【#085】 Phantom Part.Ⅲ -灰色の魔女-
前話改稿していますのでそちらを先に読んでみてください。次週は新規更新の予定です。
●灰色事件編『最終章』●
灰色の魔女とはココラか? それとも"灰色の猟奇"か? それとも…。
『どうして、あんなことを聞いたんだ?』
茶屋『玉露』を出てから。勿論、料金は彼女の言い分通りにしようかと思った。しかしメニュー欄に記載されている料金を再度確認したところお手頃価格だったので自分が支払った。
茶屋というと結構値が張る印象だが、店主がアレなもんだから恐らくは食事よりも座敷遊びの方が高くつくのだろう。俺としては、メシ旨の低価格なら文句はない。
話を戻そう。
―――あんなことか。カルマも痛いところを小突いてくるがアレにはちゃんと理由がある。クモは情報屋だ。ただ俺としては、彼女のことを信用していない。挑発の言葉だけで充分すぎる答えを聞けた以上、これからは信用出来るってもんだ。
引っ掛かるところも、まぁそれなりにあったがな。それは追々分かるだろう。気にしても仕方がない。
今、遣らないといけないのは事件の主犯"灰色の猟奇"という女盗賊の確保が最優先事項だがそれだけでは事件そのものの解決とはいかないだろう。
真相の入り口はもう見つけている。問題は交渉が巧くいくかだ。レインとあれから連絡がつかない以上は人質に取られている可能性が高い。しかし・・・そんなことがあるのか。と少々疑問に思ってしまう。
この二年間で強くなったのは俺だけじゃない。そこは否定しない。国王守護部隊『魔導』の筆頭を務める前にレインは一介の薬師でもある彼女が人質になっているとは考えにくい。イヤな予感と胸騒ぎが収まらないまま、俺は最初の目的地に到着していた。
◇道具屋『Magic Castle』◇
エーテル=ファズナの娘の一人。ココラ=ファズナというハーフエルフが経営している道具屋。店内を一通り見回った限りでは、品揃えは豊富。レインが喜んでいたのだから間違いない。それに対して客の出入りが殆どないのは、亜人経営の店だからか。
まぁ、どちらにせよ。そっちの方が好都合だ。交渉途中で客人に入ってこられては時間が無駄になる。今は一分一秒が有限であり・・・・・・と店の扉に手を掛けた矢先のことだった。
時間が制止する。自分だけではない。他人、通行人も風も地面を這う昆虫も止まって見えた。身は封じられても意識がまだあることに微笑んで【霊化術式】を発動させる。カルマの霊核を店内に置かれていた魔法人形に付与させて【反魂術式】を成功させた。
時間を制止する魔法は、普通の魔法使いでは発動はおろか。そんな魔法の存在さえ知らないものが多いだろう。制止とは行動を妨げ制限するのだが、ここまで規模が大きいと消費魔力も半端ない。
ココラがここまで出来るとは到底思えないとするならば。と【念話】で伝達するも遅かったようだ。
『悪いが、手遅れだ。それにこれは本当に、お前の推論通りなのか?』
腹黒カルマさんがそこまで言うほどの共犯者とは一体どういうものなのか。知りたいところではあるが、ここはカルマに任せる他にない。派手な行動で注意を惹くよりは、術者を叩くのが常識ってものだ。
それにしても魔法の抵抗力が高いとこうなる訳だ。ステータスはあれから伸びてないのは当然としても、規格外の数値だというのはカルマとの記憶共有で改めて理解した。
・・・・・・・・・
Ability
HP;体力値15,298
STR;筋力値185
AGI;俊敏値342〈+15〉
VIT;耐久値253
DEX;器用値377〈+7〉
MP;魔力値0
Core;コア[???]
・・・・・・・・・
これが今の俺のステータス。筋力値だけが低いがこれは構築能力の具現化とこの二年間でバカみたいに鍛えた氣力で補えばいい。と安い考えを抱いていたが改める必要がありそうだ。
カルマの記憶にハナミチという男が言っていた【氣の呼吸】とは俺が使っている【氣の集束】と大きく違いがある。視界を奪ったと言うのに確実に術者を捉えてくる技は、俺のとは違う。
ハガネに教わったのは、集束だけ。集束とは周囲の自然エネルギーを吸収して束ねたエネルギーを放出するというもの。ただし、この力は攻撃と防御にしか回せないと言うのに呼吸はあらゆる面に多様変換できそうなものだった。もしも、この先アレを使える者と出会ったなら俺は負けるかもしれない。
これから挑む剣舞祭を俺は何処かで舐めていたのかもしれない。まぁ挑む前に、エントリー戦とランクアップが先だけどな。
時間が制止した世界でヒロキがそんなことに考えを更けている間、カルマは共犯者の魔法使いと対峙を強いられていた。
魔法使いの武器は大抵が杖を扱う。稀に魔力量の多いものは魔導書と契約して戦う。つまりは魔力を攻撃転換の武器に使う。だからこそ、こうして他の近接系武器を振るう魔法使いは珍しい。
魔法人形を器にして【反魂術式】を成功させたカルマの眼前に迫る魔法使いはメイスを中段で構えて姿勢を僅かに低くしている。
攻撃予測は『突き』と解析結果が出ているが、ヒロキの役目は交渉にある。無駄な争いは刻々と迫る最悪ルートに足をツッコムことになりかねない。それは避けたい。
「私はヒロキの使いの者でカルマと言う」
こういう自己紹介は大切だと思っていたのだが、どうやら快く話を聴いてくれるようで小さな溜め息を着いて攻撃の姿勢をやめる。メイスを仕舞って魔法を解く素振りを見せる。その途端に扉を開いてヒロキが入ってくる。
カルマはヒロキの顔を見るが、特に驚いた様子はない。まるで始めから共犯者がいたことを知っていたかのように平然とした態度で閉店の看板を表へ出す。
看板を出している途中でカルマから声がかかる。
「知っていたのか? 共犯者がいると・・・」
カタカタ。と看板を掛けて鍵を閉める。
「ああ、知ってたさ。共犯者が貴方だったというのは想定外。でも、お蔭で必要なピースは全部揃った。そろそろ出て来てもいいんじゃないかな」
そうですね。と言って暗がりな店の奥から出てきたのは、小柄なエルフの少女。この道具屋の店主ココラ=ファズナが翡翠の短剣を持って現れた。攻撃の姿勢ではない。短剣を携えて床に置くなり、両手を俺の方に差し出してきた。
捕まえてくれ。と言わんばかりだが俺の目的は違う。
「それは出来ない相談だな。
俺がここに来たのは、ココラさんを逮捕するためじゃない。第一、Fランクの冒険者にそんな権限はないよ。まあ、俺との話が終わったら自首をオススメするけどね。
―――それじゃあ、早速で悪いけど本題に入らせてもらうよ。女盗賊"灰色の猟奇"は、君のお姉さんに当たるルビーではなく、シアン=ファズナだね」
ルビー。という偽名ではなく正真正銘の本名が言葉となって出てきた瞬間、ココラと共犯者は身体が氷のように硬直する。それと同時に、『え?』とどうしてその答えに行き着いたか府に落ちず疑問の声があがる。
それより先にココラが考えなくてはならないのは、酒場の店主ルビーという偽名に気付いたこと。姉からも要注意人物が入店したのは二ヶ月以上も前のことだと聞いていた。この店に偶然やって来た時にも細心の注意を払ったというのに何処がいけなかった。全く心当たりが浮かばないでいた。
間を明けてココラは続きを言う前に口を挟んで問い質す。
「どうして、あなたが知ってるんですか?」
見破られたのがショックだったのか声に多少の怒りをヒロキは感じていた。構っている時間はないが簡単に説明することにした。そうでもしないと、腹黒カルマさんが心の内側から小突いてくるからだ。
全く持って釈然としない。記憶共有というチートスキルを使って俺の心を読めば済む話を。なんか遣りにくいだよな。クーアとなんかあったのか?
まぁいいや。答え合わせの前に途中式から解いていこうか。
「まず、最下層の酒場『小悪魔ルビー』店主を名乗っていたルビーという役者の話を手短に説明しよう。
先代にして本物のルビーが死したのは、二年間の災厄に巻き込まれたことによる絶望病。心の弱いプレイヤーは、自殺に走る傾向にある。それが絶望病。当時、酒場の店員をしていた偽物はその自殺を止められなかった。止めたくても止められなかった理由―――」
俺は二年前の災厄をほとんど知らない。
レインからや歴史的事件として記録された書物を読んで輪郭程度しか分からない。それでも多くの人間が苦しんだこと位は分かってるつもりだ。ーー死傷者ゼロとは名ばかりの栄誉。
実際には、災厄を未然に防ごうとしたギルド『六王獅軍』六番隊の兵士が全滅。ギルド『流星騎士団』『レオンナイト』の団員数名が命を落とし、ギルド『赤星聖教騎士団』の教徒団員がクーデターを引き起こし自滅。それでも死傷者ゼロとなった理由は、個人が組織したギルドに所属しているプレイヤーが国民ではないからだ。
因みに国民とは、国が組織した冒険ギルドや商人ギルドなどに籍をおいて労働している冒険者や商人などのことをいい。もしくはギルド商会へ特定書類のサインした教職員の大人から子供までを言う。
「―――それは災厄の防衛処置が彼女の本当の仕事だったからだ。
国王守護部隊は三つの部門で集約化されている。『聖騎士』は国王の身辺警護。『魔導』は魔法工学の向上と国の魔法防衛。『狩猟』は水面下から国を守る暗部たちとなっているが、その中でも『狩猟』だけが他とは一線を画している。
なぜなら、『狩猟』構成員の暗部には個人の名がないからだ。これは入隊の手続きで自分から名を消して自身の正体を探らせない為らしいがな」
目を瞑って真摯に聞き入れてくれていると思ったら、怒鳴り声を店内に響かせる。
「いい加減にしてください。
私が聞きたかったのは、そんなことじゃありません。どうして、貴方は国の人間でもないのに『狩猟』の情報や酒場の店主を知ってるんですか!」
小さい顔で睨まれても可愛くしか見えてこないのは・・・・・・違うよ。俺は別にロリコンじゃないぞ。ええと、・・・アレだ。怖くないから脅しには使えないぞって言おうとしたんだ。
で。まぁ、この件に関しては俺自身も茶屋『玉露』で聴くわけにもいかなかった。なんせ、国の重大機密を公衆の面前では流石にマズイ。そこで試したのが―――。
「OCC」
二年前ではボイスチャットだったはずだが、いつの間にか更新されてんだよな。甲邱に行く前は普通だったのに、記憶共有能力の影響か? まあ、これ使えるじゃん。って乗り気でこの計画立てたのは俺だけどさ。
む~。しかし、いいのだろうか。これもう、記憶共有って言う名のアップデートだよな。他にも「モンスター図鑑」の階級以外に等級が付いてるし。
とまあ。それはされおき。本来の使用方法とは異なるけど、一方通行のセッティングをしてるから漏洩の心配はない。
「いま動いているのは、"夜叉奉行"のタクマさんとギルド『流星騎士団』第六師団団長のフェイさんです。
無論、此方の話は聞こえません。一方通行にしていますから、絶対にここへ近衛兵が来ることはないですよ」
そう・・・。と安堵するココラ。
分からなくもない反応だが、妙に落ち着いている。共犯者は、反対に落ち着きがなくあっちへ行ったり、こっちへ赴いたりしている。
いそいそと忙しい奴だな。と思っているとカルマがあることに気付く。
『マズイ、結界障壁だ!!』
カルマの心から叫びと呼応するかのように、店内に描かれた円陣が青く光輝いて視界を一瞬だけ奪う。
目を開くと青光する精霊で埋め尽くされていた。つまりこれは、ただの結界障壁ではないことがわかる。精霊の力と魔法の力を使った二重二層式の結界障壁ということ。
結界障壁は、魔力を使う。現に床に魔法陣が描かれているが、この地下に別の精霊魔法陣という高等魔法陣が重なって発動している。
「ヤられたよ。
初手で行動制限。まさか次手も行動制限とは、戦術家だな。君のお姉さんは・・・確かに魔導師や魔法剣士。賢者ですら手も足もでないだろう」
けど―――。
「まさか!? 有り得ない。だって、いくら魔法に絶対的な抵抗が出来ても精神と物理を行動制限された二重二層式結界障壁を破れっこない」
取り乱すのはココラだけではなかった。
結界障壁を発動させた術者本人の共犯者もヒロキの方に向き直る。
俺からすりゃあ、コイツはただの難解なパズルでしかない。解くのなんて訳ない訳がない。精神と物理を行動制限した高等魔法陣を解くなんて俺だけでは無理だ。だから―――。
「壊すのさ」
精神と物理を行動制限したって言っても、結局は魔法だ。
魔力を喰らい消し潰す【竜の力】"竜人武装"を解放すれば、例え緻密に組み上げられた魔法障壁でも簡単に消える。しかし、それでは店が半壊する恐れがある。力をある程度コントロール出来ても発動させる出力を留めるのは難しいのだ。そこで協力を求めたのが、邪竜ことジャー君にお願いしたのだ。
腹黒カルマさんには内緒にして、魔法人形に霊核を飛ばすと同時にジャー君もまた【霊化術式】を発動させていたのだ。
邪竜の最大の力は、破壊にある。そこがカルマとは違うところであって面白いところでもある。地下に住まう生物に霊魂がまだ根付いていようが関係なく破壊して器とする強制力を使ってジャー君は地下の黒鼠君になっているらしい。
とまあ。黒鼠君のお蔭で地下に精霊魔法陣が描かれていることが分かった訳で、こうして破壊宣言が出来るってもんなんだけど。
「魔法破壊!!」
地下の精霊魔法陣の中心地に黒鼠の亡骸を置いて、俺の内側に戻ったことを確認して発動させる。
亡骸に魔法解体術式を仕込み、此方の魔法陣同時に解体する。彷徨いてる精霊さんには悪いが、ダンジョン『水晶洞窟』へ【空間転移術式】で飛んで行って貰う。
発動宣言と同時に、白く聖なる欠片が幻想的に砕かれる。ホタルが空に舞い上がる光景が瞳に浮かぶ。
「なあ、そろそろ明かそうや。
ココラの共犯者さん。いや、この国の冒険者であり・・・嘗てはPTでエーテル=ファズナをある人間の依頼で貶めた。メイスの魔法使いイェンバー。共犯者となったのは、償いのつもりか?」
ハッ。と幻想的な光景に現を抜かしていた二人はヒロキに向き直り、共犯者まで知られてしまっている事実に反応する。
お互いに顔を見合わせて、一歩前に出る。
「そこまで貴方は知っているのですね。
なら、姉が向かった先もご存知なのでしょう。止めに行かなければ、国が潰れますよ」
カルマさん。カルマさん。腹黒カルマさん。こんなこと言ってますけど、解析お願いします! と心の内側に頼んでみたのだが、解析皆無と言い切る。
当然かな。いまの言葉は本気じゃない。ここに来てまだ俺を試すとか。何処まで読んでたのかね。お姉さんは・・・。
俺は甲邱には行かない。
そこに行けば必ずレインがいる。しかし、レインを助けるのは俺の役目じゃない。助ける以前にレインもまた役者だよ。俺が騙されるんだから、きっとバカな近衛兵の目で見破られない。
偶然? 本当に偶然、この店に足を運んだ? 違うな。今から思えば、行動制限の小さな魔法を掛けられていたのだろう。流石は『魔導』筆頭だけはある。思考を誘導させてこの店まで連れてくるなんて、本当に大した奴だよ。これが―――誰かの指図でなければの話だがな。
「冗談言うなよ。
俺は甲邱には行かない。と言うよりは行く必要がないんだ。伏兵を忍ばせていることだし、問題はカナタが何とかしてくれるさ。
さて、行こうか。アポなしだから、時間がないんだ」
ココラとイェンバーは、意味が分からない。という顔をして見てくる。それは腹黒カルマさんも同じだった。
いい加減、記憶共有すればいいものを何時まで傍観者を気取るつもりなのか。さながらミステリードラマを楽しむ視聴者のつもりなのだろう。
まぁいいさ。どうせ、次の目的地ではリベンジするんだからな。




