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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#084】 Phantom Part.Ⅱ -灰色の黄昏《後篇》-

●灰色事件編『合流章・後篇・』●

次第に真相へ。今回は整理回。灰色事件編『最終章』に繋がる後篇!

改稿完了です!


◇最上層 道具店『扇屋』◇


「いらっしゃい。

 今日はどんな用ですかい、トーマスの旦那」


 道具店『扇屋』の店主は、トーマスの顔も見ずに「旦那」というのだから普段から顔馴染み以上に常連客なのだろう。と肩の上から窺うカルマフクロウ。

 扇屋を見渡す限り、中層で売られている道具店よりも上質な素材がストックされていることが分かる。ヒロキが重宝していた素材【火打石】も核物質がより優れている。それ故か、石の欠片というよりも丸い物が多い。鑑定上も『素材【火打石[上質]】』となっている。

 素材にも等級ランク付けがある。下から言えば[欠片][なし][上質][最高]の四段階で分けられ、価値レアリティーがテキストボックスに表示される。素材【火打石】の等級が仮に[最高]であったなら、核物質だけの立方体の形状になるらしい。


 クーアは、ショーケースに釘付けの様子。

 ガラスの壁向こうには、様々な種類の扇子が広げられており扇面に描かれた日本画。赤富士や舞妓さんが使うような桜柄の扇子もあるが、クーアは一点に目を置いていた。それは『竜』をモチーフにしたもの。

 鉄扇【轟火竜の鉤爪】。如何にも凶悪な銘だけに、金額も別格バケモノだった。税込価格『G300』金貨三百枚という破格の値段には、流石のトーマスも喜んで買う気にはならず顔をしかめていたのだが―――。


「良し! おじいちゃんが買ってやろう」


 タクマが陽気にしゃしゃり出てクーアの横に立つなり、蛇柄の上等な財布を出して支払おうとする。

 財布にも色々なものがある。冒険者の多くは大概がイベントリから直接出す者がほとんど。タクマのように国や町で暮らす者は、財布や金銭袋から硬貨を出している。

 わ~い、おじいちゃん大好き。と喜ぶクーアを見て一人と一匹は愕然としていた。


 一人トーマスは、どうしてこうなった? と考える。

 そもそも道具店『扇屋』に立ち寄ったのは、在庫品の確保にあった。冒険者たるもの何時何処でPVPや緊急クエストが下るかなど分かりはしない。だからこそ、非常時に備えて消費した道具はできるだけ早く購入するように心掛けていた。

 中層と比べて価格は三割増し。しかし、価格以上に品質を取るトーマスは、顔馴染みとコミュ力でそれをどうにか一割五分高までで抑えていた。と言うのに師匠は何を考えているのか? いや、そんなものは顔のニヤ付きを見れば一目瞭然。―――下心丸出しの顔付きだ。

 何がおじいちゃんだ・・・。と溜め息を着きながら店主に金貨二枚を支払う。


 一匹カルマフクロウは、最早自分の力では制御できんな。と諦めかけていた。

 当初はクーアの戦闘能力向上が今回のお出掛けの目的だったが、人並みのコミュ力の矯正も必要だと考えてはいた。しかしこうして見ていれば、その必要性はない。寧ろ今となっては、感情を抑える方法を教えた方がいいのでは・・・。と考えを改める。

 そもそも坊さんのタクマもタクマである。―――とは言え、図書館に保管されていた蔵書の一節に「かわいいは正義」などと綴られていた。つまりは、そう言うことなのか? と思い詰めた顔で悩むのだった。


 結局は甘やかされてクーアに鉄扇【轟火竜の鉤爪】。金貨三百枚全額を支払ったタクマは高笑いして店を退出した。

 白い着物を締める深紅の帯に鉄扇を差し込んだクーアは、いつも以上にご機嫌なルンルン気分で主人ヒロキが放出する微量な【魂の波動】を捉えて歩いていく。


 空を羽ばたくカルマフクロウは、トーマスの肩に止まる。

 止まったのは、疲れた羽根を癒やす為ではない。Cランク冒険者の実力の一端を知る絶好の機会だからだ。今までヒロキという特異体質の人間を間近で見てきたが、それは他人から見ればイレギュラー要員。カルマとしては、レベル五十の平均的な冒険者のステータスを知る必要があると思ったのだ。



 図書館に保管されていた『ルディウスの真価基準』から一部抜粋・要約すると・・・Fランク冒険者は、一般人の扱い。国から出ず国内の仕事をこなす者たちで禍福層で働くデンさんたちの手近な支援サポートをするアルバイト。

 Eランク冒険者は、新米から駆け出して一人前になるステップであり一般的には『ルーキー』と呼ばれる。このランクで漸く国から出ることが認可されモンスター討伐・捕獲などのクエストを受けられる。推定平均レベルは、二十~三十五。

 Dランク冒険者は、一人前から鍛え上がり戦士に至るステップであり一般的には『アマチュア』と呼ばれる。推定平均レベルは、三十六~四十四。

 Cランク冒険者は、戦士から磨き上げて一人前の冒険者を名乗れる。『ベテラン』『熟練冒険者』とも呼ばれ、推定平均レベルは、四十五~七十・・・・・・となる。


 これに当て嵌めると、ヒロキは間違いなくCランク冒険者になる。しかし経緯がどうであれ、すべてのプレイヤーの出発点はFランクからと決まっている。そしてFランクからEランクに昇格する方法も厳格に定められている。

 地方・大陸によって多少差異はあるが冒険者ギルドは、国王・皇帝・大長などが建国した国に必ず一軒支部が。領地を治める領主の機敏によっては領主管理の基に冒険者ギルドが運営される。

 例え、領地出身者であろうとも近隣の国に足を運んでランク昇格試練を達成クリアしなければならない。国によって試練内容は、大きく違ってくる。―――のだがシェンリル王国のEランク昇格試練を通過パスした冒険者は、この二年間で僅か十名足らず。

 地方別、最も「スパルタ」と言われているらしいのだ。その大きな理由は、国王マイト曰く『Eランク冒険者に求められるのは、冒険に非ず。生存率の向上。"生きる"意味を知れ』とのこと。


 トーマス。本名トーマス=ダリル。

 この人物について・・・と言うよりもは、ヒロキと関わりがあるプレイヤーから優先して選定。ある程度の個人情報は図書館から得ている。

 この町、嘗ての時代。セラフ=アンドリューが統治していた貿易都市シェンリルの代から、この国の産まれであり最下層Aブロック統治者アルファガレスト卿から絶大な信頼関係を築き上げている。成り上がりの冒険者。

 ダリル家についても一応なりとも調べはついている。奴隷でこそはなかったが、貧困層の出身で人間が直向きに信念を貫いてCランク冒険者になったのは、トーマス以外でいうと彼の父親ぐらいだ。


 ワンランクの壁は大きい。

 書物や蔵書を読んでも苦渋の選択を強いられる冒険者の手前に立ち塞がる障壁ハードルは決して低くはない。険しくもあり高くもあり硬い。

 とある引退した冒険者が直筆した書物の帯には、『Cランクで退役したマックスの冒険譚』。と記されていた。その書によれば、『魔物事変デス・パレード』という嘗てのヒロキも体験した『繁殖期』と同等の現象で利き脚を亡くしたとあった。Bランク昇格試練『ドラゴン討伐』にて両腕を喰われたとある。ドラゴンと言えば、王位級に相当するモンスター。挑んだCランク冒険者の凡そ九割が昇格試練を乗り越えられず多くは死に絶え、生があっても五体満足はいかない強敵。


 ヒロキも何れは対峙しなければならない。しかし心配は無用では? と改めるが気の迷い・甘さが最期を早まらせるならと緩い考えを捨てて神経質になってでも最善を尽くすことが重要だと強く意識する。

 その為にも・・・と。例え許されない所業であろうともステータスを見ようとするカルマに痺れが訪れる。僅かに動かせる身に魔力を纏わせ振り解こうにも巧く張り巡らせることが敵わなかった。

 意識を視界にだけ向けると、無表情ポーカーフェイスで前だけを見て歩くトーマスが口を小さく開けて喋る。


「カルマとか言ったか。

 それは止めてほしいな。ステータスの読み込みは重大な違反であり罰則ものだ。

 しかし、君があのヒロキとつるんでいるなら話は別だ。師匠から聞いたよ。剣舞祭にエントリーするそうじゃないか。挑むのは構わないさ。ただな。

 "舐めるな"

 と一言言っておこう。この祭典イベントは、戦士の最高峰"剣王"を決めるもの。

 出場者はシェンリル王国出身者だけじゃない。アルカディア大陸中の強者を集めて、己の誇りと命と大事なものを懸けた真剣勝負。どうしても出場するなら、俺を倒せ!」


 フクロウのカルマは、受け取ってしまった。違反とは知らなかったが、恐らくトーマスは完全にスイッチが入ったのだろう。と確信する。顔付きに変化はない。ただ声色が『本気』だと言っている。

 彼も立派な冒険者の一人だ。プライドが許さないのだろう。吟遊詩人が謳う英雄のルーキーが偉大なる祭典に出場することさえ躊躇ためらっているのは、ヒロキという存在に恐怖しているのか。それとも弱者だとでも思っているのか。

 もしも後者であるなら、私がここでステータスを見るのは確かにルール違反だ。ヒロキ自身が私を許さない。


「すまなかった。その真剣勝負とやらは、事件解決後に私からヒロキに持ち掛けよう。それで構わないか?」


「ああ、それで構わない。・・・それはそれとしてだな」


 言葉を濁らせた先の光景にはカルマもウンザリしていた。まるで孫に甘々のおじいちゃんの図だ。

 道具店『扇屋』を出てからと言うもの、おやつ【綿菓子】【吉備団子】【スマイ印の謹製蒸し団子】を皮切りに・・・祭食【ダイオウイカ焼き】【チョコっとバナナ】【ルビーリンガ飴】【爆弾たこ焼き】【濃厚ソース仕立て焼きそば】【ルビーリンガパイ】・・・と食べ進めていき、クーアの一体何処に入っていくのか。

 満面の笑みでモグモグモシャモシャするクーアに着いていくタクマが、ただの財布にしか見えてこない。本来の目的を忘れている二人に溜め息を吐いてはトーマスがフォローに奔走する。


 駆けていくトーマスから羽ばたいて風を切る楽しさに身を任せて滑空する。上空から見下ろせば、祭典が近づいていることがよく分かる。特に粋な振る舞いを見せているのは、剣舞祭のメインストリートになる闘技場コロッセオ近くでは模擬店が連なっている。

 完全にお祭りムードに見えがちだが、彼方此方で職人同士のイザコザや衝突があるのも事実。その多くが在庫ストック不足で揉めているようである。近衛兵が仲介に入っているが全てを対処仕切れてはいない。

 そんな光景を見たからには、一刻も早く『灰色事件』に決着を着けなくては。と思わされたのである。



~~ 数時間後 ~~

◇最上層 王宮都 茶屋町◇


 最上層の全貌を知る者は殆どいない。

 王宮都を作り上げた国王マイトは無論知っているが、それ以外で知るのは最上層を仕切る生産職の名匠・三つの国王守護部隊の筆頭。それと極一部の関係者だけである。

 この茶屋町にも一人いるのだが彼女・・は、ただの遊び人であり『仕切る』こともせず悠々自適に遊び暮らしをしている。


 茶屋町は次第に色町へ続く大人の街として広く知られている地区。シェンリル王国の街並みも甲邱でさえ素材【白金砂】を水で固めた素体【白金砂ブロック】という煉瓦状のブロックが使われているが、この地区は違う。

 彼女と各店舗のオーナーの粋な計らいで目に余る贅沢な異世界を作り出している。

 地面からして大きく異なる茶屋町は、地面を一旦掘り起こして自然素材の煉瓦を敷き詰め一定の間隔を明けては【固定】の術式が編み込まれた護符。その上に遥々海を渡って来た一級品の土で盛土。一般には出回ることのない木材や鉱石で基礎を組み立ててお店を一軒一軒忠実に築き上げている。

 抹茶を点てるだけでなく、名家の家族が度々訪れては茶菓子を嗜む団欒の場でもあり家を継ぐ子供達にお茶の正しい淹れ方を教える場でもある。

 また、舞妓さんが踊る。芸者さんが客人とお座敷遊びを楽しむ。五人にも満たない客人相手に酒を注ぎ、女将さんの作る小料理と言葉で胃袋がいっぱいになる。それが茶屋町。



 クーアは右手に綿菓子を持ち、後頭部にはキツネのお面を着けている。まるで祭りを楽しむ子供だ。

 とてとて、歩いては無邪気に笑うクーアを数歩後しろから坊さん・赤茶髪の着物男・銀色のフクロウと何とも奇妙な団体が追い掛けている。坊主の肩に腕を回して行動を制限する着物男を空の上から見るフクロウ。

 茶屋町の街並みも剣舞祭一色という感じに心踊らせるクーアは、フクロウに合図を送る。空を仰ぐフクロウは、クーアの胸にダイブする。


「うん! ここで間違いないよカルマフクロウさん」


 自分の愛玩具ファンシーグッズのように柔らかく美しい羽毛をもふもふ抱く。それに対してフクロウのカルマは嫌がるように胸の中でウズウズしながらもがく。

 ポンッ、と良い音をたてて胸の中から這い出た頭部を今度は愛でるように撫で撫でするクーアのニッコリ顔に些か照れながら嘴を頬に突く。クーアは顔を上げてお店の表を見せる。


 日本語の漢字で書かれた独特な文字。『茶屋 玉露』と抹茶色の看板に白色の文字が印象的なお店。よくよく見れば抹茶色に染めてあるのは和紙。どのお店にも赤色の提灯を着けて祭りムードを作る中で、少々浮いた桜吹雪柄の提灯に火が灯っている。

 もうすぐ夕暮れ時という時分には丁度良い心地好さを演出しているようだが、他店から見れば邪道だと言いそうな顔付きで行き着いた自分たちを避けている。その一方で、店の手前で止まった自分たちを客人と思ったようで若葉色の着物を制服にした店員が駆け寄ってくる。


「ようこそ、いらっしゃいませ!」


 ・・・とそこでクーアが「あ!」と声を漏らす。

 何に驚いたのか。とカルマも重たい首を捻って店員を見ると見知った顔がそこにはあった。中層の中街でレインの兄。クロムの屋台でバイトに励むも、雇い主を卍固めで落とした後に投げ技で畳み掛けた暴力少女レコンがいたのである。

 流石にバイト先が一軒では金貨五百枚の借金返済はキツいのだろう・・・。と考える一方で暴力少女に務まるのか心配そうに見詰める。

 さらにそこへ足を踏み入れた少女の登場がクーアの内側に引っ込んでいたはずの嫉妬心が浮上。一気に火花を散らして爆発する。


「ああ! ヒロキをたぶらかしてた女だ」


 初対面のしかも自分よりも明らかに小さな少女からの爆弾発言に「え!? なに・・・」と困惑する女騎士は団体客の中に知った顔を見て尽かさず挨拶に向かう。

 女騎士が向かったのは、赤茶髪の着物男に絡まれている坊主のところにだった。金を巻き取る悪人に絡まれていると思った女騎士は剣の柄に手を掛けて目を尖らせる。


「オイ貴様、その汚い手を放せ!

 その御方をどなたと心得る。国王守護部隊の"夜叉奉行"様と知っての狼藉か!」


 え!? と凍りつく場の空気にレコンはたじたじになりながらも接客を続ける。


「あ、あの・・・。他人ひとさまの目もありますし、ここは中でお話ししませんか」


 と言う提案の基にレコンの案内で団体客が利用する大部屋に足を運ぶことになった。

 移動中に疑いを晴らし自己紹介まで済ませたのが嫉妬の炎が消えることはなく、二人の視線が交わって火花を散らす様になっていた。その光景を面白く見守る店員もいれば、溜め息を吐く着物男。からからと嗤う坊主もいる。カルマだけは静寂を守っているが、ファンシーグッズのフリをするだけで手一杯だった。


 二階に上がる木造階段を抜けると、目映い黄金が見えてくる。案内されたのは金箔の飾り付けが成された豪華絢爛。時代劇に登場する悪代官が秘密裏に取引を交わすような悪い意味できらびやかな部屋である。

 既に一人の客人が、此方に背を向けて茶漬けを堪能している。どれだけ空腹だったのか、客人の真横には空っぽのどんぶり鉢が五杯ほど積み重なっており六杯目の茶漬けを掻き込んでいた。


 そんな客人に飛び込んでいったのは、ファンシーグッズ化した一羽のフクロウ。

 クーアが大事に抱えていた胸の中から素早く抜け出す。客人の正体に逸早く気付いて、生き別れになった兄弟と再会を果たしたかのようにヒシッ。と客人の背中へダイブするのだがクーアも気付いたようで彼の元へと駆け寄っていく。


「もぉご?」


 背中に引っ付いた物を剥がすが、魂の抜けたようにぶら~ん。と意識なきフクロウを見て客人の口元が歪む。

 フクロウを自動的にイベントリに入れた客人は、空っぽになった椀の上に箸を乗せて畳上に置いて立ち上がる。


「待ってましたよ。

 流星騎士団第六師団団長フェイさん。

 それに国王守護部隊『狩猟』の育成係を任せられているタクマさん。

 トーマスも久し振り。・・・そうですね、まずは自己紹介からしておきましょうか。俺はヒロキ。ついこの間Fランク冒険者になった黄金世代のルーキーっす!」


 抱きつくクーアの頭を撫でながら振り向いたヒロキの両目には、それぞれ別の色の輝きがあった。オッドアイを見たタクマもフェイもトーマスさえも抗えぬ魅力に引き込まれていた。

 その最中でレコンだけが震え上がっていた。客人と店員として接していたが、嘗ての冒険者仲間のと出会った時分の面影を思い出して不甲斐なく鳥肌が立つ自分を抑えて部屋を退出するのだった。



    △

    ▽



 挨拶を交わした俺達は、今回のシェンリル王国で巻き起こっている件。"灰色事件"について、それぞれが知り得た情報を出し合い整理していった結果。

 思わしくない事態に進みつつある。という俺の一言で皆が疑問に思う中で、疲れきったクーアの寝息だけが虚しく聞こえていた。


 今回の事件について。まずは事件に大きな繋がりがある人物から整理していこう。

 フェイの調べで浮上した人物は記念館の館長オグワード=ベルヤード氏。最下層の酒場『小悪魔のルビー』店主ルビーさん。Cランク冒険者イェンバーの三人。この中で一番怪しいのは、オグワード氏だという。俺もタクマとトーマスもが首を振って同意だというが、俺の勘が「まだ早い結論だ」と言っている。


 記念館の館長オグワード=ベルヤードは館長の役目をしながら、中層から上質な素材・加工済みの装飾品・食材などの物資が記念館の地下に作られたエレベーターを利用して運び込まれる。その物資を指定の店舗や機関に運搬する大事な役目を担っている。

 オグワードは元商人としての莫大な財産を持って伯爵という地位に就いた強欲商人の一端。義賊"灰色の猟奇"とつるんでいたなら物資の横取りが出来る。しかし、それでは最下層に多くの物資が流れている理由が分からない。何よりも金貨百枚という大金を盗まれているのだから直接的な繋がりはないだろう。

 だが俺からすれば、オグワードは『灰色事件』の裏手で関係のある人物に違いないと践んでいる。


 酒場『小悪魔のルビー』店主ルビーさん。

 当人の遺骸をどうやって見つけたのか? と言う質問に対してフェイは、部下オードリーの優れた探知スキルだというが何らかの固有能力があるように思える。

 死亡時期は二年前。死因は後頭部損傷による出血性ショック死。

 本人が死んでいるにも関わらず、何者かが彼女を装って営業を続けていた。という点と"灰色の猟奇"を支持する。という発言。トーマスが見た女盗賊の声からして最も近いのは彼女という線が一番濃厚だろう。

 どうして彼女がルビーに装う必要があり盗賊になったのかは、これから次第に分かっていくことだ。


 続いて三人目は、トーマスと同じCランク冒険者のイェンバー。

 フェイによれば、元パーティーメンバーのボガー・ビクター・ヴォンの三人が酒場で揉め事を起こしたとある。ボガーに到ってはトーマスも一応は知っていたらしく、その『揉め事』というのも関わりがあるという。

 イェンバーは記念館に保管されていた『リーグルの魔女』に触れようとした器物破損の未遂犯として騎士団が確保。現在は詰所預りだという。

 話を聞いていれば、人間の剥製に触ろうとする変質者かと肌寒くなったものだが憶測ではあるものの動機はあった。

 オードリーの調査で明らかになったのは、

・過去に"リーグルの魔女"と名乗る魔法使いエーテル=ファズナが存在した事実。

・エーテル=ファズナが事故死した件に、リーダーのボガー率いるパーティーチーム『パシフィック』に関与していたこと。



 さて・・・ここまで来ると、また一人。二人と人物が登場することになる。クーアとカルマが出会ったという魔法学術院の学院長を勤めるイグニート=エンブリアである。

 イグニート曰く自身のことを"フィクション"。偽りの存在と語っていた。事実、あの腹黒カルマがまんまと出し抜かれ魔法人形とは気付かなかった。意識を反らせることに特化した存在。まさに魔術師だが実体は必ず何処かに潜んでいる。

 まあ・・・俺からすれば、そんなのは問題の内に入らない。問題はここからだ。リーグルの魔女を名乗ったエーテル=ファズナに対して、イグニートは"リーグルの魔術師"について語ったことこそが問題なのだ。

 冒険者ギルドの記録は絶対だが、彼の言ったことが出鱈目に聞こえてしまうからだ。彼の言い分を信じれば、エーテル=ファズナは当初"リーグルの魔術師"を名乗っていたがそれは実は嘘でイグニートが本物だという。

 話が食い違うどころか、全く持って訳が分からない。しかし、これが虚実とは素直に言い切れないのも事実。図書館に保管されていた書物・蔵書にも"リーグルの魔術師"に関して記述があるからだ。そうなってくると、"リーグルの魔女"と"リーグルの魔術師"は別個で考えた方が良さそうである。

 リーグルの魔女がエーテル=ファズナ?

 しかし、レインはリーグルの魔術師と言っていたが・・・はて?

 リーグルの魔術師がイグニート=エンブリア。まあ、これについては本人に直接聞けば良いだろう。魔導書【ファティマ聖魔導の予言書】についてはカルマからキツく口止めされているので、この場では語ってはいないがこの魔導書が大きく関係してくることを踏まえると、ココラ=ファズナの名が自然に出てきてしまう。


 ココラ=ファズナは、エーテル=ファズナの娘の一人。姉がいるらしいが行方不明。父親はイグニートの話が本当ならイグニート自身が父親なのだろう。そこまでいくと、彼女が今回の事件の中心にいるような予感しかしない。


 ―――結論。

 "灰色の猟奇"はルビーを装った第三者であり彼女の目的は、強欲商人への報復と新政策への反抗。俺達の目的は彼女の確保が大前提になるが、犠牲・・は出したくない。

 そこで俺は足りていない・欠けている情報収集をフェイさんに頼んだ。騎士団団長という名を遣っての職権乱用になるが、他の人間が聞いて回るよりも効率はいい。

 新政策への反抗から考えて、"灰色の猟奇"が次に向かう場所をカルマの解析能力で『甲邱』と出た。その為にタクマさんに御足労願うことにした。頼んだ理由は、この中で唯一の直接的な国側の人間というのもあるがタクマさんにしか出来ないことをお願いする必要があったから。とだけ言っておこう。

 後方支援バックアップ。何かあったときの保険と言いたいところだが彼の協力なしではキツいものがある。そこでクーアとトーマスには、ある人物宛に手紙を送るように指示を出した。トーマスを着けたのは護衛というのもあるが彼がいれば直ぐに応対してくれるだろう。


 俺自身はと言うと、野暮用を済ませて"灰色の猟奇"を追うよ。と言って彼等を見送った。見送る。そこにはちゃんと理由がある。俺の最初の野暮用が彼女に会うことだからだ。

 その人物とは―――。


「やあやあ、久し振りだね~」


 中身がアレでなければ注意するのだが、生肌丸出しの黒のタンクトップに迷彩柄の短パンという夏を印象付ける服装ではある。しかし分別を付けて貰いたいものだ。男性なら兎も角、外見は女性なのだから。

 裏では情報屋と呼ばれ、表ではこの地区の長役を担っているクモさん。



    △

    ▽



「お久しぶりです。クモさん。

 地区長の仕事はどうですか? それとも相も変わらず、お座敷遊びが本業ですか」


 客人が俺だからその格好なのか。クモは「面白いことをいうね」と言って女性の容姿を利用してすがって微笑む。吐息が肌に触れる辺りまで寄ってくると、服の裾を掴んで体重を掛けて押し倒された。

 ゆるりとクーアやレインと同じ小さな手で弄ってくる。遊び半分の手付きなのくらいは分かるが、ここでゆっくりと座敷遊びをする時間はない。


「クモさん。クモさんは、知ってますよね?

 この事件の真相も黒幕も。そして物語を作った本当の意味での黒幕も全部知ってますよね。それと・・・。

 "Vヴィー"のこと教えてもらいますよ」


 最後の一言を聞いて笑いを溢したクモは、俺の腹部を押し退けて飛び上がった。ニヤニヤ嗤いながら、「そうか。そうか・・・」と言い続ける。

 背を向けて数歩ほど女歩きをして、立ち止まった彼女は俺に言う。


「この事件ゲームはね。重要なのさ。

 とある個人を救う為でもあり。とある国を強化しつつ、掃除をする為でもある。"V"まで行き着いたキミなら分かるだろう?

 魔王の血族の狙いは、教えられない。それは既にキミが知っているからだ。アレは表舞台に出ていい代物ではない。ここまで言えば分かるだろ」


 この事件の真相。

 この物語の中心にあったのは人物などではなかったのだ。まだ推論の域だったと言うのに、こうもあっさり言われると全てがしっくり来てしまう。

 俺はそれが怖かった。というのに、この人は簡単に肯定してしまう。でも・・・それが丁度良い。


「観測者にとっても。ですかね?」


 ただの笑いは高笑いへ変わって、声色とトーンも変えて答える。


「アハハハ。ハハハ。嗤えない冗談だな。

 ―――悪いことは言わない。ギルド加入を断った以上は、口を慎んだ方が賢明だ。罪深き王が求めるのは、この世界の覇権じゃない。『平和』と言う名の『理想郷ユートピア』さ」


 俺はクモさんの言う『罪深き王』とはどういう意味を持っているかなんて分からなかった。

 それ以上に夕刻の黄昏が俺を急がせた。時間がないからだ。手間をかけた以上、俺は俺の役目をするだけ。誰も死なせない。罪を重ねさせない為にも・・・と俺が次に目指したのは―――。


明日に次話更新を予定しておりますので( `・∀・´)ノヨロシクです。

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