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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#075】 Phantom Part.Ⅰ -灰色の猟奇《中篇》-

遅くなりました。おはようございます? もう、こんにちはかな。

●灰色事件編『序章』●

二話目になります。第二章で世話を焼いてくれたトーマスとハナミチのお話です。



 翌日のこと。


◇シェンリル王国 最下層 酒場「小悪魔のルビー」◇


「ぷはー、やっぱり酒の口直しには冷たい水に限るな!」


 ゴクゴク。と勢い良く流し込むように渇いた喉へお冷やを飲むハナミチに、徹夜で付き合わされて疲労の目をするルビーが一人で片付けをしている。

 溜め息を着いて、ルビーは一旦待ち合い室の椅子を持ってきてはダラリと座る。


「アンタ、ウチの店を廃業にさせるつもりなの?」


 酒場にあった洋酒、ブランデー、ワイン、日本酒、泡盛。それだけでなくツマミの刺身と揚げ物を平らげて、お冷やをガボガボ飲むハナミチに呆れた声と顔で言う。

 それを満面の笑みで返して、カウンターの机の上に煌貨一枚をポン。と置かれたときは冷や汗が滲み出てきたが悪人ではない。

 徹夜の尋問に感じられた確証足る"正義"の心構えを見てしまったルビーは、ハナミチを信用して重要な情報を教えてしまったことの後悔も未練も今の自分にはなかったのである。


「さて、食後の運動に行きますか。

 ・・・ルビー、出頭することはない。俺の予想通りなら"灰色の猟奇"は最下層の中堅者を味方に着けている。出頭なんてすれば、袋叩きに合うのが関の山だ。

 商売は続けてくれ。商品の手配は、トーマスが遣ってくれる。俺も困るんだよ。ここがなくなると、安い酒が呑めねぇ」


「馬鹿だねぇ。

 安い酒なんて呑まないクセに」


 店から出ていったハナミチを見送って、食い散らかしたカウンター席の机の上を掃除していると一枚の煌貨コインの下に置かれたメモを読んでルビーは涙を流す。

 ―――安くて旨い酒を三つ予約な。by.ハナミチ



◇最下層 クロス表通り◇


 酒場を出たハナミチは、酔い覚ましにウォーターボトルを片手で飲む。そんな彼を待っていた。と言わんばかりにトーマスが大勢の客人を引き連れて呆れた声で言う。


「――ったくよ~、どんだけ無茶振りさせる気だよ。寝る前に【念話】使って一方的に食材や酒を後金で仕入れてこい。なんて頼みやがって、俺はオマエのパシりか!?」


 ゴキュゴキュ。と飲み干したウォーターボトルの瓶を片手から発せられる熱伝導で溶かして野球の硬球よりも二回り小さな球体に変える。そのガラス玉をポン。とトーマスに手渡しする。


「そう屁理屈言うなよ。

 此方はこっちで重要な情報を仕入れたんだから。とはいえだ。ちゃんと金は払うさ。

 ああ、それとな、この事件。案外、根が深そうだ」


「どうでも良いけど、金は払えよ!」


 ん。と右手人差し指でガラス玉を指す。

 え? と手渡されたガラス玉を見るとその中には煌めく硬貨が一枚入っていた。


「普通に渡せよ!」


 普通に渡したら、面白くないだろ。と言ってトーマスをからかうだけからかって、その場所を後にするのだった。


 トーマスはハナミチのことをよく知っているからこそ煌貨一枚を平然と受け取れるが商売人はそうはいかない。第一に疑いの目で見てしまう。しかし、彼等は余所者ではなくトーマスを良く知っているからこそ、驚きはするがトーマスの友人が悪人な訳がない。と信用と信頼関係が納得へ駆り立てる。

 それほどにトーマスは有名人なのだ。この街で彼を知らない者は、新参者か余所者かどちらかになる。



 トーマス=ダリルは、この町で産まれであり最下層Aブロック統治者アルファガレスト卿から絶大な信頼関係を築き上げている成り上がりの冒険者だ。

 奴隷でこそはなかったが、貧困層の人間が直向きに信念を貫いてランクCの冒険者になる者は、他にいない。


 拳を奮う拳闘士でもあり、その鍛え抜かれた筋力と握力で大剣を振り回す両手剣士でもある彼の腕を見込んで流星騎士団が誘っているものの、そのすべてをことごとく断るトーマスを変わり者と言う者も少なくはない。ーーが、それには相応の理由があることを彼等は知らないのだ。

 騎士団の巡回の多くは、中層メインでたまに禍福層へ降りる程度。よっぽどの事件がなければ最下層に足を運ぶことはまずないからだ。

 ならば最下層に住む貧困の民や商人は誰が守るのか? 各層には一定数の近衛兵が配置されており巡回しているが騎士団と比べれば巡回の回数は少ない。当然だ。近衛兵は国の兵士であり国民。誰も犯罪が横行している治安の悪いところへ行きたいとは思わないのだ。

 トーマスは自分が強くなって、ここに居座り続ければ治安が改善されると思ったのだ。実際、治安は改善されつつある。それでも、彼がここに居ればの話。冒険者である彼が遠征に出掛ければ犯罪の頻度が上がった。

 そこでトーマスに声を掛けたのが、いまのAブロック統治者アルファガレスト卿だった。貧困層の人間が住むエリアの大部分を所有する彼が先導して技術支援や教育指導したこと。トーマスが怪物級モンスターの討伐を繰り返し成果を上げていった名声が貴族との友好関係に発展していき、犯罪は激減していった。

 それでもトーマスが未だに拠点を移さないのは、ここが好きだからだ。自分の生まれ育った町と素材がレアでなくとも支えてくれる地元民を愛してるからこそ彼は歩く。



◇禍福層 造船所中腹街◇


 ここ造船所で働く専門職の工員の多くは、最下層の貧困層。つまりはAブロック出身の人間が働いているのでほとんどがトーマスと顔見知りだ。その為、行き交う人の八割は一声や手を振って挨拶してくる。


「よッス」「ういッス」「ーーッス」


「お疲れ!」


 その度に軽く会釈したり、気が合う知人には軽い挨拶で返していく。そんな姿を見て苦笑するハナミチをトーマスが見て、なんだよ? と言う問いに、


「いや、なんでもない。

 それよりも、この辺りで腹拵え出来るとこあるか? 出来れば秘密の話し合いに持ってこいの場所がいいんだけど」


 腹拵え。と言う言葉に若干呆れつつも、そういうことにうってつけの場所を知っているトーマスは、女将さんには手を出すなよ。と一言釘を打って案内する。

 案内しないと辿り着けない訳ではないが、ここに観光目的や冒険者が来るのはかなり珍しい。安い給金で労働目的と言うより、自己のステータス強化目的が殆ど。

 トーマスは、懐かしい思い出に浸りながら小道をしばらく歩いて・・・一軒の木造四階建ての旅館に行き着いた。


「ほ~、中々に味のある旅館だな」


 障子張りの戸を引いて中に入ると、番頭に立つ初老が挨拶を交わす。


「ほっほほ。

 良くいらっしゃいましたな、トーマス君。見る限りに労働目的ではなさそうですし、お連れ様と密談ですかな?」


「ええ、例の如く最上階の『桜の間』を使わせて貰いたいんだけど」


 と言うトーマスの答えに困った表情をする番頭。


「大変申し訳ありません。

 実は最上階の『桜の間』はお客様が滞在されておりますので、三階の『滝の間』でしたら直ぐに用意できます」


 二人は顔を見合わせハナミチは天井を仰いで首を横に振ってトーマスに知らせる。


「そうですか、なら仕方ないですね。

 『滝の間』をお願いします。それと朝メシがまだなんで、朝食定食Aセットを二つで」


 番頭から部屋鍵を受け取って三階の『滝の間』に入室するなり、部屋の六面に護符札を張り付けて結界術式を展開する。その間にハナミチは、座布団二枚を青畳の中央に距離を置いて対面するように置く。

 紺色若草模様の布織りが特徴的な肘掛けを利き手側にそれぞれ置いて、座布団の上に座る頃合いを狙ってか入り口から番頭の声が聞こえた。

 どうぞ。と招き入れると慣れた手付きで二人の前に小さめの膳に朝食が並べられた。

 ごゆるりと。と言う番頭を引き留めてハナミチは、マナー違反な質問を吹っ掛ける。


「番頭さん、上の階の客人について教えて貰えないですか?」


 おいおい。と止めに入るトーマスを酒場で絡んでいたボガーと同じ遣り方で行動を制限すると溜め息を着いて、番頭に目を配る。


「・・・分かりました。

 呉々も他言無用でお願いします。お客様のお名前は明かせませんが、お二人様です。デンさんの紹介でご一緒に来られましたが」


「ペット。

 何か小柄な動物を使役していたりは?」


「いえ。

 ですが先程戻られた時には、頭上にフクロウを乗せていましたね」


 フクロウ?

 随分と久し振りに聞く動物の名前に困惑するハナミチは、再び天井を仰ぐ。首を傾げて深く考えているが、どうやら考えが纏まらなかったようで頭を掻いて、ありがとう。と述べる。

 深々とお辞儀して部屋を後にする番頭を視線だけで見送ってハナミチに激怒する。無論、拘束状態の身体を解け。と声を荒げる。

 結界術式の効力で結界内部の音が外に漏れないとはいえ、反抗的なまでの態度の大きさにぶつぶつ。と小言をいうトーマスだが鋭い視線が天井に向けられるのを見て、態度を急変させる。


「どうしたんだよ?」


「魂感知で見てるんだが、どうも可笑しい。

 一人は子供、もう一匹は小動物。

 それなのに魂の波動がやけにデカイ」


 魂の波動は、個々の種族や心の強さで形や色や大きさが異なってくる。トーマスもその点は知っているし、ハナミチにそこまで言わせる程なら自分の想像を凌駕しているのは確実。

 気にならない。と言えば嘘になる。

 気にならない訳がない。それでも、ここに来た目的を忘れてはならない。


「・・・番頭のさんは、この道六十年のベテラン。その上にデンさんも人を見る目は確かだ。二人が許可したんなら悪人じゃないよ。

 それに最上階を貸し出してるなら、金銭面のトラブルもないだろうし不安がる必要はない。俺が保証する。

 大丈夫だって。それよりも重要な情報ってのを聞こうか。それ目的でここまで来たんだ」


 まあ、そうだな。とどうにか渋々納得だけはしてくれたようで目的の『重要な情報』について話題を切り替えれたのだが生理現象と言うダメ出しがまたしても邪魔をする。

 それはトーマスの腹の虫が騒ぐ音だった。

 

 空腹にも限界があるのだ。それも手前に美味しい朝食と焼き鮭の匂いが鼻を擽ってヨダレを自然に分泌してしまうのだから手に終える訳がない。

 いつもならここで苦笑するハナミチだが、今回ばかりは自分の性でもあることを自覚しているようで、箸を取っていただきますをする。

 朝食定食Aセットのメニューは、炊きたての白ご飯・若布と豆腐の味噌汁・焼き鮭・キャベツの千切り・生卵・お新香。という人によっては質素と感じられるだろうが、ひとつひとつの食材の味をしっかり引き出している。

 その上で味噌や塩といった調味料を控え目に抑えているので体に優しい健康的な料理となっている。

 炊きたての白ご飯はオカワリ自由で、一杯目を卵かけご飯にするもよし。焼き鮭をホカホカご飯の上で解して鮭と卵かけご飯にするのもいい。

 言葉よりも箸が進む朝食を腹一杯になるまで平らげた二人は、最後にお茶を啜ってごちそうさまを言う。と箸を膳に置いて余韻に浸るよりも前に話をすることにした。


「満腹になったところで、そろそろお願いしますよハナミチさん」


「そうだな。

 まずは"灰色の猟奇"についてだが、今まで狙われて盗難被害にあったのは全てが王宮都の宝石店やジュエリーショップ。それも強欲な宝石商のいる店が標的になっている。

 被害にあった宝石商や護衛は、事件前後の記憶がないことと商売人にとって記憶喪失は大失態という意味合いで"猟奇"。

 犯人が最下層の欲深き人間ではないか。という疑いと最下層の住民を灰色の民から付いた通り名が"灰色の猟奇"。ここまではいいか?」


 もしも、これが濡れ衣なら・・・。と震える怒りを抑えて続けるように言う。


「盗難被害にあった品物は、全てがルビー・サファイア・エメラルド・ダイヤモンド等の宝石類。金・銀・プラチナ等の貴金属が一致している。

 最初の一軒目の盗難被害から最下層での在庫不足がなくなっている。最上層の売上ダウンしている一方で最下層の売上アップは、どうでもは良くないがルビーから聞いた情報によれば税金が上がってるらしいんだ」


「・・・・・・それが重要な情報なのか?」


 うん。ときっぱり頭を上下に振って肯定するハナミチを殴りたいが、ここはガマンだと自分の心に訴えかけて静める。

 何故キレる寸前なのか、それはハナミチが言ったのは当然なことだからだ。店の収入が増えれば国に納める税金が増えるのは必然的である。しかしその分は、自分の収入金額も上がっているので国にとっても自分自身にとってもwinwinなことだから問題ないだろう。と誰でも考えるからだ。

 ・・・とまあ、冗談はさておき。とハナミチが続けてきたことにツッコミを入れ掛けたが止めて聞き入れることにした。


「ルビーが目撃したことによれば、盗んだ宝石類や貴金属をまるで魔法みたいに酒や煙草に変えているそうだ。でも、それは魔法ではない。

 屑石を黄金に変える錬金術とは別物。何らかのトリックを使った魔術師か奇術士の仕業だろう」


 冒険者の戦闘職の大多数は、両手持たなければ支えることが出来ない両手剣士。中には両手剣を常軌逸脱した筋力だけで二本の両手剣を持つ者。片手に剣、もう片手に盾を持つ者が多くいる剣士。杖や魔導書を武器に戦う魔法使いに分けられる。

 次に弓術士や槍術士。自分の身体や体重よりも大きく重い鎚や斧を奮う者。ハンドガンやライフルなどの重火器を扱うミリタリー。

 護符札を使う陰陽師や祈祷師もいるがトリッキーな奇術士・魔術師と言う類いの人間たちは本来、お客をショーに招き入れてアッと驚かせる一種の商売人がほとんどなのだ。

 魔法使いと違ってトリックのタネを巧妙に隠して事を引き起こすのが彼等の十八番。そう考えれば、確かにしっくり来るものがある。と感じるトーマスはタネについて尋ねるがそれは分からないとのこと。

 大事な部分ではあるが、"灰色の猟奇"の一味もしくは別個で奇術士ならぬ人物が存在している。という情報だけでも大きな進歩と言える。


「それじゃあ、次は事件現場の検証か?」


 何かまだ額にシワを寄せて悩んでいるようだが頷いて答えた。


「そうだな。

 奇術士の存在を視野に入れて現場検証した方が、灰色事件の犯人を早期に捕まえる糸口になるだろう」


 灰色事件。と勝手に命名するハナミチだが、イヤにしっくりくる事件の名前へは特に反論することなく二人は王宮都に向かうのだった。


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