【#078】 Lord of Square Part.Ⅴ -嫉妬の炎-
●灰色事件編『交差章』●
遠くから見てる人には見えなくもない…。
三つの視点で描かれる灰色事件編
腑に落ちない点が複数ある。と言ってオードリーと解析スキル保持の優秀な部下を残して記念館に残ったフェイは、取り押さえた罪人が触れようとした人間の剥製に手をかけようとしたのだが咳払いと言葉がそれに塞がれてしまった。
「それは重要な魔女教に関わる当館の財産に値します。ですので、お触れになることは幾ら貴女方が騎士団とはいえ、避けて貰いたいものです」
記念館の館長オグワード。
裏でエレベーター式の物流施設の全権を国王からの贔屓で握り牛耳っている人物。嘗ては商人たちを束ねて物流のネットワークを築き上げた強欲商だと人は言う。
白い騎士姿に対して対照的な黒のローブを纏うカエル顔の太った人間のオグワードは、首にぶら下げている大きな懐中時計を見る。
商人にとって、商品と時間は有限。という商売人の教えがあるとかないとか。どういう解釈かは今はどうでもいい。と切り捨ててフェイは自分の仕事を優先する。
「我々がどうしてここに来たか、ご存知でしょう? オグワード=ベルヤード・・・伯爵」
間を開けて現在の地位階級を言うと、オグワードは苦笑して答える。
「そうですよ。
今や、この国に大利益を生んだ商売人達は悠久の時間を与えられた貴族の一員となったのです。
幾ら、騎士団の貴女方でも階級社会の上位に位置する貴族を取り調べる際にはギルド商会とギルド連盟から捜索令状を我々に提示しなければならない。これは規則であり、法を破れば重い処罰が下されるでしょう」
オグワードは、薄気味の悪い笑みでフェイを含む流星騎士団を記念館から追い出すのだった。追い出された騎士団の中でも一番若手のオードリーが喚く。
「隊長、このままでは引き下がれませんよ」
まるで駄々をこねる子供だが、これでも第六師団の中では腕の立つ精鋭騎士であるオードリーにフェイは、何時までも自分のことを隊長だと言っていることを指摘することにした。
「オードリー、貴方の言い分は分かります。でも、その前に言っておくことがあります。私は団長であって隊長ではありません。
それにどうも先程からイヤな予感がします・・・ので、オードリーはまず詰所に向かって新しい情報があれば【念話】で報告を。
他の団員は、"灰色の猟奇"が強盗に押し入った場所を念入りに調査してください!」
オードリーは最後まで駄々をこねたが、一度断られた以上は引き下がる他に道はない。こういう輩。と言う言い方は悪いが貴族になった強欲商人があそこまで言うのは裏に疚しいことがあるに違いない。――がこのまま団長という地位を示せば記念館に立ち入ることは容易だろうが、監視する人間に付きまとわれるのは御免被る。
あの手の輩以上に厄介なものはない。と暫し思考するが一向にいいアイディアが思いつかず時間ばかりが過ぎていく。そんな中で妙に浮いた服装をした同年代の人間を見掛けた。
見たところ冒険者の風貌には見えないが、服装の上からでもよく分かるほど鍛えられた筋肉が目につく。剣や盾どころかアクセサリーも装備していない。
何らかの職人かもしれない。と不図思ったが自分の知り合いに居たら一目で分かる筈だと思ったフェイは、取り敢えずは困りごとのある顔をしているので声を掛けることにした。
△
▼
◇王宮都 アブダラ通り◇
ヒロキは困っていた。
カルマに会うべく薬店『Magic Castle』から出たはいいが、先程のように下手にスキルや魔法を使えば近衛兵が駆けつけてくる。"氣"の流れを使った探知を心掛けているが、何かに邪魔されて巧く効果が発揮できず。そうこうしていれば、道に迷う始末に負えない状況にうんざりしながら彷徨っていた。
丸坊主のお坊さんが数人、チラチラと此方を見てくる。服装の性だろうか、それとも"氣"を感じているのか?
坊主や仙人などは冒険者とは違う遣り方で修行した修行僧。彼等の五感は鋭い。自分が会得した"氣"の熟練度よりも上だからだ。スキルや魔法にも同じように熟練度がある。極めれば極める程に、より優れた業物以上のキレ味を誇る技に変わる。
俺を見ているのは恐らく人間種[ヒューマン]ではなく、忌み嫌われた魔人種[フェイスマン]だからだろう。"氣"は大自然の恩恵であり、見透かされた俺の体にある忌まわしきモンスターの血肉と穢れた莫大な霊魂を目にして離れていくのが普通の反応だ。
レインやクーアには、本当のことをすべて話した。この体には人間種の血以上に穢れた魔物級、怪物級、天災級モンスターの血肉と取り込んだ霊魂の数は千を越えるだろう。
それでも彼女達は、こんなハリボテの俺を迎えてくれた。それで充分だ。坊さんには、好かれたくないしな。
さて、どうっすかな。と考えていれば一人の見知った少女が駆け寄ってくる。
彼女とは一度、禁忌魔法【時間跳躍】を発動する前の『悪魔襲来』時にカナタに紹介されたが、この時間軸ではまだ会っていないので無闇な挨拶は信用を殺すだろう。それは避けたいもんだ。
この国に暫くの間滞在する以上は、多くのクエストを達成して信頼関係を結んでいくのも一つの手ではあるが、有名な騎士団の団長と仲良く・・・までは行かなくとも信用を得るだけで情報の獲得が出来るってもんだ。
「そこの少年!
見たところ冒険者には見えないが、鍛治職人の見習いか。・・・それとも事件の関係者か」
うわぁ。流石に今の一言は傷付くよ。
鍛治職人の見習い。という判断はこの筋肉質だけど華奢な腕とマメだらけの掌を見てのことだろうが、これは二年間の厳しい修行を重ねた証だ。
事件の関係者? "灰色の猟奇"が犯した事件のことか、それとも別の事件のことを言っているのか。・・・この場合は前者だな。他の団員を連れていないが、大勢がいたゲソコンが確認できる。
それに・・・この表情からして、また厄介ごとに巻き込まれたらしい。
「事件の関係者かどうかは兎も角。
立ち話もなんだ。賊の話なら、お茶啜りながらでも出来るんじゃないか。ああ、言っとくけど。これはナンパじゃないぜ」
あれ~? なんで微妙な顔をしてらっしゃるのでしょうか。と思っていると眠っていたジャーが中から話し掛けてくる。
『オマエは馬鹿か。絶対にバカだろう』
え? どの辺が。
『天然かよ。
だから、あの嬢ちゃんたちの好意を理解出来ねぇんだよ。女心がどうとかじゃなくて、この場面でナンパとか要らん単語を出すな』
ん? いやいや、そこは重要だろ。ナンパ目的のお茶とか誰も望まないだろ。
「ああ、うん。
まあ一言多いけど、信じてあげる。ウソツキ君には見えないし。ナンパじゃないなら、お茶までのエスコートはお任せしたいところだけど、私も少々時間が押しててね。
諸事情で甲邱まで行かないといけないから、そうね・・・茶屋町の『玉露』ってところで行って待っててくれる?」
おや? ジャー君よ、巧くいったではないですか。あの照れが若干気になるけど、時間は貰えた訳だし結果オーライだ。
「分かりました。
では御名前を教えてもらえますか?
なにぶん、この国に来てからまだ日が浅いですから。それに、これでも一応は冒険者ですよ。成り立てホヤホヤだけど」
名前は知っている。
でも、この機会に聞いておいた方が後々役立つと言うもの。それに誤解を解くのは早い方がいいってもんだ。
「ふふ、本当に面白い人ですね。
私は流星騎士団の第六師団団長フェイと言います。『玉露』の主人に私の名を出せば、理解してくれるでしょう。好きなものを自由に注文して構いません。
それでは、夕刻に会いましょう」
そういい残してフェイは、暗術の類いだろうか姿眩ましを使って気配は感じるが姿は見えない。
何かが横を通り抜けたようで風が立つ。足踏みの様子からして甲邱に向かったようだ。
ふむ。
カルマがいない分は解析能力は劣るが、今の暗術も俺の固有能力【学習能力】で何時しか覚えられるのだろうか。いや、寧ろ覚えたいね。
ノゾキし放題だな。とジャーが言ってくるが無視だ無視。ノゾキは犯罪だ。考えても見ろ。レインの肢体を見て、もし兄貴のクロムにでもバレたら八つ裂きにされるのがオチってもんだ。
え? なに、今エッチぃ想像を膨らませなかったかって。ジャー君は本当にスケベなヤツだな。俺っちがそんな事を考える訳ないじゃんかよ。
『じゃあ、聞くが・・・ヒロキ。
鏡で自分の顔を見てみろ。物凄くゲスでイヤらしい顔になってなければ、坊さんも芸者さんも引かんと思うが』
・・・・・・・・・。
はい、嘘です。嘘をつきました。マジにすんません。これでいいか?
そりゃあ、俺だって男という生き物に生まれた。というか転生か新生した以上はしょうがないじゃん。考えちゃうよ。いつもは意識してないけど、男だったら一人になった時に悶々としちまう。そういう生き物だもん。
『ああ、そうか。
それなら少しは安心した。何時しかは世継ぎを作って貰わんといけんからな。そうじゃないと儂等が困る。何せ"竜を織り成す者"は、世界の終わりを終わらせて、始まり始まらせる大事な鍵人じゃからな』
おい。おおおい、待てよ!
そういう重要なことをポロリと言うなよ! ――ってか待て、世継ぎってなんだ?
『おおっと、悪い悪い。口を滑らせた。
まあいいか、鍵人の事は言えんが別に世継ぎの件は秘密でもないしな。
ヒロキ、お前はまだ若いが此れから先に待つ冒険でか。もしくはモンスターに食い殺されるか。寿命かで命を落とした場合、枷が外れて七対の竜とそのすべてを束ねるヒロキ。オマエ自身の守護竜、覇竜がこの世に大きな災いを生んで世界が灰になるまで暴れる。
それを防ぐ方法は三つある。
一つは世継ぎ。自身の子供に『継承の儀』を執り行い、七対の竜を継がせること。
二つ目は、覇竜と七対の竜を支配下に置かせて別の入れ物に力を解き放つこと。
三つ目は、ほぼ不可能だが一応は教えておこう。神を殺すことだ』
おい、なんだよ。そりゃあよ。
話しがでかく成りすぎて飲み込めねぇぜ。なんだよ、神ってよ。神話級モンスターの存在は知ってるけど、マジでそんなヤツがこの先に出てくるのかよ。
『どうだ? 怖じ気着いたか流石に』
いいや。寧ろ、燃えてきたね。
神を殺す。ハッ! 殺ってやるよ。仮に誰かの子の父親になったって、継がせはさせない。俺の代でキッチリ〆を括ってやるさ。
『ハハハ、それでこそ儂が認めた男よ。
しかしガッツポーズを公衆の面前で披露するとは中々に度胸が据わっとるな。儂なら恥ずかしくて真似出来んぞい』
ん? と振り替えれば、大勢の外野に囲まれての羞恥プレイに加えてクスクスという笑い声に俺は顔を真っ赤にして、その場から急いで逃げ出す他なかったのである。
▲
▽
赤っ恥を掻くヒロキを遠目で見る奇妙な一人と一匹を連れた一団は、最上層のエレベーターの手前。石畳の階段の一番上からそれを見下ろしていた。
白い着物がよく似合う幼い銀髪の少女には、誰かの贈り物であろう冒険者が買うには高価すぎる【花魁加護の髪飾り】が銀の髪を鮮やかに映えさせている。
その少女の左肩には、これまた希少な動物が乗かっている。絶滅したとされる『希少種フクロウのギンコ』。美しい銀の毛並みに、宝石でも埋め込まれたような黄金の瞳は、鋭い威嚇視線で立ち止まってチラチラ見てくる低俗な観光客を怯ませるのだった。
そんな光景を後ろの方で見守っている一人の中堅冒険者は、これ護衛要らなくね。と心の底で呟く。ーーが心を読むようにして坊主が杖で腹をピシッパシッと軽く弾かせる。
「あっ。痛、」
「これだから若いもんは。
一つの依頼を甘く見ておれば、ハナミチの二の舞を踏むことになるぞ。それに今回の事件に首を突っ込んだ以上は最後まで責任を取ってもらう。言うた筈じゃ。
最後まで責任を持てんなら手を出すな。と言うたのに手を出したんじゃけん。キッチリ終わらせや!」
叩かれた腹を押さえながら、護衛の少女等を見る。
「なら尚更、危険が付き物の事件に冒険者でもない彼女等を同行させるのはどうか。と思いますけど・・・」
坊主も少女等を見る。
一人と一匹のオーラを"氣"で確認した坊主は、確信して杖で『さあ、行くぞ!』と言わんばかりに中堅冒険者の背を押して自分も歩いていく。
坊主が見たのは、美しくも妖しい同類である鬼人族だが純粋なオーラ。もう一つは、恐ろしく大き過ぎる清廉なオーラ。本来なら相反すべきオーラが一同に返し、この街の何処かに彼女等の主人がいる。と言うのだ。
坊主が出した結論は一つ。
彼女等を従える大きな器を持った主人に会ってみたい。と言う好奇心が弟子の過ち以上に気にかかることから自らの足で実に二年ぶりに王宮都へ差し掛かったのである。
そんな彼等のことなどお構いなしに、銀髪の少女は白い頬を紅葉色に染め上げて饅頭のように膨らませて嫉妬の炎を燃やしていた。
「ご主人様は、私だけを見てくれればいいのに。
あのデレた顔。きっと、さっき近寄ってきた女の子を想像してたんだ」
ぶぅ。と膨れ上がる少女を横から見るフクロウは、やれやれと思いながらヒロキに向かって両手に近しい翼を広げて御愁傷様。と祈るのだった。
絡みまくる灰色事件に嫉妬が燃える一人と一匹のお話は次話からスタート!




