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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#086】 Teacher Part.Ⅳ -嘘の証明-

●灰色事件篇『最終章』●

これは優しい。悲しい。嘘の証明―――。



 俺ことヒロキの中には、三つの魂魄こんぱくが存在している。一つは俺自身の魂魄。魔導書セカンドプレイヤーだったカルマの魂魄。そして七竜の一対で邪竜ことジャー君の魂魄である。

 【反魂術式】はヒロキという肉体を媒体にして内側で魂魄の入れ替えをするということ。東ではこれを【反魂の秘術】と言われているらしいのだが、限られた特定の人物しかコレを知らない。

 ―――そう、知らない筈だった。それなのにあの男はこう言った。


 "・・・それともセカンドプレイヤーと呼んだ方がいいかい?・・・"


 霊化術式を発動したことも知っていた。

 彼は自身のことを"フィクション"と名乗っていた。それをカルマは、実在しない者としてその場所。即ち図書館の院長室に本物はいないという結論を出した。記憶共有能力でその時分の映像を焼いた記憶情報から俺自身が読み取った俺でもそれはわかる。

 しかし、彼《イグニード=エンブリア》はノンフィクションだった。図書館に保管されている歴史的財産データがそれを証明している。


 『ギルド商会:人物照会記述書』より一部抜粋するとイグニード=エンブリアは、元はギルド商会の職員だったとある。

 二年前の災厄後に、あの商会長ベル=ホワイト氏の師事を受けていたこと。"緋色の魔導師"としての実績考慮や国王自らの推薦により国立魔法学術院の学院長に就任。就任以降、数多の優秀な魔導師を排出していったことにより聖騎士パラディンに職位。現在は国王守護部隊『魔導』筆頭代行を務めるも学院で正しい魔法の扱い方を生徒へ教授している。

 

 腹黒カルマさん相手に先手を打ち続ける見事な戦術。心理的誘導。複数の属性系統を自在に操る聖騎士の才能から判断して真っ向勝負は危険だろう。万が一、挑めたとしても敗者カルマの二の舞を踏むだけだ。

 それでも本人の前に立つことが出来れば、心揺らぐことになる。



◇魔法学術院 外庭◇


「イグニード=エンブリア?

 何を言い出すかと思えば・・・は国立魔法学術院の教師の一端ですよ。私を学院長と間違えるなんてどうかしています。なんせ、私には学院長のように莫大な魔力を持っていない凡人なのですから」


 神父さんに見える二十代後半の男は、黒渕のメガネをくいっと押し当てる。右手に聖書を抱えてそう言う。

 ここに来るまでにすれ違ったプレイヤーの容姿から判断して、まず間違いなく教職員だと分かる。学生に至っては私服のまま授業に参加する者がほとんどだが、生真面目な学生は魔法使い特有のローブを纏って受けている。その一方で教壇に立って授業する教職員は全員が修道服を着ていたからだ。

 聖書を持つ理由を学生に尋ねると、小規模の神聖魔法が常時発動できる教職員限定の複製魔導書レプリカらしい。それで納得がいった。

 魔法学術院の教育上、試験的な魔法の発動は必須事項。発動させるのが未熟な学生であるなら誤爆の危険性があっても可笑しくない。万一、早急に対処できるように教職員へ上級治癒魔法を放てる魔導書を常時持っておけば安心というわけだ。


「確かにアンタから魔力をほとんど感じない。でも、それは学校が始まる前に魔力を分散させたからだろう」


「何を言っているんですか」


 俺の質問に意味が分からないと言うように、学院側を向いて歩き出すが三歩目で彼は硬直した。身震いさせて次第に左手が何かを堪えるように拳を作る。

 もう、それは俺にとって答えの証明となった。イベントリに仕舞っていた剥製のフクロウにカルマの霊核を入れて準備を整えた俺は、答え合わせを。カルマにとっては、リベンジが始まった。


 バサッ。と翼をはためかせるカルマフクロウに振り向く教職員は目を見開く。俯いて視線を落とし呪文を呟いているようだった。

 魔法発動の詠唱だと逸早く気付いた俺は、呪文スペルを読み取って先回りした。その結果、『風』+『水』の合成魔法に分類される氷結魔法【アイスジャベリン】を詠唱発動させようとしていた。

 【アイスジャベリン】は、氷の槍だ。魔法という強制力で空気中の酸素と水素から水を作って固体にさせる。槍の形状をさせた氷をダーツのように射れば、人体に穴が開いて運が悪ければ絶命に至る中級魔法だ。

 いくら学院の学業が終わっているとはいえ、物騒なことを考える。魔法発動する前に指パッチン。"魔法破壊スペルブレイク"で詠唱ごと消し飛ばす――が視界に浮かぶ三重の幻影に気持ち悪くなってしまった。

 これは―――。


「幻惑魔法【多重幻影】という視界。主に心理を乱し惑わす小さな魔法です。全く持ってアナタ方はなにも学んでいませんね。

 余裕だとでも思いましたか? その奢りは身を滅ぼす。まぁ確かに私も油断しました。まさか娘を連れてくるとは意外でした。しかし表情も伺わず手だけで心情を明かすほど愚かではありません。聖騎士と相手取ることがありましたら・・・」


 言葉が行き詰まる。

 発動させた幻惑魔法は、魔法としては小さいもの。しかし簡単に解術できるほど優しい魔法でもなかったからだ。最低限の拘束が出来る追加術式を編み込んでいた・・・筈だったのだが、魔法が解かれている。


「ああ、勉強になった。

 "緋色の魔導師"? いや違うね。"氷塊の魔導師"でもない。それに"リーグルの魔術師"でもなければ、イグニード=エンブリアでもない。そうだろ、―――アルジオ」


 その答えにカルマフクロウも、何故か一緒に連れてこられたココラも驚愕する。ココラの共犯者イェンバーと教職員は絶句して凍りつく。

 ココラが驚愕するのは、仕方ないのだがカルマまで驚くことはないだろう。と思うのだが反応リアクションに嘘はない。ココラもカルマもどうしてそんな答えに辿り着いたか気になる様子で見詰めてくるので、あんまり時間はかけられないのだが仕方なく答え合わせをすることにした。



 まずカルマフクロウが初老の男。イグニード=エンブリアと出会った時分に自身を"フィクション"と名乗った時点から奇妙さを感じていた。フィクションとは、辞書でも『実在しないもの』と記されているがそれを人物だけに限定されたものではないということ。

 そこで目をつけたのが、図書館に保管されている資料情報。

 全体的に改竄することは難しいだろうが、ほんの一部。特定の人物や事件に関して調べようものならガセネタに行き着くように仕向けられる。仮にソレが特殊な事件ケースで自由に閲覧できる施設がここだけなら間違った情報だけを頼る他にない。それをなぞる形で本人が口にしたなら、言葉を信じてしまう。つまりは、彼の存在以上に言葉さえもフィクションだったということだ。


 その推測を証明するべくフェイさんには、ギルド商会に行って貰った。

 理由は、そこに原版は保管されているからだ。原版は商会職員によって常に情報更新され、厳重な監視下セキュリティーにおかれている。閲覧には監視員の認可状に商会長ベル=ホワイトの印鑑が必要になってくる。

 フェイさんに任せた理由は、職権乱用を疑われるが流星騎士団団長の地位はそれなりに大きい。仮に時間がかかるようなら自分ヒロキの名を使ってくれ。と言ってあった。OCCの一方的な連絡がありカルマの仕入れた図書館の情報と原版に食い違いから、嘘が露見したと言うわけだ。


 さて、と。ここからが問題だ。

 どうしてカルマに嘘を言ったのか。どうしてクーアを眠らせたのか。それは"灰色事件"に誘導させることと自身の正体を見破られる訳にはいかなかったから。

 灰色事件の真相に導く本当の意味でのメリットは、時間稼ぎだ。

 イェンバーの行動は、理解できない箇所が複数あった。俺達がこの事件に関与した始点スタートは、魔法学術院学院長の言葉とイェンバーの不可解な行動からすべてが始まっている。トーマスたちは噂話からだが、偽物店主の口車に乗ったのが始まりだった。

 それぞれの情報や意見が食い違うように仕向けることが狙いで間違った方向に向かわせ、尚且つ娘達・・に最小限の危害で食い止めようとする。あの言葉だけだった。


 "・・・君に話したのは、止めて欲しいからなんだ。娘達の犯していることを・・・"


 この言葉だけが真に迫る印象を植えつけた。音声解析をしなくても声のトーンが嘘ではない。と真実を物語っていた。

 嘘で塗り固められた物語唯一の真実が娘を思う気持ちだった。それが告げるのが罪悪感だという確信に至ったのは、ある魔導書の存在。魔導書【ファティマ聖魔導の予言書】。


 ファティマ。

 『ファティマの聖母』と『予言メッセージ』から生まれたのが、魔導書【ファティマ聖魔導の予言書】なのだろう。


"・・・記された未来の出来事イベントを誰にも悟られずに見守ること・・・"


 そう言っていたが、それも嘘。

 OCCで一方的連絡を情報屋クモさんから受け取った時には衝撃をうけた。神話級の代物どころか、神物ゴッズだったのだから。


 真名は、神書【アポロンの予言書】。

 現実むこうでは、羊飼いの守護神にして光明の神であり、イーリアスにおいてはギリシア兵を次々と倒したという『遠矢の神』でもあり、疫病の矢を放ち男を頓死させる神であるとともに病を払う『治療神』でもあり、神託を授ける予言の神としての側面も持ち合わせる神。

 ギリシア神話に登場するオリュンポス十二神の一人。アポロンが持っていたという予言書らしい。


 クモさんから初回料金は無料タダと言うので、ついでにOCCでお願いしておいた。調査を依頼したのは、田舎町リーグルで起きた事件。それは消滅だった。

 文字通りの消滅。リーグルという町は、現在地図から消え去り、民族や出稼ぎ冒険者。商人たち六十未満のプレイヤーが死んだとのこと。ギルド連盟の調査報告によれば、何者かによる『風』系統の極大魔法らしい。犯人は未だに不明―――。

 クモさんの見解は俺と同じだった。狙いは神書【アポロンの予言書】。どうやって突き止め、何者が下したかは分からないがソレしかないだろう。



「もういい。もういい。

 私は。私の本当の名は、アルジオ="ファティマ"=ファズナ。三人の娘の父親であり、妻はエーテル=ファズナ。リーグルの魔術師だ」


 俺の答え合わせにうんざりした教職員は、自身の本名を明かした。聖母ファティマの名を与えられたココラの父親アルジオは、三人の娘と言った。その事に逸早く疑問に感じていたのは、ココラ自身だった。

 写真立てがソレを証明している。恐らくはココラ自身も知らされることがなかったのだろう。ただ、それ以上に父親だと言われて見つめ直すが傾げるばかり。


「そうだな・・・。顔が違う。と言うのも仕方ない話だ。少し場所を移そう」


 太陽も沈み暗くなったところで学院長室に案内された。室内で待機していた魔法人形のトニシャがお茶を出すのだが、カルマフクロウだけが警戒の眼差しでアルジオを見る。

 警戒する気持ちが分からないでないが、このお茶に毒物を混入してもメリットなんてない。あの時はアルジオなりにカルマという存在と性格を疑っていたわけだし、こう言っちゃあいけないのだが仕方ない。まぁ、すんなり飲むクーアもクーアだけどな。

 それに―――。


「警戒する必要はない。あの時は試すようなマネをして悪かった」


 頭を下げて、そう言うのだから悩む必要性は皆無だ。・・・結局、カルマフクロウは飲まずにアルジオの物語を聞くことになった。


 アルジオが語る真相はこうだ。

 三人の娘というのは、ここにいる三女のココラ。次女のシアン。そして長女のルビー。母親エーテルの事故死と酒場『小悪魔ルビー』の店主ルビーさんの死が原点だという。

 ルビーは所謂不良だったらしく、ココラが産まれる数ヶ月前に家出。その後、長女のことはタブーとしてココラには伝えなかったそうだ。それから八年が過ぎたある日、シアンに奇跡ユニークスキルが発現した。

 キッカケは妹を不埒な輩から遠ざけるつもりだった。神さえも葬ることの出来る決して赦されない力【堕天使の剣】をシアンは使ってしまった。これを数秒前に予見していたアルジオはエーテル親友イェンバーを連れて空間転移で離脱。

 リーグル消滅事件の真相がこれだ。つまり、クモさんと俺の見解は間違っていたことになるが―――そう見せ掛ける幻想フェイクを作った共犯者がマイトさんらしい。あの人は何をやっているのか。と思えば・・・家族を救うにはそれしかなかったのだろう。

 固有能力【堕天使の剣】は、制御不能状態で一つの町を焦土。地図から消滅できる危険な力なのだから、名前が知り渡れば家族とは引き離される。そこで偶然と言うのも怪しいもんだが訪れたマイトさんと契約を結んだという。

 その契約というのが―――。


「娘達。シアンの事故揉み消しをお願いする代わりに、私の所有する神書【アポロンの予言書】を委ねること。

 神と契約した神書を他人に委ねることなど論外。無論、罰。神罰が下った。アルジオという人間の経歴改竄と神物【死者の心臓】を与えられた私は、幽体や霊魂を認識できるがその度に憎悪と苦痛が脳天を駆け巡るようになってしまった」


 カルマの霊化術式を見破ったのはこれだろう。あぁ、なるほど。とカルマフクロウも納得している。

 しかし、こっちとして納得行かないところがある。『委ねる』という言葉が気になって仕方ないのだ。『譲渡した』と言うなら話は別だが、『委ねる』とは穏やかではない。

 マイトさんが欲しかったのは、神書【アポロンの予言書】ではなく中身にあるということだろうか。神との契約を恐れたか出来ない状態なのかは分からないが・・・。


 ともあれ、マイトさんとの契約後―――。

 エーテルは二人の娘を連れて貿易都市へ移住。国王に戴冠したマイトさんの計らいで、エーテルは"リーグルの魔術師"を名乗って植物園の管理と冒険者で二人を養っていた。その一方でアルジオは、イグニードという名でギルド商会の職員。その後、国立魔法学術院の学院長に就任していった。

 就任したその日に悲報が届いたという。妻だったエーテルの事故死から続くように娘シアンの失踪―――。悲しみに暮れる毎日を知らぬように、図書館へ賊が侵入した。それが次女シアンだった。そこでシアンは隠されていた真実を。アルジオもまた長女ルビーの自殺を知ったという。

 アルジオは、妻エーテルの事故死を受け入れられず事件の調査を親友イェンバーに依頼した。そして―――辿り着いたのが、強欲商人であり伯爵の地位に就いていたオグワード=ベルヤードだった。


「・・・・・・・・・」


 誰もが沈黙する中で、ココラはギュッと両手を拳に変えて怒りと悲しみを抑えていた。

 姉であったルビーの自殺。母親エーテルの事故死が偽装されていたことよりも、今までシアンも自分に真実を隠していた事実に腹を立てていた。しかし、その感情さえ悲しみに変わっていく。

 守られるばかりの自分が不甲斐なく、愚かでなにも。姉の無事を祈ることしか出来ないココラは、泣きながら崩れ落ちる。

 すまない。と言って抱き抱えるアルジオは、優しく寄り添うように抱いてずっと謝っていた。二人だけにしたい。という気持ちが背中を押して邪魔物は退散することにした。

 それにまだ、この事件は終わっていない。後のことはイェンバーに任せて俺とカルマは、急ぎ足で最上層の記念館に走らせた。


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