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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第一章 「裏切られた世界」
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【#008】 Challenger -挑戦者-

こんばんは、絶賛第一部第一章【#001】からRestartしています。

大忙しの仕事スケジュールと勤務時間の激変に耐えながらも仕事三昧の日々を送っています。

{2015.7.6}→{2016.1.10}改稿完了しました。

 冒険者。

 それはなにかの目的で、それが名誉や利益のため或いはそれが齎すものがなくとも冒険それ自体のために危険な企て、試みに敢えて挑戦する人たちのことをいう。

 生まれ出た町を離れ、未知の領域へ足を踏み入れる。

 鮮やかにトラップを回避し、迷宮ダンジョンに隠された秘宝。

 財宝の数々を苦難の道の果てに手に入れる。

 時には強大なモンスターを仲間と切り抜けて、個々に秘められた力を解放して限界を越えていく。


 そんな誰もが夢見る憧れを抱いてこの道に入った少年は知っていた。

 そんなものは、偽物。まやかしだと。

 父親はトレジャーハンターだった。

 幼い時分より宝石や海賊の宝。冒険。ロマンに憧れを抱いていた。

 何時しか誰も見たことのない金銀財宝をこの目で見てみたい。

 暗号の謎を解明して古代の遺跡を探索したい。と子供の無邪気な発想を膨らませていた。

 ある日、父親は海賊が隠した財宝を記した地図を握ってやって来た。

 僕も連れてって。とせがむ少年に対して父親は、何処か悲しそう顔を殺したそんな表情だった。


 『冒険は漢のロマンだ。でもオマエにはまだ早い。母さんと一緒にこの家を守ってくれ』

 

 そう言ったきり父親は、帰ってこなかった。

 あとから母親から聞いた話だが、握っていたのは財宝が隠された宝の地図などではなく。

 「借用書」。借金を記したただの紙だったのだ。

 それから母親に言われた一言が、幼い自分の心に突き刺さった。


 『オマエはお父さんのようにはならないでね』


 これが「心が折れた」って奴なのだろう。と知った日、家を飛び出して駆け出した。

 父親の言葉を頭の中でぶつかり合う音が聞こえる。


 『何が漢のロマンだ。何が財宝だ。冒険だ』


 地平線の彼方に沈んでいく太陽に叫んだ。

 真っ暗闇に沈む。

 もう二十年前も過去の故郷。

 ジャマイカの夕暮れは温かみを帯びていた空を一気に冷やす。

 赤。橙。白。青色に変わるグラデーションが、沸騰した少年の心を押し殺していった。


 それから一年も経たずに、母親の故郷に足を運ぶことになった。

 しかし少年を待ち受けていたのは、途轍もなく過酷な人生体験の数々だった。

 ジャマイカの首都キングストンにある国際空港から母親の実家のある日本の沖縄に向かう途中。

 一度渡米した後、日本へ向かうはずが到着したのは海の中。

 救命ボートで母親と一命を止めた乗客三十三人と共に飛行機を離れた。

 何日が経過したか。もう覚えていない少年の目は乾いていた。

 ここ数日のうちに自分たちを含めた三十五人の乗客は、食料を争って殺し合い二十四人に。

 栄養失調による餓死や病気で十八人に。

 すべてに絶望し耐えられなくなったのか。

 頭部に銃口を向け打ち込んだり。

 海に飛び込んだりと自殺していき十人に。

 飢えに人間としての感情や生き物としての欲求不満に母親に手を出そうとした若者を取り押さえた機長が刺殺され九人に。

 若者が暴力を振り翳かざし実質的なリーダーになって、言うことを訊かない乗客は四人になった翌日、地図にも載っていない無人島に漂流した。


 幸いなことに呑むことの出来る湧き水と貴重な栄養を補給できる果実が多くあった。

 そんなこともあって、地獄の漂流記を忘れるほど日にちがみるみる過ぎていった。

 数日。数週間。

 ついに一カ月が過ぎたある日、若者の堪忍袋の緒が切れたようだ。

 毎晩のように可愛がっていた少年と母親を庇ってくれて、仲介してくれた女性を果物ナイフで滅多刺した若者はさっきまで生きていたその女性の肉を食べて人が変わった。

 家畜を見るような目で少年を奴隷に。

 母親で欲求不満を解消していった後…我に返った次の瞬間。

 真っ赤に濡らした裸の母と胸に果物ナイフが刺さった若者の姿があった。

 泣きついた。

 ぶら下がった母の足に必死になって抱き付いて、今まで乾いていた目から鱗が落ちるようにボロボロと涙があふれて、溢れて止まらなかった。


『どうしてだよ。どうして、皆、みんな。

ボクを置いて行くんだよ。行かないでよ。お母さん、僕をひとりにしないでよ』


 青い竹が古い年老いた竹と擦れて鳴らす音。

 鮮やかな虹色の羽毛や濁れた羽毛に身を包んだ小鳥の囀りか。

 少年の心からの叫びは、無人島で芽吹いた命の音に掻き消される。

 一人になった少年は泣き崩れて、この島では無縁の存在感だったスマートフォンの点滅する液晶画面に目を向ける。

 視線だけを向けたそこにあったのは、少年と母親にしか分からない言語で記されていた。

 正直に驚いた。

 「日本語」だった。

 母親から教えられたその言語よりもその内容を知った少年は、今の今までの自分を恥じた。


『どうして気付かなかった。ど…どう‥してだよ。

お母さん、僕はずっと‥ずっとお父さんを裏切ったような言葉を吐いた母さんが許せなかったのに……、どうしてここで謝るんだよ。謝るのは僕の方なのに』


 目を閉じて開いた先の景色は、ぼんやり揺らいで見えた。

 ここで死ぬんだって思った。

 涙が渇いていく中で、握っていたスマートフォンから雑音が聞こえた。

 ついに壊れたか。と液晶画面を見ると母の残した遺書は真っ暗闇に閉ざされた。

 幻聴が聞こえる。


『生きたいか?』

『――――』


 もう声が出ない。


『もう一度。

人生をやり直したいと思うなら瞼を閉じろ。

君は世界に愛された。君は孤独だ。君の罪は―――』


 少年は再び瞼を閉じて、そして開いた。



                      △

                      ▼



「~~~~~ン、

……そうか、今のは夢か」


 薄暗い空間を照らすのは、サバイバルスキル【灯火】。

 MPを消費せずに暗がりな夜や薄気味の悪い洞窟を照らしてくれる便利なシステムスキルだ。

 脳で意識してイベントリを開く。と現在「AM4:07」が表示されていた。

 腕時計が欲しいと言いたいところだが残念ながら、何故かシステムに組み込まれていない。


 イベントリホーム>イベントリフォロー


 視界には基本的なものとして「体力値」「ダイヤモンド形状のコア」「魔力値」「武器耐久値」「防具耐久値」の五つは固定されていて外すことが出来ない。

 他に三つまでマルチキャスト出来るが、多くのプレイヤーがそうしているように「地図」「ショートカット;回復アイテム」「ショートカット;増強剤」というようにモンスターと戦って報酬目当てで生活している。

 放浪者や冒険者がマルチキャストするのは、「地図」「コンパス」「ショートカット;回復アイテム」で十分だ。

 「コンパス」「時計」の二つを組み込んだ物もあるが、値段がそれなりにする上維持費が高く資金繰りにも困るのでイベントリフォローから見るに限る。


 無料、タダ、割引セールに万歳。

 この世界は俺を裏切らないと思っていた。でも違った。

 HelloWorld。この世界は過去や自分をどう活かすかが問われた。

 父親から教わったサバイバル技術がセダリカの森で命を繋ぎ止めて傭兵ギルドに入った。

 そこで知り合った≪戦場の救済者≫の二つ名を持つバイモンとバーディーを組んだ。

 多くの戦地を跨り、「魔法大戦」で≪五芒星英傑ペンタグラム≫の一人に数えられる。

 マイト=ゴルディーが率いる次世代の最強プレイヤーたち≪異端者イレギュラー≫が、数々の戦慄する魔法や固有能力ユニークスキルで戦場を無に還していった。

 俺がそこでしたことと言えば、サバイバル技術を応用した治療や防御支援。

 俺は脇役でしかない。

 『戦争で脇役も主役もない。生き残った奴の誰もが英雄だ。犠牲になった死亡者も英雄になる。自分が出来ることを全力で熟せ、それが世界の歯車だ。みんな繋がっていると思えばいい』とマイトさんは言った。

 「魔法大戦」後、世界は変わった。

 PKするプレイヤーは激減していった。

 マイトさんが言ったことは正しかった。

 でも俺は満足できない。


「俺はなんだ?」


 転生者と新生者。

 二度目の人生を送るプレイヤーとこの世界で産まれたプレイヤー。

 それがいうのは経験と技量という圧倒的な情報力の差だ。

 何のためにこの世界があるのか? という疑問はクリアすれば分かるのだろう。

 だけど俺には、俺たちには無理だ。

 知ってどうする。

 解明して何になる。

 まだ悩んでいる。

 考えても答えが出ないこの迷宮で、俺たちの前に新人が現れた。

 俺が悩んでいたことを忘れるほどコイツは、コイツの存在は怖かった。

 才能や素質はこの不公平。

 不平等な世界で時間をかけて磨かれる物の筈なのに、コイツは簡単に障害を越えていきやがる。

 俺が半年以上懸かった戦闘技術を二日でものにしやがった。

 この世界独特の薬学や情報操作の仕方を一日で取り込みやがった。

 コツの掴み方が巧い? 違うだろ。

 コイツは知っているんだ。自分がどれだけ弱いのかを知っている。


「弱かったのは俺の方だ」


 紅い。真紅の瞳に移り込むのは蛇の目。いや違う。

 アレはこれから天を目指そうとする竜の目だ。

 コイツはまた一つ障害物を乗り越えようと必死にもがいている。

 そういう目だ。俺を見ようともしなかった。

 前だけを見て、俺の償えない罪から目を背けて這いつくばっていた弱者は俺の方だった。


「よう。起きたか、ゲイル」


 テントの裾を持ち上げて入ってきたのは、恩師であると同時に今回の依頼者当人マイトさんだ。

 傭兵ギルドに受け付けているクエストは、大きく分けて二つ。

 初心者やレベルの低いプレイヤーの「支援」と重要物品や重要人物の「護衛」である。

 依頼を提示した時点で護衛役として知り合いということもあって、バイモンと俺が推薦された。

 俺達は、断る理由もなく承諾した。

 依頼内容は、アルカディア大陸北西に位置する【ホクオウ興国領;ラグレシア村】から大陸一の貿易都市とされる【セラフ領;シェンリル】までの護衛任務である。

 経路の道中にある名所【ホクオウ興国領;ミキガワの滝】。

 国家遺産の一つ【グランディール大平原】。

 味わい深い街並みを誇る【ディレニア湾】。

 ブドウ畑の名産地【ラインヘッセル共和国領;ラインガオン】を歩いて旅の気分を味わい。

 大海原に繰り出して【サルディーニ島】で一度も味わったことのないバカンスを満喫した。

 セラフ領の国境へ差し掛かり【セラフ領;ダバブ】で最後の腹ごしらえを終えて地獄のような暑さ対策に備える。

 【セラフ領;白金砂丘】を越えて当初の目的地である【セラフ領;シェンリル】に入国する予定していたマイトさんの計画を却下しようとする。とギルドマスターの首が飛ぶと脅されて今に至る。

 そんな訳だが、何とも無茶苦茶な旅路だった。と今なら言えるだろう。

 ここまで一年って掛かりすぎだろ。と言いたいところだが出資者はマイトさんだ。

 自分たちもバカンスを心行きに任せたとはいえ、遊んでいたことは事実だし。

 無理強いは出来ない。


「ああ、おはようございます。マイトさん」

「ふむ、シェンリルに着くまでの間はマイトでいい。

それと決まり事は決まり事だ。済まないが今日から荷物持ちはゲイルがしてくれ」

「……はい」


「あまり悩み過ぎると、辛いだけだぞ。ああ、それともうひとつ、教えて置く」

「なんです?」

「立ち上がる時と頭上に注意しろよ。俺が言えるのはそこまでだ」

「はい?」


 俺に忠告を促したマイトは、逃げるようにすたこらテントから出て行った。

 え、何事? と目を丸くして戸惑いながら立とうとした瞬間。

 パキッと何かが折れた音が聞こえる否や脚部が動かない。

 別段と運動不足や栄養の偏りによって足を引き攣った訳ではない。

 これは魔法だ。

 息を尽かさぬ間に次の仕掛けが発動する。

 両足を拘束された状態のまま宙に浮きあがり、地面に向かってだらりと両腕が垂れさがる。

 先読みしていたかのように寝床は消え去り、紫の月を模した魔法陣に仕込まれた何かが発動した。

 魔法の発動もしくは魔法陣の使用で発生する色は、その魔法の特性に強く影響を施す。

 紫色が有する力。

 それは、非現実的な幻惑系の魔法や精神干渉で魔法陣ということは、その二つの強化にあるのだろうという推測は見事に的中した。

 わらわらと出てくる出てくるのは、汚らしい害獣ネズミの群れだ。

 垂れ下がった腕を伝って、体中に群がってくる。

 幻術だけならネズミが咬んで来ようが。舐め回そうが。関係ないのだが、これには痛みがある。

 恐らく脚部を拘束している魔法の影響だろう。

 そして、こんな中学生並みのイタズラを考える奴を俺は一人知っている。


「バイモン! テメエ、思考が甘ぇぜ。拘束系の魔法の対処は至ってシンプル」


 幻術も。精神干渉も。身体に関わる魔法に変わりない。

 こういう魔法の対処法は、大まかに分けて三つある。

 一つ目は回復魔法や回復アイテムで解消する方法だ。

 しかし現状拘束されている為にこの方法では無理。

 二つ目は体内で魔力解放をして他者の魔力を打ち消す方法だ。

 しかしこれも拘束されている空間が狭すぎる上、テントを壊しかねない。

 三つ目は口内を噛んだ痛みや指を軽く切った痛みで打開する方法しかない。


「バイモン、後悔させてやる」


 地面に降り立ちバイモンに対抗意識を燃やすも束の間。

 二段式の魔法陣に気付かないまま俺は、又しても身体を拘束されてしまったのだ。

 魔法陣は構築能力のプログラムによく似ているが別物。

 この世界での魔法は、身体内部に保存されているエネルギー物質と提唱されている。

 カロリーやスタミナとは別物であるという一説では、精神エネルギーもしくは魂の力ではないかと推測されているが確証はない。

 魔法の発動には基本利き手からエネルギー物質を四大元素「火」「水」「風」「土」に変換させる変質化とエネルギー物質そのものを放出させる発散化に分けられる。

 魔法陣は、後者の複合型と言って差支えない。


「まさか、クルスとの合作か。卑怯者―――!!」

「いやいや卑怯者はお前だろゲイル。

ヒロキとのPVPのラストを忘れたとは言わせないぞ。

胴体に装着していたプロテクターがひび割れる寸前、硬化の魔法を使っただろ。

先程マイトさんから了承は得た。

逃げるなよ。約束は約束だ。

今からバイモンが弄り用に所持していたこのおもちゃがなにか分かるかな。

耳に拷問用の甲虫ムカデのニエビラと粘液たっぷりのミミズでオシオキな。

ああ大丈夫、ヒロキならまだ寝てるから十八禁行為をしてもバイモンが痛い治療をしてくれる。

な、万全だろ。さあ、世にも恐ろしいゲームを始めようか――」


 本気で怒ったクルスと後ろでクスクスと苦笑する肉団子の頭部に、ゲイルは頬をひくつかせる。

 叫び声上げるが防音対策を取られたテントの前では、音の波長の全てが反射反響して自分に返って来るばかり。

 ゲイルの断末魔は、テント中でトラウマを刻み付けるのだった。


いかがでしたでしょうか、ゲイルの視点での弄られる回です。

年下の人間って弄られる運命にあるのでしょうか。

仕事量に心が折れそうです…が、頑張って執筆していきますので応援お願いします。

誤字・脱字がありましたら、ご報告お願いします。それではみなさん、おやすみなさい。

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