの道中。トーマスからアルファガレスト卿がどんな人なのか聞いてみると、彼からしても恩人らしくお世話になっている。尊敬に値するとても優しい面倒見のいい人物だと雄弁に語ってくれた。―――でも、それは知っていた。お世話になったのは自分もだから。

 クーアはそんなことを聴きたかった訳じゃなかったのだ。アルファガレスト卿の貴族としての階級は『男爵』。それでも国王の親族として立場上は爵位問わず、国王に匹敵する権力を持っている。現にこの邸宅に近寄る人間の多くがぎこちなかった。


 最下層の統治者とは、領主に近い存在。

 国王から与えられた区画エリアの統治を任せられ、区画に住まう国民は低所得者に限定されるが為に税金を統治者に納める。統治者は納税額の七割を国に納める手筈となっているという。納税額は週別でころころ変わるらしく、五割だったり。四割五分の時分もあったそうだ。

 どちらにせよ、国民が納める税金が変動する訳ではないので利益があるのは統治者だけに限定される。その利益を自身の財産とするか区画民の為に有効利用するかは統治者次第。

 アルファガレスト卿は、国王とのパイプが非常に強い反面でそれをよく思っていない人達とトーマスのように救われ人達で支えられている危うい統治者に思えたのだが―――。


 メイド長リファイアさんの手引きで執務室に案内された私達が手紙を届けるなり、アルファガレスト卿は便箋の文章を読み終えるなり大笑いして高級椅子に座り込む。

 パイプに火を灯して咥えると、煙草を噴かすように白煙を吐く。甘さを味わっているのか。それとも苦味を味わって嗤っているのか分からないがアルファガレスト卿が文面の内容に嗤っているのだろうと二人は解釈した。


 封筒の上には硬貨コインが一枚置かれている。それを見たトーマスは瞳孔を開いて驚愕する。クーアもそのコインは知っていた。御主人様が銀行屋に納めていたとても高価な硬貨。煌貨だ。

 クーアはギルド商会でのやり取りを思い出す。確か・・・。


 "・・・煌貨は、王族の代紋みたいなものだもの・・・"


 とレインが言っていた。

 御主人様が煌貨ソレを渡す意味が分からないでいると、アルファガレスト卿は咳払いした後リファイアに食前酒を要求して世間話から語り始める。


「英雄の証明は、難しいとは思わないか?

 ヒロキは。アイツは他人に優しすぎる奴だと会った当初は思っていたが・・・アイツは変わった。何があったのか私には分からない。それでも、この文面を見ればそれが分かる。

 ヒロキは全部を一人で抱える男だった。クーアを助けた時もトーマスを恩人に思う一方で自身のプライドを捨てて食糧をかき集める。トーマスが取ってきた汚れ仕事を坦々とこなしていた。自分はどうなってもいい。自己犠牲の塊だった男が、使者にトーマスとクーアを選んだ。その理由が分かるか?

 いや、分からんだろう。クーアは多少は予見しているんじゃないか?」


 卓上の開けられた封筒だけを滑らせて、取れ。と言わんばかりに掌を見せる。封筒を受け取ったクーアは、未だに幾つかの疑問があった。それでも口にしたのは、何となくだけど・・・自分の役目が分かったからだった。

 言葉は一言だけで、疑問符を添えて関わっている事件を明かした。


「――そうだ。

 『灰色事件』事件の解決後、最下層の内情は悪化の異図を辿ることになる。通過換金政策に反抗した"灰色の猟奇"による甲邱襲撃事件を例え権力で螺曲げて、『近衛兵の実地試験』という名目を謳っても噂は広まる。

 元々、低所得者に限られた区画民。噂が広まれば政策は直に改定される。そうなった時、私では手に負えないことは予想していた。信頼関係もごく一部の冒険者や商人が支えだが―――」


 そこでトーマスを見る。

 話の内容や筋書きから、なぜ自分の方に目を向けているのか分からない。という顔で見返す。クーアは分かったようで頷いて見上げる。


「おい、まさか―――!?」


 うん。と首を縦に振って肯定するクーア。


「そうか、ファンクラブ会員十五番の俺が遂に可憐で可愛いシェンリル王国のアイドルことレインさんと二人でイチャイチャ・・・―――」


 妄想ランデブーを膨らませるトーマスに無言で見詰めるクーアとアルファガレスト卿。リファイアさんも呆れて部屋を後にするそんな反応リアクションを受けて、必死に冗談だと訴えるが信じてもらうのに十数分ほど掛かってしまった。

 クーアは恩人という幻想を壊し目を合わせようとしてくれない。そんな光景を楽しむように苦笑を抑えるが、話が進まないので続きを語ることにした。


「・・・まぁ、それはそれとして。

 ヒロキが贈ってきた煌貨一枚には、王族と並ぶ絶対的な権力が約束される。但し、資格ある者だけが対等になることを赦される。真面目な話、この一枚で国王が築いた政策すらも改定できる力だ。私はヒロキの案に乗る。乗らなければ、奴隷市場が解体された最下層は崩れ去る」


「しかし、それは―――」


 トーマスは最下層の現状をよく知っていた。何時かはこうなるんじゃないか? と思ったことさえあった。

 国王の思想上では、『通過換金政策』が世界中で認められた場合の次の政策はわかっていた。誰もが望んだ『奴隷制度撤廃』。ただ、ここに行き着くには世界中の金銭問題を解消する必要があった。

 しかし、良いのか。悪いのか。ギルド連盟で認証される前に『奴隷市場』は解体されてしまった。これによって、奴隷の売買も売春と買春も減少しつつあるが未だに奴隷商人が少数見受けられる。

 奴隷に人権はない。商品扱いだったのだから、税金を払う必要もない。だからこそ、奴隷商人は国で商売すれば儲かるのだ。彼等が商品手を出すことは殆どない。絶対禁忌タブーとされているからだ。

 故に同じ最下層の色町で欲求不満を解消するか。態々、高い金を叩いて『通行許可認定証』を発行して最上層の色町に繰り出す者が多かった。そのお蔭もあって安泰だった風俗店が幾つかあると聴いたことがあると言うか、ほとんどがハナミチのクダラン情報だったのだが―――。


 ヒロキの案に乗る。その答えは統治者の座を降りるという意味だ。最下層の統治者になる条件は、子爵以下の爵位を授けられている著名者や英雄騎士に、支配力を持った商人がその該当者となる。

 しかし、煌貨を手にしたアルファガレスト卿は男爵の地位から侯爵までに向上スケールアップできる力がある。空席なった統治者は他の利権者に譲るのが決まりごと。もし、そうなったら・・・デイドラみたいな奴が統治者になったら反乱どころではない。


「・・・・・・だから、トーマス。お前が次期統治者になるんだ」


 へ? と疑問に思うも思考が停止してしまった。

 ワケガワカラナイ。だってさ・・・、俺はCランク冒険者だぜ。人の前に立って先導するなんてモンスターと戦っているから出来るだけで、一緒に産まれる生きてきた皆のリーダーになるなんて無理だ。


「オマエしかいないんだ。

 トーマス。お前は自分では分かっていないかもしれない。それでも、もうお前を認めてくれる奴でいっぱいじゃないか?

 何度も流星騎士団の誘いを断ったことも知っている。断ったのは、騎士団に入団すれば最下層に来れなくなると思ったからだろう。遠征にも行かないのは心配だったからだろ。だったら、今度は自身の手と仲間達とで守っていけばいい。

 トーマス。お前は私以上に人の上に立つ資質と器を秘めた守護神リーダーなんだから」


 ははは、ハハハ。あぁ。アァ。全く持って、こんなのは嗤えねぇよ。

 ヒロキ。お前は、オマエって奴は何処まで考えているんだ。俺のことなのに俺以上にわかってやがる。畜生。マジでオマエって奴は、最高の英雄だよ。



    ▲

    ▽



◇最上層 甲邱◇


 国王の宮殿たる甲邱は、現在深刻な事態に追い込まれていた。それは国王脱走よりも緊迫した過去前例のない最大級の事件である。甲邱のそれも『謁見の間』に国王守護部隊『魔導』筆頭が人質に捕らわれた単独襲撃事件など前例どころか前代未聞スキャンダルである。

 目隠しのつもりかアイマスクを。両手と両腕を縛るのは拘束魔法。手前に人質レインの盾を作って侵攻していた。

 面妖なキツネのお面を被った黒装束の人物。人質とは身長が成人男性分に相当するが、華奢な容姿をしていることから女性だと分かる。露出させた細い腕をピッタリ張り付く漆黒の武着が見えていることから生半可な鍛練をしていないことが近衛兵の目でも理解できた。

 武着は戦闘職に就く女性プレイヤーに贈られるインナーの一種である。しかし最初に渡されるのは誰もが白色から始まる。これは日本の空手の帯と同じらしく、厳しい鍛練と訓練の他に実戦試験を完了させるほどに上位者と認められる。最上位プレイヤーには漆黒のインナーが授与され、事実上Bランク以上の冒険者と同等の扱いをされるのだ。

 つまりこの襲撃犯は、自分達よりも格上のプレイヤーでありながら筆頭を取り押さえる力を持っていることを示していたのである。だから誰も手を出すことは―――無いわけがなかった。


「と・・・止まれ!

 ここ。ここは国王の宮殿。品位を疎かにする。ふ・・・不貞の輩は、この国王の専属兵士。名をウォンシェン。いざ、参る!」


 謁見の間の扉を塞ぐ形で現れたのは、汗だくの一介の近衛兵だった。新人兵士。それも陽気人間のウォンシェンの行動とは思えないほど勇敢だが理解できなかった。

 参る! と言いながらも侵攻を阻止すること敵わず、魔力による威嚇だけで失禁してしまった彼を誰も笑わなかった。それよりも動けない自分達が不甲斐なく思うばかり。

 震え崩れるウォンシェンを魔法力だけで弾き飛ばす。人質の拘束魔法を解き、耳元で何かを囁いた襲撃犯はどんな手品を使ったのか。あの分厚い扉をすり抜けて謁見の間に侵入したのだ。

 途切れる緊張感。近衛兵の誰もがホッと一息着く中で、誰よりも犠牲となって立ち向かった勇者ウォンシェンが人質を介抱するのだが、何もなかったように立ち上がる。


 レインは、勇敢にも立ち向かった勇者に敬意を評して役目を与えることにした。元々は、彼女の人質になったのもすべては演技であって舞台ここでも役者が必要だと思っていたことで、ついつい嬉しくて甘えた一言で頼み込むのだった。


「それでは、お願いしますね♥」


 それがどう伝わったのかは定かではないが、アイドル的存在のレインからの直々のお願いにウォンシェンは奇声を上げて喜び、他の近衛兵も羨ましくも自分達にお願いされたような気持ちでそれを快く受け取った。

 ライブ会場満席で奇声上げるテンションにびくつきながらも、あ・・・うん。お願いね? と別に普通に言ったつもりが泣いて喜ぶ始末に疑問に思いながらもレインは計画を軌道に乗せることが何とか出来たのである。


 その一方で扉の中では、三つ巴の口論が繰り広げられていた。

 一人はキツネ面の襲撃犯。一人は杖をついた老駆。一人は高出力の炎を噴出させた太刀の刃を襲撃犯に向けていた。

 その中で女が言う。


「お久し振りですね。タクマ先生。カナタ君も随分と立派になったものね。同期生の決勝戦も良かったのだけど・・・私は悪いけど復讐を取らせてもらうわ」


 そう言う女に対して老駆は、残念じゃが・・・。から始めて答えるつもりが女の高笑いと共に掻き消さられる。

 その油断を突くように高出力の炎刃がキツネ面の頭部ごと撥ね飛ばす。宙を舞うキツネ面の頭部。燃え崩れる首下の胴体が灰になるが女の笑い声は止まらない。


「HUHUHUHUふふふフフフフフ、アハハハハHAHAHAHA!

 本当にアナタは一直線のまま。学習能力が欠如しているのかしら。それとも本気で私の首を切り落としたつもりだったの? それに話ぐらいは聴くものよ。礼儀の範疇として」


 くるくる。と宙を縦横無尽に舞い続けるキツネ面の頭部。その床下では増産される土人形の兵士を垣間見て驚きはしなかったがカナタもまた昔通りの彼女だと思う程度だった。

 タクマはヒロキから託された仕事を既に済ませていたのだが、今更ながら彼の思惑が何処まで捉えているのか興味本意で残留していた。無論、敢えて巻き込まれたフリを演技しながらだったのだがついつい好奇心に身を乗り出す。


「国王不在を予見した襲撃事件になんの意味がある?」


 その質問の意味が分からないカナタは眉間にシワを寄せる。いつ敵対行動に出るか分からない状況で振り向くなど御法度もいいところだが、女は常識を無視して答える。それでも油断の隙を作らない土人形を防衛布陣と問答がカナタの集中を削ぐ。


「バレてましたか・・・。何処で誤ったんでしょうね。でも私は計画を止めるつもりはありませんよ。

 カナタ。約束の死合いをしましょう?

 こんな遣り方でフェイには申し訳ないけど・・・死んでもらうわ。魅せてくれるんでしょ、完成したアルティメットスキルを」


 襲い掛かる数百の土人形の魔装兵団の全てが人形。それも両腕それぞれを尖らせた一本槍に変換させた殺戮石像兵は、容赦なく迫っては近接戦闘に突入する。

 華奢な作りをしている性もあって素早い機動性を武器に、編み込まれた魔装の魔力で貫通力を向上させた一本槍はカナタの刀ごと吹き飛ばす。カナタも負けじと振るって魔装兵に立ち向かうが斬れないのだ。

 高出力の炎刃なら一刀両断できて可笑しくないというのに歯が立たない。刃毀はこぼれ一つないのに斬れないでいた。


「ムダよ。アナタは甲邱にいながら、素材を知らないなんてソレは負けと同義。

 カナタ。貴方は結局、すがるだけの守護神なのね。評価を改めるわ。もう、貴方に興味はない。貴方よりも英雄ヒロキの方がよっぽどそそられる――」


 立ち上がったカナタは、分身を四体まで作り肉体を燃やし尽くす灼人となる。


「そう、それがアナタのアルティメットスキル【陽炎分身】―――お粗末よね。その四体全てが本体でダメージと経験値を四倍得られるリスキーなスキル。クダラナイわ」


 クダラナイわ。と言うまでに数百の魔装兵団は、残り一桁まで迫ったのだが蓄積されたダメージが経験値を上回って四体の分身は消えてなくなっていた。

 苦痛に耐え忍ぶカナタにキツネ面の頭部は、灰化したはずの肉体を再構築させて灼人となる。それはまさに、今ここでカナタが見せたアルティメットスキル【陽炎分身】だった。それも―――。


「私じゃあ、十体が限界みたいね」


 あっさりと披露されてしまった自分の限界値四体を越える十体と驚愕の完成度に喚くカナタは、彼女の二つ名を思い出す。

 嘗て、黄金世代最強のアリアに挑んで互角。国王守護部隊『狩猟』の元筆頭補佐であった彼女はアリアと同格の『最高戦力』"終姫"の名が与えられた。『最高戦力』は機密事項。知ることが許されるのは、国の最高幹部だけで彼女の失踪は公にされていなかった。

 彼女を止められる人間は、俺たち黄金世代でも無理かもしれない。強すぎるのだ。規格外の身体能力と複数の固有能力以上に、凡人が決して届かない領域"天武の才"を持った本物の天才。それがシアン=ファズナ。"狐の魔女"だ。



「―――本当にカナタさんは、"守護神"失格ですよ。筆頭の勅命がなかったら・・・って師匠居るじゃないですか」


 暢気にそう言う少女は、邪悪な鴉の羽根を螺旋状に舞い上げてカナタをひょっい。と拾い上げて玉座の壇上に寝かせる。

 いつの間にか玉座にふんぞり返っているタクマを見るが、老駆の瞳に写るのは両者共に彼の優秀な弟子達だった。まるで最初からこの光景を望んでいた。と言うばかりに口を歪ませるタクマにゾッとしながら少女を見る。

 準備体操をする彼女もまた華奢なのだが、シアンと比べるまでもなく幼い。無邪気な子供だ。違例の若さでシアンと同じ筆頭補佐を務める彼女は、"鴉の魔女"と言われている。筆頭クルスさんの弟子だ。


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