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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#081】 Teacher Part.Ⅱ -百鬼丸-

●灰色事件編『序章』●

過去・自分・他人・先輩に向き合うことは難しい。けどぶつかり合って間違いを正すことも必要なことなのです。



 カルマは何時も以上に悩んでいた。と言うのもクーアの異常な感覚。本能のようなものが自分の観察能力よりも上だと分かったからだ。それ言葉だった。


『あの男の人。どうしてお人形さんなのに喋ってたの?』


 最初は司書のトニシャのことを言っているものだと思ったが『男の人』とは、彼処ではイグニード=エンブリアしかいない。即ちはイグニードが人形であった。ということを指す。

 対面していた自分が彼に気付かない訳がない。しかし、恥ずかしい話。喋っている人間に対して、そういう感知は行っていなかったのも事実。

 トニシャに関しては間違いなく、土人形だった。解析能力を使ったのだから間違いはない。そうなると、彼処にイグニードは存在していなかった。と言うことになる。飽くまでもクーアの言うことが事実ならの話だが・・・恐らくはそうなのだろう。

 幻人種[デウス]の中でも鬼人族は、『氣』に長けた一族である。という文の一説が図書館の蔵書に記述されていた。それは間違いない。実際にクーアは、ヒロキとハガネの聞こえない会話を耳にしていた。つまりは、クーアが彼を人形だった。と言うのは事実であることに他ならない。


 ならば、本物は何処にいたのか?

 この疑問を早々には解決できない。彼は自分自身のことを実在しないもの"フィクション"だと名乗っているのだから。

 全くもって、トンでもない魔術師に出会ったものだ。とクーアの肩で首を三十度ほど傾けていた。



 クーアは駆けていた。と言うのも【念話】で鍛治師のシロナから自分専用の武器と防具が完成した。という一報を耳にしたからだった。

 初対面時にレインがクーアの装備一式を揃えるように言っていたが、直ぐに主人様ヒロキ関係の祭事で宴となってうやむやになっていたのだが、宴の席で仲良くなったシロナさんから採寸やどんな武器が好みなのか。というように質問を受けていた。

 どんな武器だろうか。という期待に胸を膨らませてクーアは小さな身体でパルクールを決め込む。嬉しさが躍動感を生んで常人を超越した身体能力は、新しいスキル獲得に助力するのだった。


 スキル【疾風の衣】。風を切り続ける脚力と柔軟性を向上させる常時発動型のスキルは、コア一つの消費だけのお手軽もの。

 中層のお店の屋根を一直線に駆けては、煙突や壁などの障害物を柔軟な身体と脚力が超スピードからのバックステップやスピンからの切り返しで、それらを難なく乗り越えていく。


 凡そ直角の壁二メートル級を跳躍で乗り越えて、地上から五メートルと怪我しそうな飛び降り。カルマは鉤爪で必死にクーアの肩を掴みながら翼をはためかせて落下速度を軽減させる。しかし、その応対は必要なかった。と後から気付く羽目になる。

 落下直後、クーアは自身の本能を意識化において実際には触れられない風を物のように掴んで落下速度を和らげていたのだ。

 はためかせる必要がないことに気付いたカルマがクーアを見ると、一瞬だけだったが常に進化し続けていくヒロキの姿が重なりあって見えた。改めてカルマは思うのだった。


 "本当に末恐ろしい才能センスだな"


 ふわっ。と地面に降り立ったクーアは、カルマをモフモフと抱いて、ありがとう。とお礼を言う。

 カルマは、意外な反応に困惑していた。年齢に対して無邪気な子供のように感じられていたクーアが年相応の態度で自分を敬ってくれているのだから。自分の中でクーアに対する接し方を考えねば。と思い始めたときだった。


「・・・ゴメン。ここ、何処だっけ?」


 クーアは笑いながら言う。

 その言葉にプチッ。と何かが切れる音が聞こえたカルマは冷静に考えた上で、ある結論に思い至った。


 "前言撤回。アホの子供でした"


「中層の中街。国民の住まうアパートが中心の住居区だな。・・・この香ばしい匂いは、あの屋台から、か?」



◇中層 中街◇


 シェンリル王国の国民。多種族多部族の集落であり、地方で唯一人種差別のない住居区として知られる中街には、身分証明書ギルドカードを国から支給された職持ちの人たちのホームが用意されている。

 職を持たない子供たちや大人たちにも同じようにホームが与えられるが、それらは職持ちの人たちが無償で作ってくれた仮宿舎や料理が振る舞われる。


 あの屋台も、その無償で料理を提供される一件だと思うカルマは随分と久し振りに感じた空腹感と口の中で分泌されるヨダレに奇妙な感覚を得ていた。

 魔導書に生まれ変わった自分に五感認識は出来ない。ヒロキの内側に住まわせて貰っている内は、五感での認識は出来ても仮初めのものだった。しかし、今は違う。魂無き遺骸だからこそ感じられる拡張された神経系統からの感覚を強く認識できている。

 羽毛が風をさらう冷たさ、柔らかさ。抱き締められる心地好さ、温かさと温もりは私に『生きる』価値を教えてくれている。イグニードから言葉を発生させる術式をもらい、ここで味覚まで覚えるとヒロキの内側に戻ることを躊躇ってしまうかもしれない。と目を細める。

 それなのにクーアと来たら、貧相な空腹音を鳴らしてお腹を押さえていた。



    ▲

    ▼



 う~、お腹減ったよ。でもカルマフクロウさんが細い目で私を見てるし、食べに行ったら怒られるよね。と思いながらもクーアは物欲しそうな瞳で潤わせる。

 フォー。と溜め息混じりの鳴き声を上げるや否や、肯定したと認識したクーアは颯爽と香ばしい匂いの元へと駆け寄っていくのだった。


「次の注文承りました。

 焼きそば特盛一丁、焼きおむすび二丁、グルメ肉定食四丁、店長のオススメ十六丁です!」


 あいよ! と威勢のいい声を上げる白服のコックは一人で黙々と調理を次か次へとせっせと仕上げていく。

 その動きにムラはなく、効率重視の流れるようにスピードに乗った調理法にクーアの目を釘付けにして見惚れていた。


 コンロの数が四に対して、三機をコックは熱した中華鍋に胡麻油とサッとキャベツ・ピーマン・ニンジンが予め切られた食材を炒めていく。残り一機をタマネギだけを胡麻油で炒めていく。

 コンロ下のグリルで焼きおむすびを早々に調理し終えて、焼きおむすび二丁あがりよ! と外の店員に声をかける。

 オーブンでは、グルメ肉と言われる定番の安価なワイルドピッグという猪肉をじっくり焼き上げていく。

 三種の野菜を炒めていた中華鍋に豚肉の切り落とし加えて、赤肉に油が絡み合うのを見計らってもやしを投入して肉の色が変わったところで、ひとつの鍋に入れて火を止める。空いた二つの鍋に再び胡麻油で炒り、蒸かした蕎麦麺を投入する。焼き色が付いた当たりで炒めた具材と中濃ソースを加える。

 タマネギだけを炒めていた鍋から、しんなり黄金色に変わったタマネギを皿に移す。その上にじっくり焼き上げ厚切りしたグルメ肉をのせて、茶碗に炊きたての白米とホカホカの味噌汁が入った漆塗りの椀をお盆にのせる。

 十六枚の皿を用意して、薄切りにしたグルメ肉を盛ってレモン果汁・胡椒・山椒を適量かけて、あがりよ。店長のオススメ十六丁とグルメ肉定食四丁! と荒ぶる声に客人たちが奇声を上げて喜んでいる。

 特大の皿に盛られた焼きそばに、赤色の着色料を着けた生姜と青海苔をパッパとかけて、あがりよ。焼きそば特盛一丁! で占めたコックは一息着いて鍋を洗おうと持ち上げるのだが、空腹感みなぎる音に反応して窓を開ける。


「あれ、君は確かヒロキの・・・」


 きゅるるる。と空腹の虫の音を奏でるクーアが見上げた先には見覚えのある顔があった。

 冒険ギルドで知り合ったレインの兄というクロムさん。一流の料理人になるべく、料亭や焼肉屋や旅館で見習いから始めて二年間でどの厨房でも副料理長クラスにまで至っているコックさんだった。

 窓を半開きにしたことで空腹感全開のヨダレと腹の虫に、クロムは苦笑してマカナイを作るり始めた。


 ホクホクした白米に醤油と酒を少量混ぜ合わせておむすびにして、グリルで焼き色を着けると皿に盛り付けてクーアに差し出す。カルマフクロウには、グルメ肉を食べやすい大きさまで裂いてボウル皿に入れて渡した。


「ほいよ、あがりよ。

 店長のオススメその三とその四。熱いうちに食べな」


 渡したクロムは、白米と味噌汁を自分で装って食べ始める。その光景にクーアとカルマフクロウは不思議そうにクロムを見て質問をする。


「あの、どうして私たちに豪華な食事を?」


「ん? どうしてって、そりゃあ俺がコックでクーアちゃんとフクロウは客人だからな。こいつは俺流の流儀みたいなもんさね。

 料理人コックの仕事ってのは、大昔から決まってる。対面して喜んで自分達の作ったメシを食ってくれるだけで幸せなんだ。それに豪華も貧乏も関係ない。この白米だって遠い土地で丹精込めて作られた食材だからな。

 食は平等でないといけねぇ。人間が生きていくには、メシを食ってエネルギーに変える。魔素は食いもんじゃねぇよ」


 ほけ~。とするクーアにカルマフクロウが翼をはためかせてペシッと一叩きする。


「その意見は最もだが、―――どうしてこのような場所で働いている?」


 ん!? 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして周囲を見回すが視界にはクーアとフクロウしかいない。

 え、まさか!? とクロムはフクロウに話し掛ける。


「自然な反応だな。

 クーアは驚きもしなかったが、クロムと言ったかご馳走に感謝する」


「うぉ~、ファンタスティックな存在に始めて出会ったわぁ!」


 モフモフ抱きつく暑苦しいクロムにバサバサと翼を大きくはためかせて暴れる。それを見たクーアがカルマフクロウを助け出すが結局、胸の中で息苦しそうに悶える。

 何となく苛つきを覚えたクロムは、フクロウの頭上の羽毛を掴んで顔を近寄らせて尋ねる。


「いいご身分だな。鳥風情が!」


 低い声が闇を生む。

 心中でカルマフクロウは、器の小さい人間だな。と思うが当の本人は狂気した目で睨みを効かす。――が、モフモフを奪われたクーアが激怒して膨れ上がった頬のまま、ピョン。と跳ね上がって取り返す。


「カルマフクロウさんは、クーアのだよ」


 む~。と火花を散らす両者の間を割るように店を手伝っていた店員がズイと近寄って頭突きをかます。

 鼻を押さえて呻き声を上げるが、容赦なく首根っこを掴んで力業で店から引きずり出すと卍固めを決めてギブアップサインを無視して絞める。

 ブラーン。と緩まる抵抗と泡吹きに投げ技で倒した。女の店員さんは、よっこらせ。と膝を折ってクーアと同じ視線まで落とす。


「大丈夫?

 この人、ロリコンの変態野郎だから注意してね。それと、もしかして――アナタ。クーアさん?」


 ふえ? と又しても覇気のない声に店員さんはクスッと苦笑して答える。


「笑ちゃってゴメンね。

 私はね。レコン言うてね、色んな所でバイトしちょんよ。シロネェとは、昔からの馴染みなんだけど、オーダーメイドの武器作成だからさ。金貨五百枚をかき集めてるって訳」


 金貨五百枚。という破格の金額を耳にして魂が抜きかける。そんなクーアにレコンは、アタフタしながらも説得する。


「大丈夫だよ。

 初回のそれもシロネェのお気に入りの客人には優しいから。それに・・・あんなに楽しそうに槌を振るうのは久し振りに見たから大丈夫。初対面だけど信じてくれると嬉しいな」


 レコンの微笑みにクーアは少し考えた後で結論を出した。


「うん、分かったよ。

 レコンさん。あのですね、実は迷ってしまったので案内とか出来ますか?」



◇中層 鍛治屋『黄金の薔薇』◇


 そんな訳でレコンという女性冒険者の案内の基、漸く目的地の喫茶店兼鍛治屋『黄金の薔薇』に到着した。ーーのだが、どうもいつもの具合と様子が違うようでレコンがムサイおっさんの群衆を抜けた先で揉めている店主シロナと同じく鍛治職人『大黒天』の法被を着た若造がいた。

 若造は、『大黒天』の鍛治職人の中でも切れ者とされる開拓世代の転生者で名をガンキチという。ガンキチの腕っぷしは、確かで刀匠が認めるほどだが若さゆえに度々熟練鍛治師と揉めることが多い。

 とは言え、今回は相手が悪いだろうに。とレコンは頭を下げて額に手を当てる。


「おぉい、ふざけるのも大概にしやがれ!

 先月こっちの業者で仕入れた黒結晶や黒曜石が倍額の金貨二枚と来たもんだ。それなのに、どうしてテメェのところは在庫がふんだんにある? 例の義賊と繋がっているんじゃねぇのか」


「在庫が多いのがそんなに珍しいかい?

 試作品をバカの一つ覚えみたいに突っ走って作るアンタ等とは違うんでね。数よりも質で勝負するのが、わたくしの流儀なんよ」


 シロナの瞳に顔見知りのレコンと客人のクーアを一瞥して話題を切り替えることにした。客人に粗相が合ってはならない。これはどこの店でも一番気にしなければならないことだからだ。


「ガンキチとか言ったわね。

 この機会にわたくしの作ったオーダーメイド。最高傑作をお見せしましょう。他の方は帰ってもらえます?」


 何処ぞの魔王か。ぐらいの威圧をクーアだけを避けて喰らわせたシロナは妖しく嗤って客人の小さな手を引いて店内に引き込む。

 その手前、カルマフクロウは異質な威圧に警戒の念を殺さないで狂気を蚊帳の中に閉じ込めたまま彼女を観察する。

 レコンは昔馴染みとは言え、未だに好きになれない振る舞いに溜め息でイヤになる気持ちを抑えるのだった。

 ガンキチは未だに余裕があった。若造などと言われているが、海外の戦場をナイフ一本で歩いてきた少年兵だった嘗ての自分にとっては毎日の光景が思い出されるだけであったからだ。



 ガンキチには夢があった。

 転生した時分に現実世界での自分が死を迎えたことが分かったことで、求めたのは最強の武器だった。残酷な走馬灯ビジョンを二度と見ない。と誓ったあの日から鍛治スキルだけでなく、自身の肉体を鍛練・研磨・製錬してきた。

 それは最強の冒険者になるためではない。死に直面した恐怖を忘れるためでもない。ただただ己の心に住まう穢れを払ってより強靭な鋼の剣のように鍛えることが出来れば、もう誰も失わずに済むと思ったからだ。


 だから素材も上質な物にこだわって、試作品をバカの一つ覚えだとふざけるな!

 製造工程も設計も忠実に遣ってるのに、なんでだ? 何で俺は親父ギルマスを越えられない? もう俺の鍛治スキルの熟練度レベルはマックスだって言うのに・・・。

 険しい顔で唸るガンキチにレコンは、チョップを喰らわして突き飛ばす。


「アンタの心情は知らないけどね、シロネェの鍛治スキル熟練度は別にマックスじゃないよ。大体ね、熟練度を気にする時点でまだアンタは若造なんだよ」


 その言葉に頭を押さえながら、ガンキチが意見をいう。


「はあ!?

 職業において熟練度を上げるのは必須事項だろうよ。第一にレベル上げなければ、高品質の鉱石は取り扱えない。刀匠が鍛える最高の一太刀は、熟練度によって変動して神話級の武器を作った職人もいるって話だ。

 レコンさん。俺はアンタのことを知ってる。"悪魔専門の狩猟家"と謳われたアンタの愛刀【残虐姫】と呼ばれた大鎌は伝説級のオーダーメイドだったって」


 言葉を遮ってシロナの手伝いに入るレコンに舌打ちを噛ます。指パッチンで親指に火を灯して葉巻をくわえたところで視界に入った銀髪の少女にビクリと身を震わせる。

 恐怖した訳ではないというのに、異様な存在感を醸し出す少女と銀色のフクロウ。例のオーダーメイドの依頼主かと思えば拍子抜けなのだが、怪力の暴力女冒険者レコンが両手でやっと引き摺る刀剣を前にして自分の見解を疑った。


「ちょー、マジでキブ。

 重すぎやろ。シロネェ、こんなん誰が持つんや。巨漢のお相撲さんにでも持たすんかい?」


 鍛治屋の床は十二分な頑丈さが必要だということは、鍛治職人にとっては一般常識の範疇であり割れや砕けることは万が一もない。それは鍛治職人にとっての基礎だからだ。扱う道具と設備。素材にしても製造する物が超重量級の代物で床がもしも耐えられず崩落すれば命に関わるからだ。

 ――だと言うのに、あまりの重量に支えきれなくなった刀剣が倒れただけで超硬度を誇る床に衝撃が走った。それも地面が剥き出しとなってクレーターが出来ているのだから驚愕しない訳にもいかなかった。


「素材【黒曜石】【銀髑髏の骨髄】【魔硝石】と商人ギルドから戴いた【不死王の冠】と【死神の遺骸】から鍛練したのが、その超重量級の刀剣。

 百万の英雄を薙ぎ倒した嘗ての伝説の死神シスの遺骸と銀髑髏の骨髄。それらを魔硝石と黒曜石に溶かし込んで生まれた二刀一対の双剣。銘を【百鬼丸】と名付けた」


 本来は武器に鉱石以外の素材を使うことは禁忌とされている。それは持ち主を穢れで殺すことを恐れてという意味合いでもあるが、実際には剣の圧倒的な魅力に取り込まれて心が堕ちてしまうことからだ。

 如何に名の通った刀匠や鎧匠でも一度は通る道だと聞いていたガンキチだが、銀髑髏と死神はどちらにせよ伝説級モンスターの素材であることは確実。それはつまり妖刀の部類であることを指し、初心者が持つには荷が重すぎる。と確信したガンキチは声を荒げる。


「正気の沙汰じゃない。

 初心者のしかもこんな幼い少女に持たせる刀剣じゃない。シロナさん、アンタのことは克ってたが俺の間違いだったよ」


「アンタ、それは本気で言うとんのかいな」


 激怒したレコンを押さえるシロナは、クーアに二刀一対の双剣【百鬼丸】を渡す。持てる筈がないと高を括っていたガンキチだったが、二度目の驚愕する事態になった。


 クーアは鬼人族。それも脈々と継がれてきたヨミ部族の姫巫女として生を受けた。ヨミ部族は、鬼人族の中でも脆弱で戦うことを嫌う一族だった。しかし、絶大な力を有する姫巫女を守るべくトコヨ部族が剣となり、ヨミ部族が盾となって戦ったとされることを文献を読んだシロナは知っていたのだ。

 姫巫女ではない鬼人族の娘は、大概が十歳を越えた当たりで不治の病に身体が毒されることを。毒に打ち勝てるのは、姫巫女だけであり彼女とつがいになれる男性は、成人を迎えた姫巫女と一晩事を成した者に限られるとされている。

 成人となった姫巫女の級位にもなれば、一般的な鬼人族よりも身体能力が向上。筋力においては成人した人間種の倍以上の力を有すると言われている。のだから超重量級の刀剣等は軽々しく持ち上げて当然だとシロナは割り切る。――が彼等には少々刺激が強すぎたようでレコンは目を丸くして、ガンキチに至っては腰を抜かしている。


「まだ分からない?

 鍛治職人は強い刀剣や鎧を作るだけじゃダメ。わたくしがオーダーメイドしか作らないのは、持ち主が扱いやすい最高傑作を一本一本丁寧に作り上げることにあるの。

 アナタが作ってるのは、ただの量産品。戦争がしたいならボドリスクに行けばいい。この国でそれを続けるならアナタの居場所は直ぐに無くなるだけよ」


 地に目を押し付けるガンキチは、ただただ悔しかった。完敗だった。最強の剣を求めるあまりに持ち主のことなど眼中になかったのだ。熟練度をマックスにしたところで、持ち主の扱い次第で強靭な矛は名刀にも錆にもなる。

 鍛治屋『大黒天』の基本は重量級の武具がほとんどであり、顧客の多くは頑丈な防御力底上げが目的。即ちは攻撃力の高いモンスターの強襲や接近戦に合わせて買い上げてくれる。その根底を読み違えていた自分が恥ずかしくて堪らなかった。


 ガンキチが腰を抜かしている間、目を丸くしていたレコンは何か大切なことを思い出したように呟く。


「おっかない世代やね。

 こりゃあ、おちおちバイトなんか続けてたら直ぐに追いつかれるかな」


 溢すように呟くレコンに、何かを決意した目でクーアが近寄る。


「お願いします!

 私に戦い方を教授してください!」


 レコンはシロナを一度見るが答えは自分と同じことだったことに同意して謝る。


「ゴメンけど、それは無理な相談なんよ。

 私の武器はガンキチも言ったけど、大鎌やしね。二刀一対の双剣の使い手に・・・・・・あ! そうや、禍福層のお寺さんの住職に会ったらエエよ」


 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 シロナさんからは料金はガンキチから説教料を踏んだくるからいいよ。とニッコリ笑ってた。けど、ガンキチさんが真っ青な顔をしてたのは何故かな。とカルマフクロウさんに問うと知らない方がいいと言う。

 不思議に思うも一瞬だった。

 禍福層に戻ってきたクーアとカルマフクロウは、意外な人物と再開することになったからだ。


次話から『交差章』クーア&カルマは、意外な人物と再会を果たします。

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