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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#077】 Lord of Square Part.Ⅳ -リーグルの魔術師-

●灰色事件編『交差章』●

薬のお店にいたエルフの娘は‥‥。

絡んでくる灰色事件編。交差する相手は次話で!



◇最上層 王宮都 薬店『Magic Castle』◇


「え~と、エルフ?」


 俺の質問にキョトン。とするかと思ったのだが、首を傾げて・・・間を明け何かを思い付いたようにポンと掌を叩いた。え~とですね。から始まってどうやら説明してくれるようだ。


「はい、私はエルフではなくてですね。

 正確には人間種[ヒューマン]と白亜人[エルフ]の間に産まれた半白亜人[ハーフエルフ]です。

 このお店は、植物園だった母の遺産を活かしての魔法薬を作っては売り出しています。何か必要な薬でしたらお作りしますよ。

 勿論予算にもよりますが、提示額によっては最高の品をつくってみせます!」


 小さいのに、しっかりした娘である。

 母の遺産。と言うのは若干気になるが聴くのは野暮だろう。下手な刺激で商談ビジネスに響くのは勘弁だし、二年前の災厄に触れられても関与していない俺が余計な口出しをするのはご法度だ。


 ハーフエルフ。

 半魔とは違って、半分はエルフの血・半分は人間の血が混じった存在を言う。

 半魔は、冒険者トーマスが食事に誘ってくれた酒場で常連客に酒を盛っていた女主人がそうだろう。人を魅了する怪物モンスターのサキュバスと人間の血が混じった彼女等は、その容姿故に中層よりも上へ行くことは出来ないらしい。人の目もあるのだろうけど、一般人からみて半魔は怪物に等しい存在だからだ。


 そういう点で考えれば、奴隷市場は半魔にとっては唯一の憩いの場であると言える。今まで気付かなかった訳ではないが、奴隷市場は稼ぎは少なくとも年上の熟練冒険者にも持ってこいの場所とも言える。

 ーーって、どうしてそんなことを考えているのか。奴隷市場は俺にとっては悪い思い出しかないだろうが。奴隷なんて言う戦争の副産物がなければクーアが苦しむことはなかっただろう・・・けど、それは逆に俺とクーアが出会うこともなかった。と言うことになるのか。


「・・・・・・・・・・・・」


 俺は無言のまま、固まってしまった。

 それに気付いたレインがフォローする形で回復薬の材料について尋ねている。


「あの、お客様?」


「ああ、うん。

 ちょっと考え事してるみたいだから、そっとしておいても大丈夫だよ。それよりもね。

 昨年発表された『火竜心臓の秘薬』について教えてほしいな」


 満面の笑顔で質問するレインの顔を見る。小首を右に左に傾けて少々悩んだ後に、パァ。と両目の瞳孔を広げてキラキラ輝かせる。

 半白亜人は、目の前の少女を知っていた。知らない筈がない。魔法薬を卸しているかどうかではなく、この国で魔法分野に関係していて彼女の名前を知らないのはヤブ扱いされる。だからこそ、教育面でも薬師コハクと同等かそれ以上の知名度を有している有名人。

 そんな彼女が最上層の王宮都にいても可笑しくはない。しかしここは人間種[ヒューマン]に忌み嫌われ、殆どが人間種以外の種族しか立ち入らないテッペルン通り。それも大手の薬屋ではなく、小汚ない小さな自分のお店に足をお運びになるなんて考えもしていなかったのである。

 だからか思わず、


「あ、あ・・・あの。

 失礼を承知で伺いますが、歴代最年少記録を更新して更には国王守護部隊『魔導』の筆頭を任されたレイン様でしょうか?」


 と聞いてしまったことに対して、レインはポフッ。と羞恥いっぱいの真っ赤な顔になって、う・・・うん。と答える。

 内心、クスッ。と笑って半白亜人の少女は失礼ついでに自分について話すことにした。


 白亜人[エルフ]には、この世に生を受けた時分から『己のまことを語るは、真に敬愛する者にのみ』という言葉が伝承と信条されている。そう言う言葉が伝承されたには理由がある。

 白亜人という種族は、他種族に比べて圧倒的に博学・博識であり非常に秀でた魔法力を有している。故あって魔法学に関してはトップクラスの知識をもって新しい魔法が生まれるが、魔法の作成には多大な魔力と自身の強力な命以上の価値がある俗に言う"真名"が必要になってくる。

 己の真を語る。とは"真名"のこと。真なる名を名乗ることは、名乗った相手を尊敬し心の底から認めたことを意味する。


「私はココラ。

 ココラ=ファズナと言います。レイン様はどうして、私なんかの研究に興味を?」


「知ってるよ。

 "リーグルの魔術師"だった先代の貴方のお母様エーテル=ファズナさんの理論を実証した。この国の五人といない"クラフトクリエイター"のココラ。ココラ=ファズナを知らない研究者はいないもん」


 ああ、そうか・・・。母を知っていたから私をね。と思うココラは不図床下に視線を落とした後にレインをもう一度見る。母のことよりも今は自分だけを見て目を輝かせる彼女から、それは違うように感じられた。

 母を知っていたからではなく、最初から自分自身を知ってる風だったレインと後ろでまだ悶々と考えに没頭する少年に立ち話もなんだし。と部屋に上がってもらうことにした。


 部屋の真ん中に設置された囲炉裏を囲むように、年季の入った茶肌色の畳が部屋に味を引き出している。茶釜に煎られた香りからして麦茶を陶製の湯飲みに注いで水色のビー玉をチャポン。と入れればあら不思議の熱い麦茶からひんやり冷たい麦茶に変わったのだ。

 その光景に魅了されたヒロキは、熟考を止めてココラに説明を説かせる。


「今のは【冷効薬】という魔法薬ですよ。

 ビー玉の大きさによっては、熱い沸点から冷たい氷点まで落とし凍らせることも出来るから扱いは非常にシビアなのです」


 でも。と言ってレインが続きを語る。


「一般に売られている魔法薬には、取り扱い説明書を読んでから使うように指示されているから危険はほとんどないから大丈夫だよ。

 それに彼女ココラは、クラフトクリエイターと言ってね。魔法薬や魔法道具を作成するエキスパートだから心配することなんてないよ。わたしが保証するから」


 保証なんて。とそわそわ恥じらって喜びに浸るココラ。

 片や薬師を生業にしているレインがえっへん。と大見得切って威張っている。それ以前に、もてなされたお茶を飲まない訳にもいかないだろう。とヒロキはゴクゴクと飲む。

 ぷっはー、生き返る。と言うヒロキに大袈裟だよ。と無邪気に笑うレインを見てココラは、ああ・・・成る程ね。と気を使って距離をとる。

 不思議と二人を見ているといいな。と思ってしまうココラは、母の顔を思い出すのだった。


 リーグルの魔術師。

 シェンリル王国から北北東の遠い田舎町リーグル出身の母エーテルは薬学の知識を私達二人の姉妹に託した。母は家族思いで誰よりも優しかった。

 そんな母が亡くなったのは、二年前の災厄なんかじゃない。金銭的な問題、武器商人だった父親の負債を私達姉妹に負担を掛けまいと選んだのは・・・怪物級以上のモンスター討伐に参加することだった。

 自決や自殺による死別では、保険金は入ってこないのは世界共通。国によって違えど、このシェンリル王国では怪物級以上のモンスター討伐に参加しての死別は家族に保険金が入る仕組みとなっている。

 仲間の冒険者の話では、彼女エーテルは最後まで奮闘し上級魔法を"骸骨坊主"に喰らわした。と言っていた。しかし、それでも超高密度の骨格を崩すことしか出来ず撤退する他なかった。と無念の心情を語ってくれた。

 結局。母エーテルの遺骸は戻ってこずに、保険金だけがギルド商会と冒険ギルドから支払われた。母の死後、父親は呑んだくれの冒険者となって家を出て行ってしまった。追うように姉のシアンも私を置いて・・・。

 でも不思議と悲しくはなかった。母が残してくれた財産を活かす最良の方法で新しい魔法薬や魔法道具を生み出すことが出来て、こうして有名人とお話が出来ているんだから・・・悲しくなんて・・・・・・。


 ポロリ。と涙を流すココラを見てレインが慌ててアタフタしながら宥める。ヒロキもこの部屋の空間に干渉して氣を和らげる。

 柔らかく温かいムードにまで落ち着かせると、泣き止んだココラはレインの膝の上でスヤスヤと眠りについていた。


「レインは、もう少しここで付き添って上げてくれないか」


 ココラの額に手を当てて熱がないことを確認したレインだが、顔を上げることなく脈拍に違和感を感じ取って治癒魔法【ヒーリング】で体のケアをする。

 ヒロキは既に感じ取っているのだろう。レインは思う。他の店員さんが見当たらないと言うことは、このお店を一人で切り盛りしていること。疲労の度合いは、まだ大きくはないけど心細い彼女を放ってはおけない気持ちが一緒だったレインは、うん。任せて。と言って頷く。


「頼む。

 俺はクエストの前にカルマと合流するよ。どうやら面倒な事件がこの街で起きてるみたいだ。"灰色の猟奇"とか言う女盗賊が、次は鉱物資源を盗む。とか、政策の改定を求めるように聞こえた。

 トーマスが言っていた。この国から広めていくテストケースの政策だと・・・」


「うん。そうだよ。

 通貨換金政策は商人の為でもあるけど、此れから転生してくる開拓世代のプレイヤーには役得だけど・・・それ以降のプレイヤー。わたし達、黄金世代もキツイところはやっぱりあるよ。

 みんながみんな、稼げる冒険者じゃないし強い人間じゃない。それでもね、助け合って生きていけるって思うよ」


 ああ、そうだな。と言ってヒロキは囲炉裏部屋を出て出口に向かう行く手で、伏せられた写真立てを見つける。伏せている以上は見てはいけないものだが好奇心に負けて、ついつい覗く形で見てしまった。

 写っていたのは二人の少女とにっこりした笑顔で二人を両側から抱き締める母親の愛らしい家族写真。父親は写ってはいないようだが、温かみを覚える一枚に過去の記憶を思い出す。でも・・・。

 でも、アレが捏造された記憶なんて思いたくなくて。逃げ出したい気持ちが後押しするようにヒロキは、元の位置に戻してお店を後にするのだった。



    ▲

    ▽



◇王宮都 アブダラ通り 記念館◇


 王宮都には、どうでもいいものまで品物が揃う嘗ての貿易都市シェンリルを思い出す記念館がある。――のだが、それはあくまでも表向きの話である。

 記念館に出向く客人をジッと観察していれば気付くのだが、表向き『記念館』という名目上を使って厳重な警備が敷かれているが為に誰もここが貿易ルートに作られたエレベーター式の物流搬送施設となっていることは知らない。

 そうでなくとも、ここは王宮都最北端のアブダラ通り。またの名を宗教通りと言われる各々の宗派の教徒や護符を武器にする陰陽師や符術師が出歩いている。

 彼等は悪人の気配には非常に敏感で、荷物をひったくろうとする輩がいれば直ぐ様行動に移して断罪する。"氣"が見えたり操ることが容易な彼等の目を掻い潜る者はいない。――いや、実のところいなかった。と言うほうが正しいだろう。


 事件が起こったのは、先日の夕刻。宝石商が商いするジュエリーショップが店仕舞いを始める頃合いにそれは起きた。

 厳重な警備態勢を掻い潜り賊の侵入を許してしまったのである。すべての出入り口は、二人組の警備員もしくは近衛兵が封鎖しているにも関わらず、ごっそりと金貨五千枚が消えた。金貨一枚の重さは、規定で定められている二十グラム。即ち総重量100キログラムを盗まれたのだ。

 当初は"灰色の猟奇"と言う盗賊の仕業と思われていたが、近衛兵の詰所からの報告で"灰色の猟奇"が女性だと聞かされてどうしたものか。と悩んでいた。

 そんな時分に国王からの召集を受けたことも勿論あるが、町の騒ぎと噂を聞き付けて流星騎士団の一派が記念館のゲストホールへ訪れていた。


「隊長、少々応対が遅くありませんか?」


 隊長と呼ばれる騎士姿の少女は、ここに来てから既に十数分以上の時間が経過していることは時計を見なくとも分かっている。記念館の役割は、隊長就任時に総帥から『アブダラ通りは、鬼門だ』と聞いて心得てはいたがこれは尋常ではない。

 ゲストホールを見回す少女の目に映ったのは、魔女教の呪いの供物とされる気味の悪い脈打つ心臓核。触れないようにショーケースによって保管されているが、誰も触ろうなんて気を起こさないだろう。

 その他にも黒魔術に使うような人形が吊るされていたり、御札が貼られていたりするが極めつけは『リーグルの魔女』というタイトルが付けられた美しい女性の剥製である。

 肌触りのいい漆黒の羽毛ローブを着せられている。こればかりはショーケースに入れられてはいない。興味本位で部下の一人がローブを捲ると上手く腐敗しないよう処理は行われてはいるが、それでも吐き気を催すほど無惨に串刺しされた痕跡が痛々しく残っている。

 こんなものをゲストホールに設置するという館長の趣味にも呆れるが、遅すぎ応対に痺れを切らした部下のオードリーが部屋から出ようとした矢先のことだった。


 バァン! と勢いよく開けられたドアに押されてオードリーが反対側に叩き付けられる。ノックもせずに悠々と入ってきた男の顔には覚えがない。

 薄汚いが軽装の防具を身に付けていることから冒険者と分かるが、どう見てもCランカーには見えない。部下が声を張り上げて何者か。と問い質すが答えはなく、ボソボソと誰かの名前を連なるばかりで手に負えない。

 仕方なく鞘から剣を抜いて威嚇を唱える。


「私は流星騎士団の第六師団団長フェイである。これ以上の反抗は罪と見なし取り押さえることとなる!」


 ――が、未だに抵抗するだけでなく展示品『リーグルの魔女』に手をかける直前でフェイは構築能力【停止】で畳み掛ける。

 抵抗の末に漸く拘束までこぎ着けると、一応は罪状が展示品の器物損害未遂と私有地へ許可なく入ったとして家宅侵入罪という二つの罪で詰所に移送という形となった。


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